“Killer Tune”と…   作:河童の皿箱

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“Killer Tune”の初白星

 溢れんばかりの人、人、人。あっちへいっても、こっちへいっても、どこまで行っても、人、人、人。圧倒的に女性型アバターの多いその広場には、時計がチクタク、回っていた。今か今かと開催の時を待ち、浮足立つ者、数多し。けれどはずれにぽつんと佇む、ロックでパンクな少女ら3人。肩に下げたレコードボックスと、巨大なヘッドホンと奇怪なコードは、大衆的な可愛さを追い求めるアバターの群れからすれば、異様な出で立ち…まさしく、不良少女の集まりであった。

 睨むクリップ、引く人々。こつんと頭を叩くはレコで、そわそわし続けているのがミクスである。なにせ、いつものテリトリーからすっかり離れて、手に馴染まない機材でプレイするのだ。少しばかりの緊張は、スパイスになる。レコにとってはまだまだ甘いそれは、けれどミクスにとっては辛口で。「レコ、良く普通でいられるね~…」とごちれば、「緊張はしてるよ」、とクールに返す。

 レコは改めて、会場全体を見回す。…本当に、パッと見ただけでも女が多い。男との比率、9対1ぐらいじゃないか? いや、人外も居るからもっとか。見た目だけじゃあ腕前はわからないけれど、煌びやかに着飾るその隙間に見えたのが、フードを目深に被った、背の高い男であった。壁に背を預け、顔を伏せ、静かに時を待っている。…そんな姿を、見た覚えがある。どこで…いや、分かり切っている。“Killer Tune”でだ。たしか、バイトが来ていた期間――いや、それより少し前からほぼ毎日来ていた、踊りもノリもしない、あの男。アバターによって自由に姿が変えられるここでさえ、そのままの姿でログインしている。

 ――どういうつもりだ? 怪訝に睨みを利かせるも、こちらに気づいているのか、居ないのか。ただここに居るのであれば、もしかしたら、きっと…。

 ふ、と。会場が一気に暗くなる。どよめきが一層強まる。スポットライトがカチリと点いて、ステージを眩く照らし出す。そこに登場するは、主催のリィラだ。

 

 「やっほ~、今日は来てくれてありがと~…なんてのは、配信の御挨拶とし、て。…ここに来てるってことはわかってるよねぇ? このサーバーはバトルシティになる、って! ルールは事前にお伝えしたとーり! 目と目が合ったらインベントリのブースを展開して、どんどんバトっちゃえ! 勝ったら星ゲット! 負けたら敗退、星もパァ! ハードなコロシアム、DJバトルシティ、開幕~ッ!」

 

 その声に、会場は沸き立つ。こぶしを突き上げ、目と目が合った者からすぐに、周囲へブースを展開し、幾重にもごちゃごちゃに混ざった音が流され始めた。クリップはヘッドホンをぎゅっと押さえて、耳を塞いだ。「ウルセェなァ!」と。レコも、ミクスも同意した。確かに自分たちはノイジーな曲を欲しているが、これではただの雑音だ。採点することだってできない。そう考えた参加者も客も多いようで、足早に散っていく。3人はまず、遠くへ移動をすることに決めた。

 「こっち」。レコは2人の手を引いて、ビル街マップへ移動を開始する。ああいう地形は、なじみがあるから。道中、ある程度離れたところからバトルが勃発している。屋根の上とか、空中でだって。あまり勝負を避け続けているわけにもいかない。生存すれば勝ちではないのだから。

 

 不意に、アラームが鳴る。目が合った、というサインだ。表示された名前を探せば、前方から水着の女が歩いてきた。歩くたびにバルンバルン揺れる、豊満な胸。ギリギリを攻めるハイレグ。ほぼ素っ裸の女は、ブースを展開した。先攻とばかりにスタートするポップスに応じて、こちらもブースを展開する。押しのけ、突き飛ばし、クリップが立つ。

 ただ再生されるだけの流行歌。ネットで流行ってるソレは、碌に音もいじらずに、けれど確かに人を惹きつけて。サビが終われば、BPMを合わせるとか、クロスフェードするどころか、ただのぶつ切りで次の曲を始める。適当に縦揺れして脂肪を弛ませ続ける目の前のユーザー。チャットが耳に届く。「あ、あのアニメの曲じゃん。めっちゃ良い選曲~」、とか「エッロ…マジエロ」、とか。チンタラチンタラ音を流すだけのソレに、クリップはとうとう、ブースへと手を叩きつけた。

 「テメェ、舐めてんじゃねぇぞ!」。小さな体から発せられたあまりにも巨大な怒声。「テメェらの穴は棒突っ込むためにあンのか、アァ!? ちったァ耳かっぽじれやゴラァ! オレがホンモノ聞かせてやるッ!」、と。あまりに甲高く、強烈な発破。けれど針が落ちた瞬間、音圧の波が今までの空気を一撃で流せば、人々の目は一気に少女たちの方へと向いた。

 ディスクの上に乗る細い指が、進行とリズムに合わせてスクラッチする。そのたびに、爆音のエレキギターが、激烈なキックが、ドズン、ドズンと地ならしを起こす。相手の曲なんぞ最早聞こえぬ。「ついてけねェなら置いてくぞ!」。さらにヒートアップする鮮烈なるノイズに、立ち去るもの多数、けれど、惹きつける者、数多。とうとう野太い悲鳴を上げた相手は、星を投げ捨ててサレンダー。さっさと逃げていった。

 「…チッ。他に骨のある奴ァ居ねェのか!? オラ、さっさと出てこいやァ!」、と。暴走するクリップに、観衆から冷えた声が上がる。「何アレ」とか、「怖…」とか。しかし、「良いぞ、もっとやれ!」とか、「こんなDJまだ居たのか!」とか、そんな声もログに表示された。

 と、骨のある奴を自称する誰かが居たようだ。目と目が合って、アラームが鳴って、名前を探すまもなく、目の前にはまた別のユーザーがブースを展開した。あまりに激しいクリップの気性と演奏に、けれどレコとミクスは笑った。「こうでなくっちゃ」、と。

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