“Killer Tune”と…   作:河童の皿箱

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“Killer Tune”のフルメンバー

 リィラのイベントは失敗に終わった。しかし彼女は日付が変わってすぐに謝罪文の公開を行い、その翌日の配信では直接の謝罪と、今回の結果に至った要因を指し示した。主催側の体制ではあのようなユーザー側の暴走を止められず、最終的に残っていたユーザー全員の追放によって強制終了した。しかし、そもそもの暴走の原因が見つかった。ハッカー達が集うダークウェブの掲示板に、このイベントに対して嫌がらせを行う呼びかけが行われていたのだ。復元されたログでは、それはそれは大盛況。完全にイベントを破壊したことで、勝利宣言と賛美が飛び交う有様であった。

 荒らしに用いられた手法は、アカウントハックによる個人情報の特定と公開、採点数値を意図的に操作する歓声ボットの投入、勝利数の改竄…そして公衆の空間での使用を禁じられているアバターの持ち込みである。DJはそも、スラムで主に行われるものである。故に、前科持ちも少なくない。プロやアマチュアのDJユーザーは、過去の犯罪歴の公開によって大衆からの支持を失って脱落。潔白な者も初めは残っていたが、採点の改竄によって脱落。そして迷惑行為を行ったユーザーのアバターは観衆の性欲を煽り、ストリップショーに変えてしまったのだ。

 リィラは強烈な批判を受けた。体制やルールの不備のせいでこうなったのだ。ユーザーはルールを守っていた、全ては観衆がもたらした結果なのだ、と。リィラのリスナー達は反論した。そんなわけはない。この事態は恣意的に、悪意を持ってもたらされたもので、リィラに責任はない、と。個人情報の公開被害にあったユーザー達は嘆いた。今は足を洗っているのに、差別をするこんな世の中なんてクソだ、と。テロに使われた性的なアバターの製作者は怒った。馬鹿のバカにばかり使われるから、エロはずっと敵視と排除をされ続けなければならないんだ、と。

 炎上はそう長くは続かなかった。世論がリィラの側に傾いたのだ。リィラはもっとユーザーの自由度の低いイベントを開催するべきだった。しかし、リィラはすでに必要十分な反省と、次回開催時の改善の約束をしている。なにより、この事態は明白な悪意によって引き起こされたものであり、糾弾されるべきは荒らしの方である、と。そして過剰な批判や嘘の情報を流される等の甚大な被害を受けたDJ達は連名して弁護士を雇い、主催のリィラではなく、主犯のハッカー達へと脅迫と名誉毀損罪の訴訟を起こした。決着には時間がかかるだろう。

 

 

 ……ここらで物好きが趣味で発行した新聞もどきを、機械の手はペラっと捲る。「大変なコトになってたンだナ」、と店主が呟けば、だらっとだらけた少女たちは頷きながらも、フロアで思い思いに過ごしていた。

 「途中で降りたのは正解だったな」。クリップがそう吐き捨てれば、けれどミクスもレコも同意する。そして、偽りの勝利と引き換え、というわけではないが、少女たちは相手の男とひとつの約束を交わした。レコはその準備をようやく終えて、いくつものジャケットを詰め込んだ箱に、特別製の赤盤と、手紙を1通。最後にラッピングを施して、商品はこれで完成だ。店主は満足げに笑った。「レコードの商品化、第1号だナ」、と。店主はレコードセットを商品として販売することにしたのだ。値は張るが、あのイベントで名を上げた“Killer Tune”には、連日客が増えてきている。「おしゃれももっとしなくちゃね~」と、ウキウキしているミクスをよそに、「変なのも増えてるけどな」と怒れるクリップ。苦笑をこぼして、けれどレコもまた、「アレだったけど。まあ、悪くはなかったんじゃない」、と。

 

 そうして、掃除や仕事やなんやかんやとしていると、ぎぃと、重い扉が開かれた。かつん、かつんと音を立てておりてきたのは、フードを被った男。電脳世界と全く同じ、“匿名”である。店主が手を振って歓迎すれば、あの全く反応がなかった彼とは打って変わって、頭を下げた。そして、彼の注文通りの商品をレコは手ずから渡し、事前に提示していた額と同じ額の通貨を受け取り。これで、彼との約束も果たされた。

 「…プレイができて、楽しかった。レコードも、ありがとう。大事に聴く」、と。「ん」、とレコが柔らかく笑む口元へと返せば、男はただそれだけを言い残し、再び頭を下げて店を去っていく。離れていく背中。それと入れ替わりで、また別の1人が歩いてくる。

 

 「もー! なんで仲間はずれにするのー!」、と、やって来て早々にブーイングを飛ばす少女。青紫の癖毛と、ガラスのように透き通るアウターと。「旅行してたんだからムリでしょ」、とレコが一蹴すれば、けれど頬をぷくぷく膨らませた。「なんかすっごい面白そうなことしてたんじゃん! ログインだったらこっちからだってできたのにぃ! 呼んでよぉ!」、と。

 

 そんなこんなで、ようやく揃ったキラーチューン。ダサい言い訳する気はないけど、これで…少しだけでも、再挑戦への道は開かれただろうか。そう考えるも、キャンキャン吠えるその声に、レコは耳を塞いだ。「ハァ…キューうるさい。それと、アタシらもうかうかしてらんないよ。リベンジするんだから」。「えっ、負けたの!?」。「勝ったよ、でも負けた。あっちも本気じゃなかった。だから、絶対に」。

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