“Killer Tune”と…   作:河童の皿箱

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“Killer Tune”の情報収集

 バイトとして雇い入れた男は非常に誠実で、太陽が真上に来る頃になれば遅刻もなく出勤し、毎晩散々に汚されたホールをしっかりと清掃し、余った時間は少女たちの相手をした。会話や整備、荷物持ち、今日のファッションはどうだ似合うかとか、なんやかんや。毎日、毎日。あのまともじゃない給料で、不満ひとつ漏らさずに。

 少女たちは興味本位で、男に幾つかの質問を投げかけた。おそらく金のために働いているのではない、男の正体を知りたかったのだ。けれど、その答えは「私は、ただの音楽好きですよ」に終始する。嘘は言っていないのだろうが、もう少し、具体的な回答を欲している少女たちは釈然とせぬまま、けれどこれ以上素性を掘り返しても何も出やしないだろうと、いつしか質問をやめた。

 

 ある日のこと。すっかり綺麗になったホールに、満足げに微笑む男。そこへ、店主が声をかけた。「ヨォ。精が出るナ」、と。近場の他愛もないトピックスを交わしている間に、舞台上の少女たちは、とあるひとつの音楽雑誌を回し読みしていた。ゴミに紛れて降りてくることのある、ちょっとお高い専門誌。何かの液体が付着して汚いページもある、ここに届くのは発行から大体2週間後である、かなりの確率で歯抜けであると言うのを加味しても、ことスラムおいては、貴重な情報収集の手段であった。

 「ねえ、まだ見てるじゃ〜ん!」。ミクスが文句を言えば、「読むの遅すぎんだよクソが!」とクリップが噛み付く。そんなふたりの額を両手チョップで制しては、黙ってページめくりの権限を得たレコ。むくれ面のふたりを気にせず、雑誌を読み進めた。

 ここら一帯から出ていったDJが、下町でディスコクラブを開いたらしい。ちょっと喧嘩を売っただけですぐそそくさ逃げたのに、何を大仰なことをしているのやら。最新の機材は、目が飛び出るほどの値段。ノイジーなミュージックには似合わないだろうから、要らない……けれど、良い音質というのも憧れる。いつかは…。そんな夢見る少女たちが次のページに見たのは、遠い街で活躍していると言う、とあるアーティスト集団のページであった。

 「なになに?」。ミクスが指で追いながら、読み上げていく。「ぴ、じゃない。ぽ・ん・と、シティーの、新たな伝説…ぴーゆーえぬけー…んん?」。どうにも上手に読めないようだ。痺れを切らしたレコが補足を挟んだ。「すごく遠くの東の国に、PONTシティっていう空中都市がある。ここみたいな大量のビル、それもちゃんと使われててきれいなのが、丸ごと空を飛んでるんだって。ストリートパフォーマンスとかも盛んで、有名なアーティストはここに拠点を構えるのが夢らしいよ。で、この人たちは、P.U.N.K.。PONTシティを仕切ってるドン。街並みにも影響力あんだって。イラストレーターのシャラクサイ、ダンサーのセアミン、えーと…たしか技術者のスパイダーと…ミュージシャンのワゴン」。ひとつひとつ指しながら、噛み砕いて読み聞かせれば、ミクスは「ほえ〜」とページを眺めた。派手なカラーリングのサングラスをかけた、ムキムキの男。うってかわって、ほっそりとした女の子…だけど、写真ごとになんだか違う人物のような? 技術者…いや、人形遣い? 全身真っ黒な、正体不明の何ものか。どうにも奇妙な集団の、最後の1人を観察する。

 このワゴンという人物。鳥のようなギョロ目の被りものの、嘴のような装飾に、目が隠れてしまっている写真鹿掲載されていない。口元だけが弧を描き、けれど軽快なステップから、楽しげな様子だけは伝わってくる。ここらでは全く見ないような、東洋テイストの服装…ブワッと広がる、たてがみみたいなモフモフ。奇妙な格好の男に、少女たちはいつしか目が釘付けになっていた。

 「ミュージシャンだから、オレたちの敵ってことか。この胡散クセェ面のヤツ」。クリップが吐き捨てれば、レコは頷いた。「うん。胡散臭い」。よくみると、いくつもの楽器を取っ替え引っ替えしているような、そんな写真も掲載されている。「もしかして〜、浮気性だったり?」。ミクスがくすくす笑えば、レコは首を傾げた。「…それは意味違うんじゃない?」。けれどどの楽器も、見たことないような形状をしていて、音が全く想像できない。

 写真だけではやはり、音楽性なんてものはわからない。けれどレコは、ある記述に目をとめた。「伝統芸能と最新技術。……ウキヨエ、ノウガク、ジョウルリ、カ…えと、ガガク。ガガクが、音楽のだから…ここか。極東の、貴族が楽しんだ民族音楽…西暦1000年には、もうあった!?」。少女たちは面食らった。こんなに派手でサイバネティック。なのに、こんな昔のものを、わざわざ今になって? しかも、それが流行の最先端、いや、発信元。少女たちは顔を見合わせた。

 「…ここらのバカがやってたみてぇな、流行りに乗るだけじゃねェってことかよ。気に食わねェ」。クリップが顔を顰めた。「あ〜あ、いいなぁ。ウチらもこ〜いうチャンスほし〜」。ミクスがケラケラ笑った。レコは更なる情報を得ようと、特集ページを読み込む。…しかし。どうやらインタビュー記事などではなかったようだ。あるのは、それぞれのメンバーが題材としている伝統芸能の歴史、それと、開催されていたフェスで撮影された写真と、熱に上げられた部外者の賞賛コメントのみ。計8ページの見開きが終われば、また別の技術的なトピックが始まっていた。

 「ミクス、パソコン貸して」。言われるがままに差し出されたボロボロのそれを起動し、待つこと数分。暇な間にふと顔を上げると、店主とバイトはバックヤードに行ったようだった。

 ようやく立ち上がったウェブブラウザで、P.U.N.K.の情報を検索する。公式ページには、やはりいくつかの写真と、公演スケジュールが掲載されている。が、私事の発信は一切していないようだった。次に、SNS。熱狂的なファンの目撃証言だの、ライブステージの感想だの。アーティストらのアカウントは、見つからなかった。別名義の情報も、全く。

 これだけ注目されていて、影響力があるのに、その影響力を振るう場所がない? そんなわけはないはずだ。けれど少女たちがどれだけ頭をひねって検索しようと、彼らの素性は知れなかった。

 

 「訳わかんない」。「わかんなすぎ〜」。「…ンか、腹立つな」。

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