初めて自分の名前の意味を知った時、それはもうひたすらに輝きを放っていそうな、近くにいるだけで暑苦しいと言われてしまいそうな、そんな名前だと思った。
ただでさえ近くにいる大人たちは「明るい未来」が大好きだというのに、それを子供に押し付けるだけでなく、日ごろのふるまいから何から何まで、一体何を求めているのだろうか。太陽のように明るい笑顔? 礼儀正しい挨拶?
それらが必要ないとは言わない。ただし、自分を見る大人の目にうんざりしていた。
若いんだから何でもできるなどとは思わないでほしい。むしろ未来のない世界なんだから好きなようにやらせてほしい。
それを叶えるための
17歳になってすぐに、施設を出て行けと言われた時も言うとおりにしたのはすぐにでも招待状が届くだろうと思っていたからだった。
ひたすらに善行を積む日々。活動範囲を徐々に移動し続けているのは意地だ。
しかしまさかこんなところで『塔』の名を聞くとは思わなかったし、彼の口から出た名前をどうとらえれば良いのか分からずにフリーズしてしまった。
「あれ? おーい、どうしたの?」
当の本人は太陽の目の前で手を振って意識があるかを確認した。もちろん意識が飛んでいるわけではなかった。
「…………はっ!」
「ああ、よかった。急にどうしたんだい? 具合が悪くなったなら言ってね、さっきので精神的にきてるのかも」
さっきの、とは地割れに巻き込まれたことだろう。旅の荷物を失った喪失感は大きいが、それが自分のせいではないと分かって一安心しているし、なんなら荷物を弁償してもらえるというので、それ自体は何ら気にすることではなかった。
というわけで、太陽がまず始めるべくは自己紹介である。
「俺の名前、日野太陽」
「…………」
レイは携帯端末に書かれている文字を読んだ。
「ひの、たいよう……」
「はい」
「『輝きの星院』から来た?」
「うん」
「17歳?」
「そう」
「誕生日は?」
「12月31日」
「おお……………………」
断じて、人違いではない。
というかその携帯、個人情報書いてあるのか。怖い。
「なあんだ、君が太陽君だったのか! いやあ運がいいね」
確認を終えたレイは頭を掻いた。携帯をポケットにしまい、太陽に握手を求める。
「え…………あんたが太陽!?」
奈須がひょっこりと太陽の顔を覗き込んでくる。目的であった人物が目の前にいて、しかも命を助けたばかりというのだから驚くのも当然だろう。
「だからそうだって。あんたたち、俺に何の用があって来たんだよ」
奈須とレイは、もともと太陽がいた孤児院に用があってここまで来たのだろうが、残念ながらそこにはすでに太陽はいない。こうして旅に出ているからだ。
こうして出会えたのも何かの縁だから、話だけは聞いても良いと思っているが正直かなり怪しい。
『塔』から来たと言っているがその証拠はどこにある? そもそもこの小さな二人組だけで、責任者が見当たらない。やっていることや言動はまともだが、彼らの言っていることが本当であるとは言い切れない。
わざわざ辺境の孤児院にいる、何の変哲もない男を一人訪ねてくるなんてどういう訳なのだろうか。
「悪い話じゃないと思ったんだけど、君にとってはそうでもないみたいなのかな? まあ、単刀直入に言わせてもらうと……はい、これ、君宛の招待状」
「ああ、どうも……………………って、なんだって?」
手渡されたのは白い封筒。丁寧に蝋封で閉じられた、高級感のある質感。その中には折りたたまれた厚紙の感触がある。
馬鹿正直に受け取ってしまってから、セリフの違和感に気づく。
「『塔』の招待状だよ。簡単に言えば、君はあそこに入る資格を得たってことだね」
怪我をしたとか物が壊れたとか、崩落に巻き込まれたとか、この招待状が本物か偽物かなんてことはどうでもよくなっていた。
太陽の幸運は、人生の最高潮にあると確信した。
●
レイは『塔』で医者を営んでいるのだという。本人が言うには『塔』内でも凄腕の医者で、稀に『塔』の外に出向いて基地を仮設し災害の被害者の診察や治療を行っているのだという。
今回はたまたま運営側から物資の配達を頼まれただけらしい。奈須はその手伝いに引っ張り出されてきたようだ。
「いやいや……」
「ん? どうしたの?」
「こんな子供が医者なんておかしいだろ。責任者を出せ、話はそれからだ」
レイはどう見ても中学生くらいの子供に見えるのだが、それでも17歳未満が確実に存在しないこの世界では少なくとも太陽と同い年ということになってしまう。
「あたしはお前と同じ17歳だぜ。別に医者じゃないけど」
奈須が言った。レイの落ち着いた雰囲気とは違って、こちらは年相応の言動をするので彼よりは信憑性がある。身長がコンプレックスということもあって、彼女については単に成長期が来ていないだけなのだろう。
「あたしは12歳の時に『塔』に来たんだ。そこからこいつに世話になってるけど、こいつはその時から変わってない。見た目はこんなんだけど、あたしたちよりずっと上なんだよこのジジイ」
「こ、こんなかわいい僕にジジイ!? 反抗期もいいところだよ奈須さん!」
「かわいい? どこが?」
そんな二人のやり取りをぽかんと見ていることしかできない太陽。
奈須の言うことが本当なら、レイは容姿が子供のだけの大人というわけだ。
「見た目は子供、頭脳は大人! ってね」
「え? なにそれ。というか、レイは何歳なんだ?」
「男の子に年齢を聞くなんて失礼なんだよ」
「そんな常識聞いたことねえよ」
太陽は自分より年下の人間を見たことはないが、何も子供を見たことがないわけではない。昔は自分も、周りの子供もそうだったのだから。レイの実年齢はさておき、その肌ツヤは子供のそれと同じである。体の発達に関する障害の話などは聞いたことがあるが、そんなレベルではないくらいに自然な『子供』の見た目だ。
「てことは、責任者って?」
「もちろん僕だよ。凄腕の医者として、ある程度の権限は持っているのさ!」
レイはふふんと胸を張る。ぶかぶかの白衣を見せつけられても、威厳なんてものはない。
「……まあいいや。俺が聞きたいのはこれだ! これ!」
興奮気味に、太陽は大事に握りしめた白い封筒を前に突き出す。彼らの話が嘘なのかもしれないと言う疑いなど消し飛び、念願の自分宛の招待状は本物なのだと、太陽の脳内は都合の良いものになっていた。