路地裏の一角、オラリオではなかなか見ないような様式のドア。そのドアをくぐると赤を基調とした室内にカウンターとテーブルが設置されており、カウンターの中で煙管を吸う流幽の姿があった。
「あー暇暇暇!だーれもこねーアル!」
我は煙管を煙草盆の上に置いてからカウンターに体を預ける。
せっかく茶屋を開店したのにこんだけ閑古鳥が鳴いてりゃ意味がない。はぁぁ…暇だしどっかのファミリアに侵入でもしようかなと考えた。
「よし、
我は立ち上がり、傍らに立てかけておいた唐傘を手に取って店を出た。
そのまま歩き続けるがバレる気配がない。日が暮れて夜になればホールで食事をとる団員たちとその上の階で食べている幹部たち。こういうのを見ると昔が懐かしくなる。バレないように地に足は付けずに天に足を付けてそのまま観察する。
オッタルがホールに入ってきて、上の階に上がってくる。そして我がくっついている天井を無言で見つめてくる。
これだから野生の勘が強い猪人は嫌だね。
「流幽、そこで何をしている。」
「おい脳筋、さすがに天井にいるわけがないだろ。」
「いや、居る。」
流石に経験知的な差もあるし、見えなくてもそこに居ると確実にバレている。我は唐傘を閉じて姿を見せた。
「逆さまのまま失礼するネ。」
「ほ、本当にいるのぉ!?」
「うるさいヘグニ!」
「「「うるさい!」」」
「どうやって侵入した?」
「え、普通に正面から堂々とヨ?」
オッタルが頭を抱えるのを見ると面白いな。我は魔法を解除して天井から地上に降りる。
「それで、何の用だ。」
「ん、ダンジョンで言ったアル。『遊びに行く』って。」
「それを不法侵入という形で実行をするな…。」
「すまんすまん!とりあえず喧嘩売りに来たわけじゃネーヨ!今日はただ、店を開いたから今度遊びに来てくれってお誘いネ。」
「店?」
「ただの茶屋ヨ。こっちの言葉で言うカフェネ!ダイダロス通りの路地裏にある赤いドアが目印アル。」
「…それだけのために侵入したわけじゃないよな?」
「それだけのために侵入したヨ?」
我がそう言うとオッタルとヘディンが頭を抱えた。こいつらおもれーな。
「まぁ、そういうわけで帰るネ~。暇なときは遊びに来てヨ!」
「待て!」
ヘディンに止められるが我はすぐに魔法を発動して姿を消し、開いている窓から出てそのまま
数日後___
我は相変わらずカウンターの内側で煙管を吸っていると、店のドアが開いた。そこには見慣れたダーク・エルフがいた。
「いらっしゃいヘグニ。」
「へっ、あっ…。」
相変わらず我に対して緊張しすぎな気もする。普通に話せばいいのに…。
「好きな席に座るネ。今メニュー渡すヨ。」
煙管を置いて棚からメニューを出して渡す。
「普通だ…。」
「ただの茶屋だからネ。旅の途中で見つけた珍しいお茶や飲み物、お菓子を提供する店ヨ。」
「本当に普通に喫茶店だった…。」
我のことイカれたやつだと思われているみたいで嫌すぎるな、まぁゼウスの眷属だったしそう思われていてもやぶさかではないか…?
いや、我は好好爺やあのサポーターみたいに除きはしないし他の人たちほどやらかしてはいない…。
「…じゃあこの紅茶を1杯。」
「了解、少し待つネ。」
注文されたのでお湯を沸かす。注文された茶葉の入った缶を取り出してカウンターの上に置いておく。サービスとして今朝焼いておいたクッキーを皿の上に盛りつけてそれを先出ししておく。
「どうせ今日も客来ねーしサービスヨ。」
「ありがとう……。」
「……どうしたネ?」
「いや、毒とか入ってないかなって。」
「失礼ネ!ただのバタークッキーだから平気ヨ!」
このダークエルフ、失礼すぎる。我はイライラしながら一度ポッドとカップに湯を入れて温めてから茶葉をポッドに入れて、沸騰したお湯を注ぐ。すぐに蓋をして蒸らし、2分半ほど待ってからポッドを軽くスプーンで混ぜてから茶こしに通してカップに注ぐ。
「はい、お待たせネ。」
「あ、りがと…。」
「その紅茶はメイルストラでしか売られてない茶葉の紅茶ヨ。歌劇の国らしくかなりこだわりの強い茶葉で、匂いや味も一級品ネ。」
使ったポッドなどを洗う。人が来ないからこそ静かだけど、このダークエルフは昔から話さねーな。
「流幽…、その。」
「別に予定もねーから話すならゆっくりでええネ。」
「……15年、ずっと世界を巡ってたの?」
「7年前に一度戻ってきたとき以来ずっと巡ってたネ。お陰で色々と経験できたアル。」
ヘグニはフレイヤのところではオッタルの次くらいに関りがあったからそれなりに本音で話せている、気はする。我が思っているだけな気もするけど、まぁ向こうがどう思っているかは知らないがそれなりに関係は良好であるとは思いたい。
「オッタルがフレイヤ様の護衛で来れないから俺が代わりに来たけど…だいぶ変わったな。」
「……変わらないといけなかったからナ。『黒龍』討伐に失敗して、我と生死を彷徨っていたファミリアのメンバーを連れて帰った。一部の遺品だけしか回収できなかった。虫の息だった家族を看取って、我だけ五体満足で……。」
目を閉じればすぐにでも思い出せる、あの日の光景を。血肉の破片になった者たち、鉄の匂いと焼ける音。叫ぶ仲間たちと放心した者をなんとか生き残らせようとあの時は必死だった。
「我はいつも置いてかれる側ヨ。だから、この7年、変わっていないフレイヤ・ファミリアには失望ネ。7年もあればレベルの1つや2つは上がっていてもいいはずなのに…いやまぁ、さすがに味方同士の殺し合いみたいな訓練は正直引くケド…。ん、いや我らの方が結構酷かったカ?」
「ゼウス・ファミリアがバケモノ揃いなだけだよ…。」
「だけど、この間ダンジョンで会ったときのオッタルを見て失望したのは本音ネ。マキシムも、ザルドもあんな腑抜けた男のために糧となったと考えると反吐が出る。」
洗い物を終えて手を布で拭く。そして煙管に再び火をつけて吸い始める。さすがに団長の悪口は良くなかったか。いや、ダンジョン内で自分のところの団長を襲ってるような連中だし別に平気か。いや、やっぱそう考えてもイカれてるなあのファミリア。
「…ごちそうさま、美味しかったよ。」
「ん、750ヴァリスネ。」
「これでいい?」
「まいど。どうせ今日はもう客は来ないだろうしバタークッキーおみやげに持って帰るネ。また来いアル。」
「ありがとう…またね。」
ヘグニはクッキーの包まれた紙袋を抱えて店を出て行くのをカウンターから見送った。
煙管を吸いながらなんとなく、手元に数枚だけ残ったバタークッキーを頬張る。
「…ザルドの味には程遠いな。」
レシピ、教えてもらえばよかった。