我は唐傘を差しながら深層へと向かっていた。
なんで単独で深層になんか潜っているのか、普通なら異常だろうけどまさかの神物から依頼されてしまったし仕方がない。
「15年前と気配が違うような…。」
深層に入ってからというものの、15年前と明らかに違う気がする。いや、まだ深層に入ってからの少しだが違和感が拭えない。ドロドロしたような気配…15年前には明らかに感じなかったものだ。
だから我に頼んだのか神ウラノス。今現在オラリオにいる中で唯一、15年前の深層の状況を知ってるのは我のみだ。
だからこそ分かる。15年前と気配が違いすぎる。まるで深層から禍々しいものがダンジョンの上に向かって徐々に侵食しているような。根本的なものは深層にあるのは分かる。正直言って近づきたくはない。だが依頼だし調査しないといけない。
37階層の【
「はぁぁ、やはり単独となるとかなり面倒だな。」
スカル・シープの大群とリザードマン・エリート、それに加えてオブシディアン・ソルジャーか。近接特化の我からすれば遠距離と近距離、どちらも優位に立たれているが我には関係ない。
「【幽怨】」
姿を消し、完全に気配を消してから奇襲を仕掛ける。我のスキルは敵に認識されなかった場合、威力がはね上がる。姿を消しながら一体、また一体とモンスターを処理していく。
「鈍ったな、昔は一発で倒せたのに二発じゃないと倒せないなんて。」
魔石を回収しながら嘆く。現役の時と同程度くらいには動けているとは思っていたが、そうでもなかったな。前に潜った時は下層までだったから深層までちゃんと潜るのは久々だが、ここでブランクを感じるようになるとは思わなかったな。
【
49階層まで降りる。一応ここは階層主、バロールのいる階だったか。ここまで来れるのは今のところフレイヤとロキのところくらいか?
階層主がいたら面倒だな―と思いながら見る。
「…いるのかよ、しかもモンスターも大量か。」
流石に【グゥイ】を発動してもこの中を切り抜けられない。まず、我の【グゥイ】は階層主クラスになるとちょっと分かりにくくするだけでほぼほぼバレる。
「……戦うか。」
今回は調査だけなので【グゥイ】で姿を消してそのまま突っ切れば問題ない。だが、目の前にいる階層主と大量のモンスター。15年前のゼウスとヘラの眷属がいたときは単独で挑むなんてことできなかった。
「よし、やろう。」
我は傘を閉じて、肩に担ぎながらバロールとモンスターたちの前に堂々と姿を見せる。
「【火種は我の臓物より出でる】【糧となるのは我の憎悪】」
モンスターたちが襲ってくるのを真っ向から拳で叩きのめす。
「【糧を得ては大きくなる焔(ほむら)】【我は復讐者】【怨念の果てに産まれた愚者なり】」
まだ詠唱が完了していないままでバロールとは真っ向からやれない。バロールからの攻撃は避けて詠唱を完成させる。
「【蒼炎よ、燃え上がれ】【恨み込もりし蒼き焔(ほむら)】」
「【全てを失い】【灰燼へと帰す】」
詠唱が完了すると同時に自身の腕に蒼い炎を纏う。さらに、火の玉が背後にいくつも出現する。
「さて、やるか。」
我は蒼炎を纏った拳でモンスターたちに拳を浴びせる。拳から蒼炎が移り、その身を完全に燃やし尽くす。魔法であるものの、これといった特別な属性はなく、ただ単に消えないだけの炎。だが、水が多い場所でも消えないこの炎は付着したものを完全に燃やし尽くすまで消えることはない。純粋な火力だけの魔法だ。
拳を突きつけ、足で蹴り上げた後にそのモンスターごと別のモンスターにぶつける。炎は触れれば移り、モンスターは身を焦がして消滅する。触れれば触れるほど延焼していく。
「さて、大ボスとお相手させてもらおうか。」
勝手に延焼してくモンスターたちは無視して、目の前にいるバロールに向かって走り出した。走りながら並行詠唱を始める。
「【天は地となり】【地は天となる】【我の足着くところこそ地となり】【我の頭があるところこそ天なる】【天道も思うがまま】【我は万有の支配者】【平服しろ】」
詠唱が完了した瞬間にバロールの腕が我に向かって落ちてくる。だが、それを避けて触れる。
「我に触れさせるのは得策じゃないネ。」
【ジウウェウフー】と【タオティエ】の魔法がバロールに付着する。【ジウウェウフー】の蒼炎は腕からどんどんと体に向かって広がり、【タオティエ】で体をその場に縛り付けるほどの重力で拘束する。ただ、【タオティエ】の出力をかなり上げているから
【タオティエ】の効果で自信を浮遊させてバロールのかおちかくまで移動してから自身とバロールにかけていた重力効果を打ち消して、落下しながらバロールの顔面を蒼炎を纏った拳で殴る。顔面にも蒼炎が移り、燃え始める。だが、階層主なのでそう甘くはなく、我を殺そうと暴れ出す。
「我は武器は持てないから、殴るしかできないアル。」
暴れられても避けて、流して、叩き込む。バロールご自慢の単眼から光線が出てくるときは毎回ヒヤッとするが、それでも叩き込める拳は叩き込む。
どれくらい格闘していたか分からないが数時間の格闘の末、バロールの全身が蒼炎に包まれた。
10M以上の巨体相手だと打撃系はかなり手こずるし炎が広がらなくて大変だったから色々なところに拳を叩き込まないとダメだったから大変だった。途中で腕で吹き飛ばされたし片腕を光線で焼かれるところだった。いや、まずバロールを単独で討伐ってのも字面だけはすごいよな…。
今思ったけどオッタルに倒させればよかったんじゃないかと思ってしまった。正直、我が強くなる理由とかないしここで数時間足止め食らったわけならもっと下まで潜れただろうし。オッタルを連れてこればよかったな。
そんなことを考えて燃えるバロールを見ていたら、後ろから足音がした。振り向くとちょうどオッタルがいた。
「……バロールは?」
「我が拳で叩きのめして燃えてるところヨ。」
「………なんでここにいる。」
「深層域の調査を神ウラノスから頼まれたついでにアル。」
「ついで…。」
「ちなみにこれでも数時間格闘はしていたネ。途中で血反吐吐いて死ぬかと思ったヨ。」
「………また9か月待ちか。」
やっぱりコイツ連れてきた方が良かったか…。我は珍しくオッタルに謝った。