五感組逆行譚〜我ら人生4周目、ワカメブッコロがし隊〜 作:幸翔雪
炭治郎達五人が無事鬼殺隊に入隊してしばらく。鎹鴉に導かれた任務先で鬼を斬るのと同時に、炭治郎は思い出した。
(まずい……! 父さん、今年の冬で死んでしまうんじゃないか)
現在、炭治郎は最終選別受験時と同じ十歳である。つい先日伊之助の誕生日を祝ったところで、彼は一足早く十一歳になった。入隊からまだ約三ヶ月と今生での剣士歴はまだまだひよっ子、依然として新米隊士である。階級はというと皆揃って下から三番目、
かつて、刀を握ってから二ヶ月で柱にまで成り上がった時透無一郎という少年がいた。転生者でもなんでもない彼がそのスピードで柱に駆け上がったのだから、戦国の時代すらも生き抜いている炭治郎達はそれと同じくらいで成り上がるか、と言われたらそうではないのだ。柱になるには二年〜五年。彼は例外中の例外。
そもそも幾ら最終選別で特異なことをすれど、まさかの入隊前から当主に手紙を送りつけていれど、あくまで炭治郎達は新米隊士。殊更任務が多く回ってくるわけでもなく、なんなら今回の選別でかなり人員に余裕ができたから、その量は並より少ない。
炭治郎達の同期は皆優秀であった。
あの七日間によぉく鍛錬してもらったから、実力はまだまだではあるものの、
そんなわけでただでさえ新米隊士、
(大正の時も戦国も、父さんは同じ時期に命を落とした。───俺が、十一歳の冬に)
炭治郎はぼんやりと、父親は毎回おんなじ病気を患っているのだろうと考えていた。その証拠、と言ってはなんだが、医療の発展した令和では無事に治癒して天寿を全うしてくれたことを覚えている。今回の生、炭治郎達は無惨を倒すのはもちろん、命を落としてしまった恩人達を救いたい、それが目標だ。それらの行動を起こすには、まだ数年余裕がある、今は恩人ではなくとも少しでも同志の犠牲を減らすために動こう、そんな時期だと思っていたが違った。一番身近に、救いたい命があった。
父さんのことは今生では大正より無理はさせていないはずだ。家事は俺と同じくらい動ける人間が二人多かったし、前の年越しはとうとう、父さんは食い下がったけども俺が神楽を代わりに舞った。でも───今年は?
鬼殺隊として活動するようになってから、あまり実家には帰れていない。この三ヶ月間で帰れたのはたった二回、計五日もない。任務が少ないとはいえ頻繁には帰宅できない中、年越しに絶対に帰れるという保証がない。つまりその場合、神楽を舞うのは、
負担の大きい神楽を一晩中舞ってしまったら、どうしたって体に響いてきてしまう。
「……松右衛門、この文をカナヲ達のところへそれぞれ持っていってくれ」
「カァ、分カッタ〜!! 任セロォ!!」
任務先近くの藤の家紋の家に帰った炭治郎は至急急ぎで同じ内容の手紙を四つ書いた。この時代、簡易的な施設はあれど、蝶屋敷程に医療に特化した施設なんてなく、まず胡蝶姉妹もいない中、己の父を救うことができるであろう技術を持つ人物。知識ならばカナヲが持っている。令和でカナヲは医療の道に進んでいたし、大正の知識だってあるから。だからそれを、実現できるような人物がほしい。カナヲは知識はあってもあまり適性がなかったらしく、技術がない。そしてそれに当てはまる
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「炭治郎から……? 分かった。私も合流するって伝えておいて。明日の昼には」
「え、手紙? 松右衛門、“全部炭治郎に任せた”、これが俺からの伝言ね」
「おう、炭治郎の鴉じゃねぇか! なるほどな……ブッかましてこい、炭治郎!!!」
「お疲れ様、松右衛門。ああ、このことか。……俺は炭治郎を信じるよ」
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「すみません!」
声のした方を振り返る。視線の先、恐らく声の主はまだ幼い少年だった。隣にそれと同じくらいらしい少女も並んでいる。一体自分にこんな子ども達が何の用なのだろうか。身なりは整っていて、少なくともお金に困っているわけではなさそうだ。かといって自分は何か落とし物をしたわけでもないし、彼らと面識があるわけでもない。
「はい……どちらさまですか?」
「えっと……俺は鬼殺隊・階級辛、竈門炭治郎です!」
「……同じく辛、栗花落カナヲです」
声をかけられた女性───珠世は咄嗟に身構えた。まさか十五も行かないだろうこの少年達が鬼殺隊だったとは。何か鬼殺隊に情報が漏れるようなことをした覚えはない。きっと彼、愈史郎だってそんなことはしていない。したとしたら出会い頭にものすごい勢いで謝られ、そして直ぐに拠点を移りましょう、と提案してくるはずだ。
血鬼術を使えばきっと逃げられる。使ったら尚更鬼だとバレる?それがどうした。わざわざ面と向かって鬼殺隊と名乗ってくるものを相手にそこで迷う余地はない。聞き込みだとすればそれっぽく誤魔化してくる組織なのはよく知っている。ついでに言えばここらで鬼の気配も噂も全くない。つまり少年達の発言は、こっちが鬼だと看破した上のものだろうから、だから使うことには問題はない。
「出会い頭に突然すみません! 珠世さん、俺達の父親をどうか救ってください!」
今にも血鬼術を発動させようとしていた珠世の動きが止まった。少年が九十度に頭を下げてきたからだ。その隣で少女も頭を下げているからだ。よく見れば、先ず違和感を抱かなかったものだ、少年達は鬼殺の武器である日輪刀を持っていない。気配を巡らせれば、付いているであろう鴉もそういえばいない。だから視認一番に鬼殺隊だと気が付かなかったのだ。
それ以外にも理由はある。名前が知られていることだ。もちろんだがこちらから名乗った記憶はない。それなのに知られている。おかしい。それに頼みの内容もおかしい。
「一つ、確認させてください。私を、
「どうするつもりもありません。貴女
「では……何が、望みなのですか?」
「さっき彼が申した通り、私達の父を、救っていただきたい。それだけです」
敵意も殺意も感じない。ただじっとこちらを見つめてくるだけの少年少女。危険かもしれない。どこかに鴉を、武器を隠しているだけかもしれない。それでも一度だけ、たった一度だけなら、この二人を信じてみても、いいのではないか。心のどこかが、そう騒ぎ立てているような気がした。
「……分かりました。話を聞きましょう」
珠世は隠れ家に招き入れるために、二人を連れて人気のない夜道を進み出した。その道中で何か怪しい動きはないかと警戒してはいたが、本当に何もそんなことはない。ただただ大人しく付いてきている。最後、壁をすり抜けると、少女は少し目を見開いていたが、少年は全く動じることなく珠世に続いてきた。愈史郎はまだ帰ってきていないようだ。
「───改めまして、私は珠世と申します。お気づきでしょうが私は鬼であり……それと同時に、医者でもある身です」
「急に声をかけてしまいすみません、俺は竈門炭治郎、鬼殺隊の辛です」
「階級同じ、栗花落カナヲです」
「それでは、お父様を救ってほしいとのことでしたが……先ず、どうして私のことを知ってらっしゃるのでしょうか」
無駄に長話をするつもりはなかった。一番の疑問を単刀直入に聞くと、少年達……竈門さんと栗花落さんは一度、顔を見合わせて頷いた。
「珠世さん、俺は
「……日の呼吸。まさか、継承されていたのですか……」
珠世も日の呼吸のことはよく知っていた。自分が鬼舞辻の呪いを解くことができたきっかけが、それだったのだから。
「そして、信じてもらうのは難しいと思いますが……俺達は、転生を繰り返しています」
「……はい?」
なんとも素っ頓狂な声が出た。炭治郎の話すことは、珠世にとって斜め上どころか、何か自分の知らない定義の場所に向かっているような発言である。
「俺達はかつて、今と同じ時代、明治に生まれました。……今よりは十年遅く、ですが。一つ、信じてもらう材料として、近いうちに天皇が崩御され、年号が変わります。大正になります」
「大正では無惨を多大な犠牲はあっても無事討伐することができて……その過程で珠世さんにも鬼殺隊に協力してもらっていました。だから、私達は貴女達のことを知っています」
それはどうしても現実味のない話だった。輪廻転生という考えがあるのは珠世も知っている。彼女が人間だった頃から日本にはその考えが根強くあった。それでも、生きながらえて数百年、実際に転生したなんていう話を聞いたことはなかった。
少し緩めていた警戒を締め直すか迷っていると、「大正の次は、戦国に転生した」。それから告げられる、確かにあった
「……本当に、転生なさったのですね」
思わず珠世はそう呟いていた。だって、本当に転生をしてない限り、その時代のことをこの二人が知るはずがないのだから。きっと産屋敷ですら知らない細かなことまで知っていた。これを信じないならばなんだというのか。
次に彼らが転生したのは、「令和」という、今から四回も年号が変わった先の時代らしい。そこで栗花落さんは医学を修めた───故に未来の医学の知識は相応に持ち合わせているのだそう。
「この知識で、父の命を救うことはできると思いますが……私の技量では至らないかもしれなくて。……だから、珠世さんに協力してもらいたいんです」
「なる、ほど……些か突拍子がなさすぎですね……」
「「ですよね……」」
しばらく、お互い言葉を発さない時間が続く。長く、長く感じられる静かな時間が続き、やがて珠世は炭治郎とカナヲを見据え、口を開いた。
「……突拍子はありませんが、信じましょう」
それは、これ以上ない心強い協力者の誕生の瞬間であった。
――――――――――
「竈門さん、ヒノカミ神楽は禁止です」
息子達が鬼殺隊に入隊して数ヶ月、まだ物事をうまく理解のできない下の子ども達には、兄さんと姉さんは人助けに行ってるんだよと教えて過ごしていたそんな中、久しぶりに里帰りに来た炭治郎とカナヲが連れてきたのは、まさかの鬼だった。
はじめは困惑したものだ。鬼を斬るはずの組織に入ったはずなのに、鬼を連れてきたのだから。それでも少し話を聞くと、この人達───珠世と愈史郎は“悪鬼”ではないのだと直ぐに理解した。人間である自分達を前にしても襲う気配がない。それに、なによりも息子達が善逸を含めみんな信頼しているというじゃないか。それなら大丈夫に違いない、そう信じて炭十郎は大人しく、数度に渡って彼女の診察を受け続けていた。
「……どうしても、ですか」
「はい、どうしてもです」
「そうですか……どうしても?」
「はい」
喰い下がったが全くその文言は取り消される気はしない。炭治郎に既に引き継いでいたからよかったが、それにしろ十数年舞い続けてきたコレが本当に禁止されてしまうとは、なかなかにクるものがある。
「父さん、俺達が絶対に年末に炭治郎達が神楽を舞えるようにするからさ! 任務が炭治郎に来てたって俺達が肩代わりする。だから、もうゆっくり休んでよ」
「善逸さんの言うとおりです。私達は鬼狩りではありませんが……有事の場合は私達も力添えしてでも、炭治郎さんを里帰りさせますから」
「はい……」
炭治郎の父も、さすが父らしく、かなりの頑固者だった。それでも心配してくれる炭治郎とカナヲが見つけてきてくれた医者、それから今傍にいてくれる善逸に、敵わないと折れることを選んだ。
「それから、こちらが服用してもらう薬です」
「ああ、ありがとうございます」
「……礼なら、貴様の娘に言うといい。あいつが知識を提供してくれたからできた薬だ。貴様が服用するのは当然の理だろ。そして息子達に感謝しているのなら、尚更無茶をやめろ阿呆が」
「ねぇ愈史郎さん、いっつも思うけど言葉強すぎだって、もうちょい選んでくれよ!」
「黙れ善逸」
「愈史郎、善逸さんの言うとおりです」
「はいっ!! すみません珠世様!!!」
愈史郎は善逸を呼び捨てしているが、コレは断じて距離が縮まっているわけではない。なんせあのガキどもはみんな家族らしいから、苗字で呼び捨てるとややこしいのだ。……善逸とカナヲは苗字は違う?そうかもしれないが、ややこしいだろうが。
「炭十郎さん、無理はしないで。一緒に子ども達の成長を見届けましょう?」
「……それもそうだね。変に喰い下がってすまなかった、珠世さん、愈史郎さん、癸枝」
葵枝にも窘められた炭十郎が頭を下げて、この件は一件落着した。きっと彼はこれから、たくさんの子ども達に囲まれて天寿を全うするだろう。
コソコソ噂話
「令和の生≠キメ学時空。確かに実家の職業とかはあまり変わらないし、善逸もカナヲもじいちゃんや胡蝶姉妹に引き取られているけど、炭治郎の父は治療によって普通に天寿を全うしたよ。ちなみに、伊之助と玄弥は母親達は普通に生きていて、父親達は全くの別人だったそうだ。鬼だった者達は無惨も含め人間として生きていたよ。───性根は変わらずともね」