五感組逆行譚〜我ら人生4周目、ワカメブッコロがし隊〜   作:幸翔雪

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我妻善逸、鬼を斬る

 

───雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃

 

 

「クッソ、俺は、俺はこんなところで……!」

 

 

 コロン、と鬼の首が落ちる。その目には「肆」と刻まれていた。

 

 

「ふぅ、任務完了! チュン太郎、報告よろしくね〜」

 

「チュンチュチュン!」

 

「さて、じゃあ俺は早く帰って炭治郎にご飯作ってもらうとするか〜! 鰻、鰻、鰻〜!」

 

 

――――――――――

 

───鬼を斬る。それはかつての俺にとって、とても辛いものだった。

 

 もとより鬼に恨みがあるわけでもなく、ただ、(女の子)に騙されて借金を負っていた俺を助けてくれたじいちゃんが鬼狩りだっただけ。それだけの理由で歩むことになったこの道は、とことん俺の性分に合わなかった。努力するのが嫌いだ。痛いこと、苦しいことなんて来ないでほしい。それどころか自分から突っ込んでいくなんて正気の沙汰じゃない。でも、そんな俺でも見捨てずに育ててくれたのがじいちゃんだったから、それに報いたくて頑張った。

 

 どんなにヘタレでもクズでもカスでも、見捨てずに育てる。それはどれだけ凄いことだろうか。兄貴(獪岳)は解っていなかったけど、きっとそれはじいちゃんが俺達を特別に思って、愛してくれていた(・・・・・・・・)からできた所業なんだと思う。俺は無意識にそれを感じて受け止めていた。でも、兄貴は色々な要因でそれができなくて───それが、あの頃の俺達が道を違える決定的な違いになってしまったんだ。

 

 まぁ、そんなことは今になったらもう、どうでもよくて。この生ではきっと獪岳とも仲良くしようと決めているけれど、とにかく。

 あの頃の俺は、鬼と戦うよりも辛いものなんてない、そう信じて疑っていなかった。バカみたいな能力で一方的にこっちを嬲ってくるようなバケモノ。何人も何人も、戦いが終わっても、たくさんの仲間や人が死んだ。そんな鬼と戦うより辛いものなんて、知らなかった。

 

 

 戦争が起きた。

 

 

 相手は鬼なんかじゃない。俺達と同じで、きっと手を取り合って生きていけるはずの、人間(・・)が相手だった。日本はおかしくなった。みんながみんな、国のため、天皇のため。なんだかその様子に、見覚えがあって───そしてそれがなんなのかは、直ぐに解った。ああ、かつての俺達だ(・・・・・・・)と。

 あの日本がおかしい、というなら、きっと鬼殺隊もおかしかった。鬼殺隊のため、お館様のため。活発化して、犠牲者が増えていくのに伴って出てくる感情、大切な人を殺したことへの復讐(・・・・・・・・・・・・・・)、そんなところまで同じだった。

 俺達は知っていた。その戦い(戦争)は何も生まないことを。ただたくさんの人が犠牲になるだけだということを。だって相手は同じ人間だ。俺達が相手したのはバケモノだったから、終わりは来た。復讐が果たせた。でもそれが人間、完全に同格の相手なら?

 そんなもの、何も成し遂げることなんてできるわけがない。俺達はそのことを、みんな(世間)より一足先に知っていた。

 

 

───人を殺す。それは俺の知っている中で、世界で一番辛いものだ。

 

 

 相手は理不尽に俺達を蹂躙してきたわけじゃない。きっと話せば分かり合えるはず、そんな相手を殺す。信じられないほどに苦しい、辛い。それでも俺達は戦場に駆り出された。炭治郎や義勇さん、実弥さんは亡くなってしまっていたけど。

 俺や伊之助、他にもたくさんの同胞が、隠の人でさえ、五体満足で生き残ってしまって、戦力として見られる年齢だったせいで、駆り出された。輝利哉くんだって駆り出されそうになった。由緒ある家だとしても、あと一瞬でも終戦が遅ければ、あんな地獄を味わう羽目にさせてしまっていたかもしれない。

 

 戦場は地獄だった。俺は耳がいいから、日本の人の苦しんでる音がたくさん聞こえてきた。「こんな地獄は嫌だ」「何が国のためだ。早く家族に会いたい」といった、嫌悪と後悔の音。そしてそれは、相手のアメリカの人達も、同じだった。戦場に来れば、鬼殺と戦争は全然違った。強制で参加しないといけないソレは、どうしても覚悟が浅くて、みんな独りよがりになってしまっていたんだ。

 

 俺はそこでも生き延びた。でも、伊之助は死んだ(・・・)

 呼吸の後遺症みたいなので、呼吸を使わなくても身体能力が一般以上な俺達は、普通にしていれば生き延びることができた。人間は鬼より遅い、鬼より弱い。隠だった人でもそうだった。でも、みんな優しすぎたんだ。俺は臆病だから自分が死なないように、相手は殺さないように、でもサボってるとは思われないようにって過ごしたから、生き延びてしまった。

 

 伊之助は、かつての俺達と同じくらいの少年を庇って死んだ。千寿郎くんは戦車を爆破する特攻隊に任命されてしまって、皮肉なことにお兄さんと同じように右目が潰れてしまいながらも、その小隊でたった一人だけ辛うじて生き延びた。ある人はアメリカの人に情けをかけて、隙をつかれて死んだらしい。生き延びられるはずの鬼殺隊だった人は、半分以上がそうして死んだ。

 

 人は鬼じゃないから、みんなそんな人間の善性を信じてしまうから───きっと俺も、同じ場面になればそうしてしまっただろう。味方も相手もみんな、自分が生き延びたいだけになってしまって、本当に全体のためにって動いていた俺達(鬼殺隊)とは場合が違うって、解ってるはずなのに。それでも鬼じゃないからって、信じてしまう。その証拠に、俺の知る限りは誰もが、俺と同じように人を殺めてはいない。

 

 

鬼じゃないから、人は守るべき存在だから。

 

 

 アオイちゃんも、空襲から避難する時に逃げ遅れた子どもを庇って片足を失ってしまっていた。漠然と、伊之助と同じだなぁと思ったのが懐かしい。カナヲちゃんは五体満足だったけど、とても悲しそうな音をしていた。───ううん、カナヲちゃんだけじゃない。みんな(・・・)そうだった。せっかくみんなで紡いだ平和だったのに、その平和は鬼なんかじゃない、人間の手で壊れてしまったから。俺もそうだった。思っちゃいけないのに、炭治郎達は鬼との戦いで死んでしまってよかった(・・・・)と思ってしまった。

 そんな自分を殴りたくなって、でもどうしてもそう思ってしまって、禰豆子ちゃんはそんな俺に寄り添うだけじゃなく、同じだよって言ってくれた。「鬼だった頃のことはしっかりは覚えてないけど、みんな優しい人だったよね。人間との戦いなんて知ってほしくない」って。みんな俺と同じように思ってるって。

 

 令和の生で、歴史を知った炭治郎や玄弥から俺達がどうなったか問い詰められた時も、ずっと、あの地獄を炭治郎達が知らなかったことに安堵した。

 

 ただでさえ生き残った人が少なかった鬼殺隊で、結婚したのは俺達と千寿郎くん、輝利哉くんだけだった。幸い、それぞれの間にできた子どもは戦争の後でもみんな生きていて、どこの子だなんて関係ない。みんなみんな、大事な鬼殺隊の子(・・・・・)だった。生きている鬼殺隊だった人達が、みんな可愛がってくれた。その子達は俺達の希望になった。

 

 戦争なんて、鬼との戦いなんて知らない、というくらいの勢いで、みんなグングンと大きく成長してくれたんだ。誰かの誕生日が来るたび泣いて、誰かが成人するたびに、本当の平和を感じた。みんな、鬼との戦いを、人間との戦いを、きっと未来に紡いでいくと、俺達は何も言っていないのに、そのキラキラとした瞳で俺達を見据えながら、そう言ってくれた。正真正銘、平和の証だった。

 

 

───鬼を斬る。それは人を殺すことに比べたら、ずっと楽なものだ。

 

 

 鍛錬をして強くなれば、並の鬼には勝てる。下弦にも勝てた。命の危険は人との戦いよりも高くても、どれだけ苦しい過去があっても、相手は人の道を外れてしまった鬼(・・・・・・・・・・・・)だから、楽なんだ。

 

 

「たんじろ〜! たっだいまぁ〜!」

 

「お、おかえり善逸。炭治郎は今買い出し行ってるぜ」

 

「あ、そなの? 松右衛門〜! 炭治郎追いかけて、今日の昼ご飯は鰻にしてって伝えて!!」

 

「カァ〜! 了解〜!」

 

 

 松右衛門が飛んでいく音が聞こえる。令和で趣味で建築を勉強していた玄弥が建てた家には、俺と玄弥だけが取り残された。到底趣味のレベルじゃ辿り着けなくないか、という感情にはもう慣れた。そしてその畳に寝そべっている玄弥は手に薄い四角の何かを持っている。

 

 

「にしても善逸、マジでこのスマホ(・・・)どういう仕組みなんだ? 普通にY⚪︎uTube見れるしネットも繋がるとか。しかも時間の判定が俺達が死んだ後からなの普通におかしいだろこれ」

 

「いや、俺も分かってなくてさぁ。色々いじってたら急に繋がるようになった」

 

「はぁ!? ええ……こっわ」

 

「聞こえない聞こえない。俺の二年間の努力です感謝してくださ〜い?」

 

「わー、未来の便利さに囚われた俺達からしたら神です〜、アリガトナ」

 

「思いっきし棒読みじゃんか」

 

「うるせぇ。あ、そうだ、これL|NE実装できねぇ? 連絡楽になるだろ?」

 

「その発想は天才」

 

 

 そう、明治にまた生まれた俺は十一で鬼殺隊に入ってから、思いつきでスマホを再現していた。令和の時は陸上を引退してから、電子機械系を色々勉強していたから、再現には苦労しなかったけど、電波とかどうしようもない問題はあったんだよね。どうにかならないかといじりまくってたら、つい一週間くらい前から急に作った端末全部が俺達の生きていた時代の電波を受信するようになってたその時は腰を抜かした。

 

 

「まぁ、スマホはこの家を建てた俺へのお礼も兼ねてるってことで勘弁な」

 

「それ言われたら何にも言えない……強度完璧すぎて。シェルター並みじゃんこれ。それなのに外観馴染んでるのもすごい」

 

「だろ」

 

「ところで玄弥、伊之助とカナヲちゃんは?」

 

「伊之助は炭治郎についてってて、カナヲは善逸が出てったちょっと後に任務に出てる。そろそろみんな帰ってくるんじゃねーかな」

 

 

 ということは鰻はみんなで食べれるってことだな、いっぱい祝ってもらおう、俺が下弦を斬ったこと!

 (きのえ)になって三ヶ月、入隊から二年と少し。どんどん強い鬼との任務が来るようになった俺達は、昨晩の俺を最後に、全員が下弦との対峙を終えた。出世のタイミングは毎回誤差二週間くらいだったけど、まさかこれまたほぼ同時期に全員が下弦を斬るなんて想像していなかった。ちなみに俺とカナヲちゃんは十三歳になって、玄弥と炭治郎、伊之助は十二歳。全然大正の時よりも年齢が低いし、なんなら鬼殺隊最年少の冠を玄弥達が持ち続けている。俺達十三歳の次は十五歳まで上がるらしい。後輩隊士も年上ばっかりだ。当たり前っちゃ当たり前だけど。

 

 

「帰ったぞ! カナヲも一緒だぜ!」

 

「ただいま! 善逸、下弦を斬ったんだってな、鰻買ってきたぞ!」

 

「ただいま。お疲れ様、善逸」

 

 

 俺も玄弥と一緒になってスマホ片手にゴロゴロしていると、三人が帰ってきた。手際よく炭治郎が料理をしてくれて、待ちに待った鰻の時間だ。

 

 

「それじゃあ善逸の下弦討伐を祝って、いただ───」

 

「カァ〜! カァ〜! 伝令、伝令ィ〜! 栗花落カナヲ、嘴平伊之助、不死川玄弥、竈門炭治郎、ソシテ我妻善逸ゥ〜! 三日後ニ予定サレテイル柱合会議ニ参加セヨ〜! 繰リ返ス! 三日後ノ柱合会議ニ参加ァ〜! カァ〜!」

 

 

「な、柱合会議だと!? てことは……ははーん、分かったぞ。俺様達が柱になる、そういうことだな!」

 

「ソノ通リダ!」

 

「柱かぁ、嬉しいな、みんな!」

 

「ああ、やっとってとこだ」

 

「これでもっと色々できるようになる……!」

 

「炭治郎、カナヲちゃん、玄弥、伊之助、頑張ろうな!」

 

 

 みんなで顔を見合わせて頷きあう。入隊から二年、俺達はやっと柱にまで登ることができたらしい。

 

 この時のために色々準備してきたんだ、主に玄弥がだけど。柱になるということは、カナヲちゃんが言った通り、行動の幅が広がることになる。

 任務先の融通や、上───お館様への意見の通りやすさが上がるだけで、より確実に俺達の恩人達を救える可能性が高くなる。はじめの生で失わせてしまった人、失った人。絶対に全員鬼から救って、そしてその後の悲劇だって乗り越えて見せるんだ。恩人だけじゃない、全員とは言わないけど、手の届く救える人達はたくさん救っていきたい。みんな、鬼舞辻無惨とかいうあのワカメのせいで命を落とされる必要はないんだから。

 

 

――――――――――

 

 

「───耀哉」

 

「はい、父上」

 

「私は見ての通り、命がもう長くない。耀哉にこの重責を負わせることになるのは、本当に心苦しいよ。すまないね」

 

「いえ、私は次期産屋敷、鬼殺隊当主となるために、たくさんのことを父上から学んできております。きっと立派に責務を果たして───そして、必ず私の代で鬼舞辻を討ち取ってみせます」

 

「ああ、とても心強いよ。……私の目が黒いうちに、彼らが柱となってくれたのは本当によかった」

 

「……それは、竈門隊士達のことですね?」

 

「そうだ。私は彼らに命を救われて、そして、彼らがきっと今後の大切な欠片になると信じている。三日後の柱合会議の後、彼らと少し話をしようと思っている。耀哉も、そこに同席しておくれ」

 

「はい、分かりました、父上」

 




鬼滅の何が辛いって、鬼舞辻討伐後、そんな経たずに戦争が襲いかかってくることだよなぁと思う今日この頃です。
そんなわけで、結構急に時間を飛ばし、五感組、柱就任いたしました。
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