五感組逆行譚〜我ら人生4周目、ワカメブッコロがし隊〜   作:幸翔雪

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栗花落カナヲ、竈門家特攻

 

 さて、戻って雲取山麓の村。道行く人みんな優しく助け合って暮らしている村の面々が、今日はやけに群がって、そして小さな女の子を囲んでいた。

 

 

「あんた、その服装はどうしたの?」

 

「……あまりいい服が、買えなくて」

 

「服って言ったらダメだろうそれは! 嬢ちゃん、ウチの店に来なさい。ガキのお下がりではあるけど着物をやるから」

 

「いえあのっ……」

 

「というかお嬢ちゃん、名前はなんて言うんだい? この村じゃ見かけない顔だけど」

 

「つ、栗花落カナヲです……」

 

「カナヲちゃんね! 身寄りはあるのかい? ないならあたしが……」

 

「いえっ、そのっ、私、炭治郎に会いに来ていて……」

 

 

 ガヤの声が止まった。

 群衆の中心にいるのは名乗った通り“栗花落カナヲ”。明らかに貧相な体をしていて、服とすら呼べないボロい布切れだけを身にまとって体以外何も持たずこの村へ辿り着いた。

 村の人間は皆お人好しであった。明らかに只事じゃないこの娘を放っておけず、善意十割で服を分けたり食料を分けたり、身寄りがないというのなら引き取って育ててやろうと考えていた。ここで出会ったが何かの縁。そんなつもりだった。

 

 ところが娘が出した名前は“炭治郎”。

 この村に住むものとして、総じて世話になってる炭焼き一家竈門の長子、それが“炭治郎”という名前だ。この村に、付近に、“たんじろう”は“炭治郎”以外いない。

 

 炭治郎は四歳の子どもである。度々山から父親と一緒に降りてきては太陽のような笑顔で皆を虜にし、困りごとの“匂い”がしたとやらで、まさに困っていたことの真相を突き止めては解決してくれる。知識量は並大抵の四歳ではなかった。また、父母譲り、一家特有の常軌を逸したお人好し。喧嘩も、気がつけば大人子ども問わず真っ先に仲裁し、丁度よく落ち合いをつけてくれるなどしてくれた。

 人に言わせると、“まるで長老のような雰囲気だった”と帰ってくることも珍しくはない。明らかな“天才”だ。

 

 他にも、四歳にして妹や弟への面倒見がよく、彼より年下はもちろん、年上の村の子どももよく懐いていた。そうして炭治郎は、村にはたまにしか顔を出さないにもかかわらず、四歳にして村の子どもの総領のような立場にいる。まあ、つまるところ、炭治郎は村の誇る自慢の子どもである。

 

 その炭治郎と、この貧相な娘は関係があるらしい。まさに青天の霹靂、村に激震が走った。

 

 

「おねーちゃん、たんじろーにいちゃんのともだちなの?」

 

「友達……まぁ、そうかな」

 

「炭治郎くん達のことを呼んでこようかい? 確か今朝村に来てたからまだいるはずだけど……」

 

「ありがとうございます、でも大丈夫です。───きっと、もうすぐ来てくれるはずなので」

 

 

 その娘、カナヲもどこか炭治郎に似た雰囲気があった。炭治郎は四歳にしては大きいから、炭治郎に比べると小さく見えるが、確かに四歳くらいの背丈。四歳にしてはそれでも小さい気もするが、家庭環境の問題だろう。

 それはさておき、これだけの人に囲まれて、確かに多少たじろいでいるが受け答えは必要最低限こなすし、何より言葉遣いが子どもらしくない。炭治郎と同じく、まるで大人のような理路整然とした雰囲気の語り口。

 こんな身なりをさせる家だからロクな躾は受けられていないだろうに、カナヲは知性を感じる物言いをしていた。

 

 そんなカナヲの言葉に、群れには今度は疑念の雰囲気が広がる。もうすぐ来てくれるって、一体どうしてそう思うのか。炭治郎は今日、村のこちら側へは来ていない。確かに炭治郎は鼻がいいが、それは一度会ったことある人しか区別できないらしい。それでもとんでもないが。

 

 炭治郎は村を出たことがない。竈門一家は雲取山とこの村で生計を立てているから、片手で数えられる程度しか村の外に出たことがない。日帰りで帰って来れるような場所でこの子に会ったようにも思えないし、村にこの子が来たことはない。もちろん子ども一人が雲取山に入山したなんて話、聞いたことがない。

 

 村の人からすれば、カナヲは炭治郎と会ったことがないのである。なのに来てくれるなど、どうして確信じみて言えるのだろうか、そういう疑問があったわけだが……炭治郎は、本当に来た。

 

 

「カナヲ! カナヲがいるのか、みんな!」

 

「炭治郎!? ほんとに来たじゃねぇか! すげぇな嬢ちゃん!」

 

「カナヲがいるんだよな!? みんな、通してくれ!」

 

 

 頭突きの勢いで炭治郎が駆け込んでくる。みんな慌てて道を作った。炭治郎は、頭突きを食らわせた悪人が一日目を覚まさなかったという伝説を持っている。被害に遭うのはゴメンだ。

 

 

「炭治郎! 良かった、会えた……」

 

「……逃げてきたのか?」

 

「うん。それで……炭治郎の家にお世話になってもいい?」

 

「もちろんだ! 父さんがあっちにいる。一緒に行こう」

 

 

 そして炭治郎は瞬く間にカナヲの手を取って走り出した。“みんな、カナヲを見つけてくれてありがとう!”と一連の出来事で生まれた疑問を全てぶっ飛ばすような満面の笑みとともに。宇宙猫になっていた村の一同の心はひとつになった。“炭治郎とカナヲちゃんが出会えてよかった”。細かいことは全部忘れた。恐るべき魔性の男。

 

 

「にしてもカナヲ、栄養失調気味だな。やっぱりちゃんと食べれなかったのか?」

 

「うん……殴られたりとかは避けてきたけど、ご飯だけはどうしても」

 

「そうだよなぁ……そうだ、今日はご馳走にしてもらおう! 丁度今日は薪が沢山売れたんだ」

 

 

 炭治郎は転生者である。かつての大正の生、鬼舞辻無惨を一度死に追いやり、戦国の生に生まれ変わった暁にはかの伝説の剣士、継国縁壱の元で修行を積んで、またしても無惨を死に追いやった。令和の生では一度食べたら胃袋を掴んでは離さない、火加減が全ての通称“炭治郎飯”を鍛えつつパンをせっせと作ってきた。

 そしてこの生、数多の恩人を助け、無惨をフルボッコにするために順調に生きてきたところ、間違えることのないカナヲの匂いをかぎつけ、一目散に駆け寄ってきたのだった。確かに村人達の知るように、今生、カナヲと出会ったことはないが、生は変われど匂いは変わらない。とてもよく覚えている匂いに反射的に走り出していた。

 

 そんな炭治郎に三生とも嫁いで、文字通り生まれ変わっても添い遂げ続けているのが、彼女、栗花落カナヲである。“友達”どころじゃない。“嫁”だ。魂の嫁だ。

 彼女も転生者である。大正では姉さん達の分の恨みをワカメにぶつけ、戦国では花柱の“姐さん”の元でワカメの茹で方から嫁入り修行まであらゆる面を扱かれた。モットーは“悪いことしたヤツには倍返し☆”。

 それから令和では、医療の知識を頭につめ、いつか来るであろう再びの大正、恩人を救ってワカメを木っ端微塵にできるその日のために準備を整えてきた。

 

 そしてカナヲはある程度移動が可能になった“五歳”の今、クソ両親の元から逃げ出し、夫である炭治郎の元へ一直線に来ていた。炭治郎もまた転生しているのは確信していた。既に二回とも炭治郎達と一緒に転生してきたのだ。今回居ないわけがない。

 もはや家族の意識すらもない、血だけは繋がった“きょうだい”達には、自分の次に大きかった子どもに、家の近くの藤の家紋の家を記した地図だけ渡してきた。家庭のことは鬼と関連はないが、助けてもらえる可能性は高い。もうこれ以上関わることはないだろうが、同じ血を分け合ったものとして、多少の慈悲だった。

 

 

「おとうさーん! カナヲうちに連れて帰ってもいい!?」

 

「……炭治郎? しっかり説明してくれるかい?」

 

「カナヲは俺の嫁だからだ!」

 

「……え?」

 

 

 炭治郎は三生分の知識はあるが、説明能力はひたすらに壊滅的だった。それこそ戦国の生、当時の剣士達によって鍛えられたりもしたが、それが全くの意味をなさない程の才能のなさ。そして今の炭治郎はさらに、父親に魂の嫁、栗花落カナヲを紹介するということでテンションMAX。素直に正常な判断ができなくなっている。その結果、吐いてはいけない言葉を吐いた。縁壱先生に、鱗滝の師匠に、兄弟弟子に、シバかれてしまえこの権八郎。

 

 彼の父、竈門炭十郎は思考を停止した。無理もない。というか正常。

 炭十郎は、自分の一番上の息子、炭治郎が普通の子どもとは違う“天才児”だというのは知っている。しかし、その上でも炭治郎はまともな発言しかしてこなかったと記憶している。なのに今ははじめましての女の子を連れてきた挙句、“うちで引き取ってほしい”やら“俺の嫁”やら。これまでとはまるで違う意味のわからないことばかり言ってくる。炭治郎のことだから何か考えがあった上での行動なのはわかる。身なりから見て引き取る必要性があるのもわかる。理由さえ知ることができれば大歓迎であった。丁度二番目の子ども、禰豆子と同い年くらいだろうか。きっと禰豆子も、末の息子の竹雄も喜ぶだろう。妻である葵枝だって歓迎してくれるはずだ。

 ただ、理由がわからないのに引き取ることはできない。いくら信頼している息子が言ったからって、世間体でそれは通用しない。

 

 困って女の子を見ると、ふわっと笑って頭を下げられた。服装からは予想もできない、そもそも少女がやるものではない上品で“女”らしい仕草をその少女が、なんの違和感もなくやって見せたのに驚いた。

 

 

「……はじめまして、栗花落カナヲです。炭治郎のお父さんですよね」

 

「あ、ああ。僕は竈門炭十郎。はじめまして。炭治郎のお友達かな?」

 

「はい。昔に会ったことがあって……私の居た家は、ご飯もロクに食べさせてもらえなかったんです。それを知った炭治郎が、耐えられなくなったら俺の家においでって……それで……」

 

 

 栗花落カナヲは戦国の先生、通称姐さんに処世術も叩き込まれた。炭治郎の壊滅的な表現力を補うどころか上手く取り繕うことまでできるようになった。はじめの生のカナヲが見たら本当に“未来”の自分か疑う程度には成長した。

 

 炭十郎は炭治郎の父である。重度の生まれながらにしてのお人好しである。息子の発言は興奮してたから変なことを口走ったんだろうと無理矢理納得し、カナヲの言葉を信じることにした。

 

 

「なるほどなぁ。カナヲちゃんが僕らの元に来たいのなら大歓迎だよ。丁度カナヲちゃんと同じ年頃の娘もいる」

 

「父さん、カナヲは五歳だよ。禰豆子はまだ三歳だろ?」

 

「五歳なのかい!? なら炭治郎よりも年上じゃないか……それでこの背格好……炭治郎、今日は母さんに頼んでご馳走にしてもらおう。二人で好きなものを買っておいで。僕はみんなに事情を話してくるから。できるね?」

 

『はい!』

 

 

 そう、カナヲは五歳である。炭治郎よりも年上である。街の人には“四歳”、“炭治郎と同い年程度”には“辛うじて”認識されていたし、炭十郎に言わせると“三歳の禰豆子”と同い年程度に見られたが、確かに五歳である。知識はあれど栄養は補えない。典型的な栄養不足なのだ、カナヲは。

 

 炭十郎は炭治郎にカナヲを託し、早々に山を登っていった。炭治郎はしっかりしているから、それを信頼して別行動するということは竈門家ではよくあることだ。

 

 炭治郎とカナヲは再び村の中心部に戻り、夕飯の買い出しをはじめた。二人だけだということには、誰もなんの違和感も誰も持たなかった。そもそも炭治郎は偶に一人で村に降りてきては買い出しをして帰る。田舎の村は噂が回るのは早い。新しく来た嬢ちゃんは炭治郎並に賢いらしい、そんな事実と言えば事実、事実でないと言えば事実でない噂が既に出回っていたから、みんな微笑ましそうに二人の買い物を見守った。

 途中の質屋ではカナヲに合いそうな着物をプレゼントされた。花模様があしらわれた可愛らしいデザインのものだ。魚屋、八百屋、肉屋でもおまけで色々もらった。田舎はあったけぇ。みんなカナヲの健康を心配していた。

 

 

「ただいま、父さん、母さん!」

 

「炭治郎、おかえり。それにカナヲちゃんだね。話はお父さんから聞いてるわ。ようこそ、竈門家へ」

 

「かなをおねーちゃん、わたしはねずこだよ!」

 

「栗花落カナヲです。よろしくお願いします」

 

 

 こうしてカナヲは無事、竈門家で匿われることになった。それからすぐに竈門夫妻はカナヲも炭治郎のように“天才児”であることに気がつき、驚くことになるが、そんなこと本当に気にしない家族なので、禰豆子や竹雄は本当の姉のようにカナヲを慕うし、数週間後にはカナヲは竈門家にすっかり馴染み、竈門を名乗らないかと言われる程になった。

 一度名乗ってみたら年齢的に“長男”(長男ではあるが長子ではないの意)でなくなった炭治郎の活力が三割減したので、「竈門姓を名乗らせたい竈門夫妻」VS「炭治郎の長男(長子)バフを守るために栗花落を貫くカナヲ」の構図が生まれることになるのだった。

 

 

 

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