五感組逆行譚〜我ら人生4周目、ワカメブッコロがし隊〜 作:幸翔雪
我妻善逸は逃げ出した。嫁の元へと駆け出した。もう耐えらんねぇ出て行ってやるよこんなクソ店。俺は鬼舞辻無惨を嬲り殺すために今の生を生きてるんだ、賃金もロクに出ない遊郭の極小店舗で奉仕なんてもうしてらんねぇ。まだ満足に動けない俺を拾ってくれたことだけは感謝してやろう、だがな! それ以外は全部クソだったよ潰れてしまえ! いいや、俺が直々に潰してやる!
善逸もまた転生者である。転生者仲間、炭治郎、伊之助、カナヲ、玄弥と共に戦国令和と鬼舞辻無惨への怒りを積み重ねてきた。
かつて大正で確かに倒したが、アレは犠牲が大きすぎた。あの最終決戦で達成感以上に確かに更にあのワカメへの恨みが増えたのに、アイツにもう復讐はできない。そんな馬鹿なことがあってたまるか、許せねぇ鬼舞辻無惨。
戦国ではチート剣士縁壱さんとウチの堅物炭治郎が勝手に抹殺していた。俺は何も出来なかった、チクショウ。やっぱり許さん鬼舞辻無惨。
令和でも確かにワカメは生息していてまたもやロクデナシだったが、最悪なことにアイツは鬼じゃなくて人間だった。あの時代は人間を殺したら、どんな理由であれ、法に強い玄弥がいれど、ほぼ間違いなくブタ箱行き。ワカメへの復讐と平和な時代での嫁とのバカンス、取ったのはバカンスだった。もちろん抜かりなく五人で無惨へ法に問われない最大限の嫌がらせはした。何にしろ許せない鬼舞辻無惨、クソワカメ。
だからこの大正は大チャンス、無惨をボコして絞め殺す大チャンス。オマケに予定より早く生まれてきてるときた。これはみんな救って大団円を目指せる。ほぼ絶対に自分と同じように転生してるであろうアイツらも同じことを考えてるだろう。約束の、善逸が十一の歳の最終選別まで最大限の力をつけてくるだろう。
(そろそろ俺も鍛錬して大丈夫な頃合だし!? 禰豆子ちゃんにも会いに行きたいし!? 師匠、じいちゃん、これは逃げじゃないから、戦略的にあの店を捨てただけだから、怒らないで許してねっ!!!)
じいちゃんというのは、大正と令和で世話になった桑島慈悟郎、師匠は戦国の鳴柱を指している。どちらも善逸の頭が上がらない存在、恐ろしき先生達だ。
戦国の生、熱血鳴柱の元で善逸は雷の呼吸を壱ノ型以外も叩き込まれた。弱音を吐けばボコボコにされ、大正のじいちゃんがまだ優しかったんだと実感する程の熱血スパルタっぷり。壱ノ型が一番好きだし使えるが、それ以外も人並みに鍛えられた。漆ノ型は師匠に褒めて貰えた。あれは嬉しかった。
ちなみに、令和では善逸は脚の速さを活かして陸上選手になった。最終的に色んな女の子にデレてた姿が週刊誌にすっぽ抜かれて不倫してるやらの冤罪を被せられ、玄弥の力も借りて弁明したが失脚、社会の辛さ、現実の非情さを実感した。俺の嫁はずっと禰豆子ちゃんだけなのに。四人には自業自得だと言われた。心外、なんでだよ!
どの生も善逸は禰豆子と添い遂げている。記憶を持って転生を繰り返してる仲間はあの四人だけど、どういうわけか、どの生にも記憶は持たないものの禰豆子、それから伊之助の嫁のアオイがしっかりと、自分の二つ下と同い年に存在していた。だから絶対に今生、禰豆子ちゃんも早く生まれてるし炭治郎もいる、絶対そう。だから俺は雲取山に行くんだ誰も止めないでくれ!!!(止める人はいない)
「たんじろおおおお!!! いるんだろ、俺だよ俺! 助けてくれぇ!!! ってあれ、カナヲちゃんもいる!?」
お目当ての家の前について善逸は恥もなく扉越しに叫び散らした。その家、竈門家で驚愕と恐怖の音が木霊してるのが聴こえた。そんな驚かなくていいじゃんか、特に炭治郎となぜかいるカナヲちゃん。
扉が開いた。出てきたのは炭治郎とカナヲだった。怒ってる音がする。善逸は身震いした。
「……久しぶりだな、善逸」
「ひ、久しぶり、炭治郎、それにカナヲちゃん……」
「久しぶり、善逸」
もうとても恐ろしい。この二人は滅多に怒ることのない、“竈門家”らしい聖人、お人好しだ。善逸にも引くことはあれどあまり怒ることはなかった。この三生、二百年以上に渡って両手で数え切れる程度だと思う。
二人が善逸に対して言いたいであろうことは音に乗せて全部聴こえた。“来たのはいいがもう少しやり方があっただろう”、“家族が怖がってるんだけどどうしてくれるの?”、“あれが第一声じゃ誤魔化すのに苦労するんだが”、“二百年以上生きてるよね、考え甘くない?”etc、紛うことなきド正論で善逸は物凄い後悔に襲われた。
「ご、ごめんって、炭治郎、カナヲちゃん……」
「……炭治郎」
「はぁ……善逸、俺達も善逸にまた会えたのは嬉しい。この家に来てくれたことも大歓迎する。ただ、これからはもう少し言動に気をつけてくれ」
「ハイ……カナヲちゃんも、ごめんね」
「炭治郎が許したなら私もいいよ。……そうだ、お母さん達への印象取り戻すの頑張ってね」
善逸はしゅん、と凹んだ。禰豆子ちゃんに嫌われたかもしれない。まだ嫌われてる音はしないけど、本当にやらかしたなぁ、もう後悔が止まらない。数分前の自分、俺はお前を許さない。この気持ちを叫びたかったが叫べば更に変な印象を与えてしまう。己の持つ精神力をフル活用してどうにか押さえ込んだ。
そうだ、全部全部あの憎きワカメのせいだ。やっぱり嬲り殺さないと、一刻も早く。許さん鬼舞辻無惨。立派な八つ当たりの自覚はあるが無惨なので問題ない。
「父さん、母さん、禰豆子達、驚かせちゃったよな。俺達の知り合いの善逸だったよ」
「お兄ちゃん、善逸さんって……?」
まだ幼い将来の嫁、禰豆子に感激している所をカナヲに小突かれ、善逸は気を取り直した。音を聞いてみると、自分で怪しまれないように弁明しろ、それへのサポートは十分する、といったところらしい。怒りと優しさの音。
それなら簡単だ。さっきは浮かれてやらかしたが、善逸だってしっかり二百年生きている。世渡りの術も何もかも手に入れた。
カナヲがこの家にいる。自分は産まれた場所も何もかもかつての大正と同じだったから、どういう方法であれカナヲは“実家”にいた期間を経てここに来ているはずだ。それならば使う言い訳はひとつしかない。善逸は直ぐに口を開いた。
「あの、さっきは驚かせてごめんなさい! 俺は我妻善逸って言います! 信じて貰えないかもしれないけど、カナヲの実家の近くに住んでいて……炭治郎の話は聞いたことがあります。お、俺、人買いに買われそうになって、怖くてカナヲから聞いてた炭治郎の家に来たんです、ごめんなさいっ」
「……善逸はたまにこっそり私にご飯を分けてくれてたこともあったの。さっきはあんなのだったけど、本当は優しいんだよ」
「俺もカナヲから善逸のことは聞いたことがある。実際こうして会ってみて、悪い匂いはしない。父さん、母さん、善逸もこの家で歓迎してもいいか……?」
「お願いします!」
見事な連携だった。炭治郎とカナヲは家族を怖がらせたことにキレてはいるが、この後鬼舞辻無惨を煮て焼いて食いはしないが好き勝手するために、ここで善逸を追い返すことはしたくなかった。こんなのだが二百年を共にした戦友で親友で心友なのだ。下手に家族よりもお互いを理解しているし仲がいい。
一方、竈門夫妻は長男炭治郎、そして
禰豆子、竹雄らも同じである。まだ生まれてまもない花子は何も分からず親指をしゃぶっているが、変なたんぽぽの人だなぁと思いつつ、お兄ちゃんとお姉ちゃんがいいならいいや、の心構えになった。確かに怪しいけど、大好きな兄姉がそう言うのなら、きっといい人なんだろう。
「……ようこそ、善逸くん。子どもが多くて騒がしいけど、僕らの家で暮らすといいよ」
「ありがとうございますっ!」
九十度バッと頭を下げた。そこからの善逸は数少ない荷物を家の隅に置き、まず恐らく茂を身篭っている葵枝から洗濯物を奪い取り、これでもかときっちり揃えて干してみせた。続いて持ち前の足の速さで音速で炭十郎の元へ行くと、薪割りを山ほど終わらせた。炭治郎とカナヲに混じって禰豆子達の相手も忘れなかった。今生は生まれつき金髪であるその頭が子ども達の興味を引き、瞬く間に受け入れられた。
我妻善逸、その立ち振る舞いから忘れられることは多いが、炭治郎に並ぶ天然人たらしである。
無事一ヶ月後にはカナヲと同じように竈門姓を名乗らないか夫妻から打診されるようになる。彼は浮かれて受け入れようとしたが、カナヲから“炭治郎の能力が三割減する”というにわかには信じ難い、ただ炭治郎ならそうだろうなというそれを聞いて正気に戻った。それはまずい、炭治郎の長男パワーは馬鹿にならない。俺は我妻を貫こう、そう決意した。竈門禰豆子という名前も可愛いけど、我妻禰豆子って名前だって可愛いんだ。
こうして今日も竈門一家では、とうとう家族にはバレない加減で鍛錬をはじめたガキ三人が走り回り、拾い娘と息子に竈門姓を名乗らせたい夫妻が隙あらば詰め寄り、禰豆子は順調にデコピンの才能を育てているのであった。
【長男命、長男バフの使い手】竈門炭治郎
「待ってました大正時代。鬼舞辻無惨、お前をブッコロしてやる覚悟しろよ」
戦国時空では縁壱さんの弟子。日の呼吸を極めまくった。縁壱さんが処理しきれなかった無惨の残りカスを滅多刺しにした。
令和時空ではパン屋さん。料理は火加減!で料理がバカうまい。五感組はみな炭治郎飯の虜。
現在竈門家の長男として日の呼吸の鍛錬中。善逸とカナヲは竈門家の一員だけど、将来の嫁と将来の義弟であって俺の兄姉じゃないって二人が言ってたから、俺は長男のまま。長男じゃなくなったら全ての能力が三割減するお館様もびっくりな特殊体質。
【炭カナに怒られた】我妻善逸
「え、大正時代マジ? 折角なら嬲り殺したい鬼舞辻無惨。とにかく痛め尽くす所存」
戦国時代では熱血鳴柱の元で修行。メンタルを根本から叩き直された。俺は強い、俺は強い(洗脳)。弱音を吐こうものならイマジナリー師匠とイマジナリーじいちゃんにボコボコにされる。それだけはやだ。
令和時空では足の速さを活かして陸上選手。マジでひたすらに足が早い。でも不倫騒動(冤罪、ただし自業自得)で立場を崩した。
とりあえず嫁がいることは確認できたので安心して雷の呼吸の鍛錬をする。それと共に無惨ボコボコ計画考案中。最大限痛めつけて殺す。
【玄弥に捕まり頭突きかました】嘴平伊之助
「おう! 大正か! まず母ちゃん、逃げるぞ! あとマジで色々許さん鬼舞辻無惨」
戦国時代では呼吸が使える人型珍獣野生児の扱いをされてた。風の呼吸の兄ちゃんに色々教えてもらってサバイバル術を叩き込まれた。マジで野生児。
令和時空ではまさかの研究者に。あらゆる人から驚かれた。本人が一番多分驚いてる。興味がまさかの勉強に全振りされた結果。
嫌いなものランキングTOP3に同率1位でワカメとクソ親父とクソ教祖がランクインする。不死川母が実母と同じ目に遭わなくて安心。獣の呼吸鍛錬しつつ実弥をかわいがってる。
【炭治郎の嫁です】栗花落カナヲ
「大正時代かぁ、とりあえずこの家抜け出して炭治郎に匿ってもらおう。鬼舞辻無惨お前は山ほど苦しみやがれ」
戦国時代は花柱の姉御に扱かれた。できる嫁。姉さん達(胡蝶ズ)は“姉さん”だけど、先生(戦国花柱)は“姐さん”。カナヲの精神性の7割は姐さんの影響。
令和時空では医療の道に進んだ。適性はあまりなかったけど、知識は手に入れた。大正時代はこれで勝つる。
立派に竈門家の一員として馴染めたので花の呼吸の鍛錬をする。善逸と一緒に鬼舞辻無惨ボコボコ計画考案中。ひたすらに苦しんで死んでもらう所存。
【母ちゃん絶対守るマン】不死川玄弥
「大正時代きちゃぁ! まずは親父をぶん殴ろうそうしよう。そして鬼舞辻無惨お前は覚悟しろ、母ちゃんの恨み、俺の恨み!」
戦国時代は岩柱心療内科()でメンタルケアしてもらった。“俺に運命の相手がいないぴえん”。色々考えて、あいつらの後方保護者面をしていくことにした。反復動作を極めて、しれっと呼吸を作り上げたので鬼喰いはもうしていない。
令和時空では警察官がてら趣味で建築とかもしてた。司法にとても強い。一応嫁はいたけど、自分は独身がいいわと悟った。兄貴が泣くぞ。
とりあえず第一目標父ちゃんボコすを達成したので岩の呼吸と反復動作の鍛錬をする。そういや鬼殺隊が違法だったの思い出して、合法にしなければ(義務感)と色々画策中。
【超絶お人好し夫婦】竈門夫妻
第一子、炭治郎が世に聞く成長速度と違ってびっくりしてたらさらにそれが二人増えた。
どうやら二人とも炭治郎と同じ“天才児”みたいだけどそんなの関係ない。カナヲは娘、善逸は息子。竈門姓名乗ってほしいから度々言ってるけど、「炭治郎のためにも無理!」だそう。どういうことやねん誰か教えてクレメンス。
【デコピン検定一級所持者】竈門禰豆子
幼き日唐突に“兄の嫁”を名乗る怪しい女の子が家に来た。怪しかったけど今はしっかりお姉ちゃんと思ってる。
基本お兄ちゃんが信頼してるなら私も信じてるの精神だけど、発狂して家の前で叫んでたたんぽぽさんも連れてきたときは、さすがに心配になった。お兄ちゃん大丈夫? 神社でお祓いしてもらう?
【勘は強いが運はない】嘴平琴葉
鬼の教祖様から逃げた時にはぐれた息子のことを気にしながら藤の家紋の家をすることにする。
私達が別れる原因になったのは鬼、ならきっと鬼が関連してるところにいたら出会えるよね(???)の謎理論。蛙の子は蛙ならぬ蛙の親は蛙。教祖様は絶対許さない。
【モラハラ罪、パワハラ未遂】不死川恭梧
前妻との唯一の息子が玄弥。前妻は玄弥を産んだことにより弱り死んでしまい、片親となったが頑張って育てた。単身赴任はご都合主義で多分行ってない。
今の妻との間に実弥が生まれて、玄弥の時のトラウマが蘇ってモラハラ男になった。もう少し進めばパワハラもしてたけど、玄弥と拾い息子伊之助にボコされた。ゴメンナサイ。
【息子が三人】不死川志津
実の母親のように慕ってくれる玄弥と、母とは呼んでくれはしないが色々支えてくれる伊之助をちゃんと息子と思ってる。実弥の相手も沢山してくれて嬉しい。
夫のことは優しいの知ってるから、なんか事情があるんだなと思って我慢してた。息子達と取っ組み合い始めそうだったからさすがに口を挟んだ。
【兄ちゃんが二人いる】不死川実弥
物心ついた時から兄ちゃんが二人いる。血は半分しか繋がってないとか全く繋がってないとか言われたけど、それがどうした。二人は俺の大好きな兄ちゃんだ。
ちなみに稀血レベルが天元突破してる。
【バケモノがいた】童磨
伊之助にもう二度とあいたくない。理解できない存在。童磨、それが“怖い”って感情だよ。
残念なことに伊之助にまたボコされる未来が待っている。なんならカナヲにもボコされる。カワイソス笑。