五感組逆行譚〜我ら人生4周目、ワカメブッコロがし隊〜   作:幸翔雪

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最終選別前日後日譚〜竈門家の場合〜

 

「父さん! 俺達にもヒノカミ神楽、教えてほしい!」

 

 

 炭治郎、並びにカナヲと善逸が父・炭十郎にそう声をかけたのは、炭治郎が七歳になった夏のことだった。

 その頃にはカナヲと善逸もすっかり竈門家の一員として馴染んでおり、隙あらば竈門姓を名乗らないかと持ちかけてくる夫妻を断り続ける日々が続いていた。断れば断るだけその度に夫妻は落ち込んだ素振りをするのだから二人は申し訳なくて仕方がない。しかも様式美ではなく、毎度毎度本心から落ち込んでいるのだから尚更。

 

 それでも一向に竈門を名乗ろうとしないのは、一貫して炭治郎のためだった。

 

 炭治郎は自分が長男であることに多大なアイデンティティを感じている。その証拠に「長男だから〇〇できた」というのは常習犯で、実際どうやら長男であるというのは、炭治郎に相当のバフをかけているようだった。それに気がついたのは、カナヲが竈門家に来てしばらく、初めて竈門姓を名乗らないかと打診され、名乗り始めた時だ。

 炭治郎は確かにそのことを喜んでくれたのだが、その日から見るからに、炭治郎のパフォーマンスが落ちていたのである。そう、カナヲは炭治郎より一つ年上であった。実情、性別を加味すればカナヲは「長女」であり、炭治郎は「長男」のままなのだが、どうやらそこでも長男バフは消えてしまうらしく、カナヲの観測によると従来より三割ほどのデバフを炭治郎は喰らっていた。

 

 それに気がついた途端、カナヲは“竈門”を名乗ることをやめた。夫妻には「炭治郎のためなんです!」と言い張り、炭治郎には「竈門を名乗ることになる時は、やっぱり炭治郎と結婚した日がいいから」とそれっぽい理由で受け流したのだった。

 

 そして、それから更にしばらくして善逸が竈門家に転がり込み、馴染んで。とうとう善逸もその提案をされた。善逸は舞い上がって名乗ろうとしたが、カナヲに炭治郎のことを聞き、血涙を飲む気持ちでそれを丁重に断った、というわけだ。

 

 それでも、それからどれだけ経とうとも断り続けようともめげずに提案してくる夫妻に、本当に罪悪感を抱えつつ、今日も今日とて「「炭治郎のためにも無理!」」と断り続けていた。

 

 

「神楽を? いつか教えようと思ってたけど、もう気になるのか」

 

「うん。父さんは体が弱いでしょ? 私達が神楽を覚えて舞えるようになったら、お父さんの負担を少しでも減らせるかと思って」

 

「……そうか、それじゃあ三人とも、ヒノカミ神楽を練習してみよう」

 

 

 カナヲがつらつらと理由を並べたが、本音は「呼吸の鍛錬がそろそろしたい!」これに限る。ヒノカミ神楽は知っての通り、縁壱さんから託された日の呼吸。つまり神楽を習うということは、合法で呼吸の鍛錬ができるということなのだ。

 ちなみに姓のことは断り続けてはいるものの、カナヲも善逸も夫妻のことを「父さん」「母さん」と呼んでいるし、本当に父母のように思っている。そして妹弟達は「カナヲお姉ちゃん」「カナヲ姉ちゃん」「カナねぇ」やら「善逸お兄ちゃん」「善逸兄ちゃん」「善にぃ」と呼ばれていた。実際に戦国と令和では義理とはいえ家族として永く過ごしてきたので違和感はない……が、善逸だけは将来の嫁に娶りたい禰豆子にまで「お兄ちゃん」と呼ばれるのになんともいえない感情を抱えていた。

 

 そしてヒノカミ神楽───基、日の呼吸の鍛錬を始めて数ヶ月。

 

 

「父さん、俺とカナヲはヒノカミ神楽に向いてないみたいだから、自分達の舞を作ってみるよ!」

 

 

 やはり日の呼吸は合っていなかった善逸とカナヲは、そう銘打って、それぞれ雷の呼吸と花の呼吸の鍛錬を始めた。炭十郎はそれになんの違和感も抱くことなく、三人に苦しくなくなる呼吸法を教え続けた。炭十郎は炭治郎以上に呼吸の才能があり、透き通る世界にすでに入れている。それのことも息子達から聞かれたので教え、無事三人は透き通る世界も習得してしまった。戦国で冴え渡らせた勘を、三年のうちに同等に取り戻したのだ。

 

 

「父さん、母さん。俺とカナヲ、善逸は少しの間旅に出てくる! 薪は十分に割っておいたから、行ってきます!」

 

 

 炭治郎が十歳になった年、有無を言わせない勢いで三人は竈門家をあとにした。そう、最終選別を受けるためだ。刀はないが、藤襲山の鬼くらいなら七日程度手ぶらで逃げ切ることはできる。なぁに、参加資格に“刀を持っていること”なんてないんだから大丈夫大丈夫、そんなわけだ。

 

 

「まずは隊士達の強化計画から始めないと……」

 

 

 もう既に合格した気しかないカナヲはそう呟いた。この数年間、ひたすらに善逸とカナヲは無惨を最大限痛めつけるために作戦を練り続けてきた。チャートを組み立て続けていた。炭治郎もそのことを知っていたし、度々話にも参加していたが、なんせ炭治郎は純粋で誠実すぎた。善逸の生来の腹黒さと、カナヲの戦国の姐さん(花柱)に叩き込まれた腹黒さにどうもついていけない。そこから立てられた作戦に納得・同意はできれど、それに並び立てるような作戦を考えられなかったのだ。

 

 

「よし、着いたな!」

 

「まだ伊之助達は来てないね。玄弥はないと思うけど、伊之助忘れてたりしないよな……?」

 

「流石にそれはない……と思いたいけどね」

 

 

 藤襲山一番乗りで到着した三人。周りには他の受験者は愚か、案内役達も未だ着いていなかった。そもそもどうして今最終選別にいるのかというと、前世から言い続けてきた約束のためだ。

 

“もし最終選別のある年代に生まれ変わったら、全員が十歳になった年に藤襲山に集合”

 

 今は冬である。五人の中で一番誕生日のおそい玄弥も十になったところだ。きっと記憶があるのならば、他の二人もちゃんとここにくるだろう。きっと。

 

 こうして炭治郎達竈門家組は、最終選別にそれぞれの呼吸と透き通る世界を極めた上で参加することになったのだった。これには鬼上も知れば思わず藤襲山に強襲してきただろう。───したところで、この三人を斬れるかといえば、ノーコメントだが。

 

 

――――――――――

 

 

「それじゃあ伊之助、玄弥、またあとで!」

 

「おう。炭治郎達も家族の説得、頑張れよ」

 

 

 最終選別終了後、炭治郎と玄弥がそう言葉を交わして五感組は再び二手に分かれた。まさか伊之助が不死川家に引き取られていたというのはかなり衝撃的だったが、それは些細なこと。やっと鬼殺隊に入隊したのだ。ここからがいよいよ本番である。

 

 

「ただいま!!! 父さん、母さん禰豆子ちゃあああん!!!!」

 

 

 山を越え、山を越え、全速力で駆け抜けて着いた竈門家。雲取山には善逸の悲鳴にも近い帰宅報告が木霊した。

 

 

「え……善逸兄ちゃん、それに炭治郎兄ちゃんとカナヲ姉ちゃん!?」

 

 

 せっせと薪を家に運び入れようとしていた竹雄は己を一瞬疑った。これまでこうして家事を行なっていた兄達は、八日ほど前に姿を消してしまったのだ。“旅に出てくる”と言ったっきり全くの音信不通で、家を出てから三日経っても帰ってこなかった時には家族総出で人手を頼りまくって一帯を探したが見つからず。まさかあの兄ちゃん姉ちゃんのことだから、なにか人攫いに捕まったとかではないだろうけど、一体どこに行ってしまったのか、既に行方不明のような扱いをしかけているところだった。

 割ってくれていた薪はなんと今冬十分に越せる量が積まれており、それも相まって、本当に年単位で長い間の旅に出たのかもしれない、とも思ったが、なんにしろ綺麗な別れもできなくて一家全員、どこか悲しみに暮れていた。

 

 竹雄は聞き間違えるわけのない善逸兄ちゃんの声がした方をみる。間違いない。間違えるわけがない。そこに居たのは確かに自分達の兄姉、そして……

 

 

「なんで鴉連れてるの!?」

 

 

 くるくると三人の周りで円を描くように飛んでいる、三匹の鴉だった。

 

 

「ただいま、竹雄。薪を運んでくれてたのか?」

 

「た、炭治郎兄ちゃん……うん、禰豆子姉ちゃんには重たいのは運ばせられないから……」

 

「そうか、偉いぞ竹雄、ありがとう。手伝うから半分俺に分けてくれ」

 

 

 されるがままに竹雄は炭治郎に薪を半分奪い取られた。それでも起きた出来事への処理ができずにそれでも固まっていると、残りの薪は善逸に引き取られ、ガラ空きになった手はカナヲと結ばれた。

 

 竹雄にとって、善逸とカナヲは炭治郎と何ら変わりのない“兄と姉”である。両親との掛け合いから、どうやら同じ腹の子どもじゃないらしい、というのは察しているが、それでもどう考えてもこの三人は、等しく兄姉なのだ。二つ上の姉の禰豆子は、カナヲはまだしも、善逸が我が家にやってきた頃にはもう自我が確立されていたから、炭治郎と比べると少し感じ方は違うらしいけど、ほぼ自我なんてなかった竹雄は、幼い頃から家にいる家族だ。

 

 竹雄から見て、この三人は何とも不思議な関係だった。年齢だけ見れば、カナヲと善逸は炭治郎より年上のはずだが、そんなことは微塵も感じない、対等な関係(・・・・・)だとぼんやり感じていた。それぞれが別のところにいても、何となく誰が何をしている、というのは解っているようで、超能力みたいで憧れがあった。

 一度、カナヲに、「姉ちゃんって何で兄ちゃん達がやってること分かるの?」と聞いたことがある。その時には、「何でだろう……なんとなく、分かるんだよ」と返されたものだ。そこでそういえば兄ちゃん達は目や鼻、耳が格段にいいらしいというのを思い出して、それと関係があるのかと追って聞いてみた。それでも、「本当に何となくなの」という言葉と共に、カナヲは首を横に振っただけだった。竹雄は漠然と思った。

 

そうじゃないってことは、キズナってやつ!?かっけえええ!!!!、と。

 

───実際のところ、二百年分の関係の積み重ねなので間違ってないところがまた何とも言えない。

 

 ただでさえ兄達はたまに聞き馴染みのない言葉を使って問題なくやりとりしているらしいのだ。何だかそれも暗号みたいでかっこいい!と思ってたのに、まさかそんな意思疎通までできるとかカッコ良すぎるにも程がある、兄ちゃん達。

 

 

 

「お、お母さん、お父さん、ほんっとにお兄ちゃん達が帰ってきたよ!!」

 

 

 家に入ってみれば、玄関までやってきていた禰豆子が大声を上げた。途端、家の中からバタンバタンと音が鳴り始める。どうやら一家揃って、善逸の叫び声は幻聴だと判断していたらしい。三人はいたたまれない気持ちになった。

 

 

「とりあえず三人ともほら、家に入って! 竹雄も!」

 

 

 しゃもじ片手の母───癸枝に促されて全員が居間の卓に並んで座り込む。花子は目に大粒の涙を溜めていた。炭十郎は末の息子、茂を抱き抱えつつ、神妙な面持ちをしている。そういえばそろそろ茂も兄になるのか。癸枝の腹は順調に大きくなってきている。

 

 

「───炭治郎、カナヲ、善逸」

 

「「「はい」」」

 

 

 炭十郎は大きく息を吸って、吐いた。全く、昔から突拍子のない行動をすると思っていたが、今回の数日間の()は本当に生きた心地がしなかった。天才児なのも、とてもしっかりしているのもわかっている。それでも、心配してしまうのが親だ。寂しく思うのがきょうだい(・・・・・)だ。家族だ。

 

 

「無事でよかった」

 

 

 その気持ちを胸に、捻り出した言葉はそれだった。何かを達成したのだろうというのは、旅に出る前よりも活き活きとしているように感じたからわかった。きっと旅は充実していたのだろう。どこに行ったのかも、何が目的なのかも、何をしたのかも、何も知らないけれど、それでも。

 

 炭治郎達は、そんな家族の様子に、無断で家を出て行ってしまったこと、そしてこれから───当たり前の思考だったとはいえ、文字通り命を賭けて鬼と渡り合っていくつもりでいることを、ひどく申し訳なく感じた。もちろん易々と死に臥せるつもりはない。あくまで客観的な実力として、ある程度生き抜くことができるのも、感じている。それでも、万が一というのは存在するし、こんなにも案じてくれている家族に、心配をかけ続けるのは間違い無いだろう。

 

 

「父さん、母さん、禰豆子───みんな。実は俺達は、鬼を狩る組織、鬼殺隊への入隊選別を受けてきたんだ」

 

 

 それでも、自分達の目的を果たすために、この家族達を含め、たくさん世話になった恩人達を今度こそは救うために、無惨を闇に葬り去るために。このことをしっかり報告して、認めてもらわないといけないというのを、しっかりと解っていた。

 

 

 




花子「お兄ちゃん達死んじゃうの!? おにさんとたたかって死んじゃうの!?」
竹雄「おい花子! 物騒なこと言うなよ、兄ちゃん達は絶対生きて帰ってくるって言ってただろ!」
茂「にぃに、ねぇね、うわぁぁぁ!!!」
善逸「茂く〜〜ん! にぃにだよ、善にぃだよ、絶対茂が大きくなるの見届けるからねぇぇ!」
茂「うわああああん!」
禰豆子「善逸お兄ちゃんうるさい! 茂がもっと泣いちゃうでしょう!」

癸枝「なにがともあれ、無事でよかったわ」
カナヲ「心配かけてごめんなさい……」
炭十郎「その道を進むと決めたのなら、しっかりと責務を果たすんだよ」
炭治郎「ああ、もちろんだ、父さん!」
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