五感組逆行譚〜我ら人生4周目、ワカメブッコロがし隊〜   作:幸翔雪

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最終選別前日後日譚〜不死川家の場合〜

 

 不死川実弥には二人(・・)の兄がいる。

 

 

「にいちゃん……どうやって岩おしてんだァ???」

 

 

 それはなんとも奇想天外な兄達である。自分達よりも遥かに大きな岩を押している兄ちゃん(玄弥)を見つめて、思わず声を漏らした。

 

 物心ついてから背中を追い続けていた兄二人はどこかおかしい。あまりにも博識で大きくて強いものだから、父親に、一回「にいちゃん達なにもんなんだ?」と聞いたことがある。その時の父親はなんとも形容し難い表情をしていた。そしてまだ四つになったかならないかくらいの実弥の頭を乱雑にくしゃくしゃやって、「なぁ実弥、それは俺が知りてェわァ……」とどこか遠い目をして言うのだった。その頃はまだ八つくらいだった兄達は、たった二人だけで重い荷車を汗ひとつ流さずに麓の村まで運んで、しかも帰りはどういうわけか日替わりでその荷車を押すのではなく、担いで帰ってきていた。

 

 

「おう、実弥! 実弥もやろーぜ!」

 

「あにき、おれもできるのかァ、それ……」

 

「おい伊之助、反復動作はまだ実弥には早いって」

 

 

 そう兄貴(伊之助)をやんわりと止めてくれた兄ちゃんに実弥はどこかほっとして、次の瞬間ハッと思い至った。兄ちゃんはこう言った。まだ(・・)実弥には早い、と。え、てことは俺、兄ちゃん達くらいになったら岩押せるようになってるってことなのか?うそだろ、父ちゃんよりもずっと上背のあって厚みもあるこのでっけえ岩を???

 そこは伊之助の方に似たのか好奇心旺盛で怖いもの知らずな実弥だったが、この時だけは思った。怖い。十歳になりたくねェ……と。

 四つ上の兄達は実弥から見てとんでもない怪物だった。

 

 

「伊之助、玄弥、実弥、ご飯ができたよ」

 

 

 母親が家の外にいた自分達を呼びにきた。そう、母親といえば、兄達と話していたときに聞いたことがある。どうやら自分は兄二人と母親が違うらしい。玄弥の方とは実弥は血が半分しか繋がっておらず、伊之助に至っては全く血が繋がっていないらしい。実弥にはそれが理解できなかった。だって、物心ついた時から俺には兄が二人いた。確かに伊之助は、父親のことは「親父!」とは呼べど、母親のことは「志津!」と呼び捨てではあるが。だからどうした、二人はしっかり俺の兄なんだ───これが実弥の出した結論だった。

 兄貴は本当の母親のことをよく覚えているらしくて、いつか絶対に再会すると意気込んでいるのも知っている。兄貴の母ちゃんなら、つまりそれは俺のもう一人の母ちゃん、そんな暴論まで作っていた。この実弥という男は。

 

 

「実弥、実弥」

 

 

 とある晩、実弥は玄弥に肩を揺らされ、薄ら目を覚ました。枕元には伊之助もいた。よく冷えた冬の夜のことだった。

 

 

「にいちゃ……?」

 

「実弥、俺と伊之助は少し家を出ていくから、みんなのことを頼んだ」

 

「えァ……?」

 

「藤のお香は炊き忘れんなよな、じゃあ行ってくらぁ!」

 

「ちょ、あにき……!?」

 

 

 その言葉の意味を理解する前に、手を振って兄達は家を出て行った……と思う。眠気が勝ってしまった実弥は、そのまま夢の中へもう一度落ちて行ったから、あまりちゃんと覚えていない。

 

 

「実弥! 起きろ実弥ィ!」

 

 

 父親の大声で実弥は今度はしゃんと目を覚ました。すっかり日は登り切って家は明るい。父親───恭梧を見てみればやけに焦った顔をしている。のそのそと体を起こしてみれば、恭梧の隣で志津も焦りを顕にして落ち着きなく座っていた。志津のお腹はまたしてもずいぶん大きくなっている。実弥は兄ちゃんと兄貴の弟でもあり、そして妹と弟の兄にもなっていた。腹の中にいるのは実弥にとって四人目の下の子だ。

 

 

「とうちゃん?」

 

「おい実弥、玄弥と伊之助知らねェか? アイツら朝起きたら家にいなかったんだよォ。お前仲良いだろ、何か知らねぇのか」

 

「二人はいっつもご飯は一緒に食べてくれるでしょう? それなのに今日はいなくて……!」

 

 

 その言葉に実弥は夜中の出来事を思い出した。すっかり夢かと思っていたが夢じゃなかったらしい、あの兄達の発言は。「しらねェ……」と呟いてから家を見渡してみた。すると、居間の机の上に何やら手紙が置いてあるのを見つけた。この家で文字が書けるのは兄二人だけだ。父と母は辛うじて読めはするが、書くことはできない。これにはまた恭梧は、「一体アイツらどこで文字なんて覚えてきたんだ……」と頭を抱えたものだ。

 

 布団から出てその手紙を取って、父親に渡す。恭梧は直ぐにそれが二人からのものだと気がついたらしく、急いで乱雑に紙を破いて中身を取り出した。案の定中には二つの紙が入っている。

 

 

親父、母ちゃん、実弥へ

俺と伊之助はしばらく家を離れます。

十日以内には戻ってきます、絶対。

実弥、母ちゃんと貞子達のことを頼んだぞ

帰ってきたら土産話いっぱい話すからな

                   玄弥

 

親父、志津、実弥!

ちょっくら鬼殺隊入るための試験受けてくる!

いっぱい飯食っとけよ!

                   伊之助

 

 

 恭梧は泡を吹いてぶっ倒れた。なんなだ、あのガキども。鬼殺隊ってなんだよォ。

 

 

――――――――――

 

 

「そちらの方々、刀を持って居られないようですね。どうぞ、こちらをお使いください」

 

 

 無事藤襲山で合流した五感組。色々今生での出来事を話して盛り上がっているところに、白髪の子どもが声をかけた。彼女の正体は鬼殺隊当主、産屋敷の娘、いおりである。今回の最終選別の案内役を兄の耀哉と共に担っていた。

 

 

「え……? 日輪刀の支給なんてあったっけ?」

 

「あ〜、俺が手紙送っといたんだよ」

 

 

 明らかに困惑している善逸をはじめとした竈門家組に、玄弥がそう説明した。あれは玄弥達が五歳の頃だっただろうか。「おい玄弥! 鎹鴉いたぞ!」と、伊之助が空を飛んでいた鴉を脅し半分で捕まえてきたのである。玄弥はそれに動じることなく、二つの要件を認めた文章を鴉にこれまた無理やり運ばせた。

 

一つ、今あんたが自殺したらあんたの息子は幼すぎるその年齢で責任を負うことになるがいいのか?(要約)

二つ、五年後に刀を持たない五人組が選別に参加する。無理を言ってるのは承知の上で、刀六本(・・)その最終選別に持ってきといてくれ(要約)

 

 耀哉の父は耀哉が四歳の頃に責任に耐えきれず自殺したらしいというのを、炭治郎が輝利哉に聞いていたことを思い出して、脅しのような形にはなるが送りつけたのだ。二つ目はぶっちゃけ期待してなかったが、耀哉がここにいるのを見るに、本当に自殺をキャンセルしたらしい今のお館様は本当にそれに従って刀を用意してくれていたようだった。

 

 

「そういうことなら、ありがとうございます。大切に使わせていただきます!」

 

 

 炭治郎がそう言っていの一番に日輪刀を受け取った。その刀はみるみるうちに漆黒に染まる。続いて伊之助が二本受け取った。そしてカナヲ、善逸、玄弥も刀を借りると、それぞれの呼吸に適応した色にしっかりと刀は染め上がってくれた。

 玄弥は、戦国の時代に(あらし)の呼吸を作り上げた。かつての兄、今生では弟の実弥が使っていた風の呼吸と、大正の師匠、悲鳴嶼、それから戦国の先生が使っていた岩の呼吸を複合させたものだ。呼吸の派生ではなく複合。恐らく数ある呼吸の中で、複合というのはこの呼吸だけになるだろう。大正では呼吸を使えずに鬼喰いの体質と銃を使って戦っていたが、戦国の生ではそれらは使わずにしっかりと刀を使って戦うようになった。

 

 それからしばらくして、自分達以外にも今回の選別参加者達が着々とこの藤襲山に集まってくる。さあ、無惨ブッコロ計画始めの第一歩。まずはこの未来の同期達を全員生存させることから始めようか。

 

 

――――――――――

 

 

「おい玄弥ァ、伊之助ェ……」

 

 

 ドスしか籠っていないその声に、玄弥と伊之助は思わず姿勢を正し直した。後に二人はこう語ったという。「鬼と戦うのとは別の意味で背筋が凍った」と、「ある意味鬼舞辻無惨よりも全然怖かった」と。

 

 

「まずなんだ、なんだァ、よく無事で帰ってきたな、テメェら」

 

「とうちゃんが町の人とかにきいてたんだ。きさつたいって、鬼と戦うんだろ!」

 

「その選別っつうとそこで死んじまうガキも多いらしいなァ」

 

 

 こくり、と無言で頷く。今年の選別は死者は出なかったけど、例年は大半が死んでしまうものだ。実際大正の生では玄弥達五人以外は跡形もなくみんな死んでしまった。

 

 

「それに受かったこと、無傷で帰ってきたことは褒めてやる。だけどなァ……お前らはここで暮らせばいいんだよォ。無駄に命を落としに行くんじゃねェ」

 

「……別に無駄に命を落としに行くつもりはない。俺も伊之助も生きるつもりしかないから」

 

「それでもだわァ。大体テメェらどこで鬼殺隊のこと知ったんだよ」

 

「んぁ……俺が母親と逸れる原因になったのが鬼だ! だから、本当の母ちゃんともう一回会うためにも、鬼殺隊として活動してぇんだよ」

 

 

 はっと志津が息を呑んだのが聞こえる。伊之助が母親と逸れた原因を話したことは一度もなかった。本当のところ、確かにそれも理由の一つであれそれ以上にワカメを煮ることが目的だが。理由付けにはちょうどいい。

 恭梧は少し考え込むようにして、キッと二人を睨んだ。確かにこの二人のガキは昔から奇妙だった。どこからか知識を仕入れてくるわ、なんか山中を駆け巡ってるわ、ちゃんと重量のある木の棒を振るっているわなんやらかんやら。今考えると、それも鬼殺のための準備だったのだろう。意思もずいぶん固そうだし、口を出したところで変わらないのかもしれない。だとしても……それでも。

 

 

「……オメエらには実弥や貞子達……弟や妹がいる。今度新しいガキも生まれてくる。ソレと一緒に生きるって気はないのか」

 

 

 食い下がるのを止めることはできなかった。これでも大切な家族なんだ。どこに命の危険がある場所に息子を喜んで送り出すバカがいる。頼むから思いとどまってほしい。志津は隣でもう泣いている。二人が帰ってきたことに対する安堵も募っているのだろう。実弥だって不安そうな表情だ。今他のガキは他の部屋にいるが、きっと二人のことを心配する。これを見て何も思わないガキどもじゃないことはよく知っている。

 

 

「……ごめん、親父」

 

 

 だというのに玄弥は少しも揺れる様子がなく、そう頭を下げてきた。伊之助も隣で同じようにしている。ほんっとうに、誰に似たのか頑固すぎやしないか。

 

 

「ハァったくよォ……好きにしろ」

 

 

 結局、恭梧はそう引き下がることになるのだった。

 

 

「ああそうだ、好きにしたらいい。……けどなァ! 絶対に志津とガキどもを悲しませるんじゃねェぞ、分かったな!」

 

「「ああ!」」

 

 

 実弥には、二人の兄がいる。その兄達はなんとも奇想天外で───そして、誰よりも優しい兄達だった。

 

 

 




実弥「にいちゃん、あにき、どうやって鬼とたたかうんだァ?」
玄弥「日輪刀って刀を使って鬼の首を斬るんだよ」
実弥「刀……! カッケェ〜!」
伊之助「だろ! 俺はしかも二刀流だぞ! 刀が届いたら実弥にもみせてやる!」
恭梧「オイ伊之助ェ、それで実弥が怪我したらどうする!」
実弥「だいじょうぶ! 俺気をつけるから!」
恭梧「チッ……」
志津「恭梧さん……子ども達は知らないところで大きくなるものですよ」
恭梧「だとしてもアイツらはでかくなりすぎだろうがァ」
志津「それは……そうですね」
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