悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました 作:ひぶうさぎ
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「オマ、オマエダケハ、オマエダケハァ!」
「おいおいおい……」
初めて見たよ、なったばかりとはいえ会話ができる怪人は。
武器を捨ててくれたのは嬉しい……が。
手を叩きつけるだけでも地面のコンクリートが割れるっていう威力を出してくる、意思を持つ相手っていうのは面倒くさい。
怪人は、どれだけ強くても意思はないってのが普通なのに。
その怪人が、ある程度の知能を持って力を使うと一気に危険度が増すに決まってんだろ。
赤子が力を持って暴れるより成人した人間が力を持って暴れる方が危険っていうのと同じだ。
……それだけなら、まだいい。
コイツは元になった人間がそこまで強くないし、成ったばかりを叩けばどうにでもなる。
何が一番やべえって、ここはまだ路地裏とはいえ街中なんだよ。
「ココハ、セマイ。モットヒロイトコロニ……」
「ッ! させるか!」
コイツが路地裏から出たら冗談抜きで死人が出かねない。
だから、路地裏から出る方を氷で塞ぐ。
それは、同時に俺の退路も塞ぐことになるが、それはどうでも良い。
今日この時ほど氷魔法を習得していて良かったと思うことはねえかもな。
炎じゃ完全には止められなかったわ。
これは今度玲衣に会った時に感謝しないとな……っと。
「せマイ、いらツク」
「理性を失ってくれて良いんだからな!」
「コワす、タテモノごト」
とにかく、今は相手の動きを封じろ。
路地裏から、コイツを出させてはいけない。
その後でいつも通りでかいのぶち込んでおけばいいんだ。
体を凍らせて身動きが取れないようにする。
壊されても、また直してカバーだ。
そんな中でも、すぐに氷は破壊され、俺に巨大化した手が振り下ろされる。
しかし、それは俺がいるところとは別のところに当たった。
こりゃ、体のコントロールが出来てねぇな。
今のうちに終わらせに行こう。
「ほら、これでもやるよ」
「アヅい……」
「そんな熱いなら冷やしてやっても良いぞ」
「!?」
これは別に寒暖差で相手を苦しめようっていう訳じゃない。
怪人が風邪を引くわけないだろ。
ただ怯ませてその隙に凍らせるってわけだ。
で、コイツの全身が凍ったところで……。
「悪いな!」
「〜〜!?」
蹴りで砕かせてもらおう。
ハンマーやらを持ってたらそれで壊せたんだけどな、あいにく持ってねえから俺の体を使う。
ちょっと行儀が悪くても勝てばいいんだよ。
負けることに比べたら戦いのマナーやらどうちゃらこうちゃらはどうでも良いんだ。
しかも、魔力を覆えば自分の足の強度も上がってそこまで痛くないし問題はどこにもない。
怪人でも痛みは感じるらしいし、コイツからしたら辛えだろうけど、元は裏切り者だ。
苦痛が無くなるまで精一杯頑張ってくれ。
俺としては、人だろうが怪人だろうが悲鳴を聞くのは好きじゃないからさっさと倒せると嬉しいけどな。
◆◆◆
「終わりだ」
「ア、ァ……」
怪人の声が完全に途切れた。
これで、お終いだ。
後は炎を出して残った氷を水にすれば、殆ど痕跡も残らない。
終わりよければ全てよしと言うし、別にこんなもんでいいだろう。
ただ、折角交戦したのに何もないってのは寂しいから後でボス達に見せる用として欠片を一つ拾って……。
お、これは心臓付近なんじゃねえか?
良い感じに残ってやがる。
よし、こんな感じでいいだろ。
後は咲からの連絡だけ見て、元の場所に戻ればいい。
そろそろ、騒ぎを聞きつけるか怪人が出たことがわかる謎センサーやらで魔法少女が駆けつけてくるはずだ。
だから顔とかを見られるとまあ面倒くさいことになるからここからはさっさと撤収する。
一応、入った方とは逆から出とくか。
あっちは人通りが多いから、もしかしたら野次馬が集まってたりするかもしれねぇし。
……それで咲が何処にいるのか分からねえ。
咲が駆け出して行った場所にいたら戻ってくるんじゃないかと思ってたんだが。
いねえんだよなぁ。
連絡も入ってないから何処にいるのかさっぱりだ。
まだ律儀にマッピングしてんのか?
咲のことだから俺が最初想定してた範囲外のとこまでやってくれてそうなんだよな……。
とか思ってたらこっちに向かってきてたわ。
なんだなんだ、そんなに急いで。
「裕樹さん、大変です!」
「おう」
「さっきあっちの方から怪人が出て……」
そして、咲が指した方向は……。
……普通に、俺がさっきまで戦っていた路地裏だった。
そこの怪人、俺がもう倒してるし、なんなら魔法少女も多分もう駆けつけてんだよな。
「でもすぐに反応が消えたみたいなんです」
「誰かが倒したんだろ、知らねえけど」
「……裕樹さん、目が泳いでません?」
「気のせいだろ、俺は俺でちゃんと働いてたぞ」
相変わらず俺は嘘がつくのが下手だな……。
気づいたら目が泳ぐんだよ。
我慢しようとしたらしたで真顔になりすぎで逆に怪しまれるし。
自然に取り繕えるやつは詐欺師の才能あるよ。
後輩とか絶対容姿と猫被りで人を騙しまくれるからな。
まったく悪い奴だ。
「あの……それで結局……」
「ちょっとだけ関わった。ほんのちょっとだけな」
「とても裕樹さんっぽい炎と、スノウさんに近いけどスノウさんにしては一つ一つが大きい氷もあった気がするんですけど」
どんだけ感知が得意なんだ。
それなりに離れてただろ……。
うーん、まさか騙して連れて来たっていうわけにもいかねえしな。
それに人工的に怪人にする何かとか厄ネタ中の厄ネタだし。
それっぽく誤魔化したらそれで勝手に脳内補完してくれねえかな。
核心さえ突かれなければ俺でも逃げ切れる……はず。
「ちょっとな、後で休憩する用としていい感じの隠れ家みたいな店を探してたんだよ」
「そしたら、怪人に出会ったみたいな感じですか?」
「そうそう」
我ながら、苦しすぎる言い訳だとは思う。
実際問題、咲も俺の言ってることは全く信じていないようだし。
けれど、こんな苦しい言い訳に対して咲は。
「わかりました、本当に
何もなかった、ということに
マジでごめんな、うちの組織に元々いた奴のことだから下手に言っていい案件じゃないっぽいんだ。
「やっt、いや何でもない」
「裕樹さん……?」
「忘れてくれ」
「え、ええ……」
そのついでに、余計なことを口走ってしまったのは、忘れることにする。
本当に、バレないように嘘につくっていうのはどうしたら出来るようになるんだろうな。
それにしても俺、いくらなんでもあんなに怪しい態度を取るのはないだろ……。
一度は流してくれた咲も、流石に反応に困ったのか言葉を無くしていたよ……。
◆◆◆
というわけで、いつも通り報告だ。
当然咲には帰ってもらった。
最近、何かボスの部屋に来ることが多いよな。
咲を連れていった後にも何回かボスに何かと報告しにきてたし。
まあ、それは別にいいとして。
溶けないようにポケットを冷やしてたせいで寒い。
氷魔法はやっぱり俺と相性が悪いんじゃねえかな。
「これが倒した怪人の一部です」
「もしかして、凍らせて砕いた?」
「はい」
「また頭が痛いことを……」
そのまま怪人のカケラを持っていったのだが、何故か頭を抱えられた。
どうしてだろう、後輩のように問題行動を起こした訳ではないのに。
「何かやらかしましたっけ」
「いや、よくやったとは言いたい。言いたいんだけど、ちょっと厄ネタすぎるよ」
「あっそういう……」
「怪人が活性化してるって情報も正しいみたいだし……これは困った」
言われてみれば最近の俺は、何かと色々情報を持ち込んでいる気もする。
魔法少女、怪人の活性化、そしてこれ。
……ちょっとこれは洒落にならない。
それに、なんだかんだ言って頼もしいボスがここまで頭を抱えているのは初めてだ。
でも、見ちまったものと気づいてしまったことは報告しないといけないからな……。
だから、俺にはボスに心の中で謝りながら頑張ってほしいと思うことしか出来ない。
いや、本当に申し訳ないとは思っている。
ただ、本当に俺にできることが全く無いというだけで。
「うーん、でもこっちでなんとか頑張るから、裕樹はとりあえず帰っていいよ」
「ありがとうございます。じゃあ失礼しま……」
「あ、そうだ、その前に一つだけ。裕樹って氷魔法は使える?」
……マジか。
どこからそんな情報を仕入れてきたんだ……って、たった今俺が凍らした怪人を渡したばかりだわ。
やべ、今までいい感じに隠してたのにこれのせいで台無しになった。
でも流石にこれは俺が迂闊だったな……ボスたちに氷魔法が使えることはまだ言ってねえんだった。
まあ、素直に白状した方が身のためだな。
隠していたって思われると冗談抜きで色々疑われるし。
「炎……の次には」
「……そう、じゃあまた今度」
「あ、はい」
これは玲衣との関係を疑われたって感じか。
この前会ったとはいえとっくに切れかかっている関係ではあるが……。
ボスと玲衣の関係は、色々複雑だからな。
……強敵を倒したばっかりだっていうのに、少し足が重くなった気がする。
今章ではこれ以上玲衣とボスの関係に踏み込むことはないと思います