悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました 作:ひぶうさぎ
ここは、裕樹が帰った後のボスの部屋。
黒と水色が丁度良く調和した髪を持つ女性が、椅子に座っている。
勿論、彼女こそが裕樹の組織のボスだ。
その部屋主は先程まで裕樹がいた方へ目を向けて、ただ黙っているばかり。
時折、何かを考える様子を見せる。
だが、またすぐに何もなかったかのように天井を見つめていて、考え事に集中出来ているとは言い難い。
(氷魔法、それもあの子そっくりの魔法を裕樹くんが使えるのか……)
そんな、『ボス』と呼ばれる彼女が考えていたのは自身も使用する氷魔法。
裕樹の発言に何か思うことがあったのか、何かを考えてはすぐにそれを否定するということを繰り返している。
(あんなにそっくりな魔法使うんだから、絶対知り合いとかだよね……。でも、裕樹くんにわざわざ聞くのも多分失礼だしなぁ……)
言動がボスにしてはあまりにも頼りないが、これは仕方がない。
彼女は悪の組織のボスとはいえ、この組織を立ち上げるまではただの少し魔法を使えるだけの一般人。
ここで無理やり聞き出すという選択肢が出でこない辺り、いかにこの地位が彼女にとって向いていないのかよくわかる。
他の組織であれば、拷問をしてでも自分の知りたいこと聞き出そうとするものなのに。
それでもしっかりと裏の人間達をまとめているため、カリスマは間違いなくあるのだろう。
本人の性格自体は、ボスには向かない善の性質を持っていることは何とも皮肉ではあるが。
「まぁ、細かいことは後でいいか。あの子のことを考えると気が重くなるし」
そして、彼女は一つのことを五分以上考えようとしない。
本人曰く、そんなに長いこと考えると頭が痛くなる、だそう。
そのため、実は裕樹が持ってきた怪人のことも既に忘れかけている。
とはいえ、直ぐにここまで気持ちを切り替えられると言う特性は、間違いなくこれまで何度も活きてきたのだ。
裕樹が処理したばかりの怪人の元になった人間の顔すらも、もう忘れているのだろう。
何なら、興味のないことは一瞬で忘れる彼女なら、そもそも顔を覚えていなかったなんてこともあり得るくらいなのだ。
「あ! そういえば裕樹くんが怪人の欠片持ってきてくれてんだっ……」
「ボス、大変です!」
「なんだ、どうした?」
「……あの、綾乃さんが……また少し……」
「分かった。わざわざありがとう」
(重要そうな情報を聞いた気がする……けど、黙っておくか……)
そして、今日も彼女は組織の立派な
……一部の部下から既に剥がれかけているその仮面と一緒に生暖かい目で見守られながら。
◆◆◆
俺は今、後輩と飯を食っている。
何故? と思うかもしれないが特に大きな理由はない。
本部から出で直ぐに待ち伏せされていたようで、完全に油断していた俺に声をかけてきやがった。
その流れのまま今に至るってわけだ。
OKしたのは俺なんだけどな?
金はあっちが払うって言われたら流石に断る訳にも行かなかったよ。
これが、折半とかだったら十秒くらい考えて断ってたかもしれない。
でもあっちが持つって言われちゃ……って何でお前はそんなに食ってるんだよ。
「あれ、先輩全然食べないんすね」
「後輩に飯を奢らせるのは外聞が悪いからあんまり頼んでねえんだよ」
「いやいや、もっと食べちゃって良いですよ? 俺もこんくらい食べてますし」
そう言う後輩が示すテーブルの上には、山盛りの料理。
ピザ、パスタ、パン、スープ、その他諸々と、見てるだけで腹が減っていく。、
普通じゃ二人で食べるのもキツそうな量だが、後輩は一人で食べようとしている。
……やっぱ人って見かけによらないもんだよな。
向かいのテーブルの高校生くらいの連中がめちゃくちゃ驚いてるじゃねえか。
こっちをあからさまに指差して話しているのがよく分かる。
「先輩、ああいうのってなんかファンサした方がいいんすか?」
「お前はどこぞのアイドルなんだ」
「えー、でもファンサしたらあの人たち喜びますよ」
「お前は一般人だろ。顔のレベルの高さは置いておいて、な?」
俺だったらああやって指を指されると軽くキレる自信があるんだが。
やっぱりこいつ、持ってる余裕とオーラがちげえ。
本当にこいつは生まれから全てが謎すぎる。
俺からすると、この後輩はフラっと組織に来てそのままふらふらと地位を上げているドがつく変人だ。
本人には自覚がないだろうが、基本誰だって少しは地位を上げたいと思っている中でそういう気持ちが感じられない存在はマジで異質なんだよ。
それなのに地位はちゃっかり少しづつ上げてるってるのが本当に怖い。
出自はボスとかが調べてるだろうから大丈夫だとは思うんだがなあ。
顔面偏差値といい振る舞いといい、良い意味でこんなとこにいる奴じゃないだろ。
性格は別だけどな。
そんなことを考えている俺の脳裏に、ふと浮かんできたのはつい先日後輩が見せた敵に対する表情。
……ダメだ、バトルジャンキーなコイツが悪魔みたいに敵をいじめて笑っているとこしか想像できなくなった。
やっぱコイツはこの裏社会に相応しい存在だわ、うん。
しばらくそうしていると、料理をこれまた美味そうに食っていた後輩が顔を上げる。
随分と食うことに集中しているみたいだ。
目の前の皿はもういくつか空になっているし、短時間でどれだけ食うんだコイツは。
奢ると言っておきながら結局自分が沢山食いたいだけじゃねぇの。
……ん、どうしたんだ?
そんな目を見開いて。
「先輩、まさか失礼なこと考えていたりなんて……してませんよね?」
「すまん、思いっきりしてる」
「え、俺で変な想像を……!?」
「馬鹿野郎」
なんだ、ただの頭真っピンクないつも通りの後輩だった。
こんな場でも通常運転だなんてむしろ安心感すらあるよ。
自分の顔の良さに気づいているからって、こいつはいっつもこうだ。
最近は、後輩に玲衣と似たような波動を感じてきている。
王子様系のあいつの狙った言動の方がよっぽどタチが悪いと俺は思っているが。
でもなぁ、玲衣と比べたら後輩のは全然魅力的ってわけでもねえんだよな。
いや、コイツも十分魅力的ではあるし、普通のガキとかが接したら余裕で色々と歪むはずだ。
ただ、玲衣はそれ以上の破壊力があっているだけで。
やっぱアイツおかしいよ。
「相変わらず先輩はつれないっすね。もう少し、なんか、こう……ないんですか?」
俺の反応が面白くなかったのか、後輩がぼかしつつ聞いてくる。
なんでそういうところは律儀にぼかすんだ。
もっとド直球に来るんじゃないのか。
まあ、これは別に答えたくないことでもないからさっさと答えちまおう。
「あいにく、元々お前はタイプじゃない」
「……マジっすか」
「すまんな、顔が良いとは思ってるけどそれ以上は特に思えねえんだ」
……正直に答えたら地味にショックを受けたような顔をされたんだが、そういうの、気にするタイプだったのかよ。
知らなかったわ、こういう話とか全くしてこなかったし。
何ならこの組織に入った理由とかも一度も聞いたことがないくらい何だよな。
そもそも、まだ一年二年の付き合いしかないんだから、分からないことくらいまだまだあって当然ではあるのか。
どうせ、あっちも俺のことはよく分かってないだろうしお互い様だろうけど。
後輩が組織で幹部をやっている姉との血縁関係とかを知ってたら冗談抜きでドン引きする自信がある。
「会計してきました」
「結局俺の四倍くらい自分で食ったのかよ……」
「思ってたより腹が減ってたんすよ」
「どう考えてもその理由で済む量じゃねえだろ、何品頼んだかレシートでも見て数えとけ」
「うげぇ、意外と頼んでますね」
結局、あの後は何故か互いのタイプについて少し語り合うことになった。
今でも何でそうなったのか理解できていないが、とにかくそうなってしまったのだ。
初めは流石に俺も多少は遠慮していた。
だが、特に何かがあったと言うわけではないが、場の雰囲気に呑まれて次第に口を滑り出してしまう。
その調子のまま進んでいって、今に至る。
後輩に隠していることは言ってないとは思うが、自分でもヤケクソになっている節がある。
それを言ったら、後輩もいつもにも増して口が滑りまくっているのだが。
その場の雰囲気に流されるだけで、こんなにやらかしそうになるもんなのか。
「……んじゃ、帰ります?」
「……帰るか」
そのまま、俺たちは店を出る。
結局俺もそれなりに頼んだな。
明日任務がないからって調子に乗りすぎたかもしれない。
まあ、仕方ないから諦めるとしよう。
そんな時だった。
「そういや、先輩って組織の中に家族とかいたりするんですか?」
「そんな急にどうしたんだ?」
「いや、幹部の人と先輩が何か似てるなってちょっと気になっただけっす」
さっきまでグルグルだった後輩の目が俺の方をしっかり見ている。
だから、なんとなく嫌な予感がした。
別にたまたま気になってだけだとは思う。
が、それでもこれは真剣に聞いてきているということだけはなんとなく伝わってきている。
「ちなみに、それって誰だ?」
「その人はですね……」
そうして、後輩が言った件の人物は。
「組織No.3のミキさんなんですよ」
俺と同じく組織に入っている、姉の名前だった。
ハメ匿作品が日間一位でしたね
続きたい……!