悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました 作:ひぶうさぎ
「裕樹さん、弁解を聞かせてもらってもいいですか?」
「いや弁解も何も。そいつがクソ遠回しな表現でお前を惑わしてるだけだぞ」
「……え?」
「勝手に家に入ってきたのもあっちだからな」
「……ええ!?」
とりあえず、咲の勘違いを解くところから始めることにした。
俺が言っていることに嘘はないということは、魔法少女が持っているという心の嘘発見器で分かっただろう。
だが、咲の思う玲衣像がそんなに悪戯をするような人物ではないのか、なぜか戸惑っている。
そしてこの状況を作った原因である玲衣はしてやったりという表情。
こればっかりはこの茶番に付き合わされる咲が可哀想だ。
俺はこいつがこんな奴って分かってるからいいけれど、咲は知らないはず。
ちなみに正体を知ってからしばらくの間こいつがスノウクリスタルだなんて俺は信じたくなかったよ。
テレビではもう少し爽やかだしな。
本性は意外とこんなもんだけど。
「え、スノウさんがこの家に自分の意志で来たんですか……?」
「そう言っただろ」
「す、スノウさん……?」
「ごめんごめん。ちょっとからかいたくなっちゃってね」
そして申し訳なさそうな顔をする顔をする玲衣。
しかし咲は現実を受け入れられないのか、固まってしまった。
これが俗に言う解釈違いってやつか……。
拘束魔法にかかっていたふりをしていた玲衣が駆け寄るも、まだ咲は固まったまま。
たまに俺の方やすぐそばまで来ている玲衣を見るが、また固まってしまう。
これに関しては、俺からはドンマイとしか声のかけようがない。
残念ながら、玲衣っていうのはこういうやつなんだよ。
「裕樹、どうしよっか」
「自分で蒔いた種だろ、自分でなんとかしてくれ」
まあ、そう言われてもこういうのは自分でなんとかしてもらうしかないんだ、頑張れよ。
なんだかんだ言って、こんな時の対処方法とかは玲衣が一番経験値が高いだろ。
性格からして少なくとも今までに一人くらいには本性がバレてそうだしな。
さて、俺は俺の朝飯でも作ってこいつらの関係が元に戻るまで待っておくか。
たまにはトーストに目玉焼きくらい乗ってけてやろう。
いつも食パンだけっていうのは流石に味気ないってことに俺は気づいたんだ。
もうちょいバリエーションを増やしたいけれど、今までこれで困ってなかったからなぁ。
咲が来てからは多少配慮してメニューを増やすようにしたけれど、咲の方が俺より作れるレパートリー多いしさ……。
「うーん、やっちゃったかぁ。咲ちゃーん、咲ちゃーん?」
「ハッ、スノウ先輩!? ど、どうしてこんなところに……」
「あれ、記憶が飛んじゃってるみたいだな」
「……あ、そうだ、私はさっき……ってスノウ先輩ってあんな感じのことをする人でしたっけ!?」
「あはは……」
リビング周りが随分とうるさい。
師匠と弟子の久し振りの再会みたいなことになっているじゃねえか。
……そう考えると久しぶりに会った尊敬する人が自分が思っていたよりふざけた奴だったと分かるって最悪だな。
いや、割とガチ目に最悪では?
俺だったらショックでしばらく立ち直れない気しかしねえんだけど。
実際、今の咲もショックで固まってるから俺と咲以外でもこんなことになるんだろうな。
「ていうかスノウ先輩と裕樹さんって知り合いだったんですか!? もう何がなんだか分からないです……」
「ボクのせいだけどさ、一旦落ち着こう。とりあえず深呼吸して」
「は、はい!」
「えっと、まず裕樹とボクは結構前から知り合いなんだよね、一緒に戦ったこともあるし。それで……」
目玉焼きがいい感じになったところで咲達の方を見ると、思ったより玲衣がちゃんと先輩をしているようだ。
さっきまで固まっていた咲といつの間にか談笑し始めている。
何を話したのかはあんまり聞こえなかったが少なくとも咲はいつもの状態に戻っている。
細かく言うなら、玲衣がいるせいかいつもより動きはぎこちないけれども。
「とりあえず食パンと目玉焼きな。なんか食いたいもんがあったら後で自分で作ってくれ」
「ありがとう!」
「裕樹さん、いつもありがとうございます」
玲衣がこういうことにわざわざ感謝するなんて珍しい……なんて考えてたら爆速で食ってやがる。
どうでもいいことだが、玲衣はそれでちゃんと消化出来んのか? と思うくらい食うのが早い。
どれくらいかって言うと、まだ俺が皿を持ってきてから一分も経ってないはずなのに、なぜかもう殆ど皿に残ってないくらいだ。
つーか、こんなことをやってたら隣にいるお前の後輩が……。
……ほら、案の定固まってるじゃねえか。
咲は、食おうとしてるトーストを持ったまま玲衣の前に置いてある既に空っぽの皿を見つめて固まっていた。
それに対して、これがいつも通りと言わんばかりにドヤ顔の玲衣。
うーん、この。
尖ってる奴が多い魔法少女のトップだからってここまで変人にならなくたっていいのに。
それにしても、どうして今までの付き合いでこれがバレなかったのか。
これが一番ホラーなまである。
二年くらいは指導したはずの咲にバレないってどんくらい外で被ってる仮面分厚いんだ。
訳が分からねえよ、性格からして一週間もたたないうちにバレると思うんだが。
……しばらく二人にさせようか。
咲の脳は一旦パンクさせた方がましだよ。これじゃ。
「ちょっと二人で仲良くしててくれ。一旦外行ってくるわ」
「えーなんでー?」
「お前は咲にもうちょい本当の自分で接してやれ。ほら見ろ、脳がパンクしかけてるだろ」
「あ……そういうこと……」
◆◆◆
そうして裕樹は一度部屋を出ていった。
残されたのはいまだに固まったままの咲と、それを不思議そうに眺めている玲衣。
少し前までよく話していた仲ではあるが、玲衣の所為でどうコミュニケーションをとればいいのか咲が図れないでいる。
しかし、玲衣にとってはそうではない。
本人基準のいつも通りでガンガンと話しかけていく。
「咲ちゃんっていつからこの家にいる?」
「あ、えっと……多分スノウさんからして私が行方不明になった初めくらいから、です」
「そうなのか……それで気になってるんだけど、
そのガンガンと突っ込んでいく様は、この光景を誰かが見ていたらドン引きする可能性すらあっただろう。
少なくとも、裕樹が見ていたら確実に引いていた。
ただ、本人は大真面目にこの空気の寒暖差を作ったりしているので仕方がない。
こればっかりは、変えようと思って変えられるものではないのだ。
全体の空気などは読めないこともなく、むしろその辺は他の人間より上手かったりする。
ただ、二人きりの時は何故かそうはいかないというだけで。
「……まだ、言わないでいいですか……?」
「うん、言いたくなった時でいいから。言いたくなったら裕樹に話すなりボクに話すなりなんなりして誰か信頼できる人に言ってね」
「ッ! ありがとうございます!」
「無理強いするつもりはボクも裕樹もないからさ。言いたくなった時で良いんだよ」
なんだかんだ言って、まるで先輩のような気遣いは出来る。
ちなみに、裕樹はこの辺が玲衣の憎めないところだと思っていたりするのだが。
普段はふざけるくせして、一番大事なときには誰よりも気合が入っているし気配りも出来る。
それが裕樹が思う玲衣像らしいが、あながち間違ってはない。
しかし、良いところを見せたかと思えばまたいつも通りのふざけたテンションに戻る、それが玲衣という人間で……。
「ところで少しだけ気になってたんだけど、咲ちゃんって裕樹のことどう思ってる?」
「……え?」
「いや、だって咲ちゃん多分裕樹のことちょっと好きでしょ。さっきも外に出て行った裕樹の方を見ていかないでほしいみたいな顔してたじゃん」
「そ、そんなことないですよ!!」
「あんなに離れないでほしいみたいな顔してそれはないよ~」
咲にとんでもないことを聞いたかと思えば、矢継ぎ早に言葉を紡いできた。
先ほどまでシリアスな空気だったはずなのに、いつの間にか恋バナをする前のような空気に変わってしまった。
空気を換えるという点では、ある意味天才的な才能を持ち合わせているのかもしれないが、そのせいで咲の頭はもうパンク寸前だ。
完全に玲衣の押しの強さに負けている。
この前は咲が裕樹に押しの強さで勝っていたはずなのに、このままではその咲が逆に負けてしまう。
「そ、そんなことを言うスノウさんはどうなんですか!」
「ボク? 裕樹のことなら普通に好きだよ。あ、友愛か性愛かは内緒ね」
「……え?」
そして、咲が脳をフル回転させて玲衣のテンションの落差について行こうとした時。
最後の最後にぶち込まれた玲衣の恋愛事情によって、完全に固まってしまうことになるのだった。
(なんだろう、私には関係ないことのはずなのに、すごくモヤモヤする……)
ただ、固まってしまったとはいえ、咲の心の中にあったモヤモヤは更に深いものとなったらしい。
裕樹の将来は、このようにして一歩ずつマズイ方向へと向かっていくのである。
「ちなみにボクと裕樹はボクが魔法少女になってすぐの頃からの知り合いだよ」
「……え?」