悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました   作:ひぶうさぎ

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第十八話 黒ローブとの遭遇

 裕樹が出て行った後のミラーワイトの部屋。

 そこでは、ミラーワイトがただ一人何かを考えるような表情を見せていた。

 

 何を考えているのかは、本人にしか分からない。

 だが、誰かが裕樹との会話から見ていたのなら、裕樹のことについて考えていたと一目で分かるような、分かりやすい顔をしていた。

 

 

 

 彼女も、咲や玲衣のように裕樹に救われた魔法少女の一人だ。

 彼女にとっての裕樹は、任務中に不注意で怪人化してしまい、どうしようもなく絶望していた自分を拾ってくれた命こ恩人でもある。

 

 あの時、玲衣も途中でミラーに似ている怪人が自分たちの方を見ているのは分かっていたが、それが本人であることが怖くて見ないふりをしていた。

 

 ()()ミラーワイトが怪人化してしまったなんて信じれなくて、どうしてもその方向だけは見れなかった。

 

 裕樹は、そんな玲衣の様子を見てなおも、穴から出てきた彼女の元に近づいていったのだ。

 

 怪人になったことで人の心を読めるようになったミラーにとって、その裕樹の姿はあまりにも頼もしかった。

 

 以前の自分とは真反対の闇を司る魔法を、怪人化によるものだと受け入れてくれて、自分が()()()()()()だということを認めてくれた裕樹は、彼女の中のヒーローなのだ。

 

 

 

(怪人になって、感情は殆どなくなったはず)

 

 

 

 裕樹と会った後、彼女はいつも自分の胸に手を当てる。

 

 そこに、人間にはある心臓の鼓動はない。

 あるのは、怪人に()()ない決して動くことのない核。

 

 物欲も食欲も、怪人になってからは全くなくなってしまった。

 一応、人間のマネとしてベッドだけは置いているが、寝る必要もないので、必要性を感じたことはない。

 

 しかし、心だけはまだなんとか残っていると、裕樹といるときだけは実感できる。

 

 裕樹といられるときだけは、まだ離れてほしくない、ずっと自分と一緒にいてほしい。

 そんないびつに歪んだ感情でも、それが彼女に残っている唯一の()()である証拠だ。

 

 

 

(裕樹がいる。そのときは、他の感情も……) 

 

 

 

 裕樹が自分の元に訪れなくなった時、その時こそが彼女が人間でなくなり、自我を失う時。

 

 本気を出せば、たとえ玲衣だって手の付けられないミラーが完全な怪人になれば、組織が壊滅するどころでは済まない。

 

 

 

(まだワタシは人間でいたい。だから裕樹、貴方はワタシのことをずっと、ずっと人間として認めて)

 

 

 

 これから、世界が崩壊するか否は全て裕樹にかかっている。 

 もちろん、今から来なくなったところで裕樹は死ぬまで一生彼女に追いかけられる生活を送る羽目になるだけなのだが。

 

 

 

(ん、何かの気配を裕樹の近くから感じる……)

 

 

 

 その時、ミラーは裕樹に迫っている危険に気づく。

 だが、その気になれば壊すことのできる牢屋から抜け出すことはしない。

 

 なぜなら、彼女はヒーローである裕樹のことを心から信頼しているから。

 裕樹なら、きっと大丈夫だと信じているから。

 

 

 

(がんばれ、裕樹)

 

 

 

 その裕樹に多大な信頼を寄せる姿は、おとぎ話の王子様の帰りを待つお姫様のようでもあった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 本部の出口である相変わらず地味で小さい路地を抜ける。

 見えてくるのは、これまた慣れ親しんだ大通り。

 

 しかし、その大通りの様子がおかしい。

 

 いつも通りなら、ここらへんの大通りはいつも沢山の人で賑わっているはず。

 なのに、今日は人がまばらどころか一人もいない。

 

 しかも。

 

 

 

「GUGAGAGAGA」

 

「GAGAGA!!!!」

 

 

 

 あちこちで怪人が発生してやがる。

 ……これは、何が起こっているんだ?

 

 咄嗟に脳裏に浮かんだのは、玲衣が持つような幻覚を見せる力。

 

 けれど、それは集中さえしていれば現実に戻れないこともないものだ。

 だから目を擦り、また集中しても、見える景色は変わらない。

 

 つまり。

 

 これは幻覚なんかじゃなくって、本当に今目の前で起こっているってことだ。

 

 

 

「マジか」

 

 

 

 流石に、これは現実逃避をさせてほしい。

 まさか本部の近くでこの量の怪人が発生してるだなんて誰が予想出来るんだ。

 

 それでも、残念なことに怪人たちは待ってくれないらしい。

 すでに俺の姿を見つけているようで、それなりの量がこっちに近づいてくる。

 

 でも、やるしかねえんだよなぁ。

 

 とりあえず、俺の連絡先に入ってる奴の中で戦える奴全員に状況だけ説明して……これで良し。

 

 後は誰かが来るまで持ち堪えるだけの簡単なゲームだ。

 ていうか別に助けに来られなくても、この量だったらワンチャン一人で何とかなるしな。

 

 

 

「GAAAAAA!!」

 

「ほらよっ、もっと意思を持って動いてくれ」

 

「GUUUAAAA!?」

 

 

 

 それにしても、何でこんなに怪人がいるんだ。

 あの穴の怪人みたいに全く意思がない訳でも無さそうだし、何かしらの原因があると考えて動いた方がいいが……。

 

 もしかして、この前の人工的に人を怪人化させる飴玉とかその辺と関係があるのか?

 そうだったらいい感じに辻褄が合うが、それにしては怪人が弱いんだよな。

 

 別にこの前の裏切り者が強かったって訳じゃないが、あの飴玉によって怪人になった奴は普通のよりも強くなってた気がする。

 

 それと比べると、この今倒してる怪人は弱いんだ。

 

 まあ、また一人くらい凍らしてボスのところに持っていけばいいだろ。

 せっかく本部の近くでこんなに発生してるんだし。

 

 

 

「GAAAAA!!!!」

 

「あぶね、油断してたわ」

 

 

 

 考え込んでいる間に、怪人達に距離を詰められていた。

 危ない危ない。

 

 ただ、やっぱり炎を当てるだけで十分だし周りにいる残りの怪人も炎をぶつけるだけだな。

 

 

 

「おらよっ」

 

「GAGUGAAAA!!」

 

 

 

 

 

 

 そのまま倒し続けること十数分、気づけばほとんどの怪人は既に燃え尽きるか現在進行形で燃えてるかのどっちかの状態だ。

 

 だが、こんなに暴れてるっていうのに知り合いは勿論、魔法少女達すらも来ない。

 

 まるでここ一帯だけ外部から隔離されているのではないかと思うほど。

 って、まさかそんなわけはないよな……ないよな?

 

 そうだったら永遠と怪人と戯れる羽目になる。

 それだけはちょっと勘弁してもらいたい。

 

 

 

「チッ、見えない壁がしっかりとあるじゃねえか」

 

 

 

 確認のため為ある程度先まで歩いたら、こっから先は進めないようになっていた。

 これは確定だな。

 

 というわけで、いつもの大技の出番だ。

 

 今俺がいる空間がどんな位置付けになってるのかは知らないが、空間ごと壊せば問題ない。

 

 それじゃあ、さっさとここから抜け出して帰るとするか……。

 

 

 

「〈燃え盛れ、そして、全てを燃やし尽くせ〉」

 

 

 

 面倒くさいから詠唱は途中途中で端折る。

 だが、それでもこの魔法は充分過ぎる効果を発揮できるから問題ない。

 

 狙うのは、何故か他より明らかに魔力が薄いあの一点。

 この()()()()貫いてやる。

 

 

 

「〈()()〉」

 

 

 

 狙い通り。

 

 一直線に飛んで行った炎はしっかりとこの意味の分からない空間を破っていく。

 

 これ以上ここに居続ける理由もないし、さっさとあそこを通ってここから脱出してやろう。

 

 ……と、言いたいところだが、そう簡単には逃げさせてくれないらしい。

 

 今まで隠れて俺を見ていたであろう人間が、姿を現してこっちを見てきているのが確認できる。

 

 こんなところで出てくる人間なんて、十中八九この状況を作った犯人に違いない。

 油断は……ちょっとさせてくれなさそうだ。

 

 俺は、集中を切らさないようにしてこちらにゆっくりと歩いてくる相手と向かい合った。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 相手は、無言で俺の方に歩んでくる。

 

 背丈は、俺よりまあまあ高い。

 顔は……黒いローブを着ているせいでよく見えねえな。

 

 一見するとただの黒ローブの不審者。

 だが、そこらへんの不審者とは体の中に抱えているであろう魔力量が桁違いだ。

 

 マズイな、久しぶりに俺と同じくらいの相手に出会っちまったかもしれない。

 

 

 

「なあ、一言くらいなんか言ってくれねえか?」

 

「…………」

 

 

 

 クッソ、ダメか。

 こっちの言葉に何も返して来ねえし挑発も効かなさそうだ。

 

 そうくるのであれば、まずは先手を取りに行こう。

 

 

 

「ちっとは堪えてくれよ?」

 

 

 

 火球を黒ローブ目掛けていくつも放つ。

 しかし、それらは全て当たる寸前で掻き消されてしまう。

 

 あれは単純な纏ってる魔力だけで掻き消されたな。

 一つ一つにそれなりの魔力を込めたんだが失敗だった。

 

 それでも黒ローブからの反撃は……ない。

 

 表情がフードのせいで読めないから、何が狙いなのかすら分からねえ。

 

 ……っと、気配を消されたか。

 気をつけろ、見失わないようにするんだ。

 

 

 

「ッここか!」

 

「……!?」

 

 

 

 よし、相手の獲物を弾けた。

 武器は弾いたついでに貰っておくか。

 

 これでこっちが有利になる。

 それにしても刀なんて武器を使っているなんて随分とオシャレな奴だ。

 

 どんな仕掛けがあるのか分からないが、ぱっと見何も仕掛けは施されていない。

 これを構えて、仕切り直しだな。

 

 黒ローブは……マジで何を考えているのかさっぱりだ。

 さっきから言葉を何も発しないし対話とかも出来ねえんだよ。

 

 さて、現状相手の行動パターンも何も分かってねえけど、どうするかね。

 

 

 

「少し、不利になったか……ここは退かせてもらう」

 

 

 

 お、退いてくれるっていうのは助かるな。

 

 肩透かしを食らった気分だが、俺としてもお前と長くは戦いたくない。

 そのついでにこの空間からも出させてくれ。

 

 

 

「私達はまた会うことになるだろう、さらば」

 

 

 

 そう黒ローブが言うと、奴の周りが闇に覆われ、そこに人がいた痕跡すらもなくなる。

 

 俺が追う側になったからにはもう少し粘ってみたかったが、特に怪我をすることもなく帰れるならお得だろう。

 

 空間内から黒ローブが出ていったからなのかこの異空間も崩壊をし始めた。

 

 あとは、多分この外で待ち構えているであろう魔法少女や野次馬を振り切るだけ。

 あの黒ローブが俺の目の前でやったように気配を消していけば特に問題はない。

 

 

 

 ……ちょっとミラーに会いに来ただけなんだけどな。

 どうしてこうなった。

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