悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました 作:ひぶうさぎ
あの黒ローブのせいなのか、あれ以来街中がなんとなくピリついている。
外に出れば、今までは大して見なかった魔法少女達が街を見回りをしているし、すぐ来ると思っていた玲衣も、家に遊びにすらこない。
一応、俺が玲衣を急かす連絡をしたのがよっぽど珍しかったのか返事は返ってきていたが、それはあまり芳しくないものだった。
それに、何より咲の様子が今まで以上によくわからないことになっているのだ。
例えば、ほら。
今みたいに。
「裕樹さん、外になんか行きませんよね?」
「いや、少し買い物に出かけるだけだから……」
「この前はそんな感じで大変な目に遭ったって聞いてます。だから行かないでくださいよ」
「でも、行き帰りで十五分も掛からねえんだし」
「嫌です、行かないでください……行かないでください……」
ちょっとだけ外出しようと思って席を立っただけでこのザマだ。
俺のことを案じてくれるのは嬉しいんだが、いかんせん最近の咲は若干重たすぎる。
確かに最近の俺は心配をかけることばっかりしてるが、それにしたってここまで重くならなくてもいいだろ。
日を追うごとに咲がミラーみたいな重さになってきてなにかと怖い。
俺の知り合いの中ではあいつが一番危険度が高いと思っていたが、その争いの中に急に咲が入ってきた。
それに比べて、いつも俺をからかう事しかしてこない玲衣は最高だ。
いや、心配されたくないってわけではないんだ。
俺なんかのことを心配してくれるなんて、それくらい嬉しいことはない。
それでも、もう今の咲は完全にモードに入っているらしく、もう止まってくれない。
だから最近はいつも家を出ようとする俺とそれを止める咲の争いが起きている。
だが、今日はこの前の黒ローブのことをボスに言わないといけないからどうしても行かなくてはならない。
本当に咲には申し訳ないけれど、今日こそは家から出させてもらう。
「咲、今日はマジでごめんよ。後でなんか奢るから!」
「裕樹さん、逃がさないですよ……待ってください」
まずは、玄関前でスタンバっている咲をかわし、さっさと家を出ていく。
そして、その先に仕掛けられている結界も騒ぎにならない程度の魔法で壊す。
後は全力ダッシュで咲を振り切ればいい。
流石に体力やらはこっちの方が上だしな。
◆◆◆
……よし、さすがの咲もここまで距離を離せば諦めるだろ。
咲から逃げ始めて数分、気づいたらもうすぐそこに組織の本部があるところまでこれていた。
普通に歩いていけば十数分以上はかかる距離だから、今日が一番早く着いた日なんじゃねえか?
人間、それをする理由はともかくやれば自分の実力以上の力を出せるもんだ。
自分でも結構ビビったぜ。
さて、実はここからが問題なんだよな。
この前の黒ローブが
それで、俺たちの組織は本部が半分封鎖されている状態になっている。
まあ、仮にもそれなりに実力派が集まっている組織ではあるから、強行突破してあの路地に入ることは出来る。
しかし、それだとさすがに魔法少女とか国とか警察とかから目を付けられてしまう。
この前マークされ始めたばかりなのに今回さらに疑われたら組織自体が本格的に狙われる。
だから、あの事件が起きた後、俺たちは別の入り口を作った。
それが、今俺が目の前にある店だってわけだ。
「よっ、売れてるか?」
「いらっしゃい……って裕樹か」
「客じゃなくて悪かったな。それで、品物が意外と減っている気がするんだが、意外と売れてるのか?」
「そうだな、物語のポーション屋みたいな雰囲気があって良いってどっかで紹介されたみたいで意外と売れてるよ」
受付にいるのは、昔からの顔なじみである組織の構成員。
ボスにボコされた咲を運んでいる時に会って以来中々顔を見なかったが、いつの間にかここを担当するようになっていたらしい。
それにしても、なかなかいかつい顔をしているコイツが店員をしてるってどういう事なんだ。
「初めは店員お前じゃなかっただろ?」
「そうだな、初めは華があった方が良いんじゃねえかってかわいい顔した奴がやってたよ。でもな、なんかたまたま代わりで俺がはいったときにネットでバズりやがった」
「ああ……同情しておくわ」
なんでどちらかというと事務より戦闘の方が得意なコイツがここにいるんだって思っていたけれど、そういう理由があったのか。
少しだけ可哀そうだが、俺には関係ないから見守ることしか出来ないな。
それにしても、ただのカモフラージュとして作ったはずの店がでもちゃんと店として機能するんだな。
現代社会の拡散ってやつは恐ろしい。
確かにいい雰囲気は出ているとは身内からしても思うけどさ。
はじめにこの出来たばっかりの店にきてそのあと宣伝した奴はマジで何者だよ。
「じゃ、こっから失礼するわ」
「ああ、あの事件についてか。頑張れよ」
「お前もいい感じに愛想振りまいて物を売るんだぞ」
「堅物なのが受けてるらしいからそれは遠慮しておくよ」
「ははっ、そうか」
そのまま、隠し扉と言ったら定番の棚を回転させて本部の中に入る。
これ、路地裏から入るよりもロマンがあって一部のやつからは評判が良いんだとか。
俺もまだ数回しかここを通ってないが、既に好きになっているかもしれない。
やっぱりロマンってやつはどうしても追っちまうよな。
魔法がはじめて使えたときは俺でも割とワクワクしたし。
あ、そうそう。
入口が変わったからボスの部屋が一番奥じゃなくなったんだよ。
それでも奥の方ではあるけれど、前に比べたら少し奥ってくらいだ。
ていうか俺、本部にある部屋数が多すぎて今でもボスの部屋と親しい奴の部屋しか覚えてねえんだよな。
マップとかをその辺に作ってくれたらまあマシにはなるかもしれない。
それだともし本部が襲撃にあった時に割と組織が崩壊しかねないが。
いい感じに組織に所属している奴しか分からない暗号で作ればいいのか?
でもなあ、そんな面倒くさいことするくらいだったら覚えろって言われそうだな、こりゃ。
「あ、どうも」
「裕樹! 遅かったね、こっちは君が来るのをずっと待ってたんだけれど」
「すみません」
「最近君厄ネタ踏みすぎじゃない?」
ボスの部屋に着く前にボスに鉢合わせてしまった。
すぐにちょっとした嫌味を言われるが、それらが全部事実なので何とも返すことが出来ない。
いつも迷惑をかけて申し訳ない。
最近のボスへの負担は本当にデカいだろうし。
そして、そのままボスの部屋に案内される。
相変わらず豪華とも質素ともとれない普通の部屋だ。
そういえばあの時大量発生した怪人、結局一体も凍らしてねぇな。
まあ、多分ボスがどうせどっかから調達してくるかもう既に調達し終わってるだろうから……。
部屋では、綾乃さんが明らかに良い素材を使った椅子に座っていた。
もしかしてあれ、来客用の椅子だったりしないか?
いや、まさか綾乃さんとも言えどそんなところに座ってる訳……。
「あ、綾乃? それ一応どっかの偉い人が来たら座らせるところだからくつろがないでね」
「え? これこの部屋に来たみんながくつろぐところだと思ってたんだけど。それで今から弟君が座るんじゃ?」
そんなこと、していたみだいだな。
しかも下っ端の俺がそんな良さそうなソファに座れるわけないだろうのに。
幹部ですらない俺はボスと対面するときは普通俺が立ってボスが座っててだ。
ボスは割と組織の中でも優しい方だからたまに椅子くらいには座ってもいいんじゃないかって言ってるけどな。
あれは舐められる危険性はあるけれど、結局ボスが実力で何も言えなくなるくらいまでボコすから今のところ問題はないが。
「一旦綾乃は外出て行っといて。今日ばかりはちょっと邪魔かもしれない」
「えぇ~」
「つべこべ言わない」
「は~い、じゃあね弟君」
そう言って、綾乃さんは素直にボスの部屋を出ていく。
こういう場面とかを見るとやっぱり組織のボスって大変なんだろうと実感させられる。
いや、マジで。
最近はボスの頭を抱えた姿しかみてないし、やっぱり疲れているんだろう。
「じゃあ、本題ね。裕樹が戦ったっていう黒ローブ、強かった?」
しかも、こんなすぐに真面目になって接そうしてくるところとか。
この人は、本当に尊敬しかできないほど凄い人だ。
「はい、とても」
「そうか、裕樹がそういうならよっぽど強い相手だったのか……相手の能力はなんかわかったりした?」
「先手を取ろうとして炎を相手めがけてぶつけようとしたら魔力だけで消されました」
「え、えぇ……それ本当……?」
「……はい」
やっぱりそういう反応になるんだよな。
普通、魔法ってもんは相殺するには同じ威力の魔法をぶつけないといけない。
何故かと言えば、魔力だけだと効率が悪すぎて同じ分の魔力を消費しても魔法とした方とは中のエネルギーが数倍、いや十何倍くらい違うから。
だから、魔力の放出する
そして、ボスはしばらく考えたような表情を見せて、こうつぶやいた。
「マジかぁ……」