悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました   作:ひぶうさぎ

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本日1話目


第二十二話 転換点

 やべ、すっかりもう朝になっちまった。

 疲れたからちょっとだけ寝てその後でなんかやろうとしてたのに、もうさも当然かのように太陽が窓から覗いている。

 

 時計を見れば、指している針はすでに七時。

 どう考えてもこれは寝坊をした。

 

 玲衣たちの分の朝飯もなんも用意してねぇわ。

 これは割とマズイ状態なんじゃね?

 

 そう思ったら、行動を早くしなくてはいけない。

 寝室のドアを開けて、昨日玲衣たちがいたリビングへと向かう。

 

 

 

 しかし、そこにはソファに仲良く寝ている三人の姿が見えて。

 どう考えても一人か二人用のソファなのにも関わらず全員がそこまで狭そうな顔もせずに眠っていた。

 

 

 

「いや、俺が寝ている間に何があってこんなに仲良くなってるんだよ」

 

 

 

 思わず、そんな独り言が口からもれる。

 それくらい、三人の寝顔は穏やかだった。

 

 昨日は咲がどうもぎこちない表情ばっかりをしていたし、ミラーだっていつもは寝ている時ですらもうちょっと無表情なはず。

 けれど、今日の場合はそうではないようで、本当に()()が笑顔を浮かべながら寝ているのだ。

 

 でも、なんとなくなんかいい感じの話題があったってことは分かるな。

 この中で空気感を変えられる人間は玲衣くらいだし玲衣が何かしら切り出したのか?

 

 もしかしたら俺の悪口とかそんな話題で盛り上がったのかもしれない。

 こいつら全員で盛り上がれる話題とかそんなもんだろう。

 

 まあ、誰も起きてないから別にまだ朝飯作ってなくてもよかったのか。

 寝坊こそしたけどなんとか助かったぜ。

 

 

 

 それじゃ、こいつらが起きるまで俺は準備だけして寛ぐことにしよう。

 ……と思っていたんだが、一人ソファからこっちを見てる人間がいる。

 

 もう少しくらい俺にのんびりさせてくれよ。

 

 

 

「で、なんだミラー。絶対お前起きるタイミングを見計らってただろ」

 

「ちょっと何言ってるかわからない」

 

 

 

 いつも通りの無表情でミラーがとぼけるが、俺もそれなりに付き合いが長いから分かる。

 こいつ、絶対内心クソ笑ってるんだよ。

 

 その証拠に目らへんは何も変わってなくても口だけほんのちょっとニヤついてるんだよな。

 表情はちゃんと全然変わらねぇんだけど、よく見ると細かいところで感情が分かるって言うのがこいつの特徴だ。

 

 それで、なんでわざわざ咲と玲衣が寝ているところで自分だけ起きてきたのか聞かねえとな。

 どうせこれも心を読まれているだろうから別に口に出す意味はないんだけれども。

 

 

 

「ワタシは裕樹が知りたい情報を持ってる」

 

「勿体ぶるような言い方だな」

 

「でも、それを明かすと裕樹はもう引き返せない」

 

 

 

 それにしても、やけに勿体ぶるというかこっちを心配してるような言い方だ。

 どうせ黒ローブの事だろうが、そんな引き返せないとかそんなやべぇ情報なことはねえだろうのに。

 

 そう思って、ミラーの方をじっと見つめる。

 しかし、その顔はいつもにも増して無表情で何を考えているかすら分からない。

 

 でもコイツ、嘘だけは絶対に言わねえから、本当に何かしらの今までのとはくらべものにならない厄ネタが眠ってるってことだよな。

 

 思い返せばあの裏切り者もバックに何かしらの存在がいることを示唆していた。

 そうなると、そのバックにいる存在こそがミラーでも言いにくいほどのものってことか。

 

 

 

「でも裕樹はきっと、こう忠告しても揺るがない」

 

「そうっちゃそうだな。どんな情報だろうと無茶はそこまでしねえから安心して言ってくれ」

 

 

 

 そう俺が言えば、ミラーは覚悟を決めたような表情を見せる。

 

 まあ、そもそも情報があるって言ってきたのはあっちだからな。

 あれを言われたら手を出さないわけにはいかない。

 

 

 

「……最近の事件は、ほとんどを裏で手を回してる存在がいる。もちろん、ワタシがこうなったのも、あの穴を作ったのも」

 

「へぇ、あの最悪な大災害を引き起こしたやつも同じなのか」

 

 

 

 中々、壮大な話になってきた。

 

 だか、それ以上に普通は関わることすらも躊躇しそうな情報がこれから出てくるってことも感じさせてくる。

 

 

 

「それは、この魔法少女制度を作ったと言われている一番最初の魔法少女」

 

 

 

 そこまで言って、ミラーは自分の胸に手をあてた。

 

 ……そうか、一体だれがこんなことを引き起こそうとしてるんだって思っていたが、まさかそんな大物だったなんてな。

 

 世界で一番初めの魔法少女と言われているのは、日本で生まれたという魔法少女。

 突然発生した怪人、怪異と呼ばれる存在を次々に討伐していって日本の英雄とか呼ばれていることもある。

 

 名前は、日本でトップと呼ばれたことのある魔法少女しか知らないらしい。

 

 そのせいで世間からも、それなりに裏の情報が入ってくる俺らの組織でも()()()()()()()とかいう呼び方しかされていない。

 

 ミラーは日本二位と呼ばれていた時期が殆どだが、玲衣の活躍が目立つ少し前は日本の中で一番実力があると呼ばれていたこともある。

 だから、おそらくその名前も知っている。

 

 

 

「その名前っていうのは、俺に言う事は出来るのか?」

 

「無理。言おうとすると口が塞がれたような感覚が襲ってくる」

 

 

 

 なるほど、だから名前が全く一般に広まらないわけか。

 となると、歴代のそれを知らされている魔法少女たちはどうやってそれを知るんだろうか。

 

 

 

「ちなみに名前は、()()その魔法少女から名前を聞かされる」

 

「は? その魔法少女が生まれたって言うのはもう何百年も昔のはずじゃ……」

 

「それが、まだ生きてる。それも、まだ全然若い姿で」

 

 

 

 ……なるほど、それは中々おもしれえ。

 

 今何歳かは知らねぇけれど、そんな長く生きている奴が何かしらの理由をもって俺らの街、それとも国全体を攻撃しようとしてるなんて、敵としては最高じゃねえか。

 

 名前と同じで、その身体的特徴とかは多分、言えねえんだよな。

 ミラーが何も言ってねえのに頷いているってことはそういう事でいいのか。

 

 敵が強大ってのは分かったが、ここまでの大物だと逆に興味がわいてくる。

 どうせ国にも手を回して俺らの組織をつぶそうとしてたりするんだろ。

 

 とりあえずは、今度またあの黒ローブに出会ったら話をたくさん聞かせてもらおうとするか。

 ははっ、楽しみだなぁ。

 

 

 

「ちなみにミラーをそうさせた相手っていうのはだれなんだ?」

 

「ワタシはその最初の魔法少女によく分からない飴玉を飲まされて、こうなった」

 

「ひっで、何が日本の英雄サマだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 ただ暗闇が広がっているだけの何もない空間。

 そこに、裕樹が戦った黒ローブはいた。

 

 ()()は、まるで操り人形かのようにガクガクと祈った手を前に突き出しながら前に進み続けている。

 

 向かう先は、この何もない暗闇の終着点。

 そして、そこは黒ローブの主がいる所でもあった。

 

 しかし、どれだけ歩こうとこの空間の終わりなど見えるはずもない。

 ここは、()()ない空間なのだから。

 

 それでも、黒ローブはいつか歩けば主の元に行けると信じて自分の体を酷使し続ける。

 

 体はとっくに限界を迎えている。

 その証拠に、自分で動かそうとしたって足は何の反応も返さない。

 

 いや、そもそもすでに自ら足を動かそうとする意志など残ってすらいなかった。

 

 今の黒ローブは、ただ何かの力によって終わりのない暗闇の先に抜け出そうとしている黒ローブ()()()なれの果てなのだから。

 

 

 

 

 

 

「あははははッ、滑稽だよ! あんなに私のために働くとか言っておいて『私達はまた会うことになるだろう』だなんて言って帰ってくるとか馬鹿じゃないの!?」

 

 

 

 そんな悪趣味な、人間だった何かの哀れなダンスをこれまた違う空間から見ている人物がいる。

 

 その人物こそが、ミラーが言っていた魔法少女。

 日本で最初の魔法少女と呼ばれている存在。

 

 遥か昔に生まれたはずの彼女は、まだ少女と言われてもおかしくないほどのあどけなさが残る顔で、残虐な笑みを浮かべている。

 

 それなりの数の一般人を巻き込んだ()()で魔法を使える強者を一人も殺せなった黒ローブは、もう彼女の駒とすらなりえなかった。

 

 気分次第で人を怪人にすることだって出来る

最初の魔法少女の期待を裏切った者が、また自らが心酔している主の元で働けることは絶対にない。

 

 なぜなら 彼女にはそれ以外にも沢山の駒がいるから。

 たとえ一人が失敗したとしてもそれを補えるだけの大量の彼女に心酔している第二の黒ローブ、第三の黒ローブ達がいるから。

 

 それに、一度でも失敗した者に存在価値などないと気づくのは、自分が主の期待に応えられなかったと知った時、そして切り捨てられたと分かる時だけ。

 

 彼女にとってこれだけ扱いやすい駒は、例え

、少々数が減ったところで痛手にすらならない。

 

 

 

「我が主、先日は私の部下がご迷惑をおかけしました」

 

 

 

 そんな彼女に、歩み寄る執事風の男。

 黒ローブの失態について謝罪しているらしい。

 

 しかし、それは今の彼女にとっては効果がないどころか逆に機嫌を悪くさせるものだ。

 

 

 

「そうだね、街を壊滅させて来いって言ったのに一区画すら壊さないで帰ってきたからね。しかもあれのために渡した刀も相手に渡すし、無能としか言いようがなかったよ」

 

「ッ! 本当に申し訳ございません!」

 

「ふふ、分かってくれたらいいいんだ。じゃあ、今度は君があの街を壊しに行こうか。君はあれの上司なんだからあれ以上の戦果は出せるよね?」

 

「も、勿論です!」

 

「頑張ってね、時間は少しだけかかってもいいから」

 

 

 

 執事風の男は、話しかけてはいけない状態の主に話しかけてしまった。

 こうなってしまえば、彼に残された道は任務を完遂すること、ただそれだけ。

 

 裕樹たちの時間が脅かされることになる日は、そう遠くない。

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