悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました   作:ひぶうさぎ

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第二十五話 まずは焦らずに

 まさか、本部が……。

 爆発音の後、ふとそんな想像が頭をよぎる。

 

 思わずミラーと後輩の方を見るが、二人も同じことを考えていたらしく、どちらも本部の方を向いていた。

 

 いや、でも多少セキュリティにガバガバな面はあるあそことはいえ組織の一員である人物以外を通すなんてことはないはずだ。

 

 とはいえ、ありえないとは言い切れない。

 

 

 

「裕樹さん……どうします?」

 

「コイツらをほっといてでも行く価値はある……とは思っている」

 

「……裕樹、それはダメ、任務放棄。あの組織は強いから、それを信じて」

 

 

 

 だが、俺達にまだ戻って来いという連絡が入っていない以上、ミラーが言っているように戻らない判断が正しいのだろう。

 

 出来ることなら今すぐ戻りたいが、それが敵の狙いだったりした時が一番嫌だ。

 幸い離れすぎている訳ではないし、一旦落ち着いてからの方がいいか。

 

 

 

「……少し焦りすぎた。ミラー、ありがとう」

 

「ん、でも今の裕樹が思っているやり方ならいいとは思う」

 

「じゃあもしかしたらいるかもしれないコイツらを取り返そうとする奴だけ気をつけて帰るか」

 

 

 

 本部いる仲間のことが心配ではあるが、今は仲間達を信じよう。

 

 爆発音も鳴ったのは一発だけで、あの後は特にでかい音も炎柱も上がってねえし。

 

 きっと大丈夫のはずだ。

 余程の敵が来ない限り激たい出来るような戦力は常に揃っている。

 

 そしたら、とりあえず今気にするのはいまだに怯えている奴らだけでいい。

 

 既に手と足は凍らせていて何も出来ないようにしている。

 魔法が使えるのなら口を塞いでいたが、どうやら使えない様子。

 

 だから口は塞がずに行こうと思っていたんだが……。

 

 

 

「お、お前らはきっとバチが当た……ヒェッ、や、やめてくれ!」

 

「お前らは今自分の置かれている状況が分かっていないのか? 後輩、多少はやっていいぞ」

 

「良いんです? それじゃあ、自分自身で歩ける程度には留めながらやりますね」

 

 

 

 いちいち自分の生殺与奪の権が握られていることが分かっていねえような口振りでどうにもうるさい。

 

 というわけで、自分の立場を分からせるために後輩に少しだけ任せてることにした。

 

 時間があるかつ、ここが組織の本部内であればもう少し徹底的に心を折ることになるが、今回は時間はないし本部の中でもない。

 

 そこで()()自分たちの立場を理解してもらったところで、本部に戻りにいく。

 

 後輩は、並みの精神の持ち主くらいだったら一分もかからずに折ることが出来る中々のエグい特技を持っている。

 

 ほら、少し考え事をしてただけでもうこうだ。

 ここまでになると逆に可哀そうだな、知らねぇけど。

 

 

 

「すみませんでした……だ、だからこれ以上は……」

 

「先輩、こんな感じでいいですよね?」

 

「裕樹、この子やっぱり危険」

 

「ま、まあいいんじゃねえかな。どうせ後からもっと痛い目にあってもらうんだし」

 

 

 

 その俺の言葉に、後輩に連れていかれる三人が体を更に震えさせるが、そんなことはどうでもいい。

 お前らには後からたっぷり自分がしたことの意味を後輩から教えてもらえ。

 

 それじゃ、周りを警戒しつつ本部に戻るとしよう。

 

 ……あ、そうだ。

 後ろから付いてくるお前らは俺達に連れられているってことが分からねぇようにしっかり歩けよ?

 

 通行人に怪しまれたら警察呼ばれちまうかもしれねぇしな。

 まあやったことを言っていけば捕まえられるのはお前らだけれど。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 結局、戻る途中で一般人と何人かすれ違ったものの、別に緊急事態っぽい雰囲気は通行人の誰からも伝わってこなかった。

 

 それは、もしかしたら、あの馬鹿でかい爆発音すら聞こえてなかったんじゃねえかと思うほどに。

 

 マジであれは幻聴だったんじゃねえかと一瞬思っちまった。

 

 だが、本部の入り口となっている店は確かに戦闘の跡が残っていて、何かしらはここで起きていたということを嫌でも見せられる。

 

 しかし、そんな明らかに何かがあったと分かる店の周りに、本来いるべきであろう警察官などその類の人々の姿は一切ない。

 

 こりゃ、多分周りから見えてねえんだ。

 

 しっかりと見えている俺からすると異質でしかないこの光景も道行く人からしたら何事もないかのように見えているんだ。

 

 ていうか、連れてきた奴らがずっと周りをキョロキョロしててうざったいんだが。

 

 

 

「おい何してんだ、さっさと入れ。あ、ミラーこいつらに目隠し的なのをしてくれるか?」

 

「そう言うと思って、連れていく時に、した」

 

「お、ありがとな。こいつらに本部の位置は流石にバラすわけにいかねぇと思ってたんだよ」

 

 

 

 なるほど、アイツらがキョロキョロしてたのは周りが連れていかれる時から見えなくて怯えてたのか。

 

 そして、そのまま、俺達は今まで以上に警戒をしつつ店に入っていく。

 

 その途端、奥の方から飛んできたのは見覚えのある火球。

 

 それを後輩が構えていた鎌で何もなかったかのように防ぐと、これまた見覚えのある赤い髪をした屈強な男が出てきた。

 

 

 

「なんだよ、裕樹じゃねえか。その後ろから付いてきている奴らは……ああ、捕まえてきたんだな」

 

「残念なことに俺よりも下っ端みたいな寄せ集めの奴らだったけれどな」

 

「いやぁ、でもこっちは大変だったんだぜ?」

 

「すまん。その様子だとあんまり被害はなかった感じか」

 

 

 

 いきなり攻撃を仕掛けてくるもんだから、てっきり組織が乗っ取られたのかと嫌な想像をまたしちまったが、意外と大丈夫そうな様子。

 

 良かった、これで組織が本当に壊滅なんてしていたら俺らはどうしようかと思ってたよ。

 

 というわけで、俺達はいつも通りの棚から中に入っていく。

 中はピリピリとしているものの、そこまで重大な様子ではなさそうだ。

 

 そうのんびりと考えていると、奥から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。

 そこには珍しく焦った顔でこちらに走ってくる、ボスの姿が。

 

 

 

「良かったぁ……ってきり私の判断ミスで裕樹達が狙われたのかと……」

 

「俺達の方は全然強い戦力はおかれてませんでしたよ。それより、本部の方は大丈夫でした……?」

 

「うん、急に店の方に何人も怪しい奴らが来て暴れていったけれど、本部の中には誰一人入れさせなかったよ」

 

 

 

 良かった、組織側には何もなかったのか。

 

 戻らないという選択をして昔よくしてもらった恩人たちの命が奪われたなんてことがあったら一生俺はその判断を悔やむことになっただろうから。

 

 何かを隠しているようなそぶりもないし、多分それ以上はなかったのだろう。

 本当に、本当に何もなくて良かった。

 

 

 

「すまん、ちょっと休むわ」

 

「ん、了解。まだ残ってるワタシの部屋使う?」

 

「いや、一応俺の部屋もあるからそこを使う。あそこはちょっと俺には合わなさそうだし」

 

 

 

 組織に特に被害がなかったと分かって緊張の糸が切れたのか、一気に疲れが俺を襲う。

 

 このままだと冗談抜きで倒れかねない。

 ということで、滅多に使わない、俺の部屋で一度休憩することにした。

 

 久しぶりの部屋は、思っていたより狭くてお世辞にも居心地が良いとは言えなかったが、精神的疲労がかなり溜まっていたのかすぐに瞼は閉じてそのまま眠りに落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、あれ以上の戦果は出せるって言ったのは君だよね?」

 

「ほ、本当に申し訳ございません……まさかあの組織があんなに戦力をそろえているとは思わず……」

 

「いや、君が油断しただけでしょ。それ以外にあんな小さな組織に魔法を使える奴らを複数人連れて行って負ける訳ないじゃん」

 

「もう一度だけ、次こそは貴女様の期待に応えますので……」

 

 

 

 組織の本部内部にすら侵入することが出来ず、全員入口の前で止められたという事実が最初の魔法少女の元に届けられてからしばらくして。

 

 本拠地では最初の魔法少女に詰められている執事風の男が以前に組織を壊滅させろと指示された時よりもよっぽど震えながら魔法少女の前に立っていた。

 

 いつもなら心の中では悪態をついているのにも関わらず、今日にいたっては心が恐怖だけに支配されている。

 

 男は知らなかった。

 いや、最初の魔法少女の恐ろしさを分かっていたつもりになっていた。

 

 今までは離れて見ているだけで、それだけで危険さを全て知り切ったつもりだったのだ。

 

 しかし、自分がそのプレッシャーを受ける側になったところで、初めて。

 

 最初の魔法少女がどれだけ気まぐれで恐ろしい存在だったのか気づいたのだ。

 

 

 

「ま、いいや。最悪あの組織はどうでもいいからね。問題は君だよ」

 

「わ、私ですか……?」

 

「君が影で私の悪口を言っているのとか、心の中で私を嫌っているのとか全てお見通しだから」

 

 

 

 それに、男は彼女を怖がりつつも心の奥底ではどこか舐めたような思いがあった。

 

 だが、最初の魔法少女を舐めた人間はこれまでことごとく消されている。

 勿論、それは多少結果を出している男だからと言って関係ない。

 

 今まで、男は幸せでしかなかった。

 はじめて自分が主体となって取り組むことによって初めて、心から、心から。

 

 自分がついてしまった主がとんでもない厄ネタであったことに気づいたのだ。

 

 

 

「わ、私は決してそんなことなど……」

 

「いいよいいよ。結果さえ出してくれれば君のことなんて心底どうでもいいし」

 

「……わ、私は……」

 

「結果さえ出せばいいからねっ。あ、でもね、あっちには日本最強の魔法少女と怪人化したミラーワイトもいるから君には無理かもしれないや」

 

 

 

 男は必死に言葉を紡ぎ出そうとするが、最初の魔法少女の重圧の前に何の言葉も出てこない。

 

 そんな男に、最初の魔法少女は今まで男に()()()言わなかった情報を何個も与える。

 

 今更、後悔しはじめたところでもうどうにもならないことは確実だ。

 

 

 

 最初から、自分にはどこにも逃げ場がなかったと男が気づいたのは。

 気づくにはとても遅すぎる時だった。

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