悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました 作:ひぶうさぎ
サブタイトルが間違えていたので修正しました
あまりに突然の出来事に一瞬足が止まる。
……いや、マジで何してんだこいつ。
「おい、大丈夫か? 完全にハイになってる気がするんだが」
「お、裕樹じゃねえか、お前もこれ飲むか?」
「遠慮しておくわ、それにしても何やってんだよ、それ一応店の商品だろ」
「ま、もう襲撃で何個か売りもんにならなそうだからな、在庫処分だよ」
意味が分からなすぎて、思わず意図を聞いてしまったが、その答えを聞いてもやはり意味が分からない。
いや、何で在庫処分を今やる必要があるんだよ。
後ででいいだろ、俺だって後回しにするわ。
こいつ、こんなにポンコツだったか……?
日を追うごとにポンコツっぷりが分かっていく奴には出会ったことがあるけれど、こいつがポンコツになったところを俺は今まで一度も見たことねぇぞ。
「……頭でも、打ったか?」
「残念、こっちはお前の予想と違って大真面目だ」
言葉を選んで、なんとか喉から搾り出すものの、やはりそれも至っていつもの顔で返される。
マジで怖すぎだろ、下手なホラーよりよっぽど怖い状況に遭遇しちまったんだけど。
俺の知っている旧友は、殆どギャグなんて言わずに、たまにふざけ合う、みたいな奴だ。
それに比べて、今のこいつは、頭のネジが一本か二本かすっぽ抜けてしまったのかと思うほど言動がポンコツになっている。
ま、まあ。
こいつも一応悪の組織の一員だから、一皮抜けたって風に……。
って考えられる訳ねぇだろ。
こんな急におかしくなる訳ねぇじゃん。
いや、最近はあんまりつるんでなかったからこいつがどんな風にしているのか知らなかったけどさ。
それにしたって俺が思っていた旧友像と違いすぎるんだ。
そんな、困惑の表情を浮かべているであろう俺に、なおも旧友は謎の液体を俺に勧めてくる。
……少しだけ、もう匂いで察しがついてしまったのがなんか嫌だ。
「ほら、裕樹、お前もどうせ疲れてるんだろ?」
「それはそうだが……結局これなんなんだよ」
「そうだな、俗に言うならポーションとか呼ばれている奴だ」
「つまるところのエナドリだよな」
「そうだな」
……うん、なら仕方がねぇな。
俺は飲まねぇけれど、好きなやつはとことん好きな飲み物だから決して否定する気はないぞ。
何はともあれ、おかしくなっちまってないことは分かったから、それで俺としては一安心だ。
じゃあ、こいつもエナドリを飲み始めるくらい疲れているだろうし、そろそろ見張りを変わってもらおう。
あの飲み物が好きな奴が飲み始めるっていうのは、もう疲れたっていうサインだよ。
「じゃ、この後の見張りは俺に任せろ」
「いや、今エナドリを飲んだばっかだからまだまだ動けるぞ」
「うるせぇ、エナドリを飲む奴りみんなそう言うんだよ」
こいつの性格からして、爆発が起きた時からずっとここで見張りを続けているに違いない。
となると、もう半日はここから動いてないはず。
そんなんじゃ動けるものも動けないに決まっている。
百歩妥協してここに止まり続けるとしても、とりあえず飯を食え。
ぜってぇ腹が減ってるに決まってるんだから。
「せめて昼飯を食ってこい。じゃねえと力ずくでここの見張りを変わらせてやる」
「……わかったよ。仕方がねえなぁ……」
「後、何もないみたいな顔をしているくせに、どうせ怪我をいくつも負ってんだろ、分かってんだよ、お前のことは」
「あ、マジ? それは隠せるかと思ってたんだけど」
「それなりに付き合いがあるんだぞ、エナドリ好きは知らなかったが何を隠したいかくらいは分かるに決まってんだろ」
それと、旧友と俺は行動パターンがよく似てんだよ。
勿論血が繋がってる奴らほど似てる訳じゃないが、俺だって旧友の立場だったら隠そうとするからな。
そういう意味で、何を考えているのかっていうのは丸わかりだ。
逆に言ったら俺の行動もあいつからはかなり分かりやすいものなんだろうけど。
それはそれとして、怪我をしている奴に任せっきりになるわけには行かないし、とにかく、今は休め。
「じゃあ、またな」
「おう、今日ももうここに戻ってくんなよ」
「それは酷い。行けそうだったら直ぐに帰ってきてやるよ」
そんなこんなで、旧友は軽口を叩きながら本部に戻っていった。
あの調子だと本当に直ぐ戻ってきそうだな……。
ただ、流石に少しはあいつも休むだろう。
その間は、俺があいつ以上の働きを見せてやるよ。
ほら、また怪人が俺らの組織に目をつけて一気に襲ってくる。
俺の仕事は、あいつらをだった一体でも組織の中に入れないこと。
「GAAAAA!!」
「GAAAUUUUU!!!!」
こういう時の怪人の対処の仕方は簡単だ。
相手の一撃目を防いで、その後で燃やす。
これくらいの簡単な手順でも、慣れれば怪人はなんとかなる。
なんか、人型じゃねえのも混ざっていやがる……がっ。
ソイツらも、別に人型相手と対応は変えなくていいからあんまり変わらない。
ああ、ただ。
剣とかで噛みつきを防ごうとすると、剣を噛みついたまま離さないっていう面倒くさい特性はあるな。
だからと言って、苦戦することはないが。
それより、たまに通りかかる通行人のことなんて目もくれずにこっちに向かってくるほうが、割と助かっている。
俺達、少なくともボスが、一番嫌がるのは俺達のせいで周りに被害が出ることだからな。
まあ、どうせ悪の組織が街がどうとか住人がどうとか気にするはずがないと思っているから本部
残念なことに、うちのボスは魔法少女もびっくりの善人だよ。
旧友、ここは俺に任せとけよ、敵の親玉が来ない限りは、ここは余裕で持ち堪えられそうだわ。
怪人なら毎週何体も何体も倒してんだよ。
流石にこれを考えたのは最初の魔法少女じゃねえだろうけど、これだけで俺達を害せると思うな。
「今楽にしてやるから、もっとじゃんじゃんかかってこい」
「「「GUUUUUUU!」」」
◆◆◆
(おかしい、おかしい。どうしてあんなに怪人を送りこんだのに一体も中にすら入れていないんだ)
所は変わって。
少なくともどうにか組織だけは潰さないと自らの命が潰える可能性のある男は、今。
人生で一番と言っても過言ではないほどの焦りに追われていた。
いつもは自信満々であり、それでいて傲慢な男だが、ここ最近はすっかりそんな姿を見せなくなっている。
それは、この男を知るものならここまで絶望した顔をこの男がしていると知ったとき、驚きの声を上げることが間違いないというほど。
自らの主にも事実上の死刑宣告を告げられ、ただえさえもう後に引けないというのに、敵には日本最強が元も含めて二人もいるという始末。
だから合計何百体もの怪人、そして何人ものの下っ端を送り込んだのにも関わらず、それらは全員謎の赤髪の男に倒された。
「黒ローブの野郎を倒した奴とは別人のようだが……どいつもこいつも気にくわない」
男としては、今すぐ全部を投げだして逃げ出したいというのが本音だ。
しかし、そんなことをすれば今も自分を見ているであろう最初の魔法少女の
男は、今まで散々最初の魔法少女に弄ばれた
そう、自分がゴミだと思っている人間と同じような目に遭う訳だけにはいかないのだ。
それでも、怪人たちは裕樹たちの組織に全く通じなかった。
ならば、こうなっては自分であの組織を壊滅させにいくしかない。
心の奥底では、自分がいくらここから抵抗しようとしても最初の魔法少女が遊ぶ人間以下のものに成り果てることは分かっている。
だが、それでも認める訳にもいかない。
自分はあくまでも強者であって、決して弱者と同じにはならないと信じているから。
「まずはあの黒ローブにわざわざ抵抗しやがって黒ローブが引き下がる理由を作りやがった、アイツからだ」
そう言って、男は飴玉のようなものを取り出す。
それは、勿論人を怪人化させる悪魔的なもの。
これを口に入れれば、もしかしたら自分の意識は消えてなくなるかもしれない。
それでも、それは男にとってはこれから味わうかもしれない苦しみを忘れられるあまりにも甘い蜜だった。
「俺がドうなっても、アの組織だけは許さない。俺の安泰を奪いやがっテ」
そのまま、男は飴玉を飲み込む。
その途端に、変質する男の体。
一目で怪人と分かるような黒いモヤにおおわれ、ついでとばかりに
その上、男の持つ魔力量は今までの比ではないものまで膨れ上がる。
そして、怪人となった男は自分の体を見る。
まだ自分の意識があることには驚いていたが、それは、怒りに燃える彼とってはむしろ都合がいい。
後はもう、感情のままに組織に向かうのみ。
先程まで感じていた、恐怖、不安、焦りなどは何処かへ消えて。
男にとって、怖いものはもうどこにも存在しなかった。
ついにここで10万字。
誤字報告、いつも助かっています。