悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました   作:ひぶうさぎ

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ちょっと長め


第二十九話 最初の魔法少女

「ふふ、やっぱりあの子じゃこの組織に対してなんの打撃も与えられなかったか」

 

 

 

 空に浮かび、何もかもお見通しと言わんばかりに下にいる俺達に声をかけてくる少女。

 

 さっきまでの半祝いムードは何処へ消え去ったのか。

 俺達は、すっかり静まり返って空で笑う少女に対して警戒をしていた。

 

 勿論、それは少しだけ離れている玲衣たちも同じようで。

 いつ戦闘になってもいいようになのか少し離れた所からひんやりとした空気が流れてくる。

 

 俺もさすがにコイツ相手にはひと時も油断をするわけにはいかない。

 今までの敵とは違って、コイツ相手は少しでも油断をしたその瞬間に命を刈り取られるかもしれないという恐怖が半端じゃねぇ。

 

 最初の魔法少女については実力も能力も未知数。

 

 普通の敵ならばここまで人数がいるのなら火力でゴリ押すことも可能ではないが、最初の魔法少女がそれでどうにか出来るような存在ないことはこの場にいる全員が理解している。

 

 だからといって、相手が初見殺しの魔法を使ってきても勝ち目はない。

 けれど迂闊に先手を取りに行くのも悪手。

 

 そのため、結局誰も最初の魔法少女に攻撃できない状態が続いてしまう。

 

 

 

 そんな膠着状態を一番最初に破ったのは、やはり。

 

 最初の魔法少女のについて多少知識があるであろう魔法少女《スノウクリスタル》と元魔法少女《ミラーワイト》。

 

 二人の何か示し合わせたわけでもないのに互いに威力を高め合っているような魔法は確実に最初の魔法少女に当たる。

 

 それは普通の怪人、いやさ先ほどの首謀者の怪人でも消し飛ぶ威力。

 

 しかし、相手は最初の魔法少女。

 普通なら一瞬で終わる二人の攻撃を気にしたような様子すらない。

 

 

 

「おっと。なんだ、君たちか」

 

「予想通り、なんも効いてない」

 

「む、結構ボクの全力を出した一撃だったんだけどなぁ」

 

 

 

 勿論、あっちは油断をしている。

 だから今の俺の姿なんて視界の端にもとどめていないだろう。

 

 敵は玲衣達の魔法が直撃しても傷一つすらつかないバケモノ。

 それでも、玲衣達以上に警戒されていない俺なら、とワンチャンにかけるしかない。

 

 防がれたとしても、せめてヘイトだけは俺に集める。

 

 ミラーから聞いた話によると、最初の魔法少女の性格は飽きっぽい子供のようなもの。

 もし組織()()に興味が向いてしまっているのなら、それを俺()()に変えてやればいい。

 

 なんでかは知らないが、組織の人間曰く俺のため時間は短いしわかりにくいんだそう。

 じゃあそれをとことん生かしてやろうじゃないか。

 

 その思いで、俺は出来る限りためをのばした魔法を最初の魔法少女に向けて飛ばしてやった。

 

 

 

「ん? ああ、組織にも面白い子がいるじゃないか」

 

「ッ裕樹!?」

 

 

 

 当然、全く見ていなかった俺の魔法の存在もすぐに気づかれる。

 

 だが。

 

 

 

「……へぇ、ちょっと面白いことするね」

 

「傷一つくらいは、なんとかつけられたか」

 

 

 

 もちろんそんなことは想定済み。

 だから、あえて人があまり使わない、属性を混ぜ合わせるタイプの魔法でひとつお見舞いをしてやる。

 

 相手もこればかりは想定していなかったのか、なんとか頬に一つの傷を入れることには成功した。

 

 とはいえ、別に相手を引かせるような、そこまでの怪我を負わせられたわけではない。

 

 だが、少なくとも……相手の気を引くことには成功したようだ。

 

 

 

「君は……ああ! あの格好つけてた黒ローブを着てた奴を引かせた子かぁ。二つの属性を混ぜ合わせるなんて粋なことをするじゃん!」

 

 

 

 どうやら、咲も玲衣の隣で自分なりに対策をしようとしていたらしい。

 勿論、それもあっちはお見通しだったみたいで。

 

 

 

「そうだな、そこでスノウクリスタルの横で障壁を張ってる君も面白い……うん、決めた、私の空間に招待してあげるよ!」

 

「ッ!」

 

 

 

 そのまま、身構える間もなく次の瞬間には。

 

 俺達はどこかも分からないただ真っ暗の空間に飛ばされていた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 チッ、流石にこんな変なところで孤立するわけにはいかないな。

 今自分が地面を踏めているのかも分からねえ。

 

 最後の魔法少女の言葉からして、おそらく玲衣達もいるはず。

 けれど、右も左も、上も下も分からないここじゃどこにいるかも分からない。

 

 こりゃ、下手に動くのも後から自分の首を絞めることになるかもしれなねえか。

 

 ……と、そんなことは思っていたが。

 

 

 

「あ、あー。一応声はそれなりには響きそうだ」

 

「んん? この声は……裕樹かな」

 

「その声は玲衣か。咲もそこにいたりするか?」

 

「うん、ミラーもいるよ」

 

 

 

 俺の予想に反して、玲衣達との合流自体はさほど苦労することもなく出来た。

 

 一瞬ミラーはいねえかと思っていたが、部屋で見せたような影っぽくなる技ですぐに玲衣たちに合流していたという。

 

 というわけで、俺が一番最後の合流だ。

 

 それにしても、最初の魔法少女は何を考えてこんなことをしたのか。

 考えても仕方がなさそうではあるけどさ。

 

 そんなことを考えながら、今ここにいるメンバーの顔を見てみる。

 

 玲衣とミラーはいつも通り。

 咲は若干不安そうな顔をしている気がするが、多分一番顔色が悪いのは俺だろう。

 

 なんか相手を攻撃したあたりから体がガクガク震えてるんだよな。

 

 

 

「裕樹、大丈夫?」

 

「……ん、ああ。大丈夫だとは、思う、多分」

 

「珍しいね、裕樹がこんなビビってるの」

 

「いや、マジで最初の魔法少女に傷をつけたと思ったら心臓がドクドク言って止まってくれねぇ」

 

 

 

 逆に玲衣とミラーはなんでそんなに自然体でいられるんだ。

 

 思わず、そゆか弱音がこぼれそうになる。

 しかし、それをなんとか堪えて玲衣たちに向き合う。

 

 ちゃっかり心を読んでたミラーにはもう少し頑張れという意味なのか肩をポンと叩かれた。

 

 たまには年長っぽいこともするじゃねえかよ。

 

 ああ、もう、全然ダメだ俺。

 気張りすぎるな、もうちょい集中しろ。

 

 

 

「そうそう、裕樹はそんくらいの顔がちょうどいいよ」

 

「心配をかけてすまん、これからちゃんとやるわ」

 

 

 

 そして、やっとずっと鳴っていた心臓も収まっていく。

 

 だが、忘れてはならないのはここが最初の魔法少女が俺達を呼んだところだということ。

 

 調子を取り戻したも束の間。

 どこから現れたのか最初の魔法少女が俺達の目の前に立っていた。

 

 

 

「あ、ごめんごめん。いい感じの雰囲気の所に邪魔しちゃったか」

 

「……来るな」

 

「久しぶりだね、ミラーワイト。君が()()なるまで人間が意識を保ったまま怪人になることがなかったからいいデータがとれたよ」

 

「ッ! ワタシはこうなってから一体どんな思いをしたかお前は……」

 

「うん、そんなの分かり切ってるさ。人間の心なんて深く考えなくても分かる。……あ、ちなみにこの私は本物じゃなくて分身だよ」

 

 

 

 発している言葉は、聞いているだけで吐き気を催すほど酷いもの。

 

 しかし、改めて目の前に立たれると、やはり体が言うことを聞いてくれない。

 

 そうしている間にも、諸悪の根源は言葉をミラーに投げかけている。

 

 なんだかんだ言ってミラーとは二年ちょっとは付き合っているんだよ。

 

 動けよ、俺の体。

 目の前にとんでもないバケモノがいるからってなんだ。

 

 

 

「だからね、私たちも結構困っていたわけでそこに来た君の存在は……「おい」……ん?」

 

「……さっきから、黙って聞いてりゃなんだその言い方は」

 

「いやいや、私はミラーワイトに感謝を述べてるだけだよ」

 

「俺には、ミラーは全く喜んでいるようには見えねぇけどな」

 

 

 

 勇気を出してみりゃ、意外とそっからは金縛りも解けるもんなのか。

 

 相変わらず正面からのプレッシャーは変わらねぇが、一回やればなんとかなるみたいだよ。

 

 だからさ、ミラー。

 さっきまでの俺以上に青ざめた顔しないで見守っててくれ。

 

 確かに近くは今まで以上に怖い。

 けれども、プレッシャーが多少あった方が盛り上がるもんだって言うだろ?

 

 それに俺には相手に一杯食わしてやるっていう目標もあるからな。

 任しといてくれ、きっとなんとかなる。

 

 

 

 そうして、俺は最初の魔法少女に向き合う。

 おそらく一撃でも受けたら、俺は死ぬ。

 

 それでも、ここで引くわけにはいかない。

 

 そして、それに対して最初の魔法少女は――

 

 

 

「ふ、ふふふふっ、面白すぎるよ、面白すぎるよ君!」

 

 

 

 俺の精一杯の抵抗にただ笑うだけだった。

 

 

 

「なにか、おかしいことでもあるのか?」

 

「いやいや、こんな状況にした仲間? 友達? なんてよっぽど見てきたのに、まだ目に光が灯ってる子は初めてでさ」

 

「だからなんだって話だろ」

 

「それはそうなんだけどね。いやぁ、想像以上の面白さだよ、君」

 

 

 

 その訳を聞いたって、返ってきた返事は俺には理解できないもの。

 

 まあ、俺らとは違う思考回路をしているんだろ。

 諦めてないやつの方が好きだなんてかなり物好きだよ。

 

 そんなに反抗心がある人間が珍しいってか。

 それじゃ、お前が大好物だっていう反抗をまだ見せてやる。

 

 

 

「咲、お前ができる全部のバフをかけてくれ」

 

「えっあっ、でも副作用が強いのも結構……」

 

「いいから、全部頼む」

 

「わかり……ました。その代わり、⬛︎分以内に全部終わらせてください」

 

 

 

 それに対しての咲の返事は……まああれはYESということでいいだろう。

 その証拠に、体の奥底から力が湧き上がってきている。

 

 はは、ここまで強化出来んなら流石に最初の魔法少女にも一杯食わせられるな。

 

 そして、急に自信満々な顔になった俺を、心のそこから嘲笑うかのように最初の魔法少女は見てくる。

 

 

「……一応、もう一度言っておくけれど、私は分身だよ? そんな私に、一体君は何を私に見せてくれるんだい?」

 

「……なんて言えばいいんだろな。……でも、強いていうなら、お前が弱者だと思ってる人間の逆襲、かな」

 

 

 

 まあ、口先だけじゃないってことは今から見せてやるからさ。

 自分を傷つけてくれるような人間を望んでるんだろ?

 

 なら、この一発を食らってくれ。

 咲が何分以内に終わらせろって言ってたか良く聞こえなかったからな、一発で決めに行く。

 

 別に一点集中じゃないくていいからな。

 アイツの体全体を焦がす感じでっと。

 

 

 

「どうせ私にかすり傷をつけるくら……ッ!?」

 

「そんな油断をして受け身も何も取ろうとしねえからだ、ざまぁみやがれ」

 

 

 

 今のは、別に二つの属性を組み合わせるとかそんな小細工をしていない。

 ただ、咲によって強化された俺の魔法をぶっ放しただけ。

 

 だが、自分が傷つけられるなんて口では言っていても本心で思っていないコイツには、十分だったみたいだ。

 

 どうせ痛みなんて碌に経験したことがないだろうしな。

 黒焦げとまではいかなかったが、思っていたより苦しんでくれて助かるよ。

 

 

 

「分身とはいえ、私のことをこんなにコケにする人間は初めてだよ」

 

「自業自得だろ」

 

 

 

 ……ちょっとまずいかもしれねえ。

 煽りが意外と効くのがそもそも想定外な上、相手の傷はもう治りかけている。

 

 治りにくいように肉を抉るつもりだったんだがなあ。

 

 相手の表情は……あー。

 こりゃキレてるわ。

 

 

 

「へぇ、やっぱりそこまできたら生意気って言ってもいいかもしれないや。……まあ、ちょっとはびっくりしたけれどそれだけか。じゃあ死んでね」

 

 

 

 最初の魔法少女はまた転移でもしたのか俺の目の前に立っている。

 

 そして、どう見ても魔法を使う用のステッキを俺に向かって振りかぶってーー

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