悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました 作:ひぶうさぎ
裕樹が外で電話している間、少女はよく分からないと言った顔でソファに座っていた。
突き放そうとしているのか、それとも親切にしようとしているのか。
少女は、言動がこれほどまでに一致していない人物に出会ったことがない。
その上、ここまで丁寧に接してもらえたのは本当に久々だったのだ。
だからこそ本当に嬉しいのだが、それと同時に裕樹のチグハグさも気になっている。
実は、彼女こそが裕樹たちが話題に挙げていた魔法少女だ。
活動名をピンクマジカルと言う。
少女にとって、裕樹の行動はあまりにも不可解でしかない。
悪の組織の構成員だとは理解することは出来た。
しかし、少女を一般人だと勘違いしているとしても、待遇があまりにも良い。
そもそも、魔法少女として活動していた時は、酷い扱いを受けていたのだ。
三年前にキラキラした魔法少女に選ばれたと思ったら家族から離され。
そのまま拾われる前まで劣悪な環境で暮らしていた。
時々政府の役人が来るとはいえ、生活環境を変えようとすることはなく。
……そのたびに
だからこそ、話しぶりから悪人だと分かる裕樹に拾われた時は本当に怖がっていた。
あの時より酷い扱いを受けるんじゃないか。
そのとき自分は耐えられないんじゃないか。
最悪のことばかりずっと考えていた。
しかし、現実はそんな想像とは真逆で。
むしろ魔法少女として政府の元にいた時よりずっと優しくしてもらえたのだ。
この三年間で、自分が優しくされた事は数えるほどしかなかったので初めは困惑していた。
しかもその人物が思っていたよりずっと変な人物だったので、その困惑は現在進行形で加速している。
危害を与えようとすることを言ってくるのに実際は親切にしてくる人物になんて会ったことがない。
むしろ、あれで自分が悪いことをしていると感じている裕樹に対して引いていたと言っても良い。
勿論、裕樹は酷いことをしてやると言われたのにも関わらず料理を食べさせてもらった時の少女の呆れ顔には気づかなかったが。
それに気付いたといても裕樹は謎の思考回路で自分の都合がいいように見方を修正していたに違いない。
ただ、それでもたった一日と少しだけで少女は感謝の念を抱いている。
今は少女が魔法少女だとすら気づいていないが、そのうち気づくことになるのは確実だ。
「私が魔法少女だって知っても優しくしてくれるのかな……」
少女が感謝を超えた、恋愛なんかよりよほど重い感情を抱き始めていることを裕樹はまだ知らない。
◆◆◆
家に帰ると、少女がお菓子をちゃっかり食べつつソファでくつろいでいた。
……ちゃっかりしてやがる、その菓子うめぇんだよ。
「いい感じに休憩できたか?」
「……はい、ありがとうございます」
「そりゃ良かったよ。それじゃしばらくテレビでも見といていいぞ」
「最近、テレビとか見てないので今の時間何があるとか分からないです……」
こいつ、テレビとか見ないのか。
マジかよ、あんま電子機器に触れてない気がする俺でもどの時間帯にどんなのがあるのかくらいは分かるぞ。
後輩はそんなん分かんないって言ってたけどな。
絶対アイツの方がネットやらなんやらに触れてるはずだよなのになぁ。
「そうだな……とりあえずニュースでも見るか?」
「ニュースですか?」
「この時間帯、まだ朝だからニュースばっかなんだよ。ニュースが終わったらバラエティ番組も始まるけどな」
そんじゃ、テレビをつけてっと。
お、今は魔法少女の話題か。
そういやさっきこの地区の魔法少女の行方が分かんなくなってるって聞いたな。
でもな、魔法少女ってすげえよなぁ。
魔法に関してあの集団に勝てる奴はなかなかいねえよ。
ただ、魔法少女ってほとんど十代だろ?
そんな奴らがなんであんなに魔法を上手く使えるんだが。
えげつない訓練とかしてそうだよなぁ。
俺はそういうところに詳しくないけれど、実際はどうなんだろうか。
もし俺が思うような訓練をしてたら、ちょっと国を今後信用することはないな。
流石にな、十代の女の子を乱雑に扱う国なんて中々いないだろうし杞憂で終わると思うが。
「……先輩だ……」
「どうした?」
そうしてテレビをつけていると、少女が変な反応を見せる。
今映ってんのは……ああ、日本で一番強いっていう魔法少女か。
こいつ本当に強いんだよなぁ。
何年か前までは太刀打ちできたけれど、今やったら良くても痛み分けで済むくらいじゃねえの。
「……あ、いや。何でもないです……」
「そう言われるとこっちは余計気になるんだが……」
「すみません……で、でも本当に何でもないので」
……イマイチ良く分からねえが、この様子だと魔法少女達、特にさっきテレビに映っていた魔法少女達となにかしらの関係があるんだろうな。
ぶっちゃけ、友人関係だったのならめちゃくちゃ聞きたい。
魔法少女って国が担当してるから情報が全然流れてこねえんだ。
ただ、少女の様子が変だしやめておこう。
そんなビクビクとした目で見られると俺も辛えよ。
「……テレビじゃないので休憩するか?」
「そんな気にしていることでもないので……大丈夫です……」
あー……大丈夫じゃねえこれ。
マジでどうすりゃいいかなぁ。
魔法少女関連の話題は天気予報と同じくらいいつやってんのか分かりやすい。
で、それがいつかって言うと……大体どの局も今やってんだよ。
事情が良く知らなかったとはいえ、ちょっと悪い事をしたな。
かと言ってテレビを消してもやることねえし……。
「わ、私は全然気にしてないので!」
「……嘘でも何でもなく、別にテレビに拘らなくていいからな。一応今の時間は気分転換が目的なんだ」
「これくらいだったらか大丈夫ですから!」
大丈夫と言われてもなぁ……その言い方は大丈夫じゃないやつなんだよ。
……今日はするつもりなかったんだが、ちょっと家の掃除でも手伝ってもらうか。
でももう朝外の掃除を軽くして来たばっかだしな……。
とりあえず、少女に聞いて、掃除が嫌だと言われたら別のを考えることにしよう。
まずは魔法少女のことをアイツの頭から忘れさせねえと。
それにしてもな、本当に何があったんだ?
魔法少女なんて、普通に生きてきた人間からしたらワクワクやらなんやらを与えてくれる存在だと思うんだが。
まあ、俺には魔法少女にはちょっとした苦い思い出が一つだけあるからそんなワクワクするもんでもないんだけどな。
少女に聞いてない以上、変に考えるのもアレか。
あっちから切り出されたらその時話を聞いてやれば良いだけだ。
「もっかい掃除でもするか? ちょっと気分転換しても良い気がするんだが」
「いや、私はテレビで楽しめますし……」
「汚れを落としているうちに心の引っかかりも落ちるぞ、多分」
「……それじゃあ、ちょっとだけ」
というわけで、とりあえずの気分転換だ。
風呂の時間にはまだ早いが、んなことはどうでもいい。
ちょっと押し切ってしまった感はあるが、一応は乗ってくれた。
それじゃあ、汚れを落とした時が一番気持ちいい風呂掃除に招待してやるぜ。
余計なことを忘れて全然取れねえしつこい汚れを一緒に落とすとしよう。
俺が昔
殆どの汚れは頑張れば落ちるはず、知らねぇけれど。
「お〜、意外と拭くだけで取れますね」
「そうなんだよ、よほどのしつこいやつ以外は意外と頑張んなくてもどうにかなるんだよな」
「ていうか元々めちゃくちゃ綺麗じゃないですか!」
「そうか? こんなもんだろ」
よし、まあまあ元気になっている。
やっぱり掃除は他のことを忘れられる良いもんだぜ。
地味に疲れるし、拷問としても使えるぞ。
ちなみに少女が風呂を綺麗と言っているが、それは多分普段から魔法でこっそりコーティングしているからだ。
こうすると汚れがつきにくい、というかまずつかない。
たまに怪人関連の危なそうな汚れはつくが、それは魔法でどうにかなる。
だから今も少女がとっているのは怪人特有の禍々しいモヤとかそんなんのはずだが……って!?
なんでコイツその汚れを平然ととってるんだよ……。
今気づいたけど俺が取れなかった厄ネタ級のやつもサラッととってやがるし。
「普段から綺麗にしてるんですか?」
「ま、まあそうだな」
「こんな綺麗なお風呂初めて見たかもしれないです」
「そりゃよかった」
……絶対コイツ意識せずに常時魔法展開してるだろ。
じゃないとあんなもんとれる訳ねえんだよ。
ちょっとした気分転換として提案しただけなのに恐ろしい事を知っちまった気がする。
何だよ、魔法を常時展開してる一般人って……。
冗談抜きで本当に怖い。
そもそも、魔法って一発ぶっ放すよりも継続して発動させる方が大変なんだよ。
頑張れば俺でも半日くらいは持つと思うけれどさ、流石にずっと魔法に意識を集中させねえと無理。
それをコイツは特に意識をした様子もなくやってる。
マジで何なんだよコイツ。
「……これでちょっと残ってた汚れも取れたんじゃないですか!?」
「お、おう……」
「掃除ってこんなにスッキリするんですね!」
まあ、一度魔法少女のことを忘れさせるっていう目標は達成したしとりあえずはいいか……。
世界って広いわ。
こんなバケモンがいるなんて想像したこともなかったよ。