悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました 作:ひぶうさぎ
俺が気を失った後、咲曰くちょっとしたことがあったらしい。
どうやらあの最初の魔法少女は分身らしく、本物は違うところでぬくぬく俺達の戦いを見守っていたとか。
……そういや、なんかそんなことも言ってた気がする。
どうしてあんな強さでただの分身なんだ。
意味分かんねえ。
途中からもう倒すこと以外考えてなかったから忘れていたけれど、あれで本体じゃねえんだよなぁ……。
……はぁ、マジでさ。
これで一旦おしまいかと思っていたんだがなぁ。
まだまだ、最初の魔法少女
「裕樹、本当にありがとう」
「いや、たまたまですよ。相手も本人じゃなかったみたいですし」
「……それでも、あの。最初の魔法少女だよ!? 凄いとしか言いようがないよ!」
そんなこんなで、俺は今。
いつも通りにボスの部屋に報告をしにきている。
珍しくボスもかなり素が出ているから、それくらい今回の件は色々覚悟することがあったのだろう。
まあ俺には人の内心なんて読めはしないが。
色々とこの人には恩があるからな。
そのうちの一つを返せた気がする。
分身だったとはいえ相手の興味が俺達に向いていなかったら大変なことになっていた。
本当に、誰一人欠けることなく帰れてよかったよ。
そして、ボスに挨拶をして外を出る。
しかし、いつもなら気分が良ければスキップもする足取りが最近は少し重い。
…….そう。
いつものことではあるのだが、最近咲が異様に重いのだ。
咲だけならまだしも、それなりに重いミラーも結局俺の家に住むことになってちる。
それに、そんな彼女達を止めてくれると思っていた玲衣の様子も……。
そんな感じで家に帰るとそこから出させてくれないのだ。
特に、咲が。
確かに、あの戦いの最中になんか恐ろしいことは言ってたけれども。
あの場面で言われちゃただの俺を落ち着かせるための冗談だと思うに決まってるよな?
現に、それを実行されてるわけではあるけれど。
◆◆◆
「裕樹さん、お帰りなさい! それで今日はどうやってこの家から抜け出したんですか!?」
「いや、ここ俺の家だし」
「……もしかして、忍者屋敷みたいに扉に何かカラクリがあったり……?」
「そんなもんは流石にない」
帰ってきて早々。
どう見ても俺が帰ってくるのに合わせて自分もドアを開けたようにしか見えなかったが、咲によると
うーん……そんなこともあるもんなんだな。
結局何処かに行く予定もやっぱりなくなったと言っているし、どう考えても偶然じゃないだろうけどなぁ……。
「あ、裕樹早かったね」
「ん、おかえり」
そうしてリビングに行けば、当たり前のようにいる玲衣とミラー。
玲衣はソファーでくつろぎながら、ミラーは床で寝そべりながら。
すっかり俺の家に馴染んでいやがる。
玲衣に至ってはちゃっかり元の住んでたところから色々持って来たようで、漫画やらゲームやらがこの家に増えた。
ただ、そこまで狭い家でもないから別に多少人が増えたところで問題はない。
元々姉も親もいた家なわけだし。
ちょうど四人までなら住めるような間取りになっているからな。
とりあえず、俺の家なのに何故か俺の肩身が狭くなっていることは置いておいて。
「あ、そうだ裕樹。組織のところの店が良い感じに売上伸びてるそうだから今度スノウクリスタルとして驚かせに行っていい?」
「やめろ」
「ワタシはいいと思う」
「マジでやめろ、俺の旧友の心臓が持たない」
「わ、私はスノウさんを見れるなら嬉しいですけれど……」
こうやって、わちゃわちゃやれるっていうのは中々楽しいことだよ。
咲がこの家に来る前は、こんなに家に人がいるってこと自体なかったからな。
呼ぶとしても旧友とかは予定が全然合わねえし、後輩は気分的に呼びたくねえしって感じで中々呼べる人間もいなかった。
それで一人でただボーッと過ごしているよりかは何十倍も楽しい。
人間、一人が好きって性格の奴でも人がいりゃ楽しいって感じるもんなのかね。
本当に、俺の元気づけてくれた咲には結構感謝している。
ただ、これを言ったら言ったでまた面倒くさいことになりそうだから本人には絶対に言うつもりはない。
「裕樹、素直になるのも大事」
「いいんだよ、別に。……後咲には絶対に言うなよ」
「口、もしかしたら滑る」
「言わないでくれよ……?」
だが、そんなことを考えている時に限って近くにいるのがミラー。
しっかり心の声を読んでいたようで相変わらずの表情が読めない顔のまま俺のことを揶揄ってきた。
表情は読めねえけど、絶対にコイツが心の中で笑っているってことだけは分かるぞ。
どうして俺が言いたくねぇことを考えていることに限って近くにいるんだ。
何かそういう空気を察知する力でもあるんじゃねぇの?
ちなみに、最近のミラーは表情がより分からなくなったかわりに行動に感情が出やすい。
例えば、回は無表情でも俺から離れていく足取りがスキップするかのように軽やかだろ?
でも、今まで頼りにしていた些細な顔の動きがなくなったのは結構痛手ではある。
……あ。
ソファに行ったミラーが爆速で玲衣の膝を枕にして寝やがった。
「え〜っと、ボクはどうすればいいのかな?」
「諦めろ」
「ええ!? そう言われてもミラーって一度寝たら全然起きないからこうされたらボクも動けないんだよ?」
そう言って、玲衣は苦笑しながらこっちを向く。
でもな、玲衣。
その割にはお前の顔、いつも以上にニヤけてるんだぞ。
まったく、あいつもあいつで素直じゃない奴だよ、本当に。
久しぶりにミラーに会えて、久しぶりに共闘出来て嬉しいんだろう。
その気持ちは分からなくもないけれど。
俺だって久しぶりに玲衣に会えた時は結構嬉しかったし。
その代わり、このこともしばらくは言わないでおく。
これを言ったら、多分玲衣が全力で自分はそんな単純じゃないって言ってくるだろうから。
「むっ、裕樹が何かボクに対して失礼なことを考えている気がするよ?」
「気のせいだ、気のせい」
「うっそだ〜、これでも付き合い長いんだからね」
「……じゃあ言っていいか?」
「それはダメ。多分恥ずかしいことの気がする」
なんだ、分かってんじゃねえか。
これで渋ってたら昔の恥ずかしいエピソードと合わせて咲の前で語ってやろうかと思っていたのに。
ていうか、もう十二時かよ。
そろそろ昼飯の準備をしないといけねぇ。
が、いつも手伝ってもらっているはミラーに抱きつかれているから無理か。
いつの間に膝枕だけから抱きつかれるところで行ってんだ。
そんじゃ、ちょっと久しぶりに咲に手伝ってもらおう。
ここ最近は玲衣とばっかりだったしな。
今日は咲とそれなりにいいもん作っていくぞ。
ちょうど咲も飲み物でも取りにきたのかキッチンの方へ向かってきているしな。
「お、いいところに。咲、今から飯作ろうと思ってるんだが、一緒に作るか?」
「は、はい! あ、でも私料理苦手ですけれど大丈夫ですかね……?」
「そんなん言ったら俺も苦手だから全然大丈夫だ」
「裕樹さんは結構上手いと思うんですが……頑張ってみます!」
良かった。
ここで断られていたら心にヒビが入ることになっていたよ。
それじゃ、具材をいつもより豪華にしたカレーライスを作るとしよう。
結局いつも通りな気がするがとりあえずはいいだろ。
何事も普通が一番だ。
玲衣から教わった料理は今度な、今度。
別にその作り方を忘れかけてるとかそんなんじゃねえから。
ただ単純にカレーが食いたいっていう気分なだけだから、な?
二人で食材を切るとスピードが違うわ。
単純計算で作業効率が二倍からな、やっぱり一人でやるより早く終わるんだよ。
……そうしてると米が炊き終わるのが遅すぎるんじゃないかって?
そこは大丈夫だ、ミラーが何故かもう炊いてた。
実は切り始めてから気づいたんだけどな、慌てて炊こうとしたらもうすでにいい感じにた炊き終わるように設定されていた。
あいつ、予知能力も持っていたりするんじゃねえか?
「あの、裕樹さん」
「ん、なんだ?」
すると、ここで隣でも野菜とかを切ってる咲から声をかけられる。
内容は……さっぱり分からねぇ。
けれど、重要そうだな。
「今日まで言えてなかったんですけれど。実はあの日、最初の魔法少女さんとは多分関係ない人達に襲われて倒れてたんです」
「てっきり最初の魔法少女陣営の誰かにやられたんじゃねえかと思ってたよ」
マジか。
てっきり最初の魔法少女の企みの一つかと。
最初にその話題が出た時にはもう頭の中で勝手に勘違いしていたよ。
そして、そのまま咲は言葉を続ける。
「私も、ついこの前までは最初の魔法少女さんの人達かと思っていたんですけれど、その。私を襲った人が『隣の組織よりも先にその地区の魔法少女からだ』みたいな言っていたことを思い出して……」
「……なるほど」
「すみません、ご飯の準備中にすることじゃなかったですね」
「いや、言ってくれて助かった、ありがとう」
ーー咲を襲ったという相手。
それはおそらく。
俺達と敵対していて、
まさか咲を拾った本当に最初の頃に考えていたことが本当だったとは。
となると、やはり敵には魔法少女をも倒しうる人間がいるってことになるな。
それでも、最初の魔法少女には及ばないと思うとかなり楽に見えてくるが。
最初の魔法少女を分身とはいえ倒した俺達なら、次ソイツらが咲を襲ったとしても何とかなるんじゃねぇかなぁ。
「あの、裕樹さん? すみません、やっぱり今言うべきことじゃなかったですよね……」
「いやいや! そんなことはないぞ? 最初の魔法少女に比べるとって考えてただけだ」
「……また襲われたらどうしようかと思っていたんですけれど、言われてみれば私達、最初の魔法少女さんの分身を退けてるんですよね」
「そう、だからなんとかなるはずだ」
これ以上話してると手元が狂いかねない。
ということで、まだ切っている最中の野菜達にもっかい集中しなおす。
まあ、最初の魔法少女に比べたらな、その他の敵なんて急に下に見えてくるだろ。
だから、しばらくはどこからちょっかいをかけられたとしても何とかなる気がする。
俺は、また野菜を切ることに集中し始めた咲を見ながら、そんなことを考えたりした。
それと同時に、ずっとこうやって過ごせれば良いな、とも思いながら。