悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました 作:ひぶうさぎ
ちょっとした区切り
後輩は今度どつくと決めてから、十数分。
どんなことを仕返しに使おうかと考えているうちに、自分の家が見えてきてしまった。
それにしても、家から十数分しかない場所に怪人が発生しているっていうのは中々物騒だよな。
これが生まれた時からの当たり前とはいえ、改めて考えてみれば……異常……なのか?
何が普通で何が異常なのかも分からねぇ。
他の地区は、どんな感じなんだろう。
それだけは少し気にはなっている。
さて、少女はちゃんと起きているのか。
俺が任務に出掛けに行った時はまだ寝てたんだよな。
今日の今日までずっと六時とかその辺に起きてたからまだ起きてないと思うけどな。
「よっ、起きてるか?」
そんな事を思いつつ、家のドアを開ける。
しかし、いつもなら速攻で帰ってくる返事がない。
これは流石にまだ寝ているだろうな。
となると、寝室にいるってことだ。
ただ、まだ飯を食う時間じゃあないから無理に起こす必要はないか。
それじゃ、俺はとりあえずのんびり用意をしながら待つとしよう。
今日の昼飯は何にしようか、人に料理を振る舞うなんてことをするのが久しぶりすぎて毎日大変なんだよ。
「あ、すみません寝てました……」
「お、起きたか。ちょうど昼飯の用意が終わるくらいだぞ。良いタイミングで起きてきたな」
そして昼飯の時間が近づいてきた頃、やっと少女が起きてきた。
拾った次の日とかに比べるとかなり眠そうな顔をしている。
体調が悪そうということはないが、ちょっと気になるな……。
「今日の朝、寝れなかったのか?」
「そういうわけじゃないんですけれど、ちょっと眠くて……」
「調子が悪かったりしないか?」
「それは、大丈夫です」
「良かったよ」
ま、元気であるならば別に問題はないか。
何かに悩んでいるような様子は時折見せていたが、それはそのうち話してくれるだろう。
それにしても、一週間でコイツも家に馴染みやがった。
相変わらず拷問は効果が無さそうだし、もうしばらくこの家にいるんじゃねえか?
そもそも、こいつは親のことも何も話そうとしないからどういう家庭で育ったのかも分からねぇんだよ。
何度も言うが、拾ったのは俺だから当分面倒は見るつもりだ。
「あの、今日のご飯の準備を手伝っても良いですか?」
「ん? ああ、それくらいなら別にいいぞ。むしろ助かるくらいだ」
たまにこうやって手伝いに来てくれるし、こっちとしても助かっている。
いつも一人でやっていたから、誰か
ていうか、俺が作る料理で本当に大丈夫なのか?
俺の料理は他のやつが作るもんより絶対にマズいと思うぞ、自慢じゃないけど。
この少女がこの前も美味そうに食っていたのが心から不思議でたまらない。
しかも痩せ我慢じゃなくてマジで美味いと思ってそうなんだよなぁ……。
「今日は何を作るんですか?」
「カレーにしようと思ってる。誰が作っても大体マズくならないからな」
「私はあなたの作るご飯は美味しいと思うんですけれど……」
「そう言うのは俺の知ってるやつだとお前くらいだよ、他は全員マズいって言うぞ」
「えぇ……絶対美味しいですって!」
ほらな、嘘をついているような感じもないしこいつは心から美味いと思ってやがるんだよ。
嬉しいは嬉しいけれど、俺の料理より美味い飯なんて腐るほどあるだろ。
それはそれとして、せっかく手伝うって言ってくれてんだからしっかり手伝ってもらおう。
「あ、それじゃ白米頼むわ、多分冷蔵庫の下の方に入ってるだろうから」
「この袋ですよね?」
「そうだな。で、ちょっとこの容器で米洗って炊いといて……って出来るよな?」
「失礼ですね、ご飯くらいは炊けますよ!」
いや、そうは言われても拾った当初から色々と不器用な匂いが漂ってんだよな……。
……本当に、炊けるのか?
でも、洗って炊飯器にぶち込むだけだから大きな失敗はしないか。
俺は、ライスじゃなくてカレーの方を作って行く。
カレーライスは野菜を程よく消費したいときによく作るから俺でもそれなりのもんは作れるぞ。
この前後輩に俺の最高傑作を作って食わしたら直ぐにマズいって切り捨てられたけどな!
あれは中々効いた、もう少しなんか言葉を選べなかったのかよ……。
俺からしたらかなり良い出来だったんだよ。
あいつがツンデレだと思いたいが、そんな都合のいいことがあるわけもなく。
ただあいつが俺みたいな下っ端じゃ想像できないくらいのいいもんを食ってると信じることしかできない。
……ていうか、あいつも下っ端じゃねえか。
じゃあ味覚が終わってんじゃねえの。
「こんな感じで良いんですよね?」
「よし、問題ないな」
「私だって頑張ればできるんですよ」
「まだ初めて会ってから一週間なんじゃねえの……?」
「それでも私のこと舐めてますよね!?」
元気だな、うん。
拾った時と比べると意味が分からねぇくらい元気になってやがる。
はじめに拾った時はずっとビクビクしていて俺が話しかけるだけで体を震え上がらせていたっていうのに。
たった一週間でこんなに懐かれてしまった。
「完成させるまで座って待ってろよ」
「分かりました! でももうちょっと時間がかかっちゃいませんか?」
「そもそも飯が炊けるまで時間が結構あるけどな」
「そう言えばそうでした」
「その辺のもので時間を潰しててくれ」
◆◆◆
……よし、出来た。
やっぱカレーライスは慣れたらある程度のクオリティは出せるな。
料理が苦手な俺でもまあまあな出来ををいつでも出せるって最高だろ。
「出来たぞー、ってずっと座ってたのか?」
「あ、はい……」
「どうした? さっきまでもう少し元気だっただろ」
そして、作ったカレーをテーブルに持っていったのだが、どうも少女の表情が悪い。
さっきまで元気だったはずなのに、声にも覇気がない。
俺がカレーを作っている間に何があったんだ。
人のテンションがこんなに上がり下がりしてるの見たことねぇよ。
「さっきまで元気じゃなかったか?」
「いや、少し変なことを考えちゃって、それで」
「俺でよかったら話を聞くが……」
「今は、とりあえず大丈夫です」
そういえば、こんなことが前にもあった。
この前のコイツの様子からして、今回も多分魔法少女関係だろう。
前は風呂掃除で忘れさせたが、今日こそは吐き出させた方がいい気がする。
今のままだと溜め込んで、その後また色々考えて今みたいなことになるだろ。
悩みを抱え込むと結局ろくなことにならねんだ。
程度によっては怪人化とかも普通にありえるしな。
「もしかしたら全部言ってみた方が楽になるかもしれないぞ。とりあえずでいいから俺に言ってくれないか?」
そう言うと、少女は真剣な表情をして考え始める。
コイツにとっては重要そうなことだし、無理強いをするつもりはないが、どうだろうか。
すると、何かを決心したような表情をする少女。
そのまま、口を開いて俺にある質問を投げかけてきた。
「……あの、この一週間気になってたんですけれど、どうして私をここに連れてきたんですか……?」
思い返せばまだこいつに拾った理由は言ってなかったな。
なんならついさっき後輩に、理由を言うのを渋っている。
知り合ってから一週間で言うことではないと思うが、悩んでいるようだし、これくらいはまあ言ってもいいか。
「まあ、そうだな。お前みたいな奴が昔知り合いにいたんだよ」
「私みたいな?」
「そうだ。ま、詳しくは言わないけれどな」
「気になるって言っても……?」
「まだ知り合ってから一週間の奴に言うもんじゃないんだよ。これでも妥協してる」
「そうですか……」
個人的に、あまりこのことを広めたいとは思わない。
俺の一番の親友だった奴のことだし、なりよりあいつ自身から
とはいえ、その足掛かりをもう目の前の少女に言ってしまった。
自分は、思ったよりもずっと口が軽い人間だったみたいだ。
こういう俺の性格も分かってて、アイツはあえてあんな強制しない言葉を使ったのかもな。
「でも……本当にそれだけが理由ですか……?」
続けて少女は聞いてくるが、本当に俺の理由はそれだけだ。
それ以上の理由は、ない。
ただ、もし仮に。
自分でもまだ気づいていない特別な理由があって、それに後から気づいたとしても。
それをコイツに言うことは流石にないだろう。
「なにもない。たったそれだけの理由だよ」
「本当に、本当にそれだけなんですか……?」
「そうだ」
そこまで言って、軽く息を吸う。
本当に、俺にとってこいつを拾ったのは、アイツにダブったからっていう理由でしかない。
しかし、目の前の少女はこの答えじゃ納得しないようで、さらに言葉を続けようとする。
「……それは、私が魔法少女だとしても……それだけの理由なんですか?」
……急にぶっ込んできやがったな。
何だよ、その言い方。
それはもう自分が魔法少女だって言ってるようなもんじゃねえか。
……じゃあ、行方不明の魔法少女って奴はお前なのか。
「もしかしてピンクマジカル言う名前だったりするのか?」
「はい。あくまでも、もしそうだったらですけどね」
「そうか。別にだからといって別に俺に心変わりとかはないが……」
「……え?」
「お前が何であろうが俺が拾ったって事実は変わんねえんだ。だからそれを放り投げたりはしねえよ」
「本当……ですか?」
「勿論」
ていうかコイツ魔法少女だったのかよ……。
それならあの魔法を常に展開してるのとかも納得できるけどさぁ。
それにしてもあれヤバいだろ。
もしかして、コイツが悩んでたのって魔法少女だからそれがバレた時どうしようかっていうことかじゃねえの?
そんなもん俺にとっちゃくだらない悩みだ。
まあ、コイツにとっては凄く悩むことだったんだろうけどな。
魔法少女という職業は好きじゃないし、まるで洗脳されているかのように悪を許さない奴も嫌いっちゃ嫌いだが、俺から見た
そんな奴に必要以上に何かをすることなんてないよ。
「そういや、まだ名前とか聞いてなかったな。タイミングが良さそうだし今更の自己紹介でもするか?」
「……あ、そういえばそうでした」
「俺からか、渚裕樹だ。感づかれてると思うがいわゆる悪の組織ってとこで下っ端をやってる」
「えっと、ピンクマジカルって言います。咲って呼んでくれると嬉しいです」
「それじゃ、今日から改めてよろしくな」
「はい! よろしくお願いします!」
いい感じにまとまって良かったよ。
家に魔法少女がいるっていうのは個人的に怖いが……。
「あ、カレー冷めちゃいますよ、早く食べないと!」
まあ、これからの生活は、決して悪いものにならなそうだ。