悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました 作:ひぶうさぎ
本日1話目です
結局、あれからも咲とボスの手合わせは続いた。
単純に咲が負けず嫌いというのもあるが、それ以上にボスが咲との戦いを楽しんでいて終わらせようとしない。
まあ、そのせいで名ばかりの審判をやらされている訳なのだが……あ、また一つ試合が終わった。
「はい、また私の勝ちだね」
「全然、勝てない……」
ここ数試合の咲は終始押されっぱなしで良いところが一つもない。
おそらくそれは、魔法を使う効率が悪く、魔法の発動が間に合っていないからだろう。
そのことは自分でも分かっているようで、なんとか工夫をしようとはしているのだが、ボスにはまだまだ届いていない。
「どうする? そろそろやめにしようか?」
「もう、いっかい……」
「……いや、私もまだ戦いたいけど、君はもうどう見ても限界だからやめなって」
「できます……やれます……」
やる気自体は残っているようだが、あれはもう魔力が切れかけている。
あの状態でまだまだ余力があるボスとやるのは流石に無茶だろう。
そもそも、こういった手合わせは少し余力を残すくらいがちょうど良いのに。
全部出し切っては本末転倒だ。
「咲、これ以上はやめとけ」
「裕樹さん……」
「ボスはちょっといじめすぎです」
「ははは、魔法少女と戦える機会なんて滅多にないからね、ちょっとやり過ぎた?」
「限界の一歩手前ってとこですかね。ギリギリセーフじゃないですか?」
俺も入ったばかりの頃はボスから直接しごかれた。
今回の咲は限界の
魔力切れって馬鹿辛えんだよ。
身体中はダルくて動かねえし、痛えし。
魔法少女は魔力量が半端じゃないし回復するのも早いからそんなん経験したことないだろうけどな。
「上には俺が送りますんで」
「あ、じゃあ任せるよ」
「こいつはどっちかと後ろで味方をサポートするようなポジションだったんでしょうね」
「前で戦うような魔法少女だったら裕樹でも苦戦はするでしょ? まあ君のことだから勝つだろうけど」
「ははっ、そうかもしれませんね。それじゃあ」
魔力量はえげつないようだから、本当に支援限定とかだったのかもしれない。
明らかに攻撃魔法の効率も悪かったしな。
勿論、この辺は聞いてみないと分からないが、あいにく今の咲は変身が解けてしまうくらい疲れ切っている。
それにしてもピンク色の魔力がどんな系統の魔法だったか全く覚えてねえ。
中々前に出てくるピンク色の奴は見かけねえし、いたとしても魔力弾くらいしか打ってこなかった。
もしかしたら案外珍しいのか?
と、そんな調子で行きも通った通路を通っていると、俺と同じ系統である赤色の髪をした見知った顔が見えてくる。
方向的に、これから訓練所に行くようだ。
「お、裕樹。背負ってる奴は……ああ、ボスに潰されたのか」
「魔力切れまでいかなかっただけマシだよ」
「この娘、最大量は中々だろ? ここまでになるなんてよっぽど効率が悪いか何度も戦わされたかの二択だろうよ」
「残念ながらどっちもだ」
「ちなみに……何回ボスとやったんだ?」
ボスと模擬戦をするっていうのは物凄く価値のあることだ。
一回でも貴重な経験なため、何回もやったと下手に大きな声で言うと組織の中にも一応いる過激派から余計な反感を買うことがある。
そのため俺は小さな声でその回数を伝えた。
すると、俺の旧友はもはやドン引きするような目で咲を見始める。
「えげつねえな……」
「そうだろ?」
「根性は勿論やべえけど、とにかくそれだけやってもまだ少しは残ってんのか」
「しかも支援魔法が得意だって話だ」
「そりゃもっとエグい。デバフもバフもかけ放題じゃねえか」
……話しながらだと、余計咲の規格外さを
感じるな。
そして、その調子で軽く喋った後でなんでもない雑談を少しだけしてソイツとは別れた。
今の奴は、俺が組織に入ったばかりの頃によく絡んだ同期。
これと言った活躍しているって噂は聞かないが、実力は組織からも信頼されている。
派手に活躍するというよりかは仲間をしっかり支えるタイプだな。
縁の下の力持ちってやつだ。
それはそれとして、今日はこれからどうしようか。
ここから急に予定を入れられるってことは無いはずだが、何も無いっていうのはどうしても暇になってしまう。
……それにしても、何で俺は魔法少女と仲良くしてるんだろうな。
俺はどこまで行っても悪の組織の一員。
世間からしたら
だから、コイツとの付き合い方も決して近づき過ぎない程度に留めないといけないんだ。
魔法少女と俺みたいなのが近づいたってロクなことにならないのは明らかだし。
実際一度それで痛い目に遭っているんだよ。
「うぅ……」
そのまま、本部を出て街を歩いていると、背中から声が聞こえた。
なんだ、もう起きたのか。
魔力切れが近くなると人間は半日くらいは起きれねえもんなのに。
魔法少女っていうのは回復するスピードも違うのかよ。
神様っていうのはつくづく正義の味方に甘いもんだぜ。
「あれ、なんで私裕樹さんに背負われてるんだろ……」
「あの後お前がぶっ倒れたからだよ。あ、まだ動くなよ。多分それなりに体がダルいはずだからな」
魔法少女なんてもんをやっているのだから魔力切れの怖さは分かっているはず。
それでも、せっかちなのか俺の背中から脱出して自分で歩こうとする。
もがけるような元気があるなら大丈夫かもしれないが、まだ歩かせる訳にはいかない。
さっきは魔力こそ切れなかったものの、なんの拍子に魔法を使って魔力切れになるか分からないからだ。
特にコイツは、魔法を常に発動させようとする癖がある。
そんなやつをはいどうぞと解放するか。
「せめて家までは背負われててくれよ」
「もう大丈夫ですから!」
「大丈夫じゃないから言ってんだっての」
いくら騒いだって、俺は地面に降ろさない。
街中で倒れられることだけは勘弁してほしいんだ。
咲を拾った日なんか周りからの視線が冷え切ってたんだよ。
いや、今も十分冷え切った視線をあちこちから感じるんだけどな?
意識がない奴を運ぶことに比べたら意識がある奴を運ぶ方がよっぽどマシだ。
「次は……裕樹さんにも勝ちます」
「頑張れ、ただ今日は休め。後背中で暴れんな」
「注文が多くないですか……?」
「考えてみろよ、成人男性が背中に暴れてる女子高生背負ってるんだぞ」
「言われてみれば……確かに……」
ふぅ、分かってくれたか。
そんじゃ、このまま背負って家まで帰るとしよう。
どうせこいつとは、いつか離れる日が来る。
だがそれまでは、まあ自分なりに距離が近くなりすぎない程度に付き合うつもりだ。
◆◆◆
咲にとって、裕樹はよく分からない人、という評価だった。
しかし、一緒に行動したりするうちに、裕樹はただのよく分からない人ではないと感じ始めた。
一週間も同じ家にいれば、どんな性格なのかは少しずつ分かっていくものだ。
本来であれば、本当に悪人なのかもしれないと怯えながら接するはずだった。
ただ既にある程度は信用していたので、逆に距離を積極的に詰めていくこととなる。
そして、分かったことは、裕樹には表裏がないということ。
しかも筋金入りの鈍感で勘違いが激しい、とも。
朦朧とした意識の中で、咲は、裕樹が組織の人間に実力を手放しに褒められ、それを自分は下っ端だからと笑って返している所を何度も見ている。
そもそもいくら咲が後方支援専門の魔法少女だとしても、多少魔法を齧っただけの人間に負けるなんてことは万が一にもないのだ。
そんな魔法少女に勝っている時点で、裕樹は魔法を使う人間の中でも十分上澄みにいるのに。
ついでに、やはり裕樹の中身は根っからの善人ということも理解した。
言葉遣いこそ荒いが、咲のことを常に気遣っていた。
そんなところも咲は意外と見ている。
「身体がダルかったりしないか?」
「いや、全然元気です!」
「そうか、信用しないでおくよ」
そうして、気がつくとここまで軽口を言うことのできる関係になっていた。
どちらも特に意識をして話し方を変えたと言うわけではないので、本当に
そんな中、咲は裕樹と話している間は変に緊張してしまっていることに気づく。
恋なのかもしれないと思ったものの、一瞬でその妄想を打ち消した。
だが案外恋という予想も間違ってはいないのだ。
度合いが、咲の本当の想いには届いていないというわけで。
まだ咲自身も、勿論裕樹も気づいていないが、咲は執着に近い想いをを持ちはじめている。
咲がそれに気づくのはもうすぐだろうが、果たして裕樹はそれに一体いつ気づくのか。
(裕樹さんの背中、あったかいなぁ……離したくないなぁ……)
「どうした? やっぱり体が辛いのか?」
これから、咲にはこのように執着心を出すようなものが増えるはずだ。
ただ、当の裕樹はこんな調子なので、当分は気づきかけるというようなことすらもないだろう。
裕樹が咲の気持ちに気づく時、それはもう全てが手遅れになっている頃に違いない。
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今日の2話目は19時7分更新です