悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました   作:ひぶうさぎ

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本日2話目です
情報量が多い回です


第九話 噂をすれば

 咲が自分の中に変な気持ちがあることに気づいてから二日ほどが経った。

 だが、今のところそれによって関係性が変化したというわけではない。

 

 気持ちに気づいたと言っても、どんな気持ちであるのか言語化出来ていないというのもあって、咲が中々足を踏み出せないのだ。

 

 

 

「裕樹さん!」

 

「ん、どうかしたか」

 

「あの…………いや、やっぱりなんでもないです」

 

「なんだよ、別にくだらねえことだって構わねえんだぞ?」

 

「うーん……でも大丈夫です」

 

 

 

 こんな調子で、やはり今日も何かを伝えようとしてやっぱりやめるという咲の姿があった。

 行動にはあと少しで移せそうなものだが、いつも直前で臆してしまっている。

 

 裕樹がもう少しフォローしたりすればなんとかなるのかもしれない。

 

 しかし実際の裕樹はかなり不器用な男で、困っていると気づいても上手く相手の言葉を引き出せない人間だ。

 

 そういう人間なのだからフォローを求めるのは酷だろう。

 一応、裕樹でも気楽に話せて悩みの相談にも乗れる友人がはいたのだが。

 

 

 

「テレビでも見るか……」

 

 

 

 そして、いつも通りの気まずい空気が流れ始めたところで、裕樹がテレビをつけた。

 こういう気遣いは裕樹は得意なのだ。

 

 そんなテレビには、魔法少女の特集が放送されている。

 話題は日本最強の魔法少女、スノウクリスタルについてだ。

 

 

 

「魔法少女ってこんなに取り上げられてるんですね」

 

「まあな、特にスノウクリスタルなんて日本の英雄と言ってもいいしな」

 

「そうですね、あの人は本当に凄いですよ」

 

(そういやコイツは仲が良かったんだだっけか。どう思ってんだろな)

 

 

 

 内容は、そのスノウクリスタルの今までを紹介するという、なんともテレビらしいもの。

 

 その中には、咲が魔法少女を目指したきっかけとなる大災害での活躍も取り上げられていた。

 

 

 

「あれももう八年前か」

 

「あの時のスノウさんの活躍は聞いただけなんですけれど、本当に凄かったです」

 

「ちなみに俺、あそこにいたぞ」

 

「え、ええ!?」

 

 

 

 突然全国に大量発生した怪人。

 東京などの大都市には特に多くの怪人が集まり、日本は大混乱に陥った。

 

 そこで活躍したのがスノウクリスタルというわけだ。

 先程言っている通り、裕樹はその場にいた。

 

 なんなら、怪人討伐を共にしていたものだ。

 当時中継ではちょくちょく裕樹が映っていたようで、あれは誰だとネットで盛り上がったらしい。

 

 テレビの中でも、ちょうど今そのことに触れられている。

 

 

 

『八年前の怪人討伐では、謎の人影と怪人を倒していく姿が印象的でしたよね』

 

「これ、本当に誰だったんですかね。魔法少女じゃないかって私は思っているんですけど」

 

「きっと魔法少女の誰かだろ」

 

「でも私こんな大きな火球を作れる人知らないんですよ。なんなら裕樹さんの火球が私が見たことある中で一番大きかったです」

 

「そ、そうだな……」

 

 

 

 一応、裕樹があの時スノウクリスタルと共に戦ったことは、世間にはバレていない。

 

 だが、咲の何気ない疑問にも反応してしまうあたり、裕樹が嘘をついたり隠し事をするのが非常に下手なのがよく分かる。

 

 本人が一番なぜここまで誰にもバレていないのかと思っていることだろう。

 

 それに勿論、こんな怪しげな態度を取っていれば当然疑われてしまうわけで。

 

 

 

「まさか裕樹さんだったりします?」

 

「まさかんなことあるわけねえだろ。悪の組織の一員だぞ」

 

「でも反応がおかしいですよ。今度の任務に私を連れて行ってください」

 

「えぇ……」

 

「約束ですよ!」

 

 

 

 まさかあの人影は裕樹なのではないかと疑い始めた咲に押し切られ、今度の任務に咲を連れていくことになってしまった。

 

 

 

(マジかよ……どうやって誤魔化せばいいんだ)

 

 

 

 八年間隠し通せたことなのに、今バレてしまっては元も子もない。

 裕樹は必死にどうすればいいのか考えを巡らす。

 

 しかし、こんなことになるとは思っていなかったため、中々アイデアが出てこない。

 

 身から出た鯖でしかないが、これから暫くの間はこのことに頭を抱えることになるのだろう。

 

 

 

(裕樹さんと一緒にいられる時間が増える……!)

 

 

 

 しかし、別に咲は正体などはさほど気になっておらず裕樹と一緒にいられる時間が増えて喜んでいるだけなので心配しなくてもいいのだ。

 

 残念なことに、裕樹がそれを知る術はないので裕樹は意味もなく悩み続けることになるのだが。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうすりゃいいかな……」

 

 

 

 結局、あの後逃げるように用事があると言って家を抜け出しちまった。

 今思えば余計に疑いを深めることになった気がする。

 

 本当にやらかした。

 なんで俺はあれの正体だって言われた訳じゃねえのに変な態度をとったんだ。

 

 あんな態度を取ったら怪しまれるに決まってるじゃねえか。

 

 元はと言えば俺があの場にいたって口を滑らしたのが原因だしさぁ……。

 何やってんだ俺。

 

 かと言って、今から弁解しようとすればそれも余計怪しまれる。

 いっそのこと白状した方が楽ではあるが、流石に、流石にあれは言えない。

 

 この前咲はあの戦いぶりを見て魔法少女を目指したって言ってたし、あれが俺だって知ったら夢が壊れるだろう。

 

 夢っていうのはいつまでも見続けていいもんだ。

 

 しかもあの映像は全国で感動した奴がいるらしいし、あれが俺だって知られたらマズイことになる。

 

 いくらなんでも八方塞がりすぎる。

 

 

 

 ……しかも、よりによって一番今会いたくない相手が前から来てんだよな……。

 

 

 

「どうしたんだい? そんなトボトボ歩いてたら人とぶつかるよ」

 

「はぁ、なんで日本最強の魔法少女サマがこんなとこにいるんだよ」

 

「君に会いに……かな?」

 

「そんな照れた演技をされてもな、こっちはそれに慣れてるからなんて返せばいいか分からねえわ」

 

「えー、ボクは大真面目に言ってるんだけど!」

 

 

 

 相変わらず、人を揶揄うのが好きな奴だ。

 過去の俺はそれを本気にしちまったっていうのに。

 

 お前は一体それで何人をその気にさせてきたんだ?

 俺はそれをモデルとかに活かして欲しかったよ。

 

 お前が魔法少女なんかやってたら全国のガキ共が歪んじまう。

 

 別の界隈では発展することがあるかもしれねえが、日本を守るはずの奴が全国の少年少女の初恋を奪ってどうする。

 

 二度と普通の恋ができなくなっちまうだろうが。

 

 

 

 この目の前にいる水色がかかった髪をしたふざけた女。

 それは中性的で、それでいてどこまでも人を虜にしようとする美貌の持ち主。

 

 コイツこそが魔法少女、スノウクリスタル。

 日本が誇る、一人で数千体の怪人を処理できる圧倒的戦力。

 

 そして、俺の……初恋の相手だ。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、咲ちゃんが行方不明になっているって聞いて心配したんだよ」

 

「お前のことだから結構探したんじゃねえの?」

 

「やっぱりお見通しかぁ。そうなんだよ、咲ちゃんの魔力を追いまくったんだ」

 

「相変わらず馬鹿げた探知範囲してんな」

 

 

 

 こいつに会うのはかなり久しぶりのはず。

 しかし、いざ喋るとなると昔のように接することができるもんだな。

 

 それにしても、最後に会った時から数年も経ってるってのに昔と見た目が全然変わってねえ。

 確かに髪色は前と比べて青が増えているが、とにかく顔が変わってない。

 

 幼いような、それでいて大人びているような。

 相変わらず年下からも年上からも好かれるような顔をしている。

 

 魔法少女のドレスを着ても似合うだろう。

 とは言っても、こいつはドレスを滅多に着ないし、今だって普通にズボンを履いているが。

 

 

 

「なんだよ、ボクの顔に何かついてるのかい?」

 

「いやいや、変わってねえなって」

 

「そこは見惚れてるって返してくれよ」

 

「誰がお前に惚れるか」

 

 

 

 こんなくだらない会話も、こいつとなら楽しく出来るもんだな。

 咲は咲で話しにくいってことはないが、いかんせん接している時間があまりにも短すぎる。

 

 こいつとはもう初めて会ってから十年くらい経ってるから、なんとなくどんなことを切り出してくるのかが分かって話しやすいのだ。

 

 ……初めの頃は、俺もコイツのこんな言動に惑わされてだんだよな。

 今となっちゃただの苦い思い出だが、あの頃が一番平和だったような気がしなくもない。

 

 

 

「それにしてもお前みたいな有名人が変装とかしないで街を彷徨いていいのか?」

 

「ふふふ、これが意外とバレないんだよ」

 

「お前みたいな存在感のやつがバレないなんて有り得ねえだろ」

 

「人間っていうのは思ったより周りのことを気にしないからね」

 

 

 

 そうは言ってもな……今だってすれ違った奴が振り返ってるじゃねえか。

 お前ほど綺麗な顔をした奴なんてそうそういねんだからもう少し気をつけろよ。

 

 こいつがそれで良いって言うなら別に良いんだけどな、どうせ日本でこいつに勝てる奴なんていねえんだし。

 ただのナンパ目的の男どもに負けることはまあないだろう。

 

 ……それにしても振り返りすぎじゃねえか?

 一、二回なら分かるけれど、そんな十数回も振り返るもんなのか……?

 

 

 

 ていうか、今俺らが向かっている方向って……。

 ……まさか。

 

 

 

「GUUUUUUUAAAAAA‼︎‼︎」

 

「……おい。もしかしてここ」

 

「その通りだよ、あの時の怪人が大量発生したところさ」

 

「立ち入り禁止じゃなかったか?」

 

「幻で歩く方向を惑わせた甲斐があったよ」

 

 

 

 人の反応がなんか変だとは思ったが……。

 コイツ、絶対に歩く速さも調整してやがった。

 

 少し散歩に付き合ってやろうと思っただけなのに。

 コイツと関わるとロクなことにならねえ。

 

 

 

「今でもちょくちょく出てくるからね。溢れ出さないようにこまめに倒さないといけないんだ」

 

「初耳なんだが!?」

 

「そりゃそうさ、国が隠蔽してるからね」

 

 

 

 逃げようにも既にここは例の場所の中心部。

 底が見えないほど深い穴から続々と怪人が湧き出ているのが見える。

 

 ……仕方ねえな。

 少し、本気を出すか。

 

 俺は戦うのは嫌いだと自分で思っている。

 だが、たまには色々吐き出したくなる日だってない訳じゃない。

 

 どうやら、今日はそんな日みたいだ。

 

 

 

「……やってやるよ!」

 

「そうこなくちゃ!」




いきなり現れて場を引っ掻き回すキャラが好きです
ヒロイン2人目
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