加速少年の英雄希望   作:月面旅行BD

1 / 28
加速する少年、或いは走り出した少年

 

個性…それは、中国の何処かで生まれた光る赤ん坊をきっかけに世界へと新たに根付いた個性と言う名の常識。

今までの日常を過去にした新たな進化の形と言うべきか。

 

急な進化は人々の倫理観に大きく罅を入れ、個性を使用した犯罪が横行していった…が、それだけでは終わらなかった。

ヒーローの誕生である。

個性を正しい事の為に使用し、悪を挫くまさにコミックの中の存在。世界中で盛大にパラダイムシフトが行われた証だった。

 

名前をつけるとするならまさしくヒーロー時代(エイジ)。これはそんな時代に一人の少年が1人前のヒーローを目指すお話である。

 

 

 

 

☆★☆★

 

 

 

 

端場 走(ハシバ ソウ)15才。

人生初の受験に緊張を隠せないぜ…とひどい人混みを見やりつつ緊張した頭に喝を入れる。

何せ難関の雄英高校だ。あのオールマイトの母校にしてヒーローへの登竜門、その中でも最も高い頂。なんと倍率驚異の300倍超!此処にいる全てがライバル!300分の1しか入れないとかヤバいな!

 

緊張を解そうと思ったのにより緊張して来やがった…

まあ、筆記さえ何とかなりゃどうとでもなるべ。

 

試験会場に着いてからもギリギリまで単語帳やノートをめくっている音をBGMに、気持ちを落ち着かせるのだった。

 

 

 

何とか学科を終えて実技試験会場につくと突然の大声が俺を襲う。

 

「エビバディセイ、ホーオゥ!」

 

ホールの中心に立つ男、プロヒーローのプレゼントマイクの第一声に反応した奴は誰もいなかった。…勿論俺も。

 

「コイツぁシビーなリスナー!!…今回の実技試験のルールを解説するぜぇ!」

 

…要はロボットに点数が着いたハンティングか。

この試験だと対生物特化の個性だと厳しいだろうな…

周りを見渡すと少し肩を落とした様子の奴らもチラホラ見受けられる。…やっぱり何人かは居るよな。

 

ライバルが減ったと喜ぶよりも、試験内容で既に篩に掛けられて合格の目が減ったと嘆く者たちにどうしようもない気持ちが湧いてくる。偶々俺の個性が戦う事が出来るってだけであっち側にいた可能性だってあった訳だ。世知辛いなぁ…

説明を終えてバスで試験場所まで移動する間、誰一人として会話する者は居なかった。

 

 

 

☆★☆★

 

 

 

「はい、スタート!」

 

デカい街並みを再現したという試験場に着いて間もなく、試験官が急に開始宣言をする。

反応が少し遅れたが、開始って事で良いよな?冗談だったらあの試験官を殴って帰ろう!

速攻で飛び出してターゲットを探す。…探すまでもなくワラワラと居るわ。

後ろからライバルたちが近づいてくる気配がある…悪いけどこの場のポイントは全部貰う!

 

個性発動(加速開始)

 

 

視界から色が抜け落ちてモノクロに、音が遠くなって無音になった。

 

ターゲットの動きが鈍くなって手に取るように挙動が解る。

 

手前の3機が此方に何かを向けてきた。さっさと近づいて肘と膝で破壊。…脆く作られてるが拳だと痛める可能性があるな。

 

近場の鉄筋を拾ってフルスイング。…3機破壊。

 

後続のターゲットの元へ一気に近寄って振り下ろし×5回、クリーンヒット。

 

周囲の確認完了、危険なし。

 

加速終了(個性停止)

 

 

視界に色が戻って音が帰って来る。

反動で少し頭が痛いが…今回の試験中は余裕で持つだろう。

 

 

こんな状況を生み出せる俺の個性(加速)

自分を加速する事が可能な発動型。

 

基本的には思考と動作の加速がメインの使用方法になるが、加速している間は何故か通常時と同じ衝撃を受けるし、与えるから加速して殴っても加速しないで殴っても同じ結果になる。

 

…要は無個性と同じ攻撃力って事だ。マジで謎だがそのおかげで最高速度で体当たりしても血の染みにならないからデメリットとも言い難い。

 

また、発動時は色の識別が出来なくなるし音が聞こえなくなる。発動後は少しインターバルを置かないと頭痛が酷くなり最終的に気絶しちゃうデメリットもある。

 

…でもまぁ、強個性だわ。自分でも思う、接近戦に限れば火力不足以外でこれ以上はちょっと思い付かない。…硬いやつ相手だと速いだけの雑魚に成り下がるが。

 

 

 

つらつらと余計な事を考えながらも試験は進み、出遅れた皆も見かける様になってくるとターゲットの取り合いになってくる。…序盤である程度稼いでおいて良かった。

 

特に気になるのはあの、異形型個性(見えない個性)なのか発動型個性(視界を誤魔化す個性)なのか分からない奴がちょいちょい破壊していってるけどアレってちゃんとカウントされてるんだろうか…?発動型だとしたら大分身体鍛えてるんだなぁ、と感心しながらターゲットを鉄筋で粉砕していると試験会場にサイレンが鳴り響く。…お邪魔ロボットの登場か。

 

 

会場地下から馬鹿デカいのが出てきた。…アレはちょっと無理かもな。周りの建物よりデカいじゃん…

 

案の定周りの受験者が一目散に逃げて行く。うーん、逃げるのが正解だとは思うんだけどただ逃げるだけなのはヒーローっぽくないと思うんだよなぁ…一回だけちょっかい出してみるか!

 

幸い速度はそこまで速くないし、遠距離攻撃をして来る様子も無い。ちょっと上まで失礼させて貰うとしよう。

 

個性を発動して視界がモノクロになる。

足元から上がるのはちと厳しいな。振り下ろした左腕から一気に駆け上がる。

頭部カメラが此方を捉えようとゆっくり動くのが見えた。

左腕が引き上げられて振り落とそうとするがもう肩まで来ているので影響は無い。

弱点らしき所が見当たらないため、首の関節辺りに鉄筋を突き刺してみるが…あんま効果なさそうだな。さっさと撤退しよう。

左腕で俺を掴みにくるがもう右肩から横の建物に飛び移ってんだよなぁノロマ!

そのまま2つ程建物を飛び移って個性を解除する。

 

ぶはァッ、頭痛い…緊張して長時間使いすぎたかな?

 

バカでかい奴は急に現れて消えた俺を探すようにその場で建物を壊している。よしよし、こっちには気づいてないな。

 

さて、後は適当に逃げて終わりだ…と思っていたのも束の間。女の子の悲鳴が耳に入ってきた。

 

「足が!?誰か助けて!」

 

咄嗟に声の方へ向かう。多分後1〜2回がこの試験中に使える限度だから個性はまだ使わない。

 

声の主を探すが見当たらない…こちらから声を上げた。

 

「おーい!誰かいるかー!?」

 

聞き間違いって事は無いと思うんだけど…

 

「ここ、ここにいるよ!」

 

すぐ横の瓦礫から声が掛かる。…誰もいないのに声だけは聞こえる?さっきの見えない個性持ちか!

 

「大丈夫か!?俺にはアンタが見えないから状況を教えてくれ!」

 

姿が見えないってのはこういう時に不便だな…っとヤベェ!さっきのデカいのが近づいてきてる!?

 

「左足が瓦礫に挟まって抜けないの!うつ伏せに近い体勢で引っかかってるのは踵ら辺!」

 

「オッケ了解!動くなよ…!」

 

個性発動(加速開始)…!

モノクロの視界で瓦礫に引っかかった左足を見る。砂埃でうっすらと輪郭が分かる様になってきた。上から順番に瓦礫を避けて足を引き抜く。

…デカい奴が此方に気付いた!了承を得ずに申し訳ないと思いつつ咄嗟に肩の辺り(多分)を掴んで担ぎ上げる。そのまま全速力で路地を走り抜けて3ブロック程移動。…限界だな。個性解除!

 

「きゃッ」

 

「だぁっ!頭痛ぇえ!」

 

悲鳴が重なるがなんとか逃げ切れた様だ。…マジでもうやりたく無いなコレ。見えない子を降ろしながら一息着く。

 

「いきなり担いですまん。アイツが俺達に気付いたみたいだったから説明する暇も無かった」

 

俺達を見失って明後日の方へ向かうお邪魔ロボの方を指差しながら謝罪と弁明をする。…担いだ感じこの子すげー薄着だし、いきなり知らない男に担がれて高速移動したら怖いわな。

 

「ううん、助けてくれてありがとう!」

 

朗らかな声が聞こえる。気にしてない様で何よりだ…顔が見えないから目が合ってんのか分かんねぇな。多分この辺かな?って所に目線をやってるが。

 

「どういたしまして。んじゃ、後は頑張って」

 

試験はまだ続いてるし、最後の追い上げをするならさっさと別れた方が良いだろう。俺はもう個性の使用が難しいからここで打ち止めだけど。

 

「あの、怪我とかは大丈夫?」

 

「ん?…あぁ、頭が痛いのは個性の反動だから大丈夫。そっちこそ足は大丈夫そう?」

 

俺に外傷はない。個性発動中の俺に傷をつけるのはこの試験内容じゃ不可能だ。

寧ろ瓦礫に挟まってた自分の方を心配するべきだろ。

 

「うん、ちょっと痛むけど骨折とかじゃないッぽいから」

 

「そりゃ良かった。…まだ試験中だけどポイント取りに行かなくて良いのか?」

 

ライバルとはいえヒーロー志望の同志。悔いの残る結果にはなって欲しくない。

 

「大丈夫!…もう時間無いし、後は待ってることにする」

 

「そっか。俺ももう個性が限界だから後は時間つぶしておしまい」

 

互いに顔を見合わせて…合ってないかもしれないが、笑った。

 

「ねぇねぇ、君の個性って一体どんなのなの?」

 

「秘密。合格したら教えるよ」

 

「えぇ〜!?じゃあ名前は?私、葉隠透。毛糸中学出身!」

 

コミュ強かよこの子…。

 

「端場走。荒坂中学出身」

 

「荒坂中!?あそこって上流階級の子ばっかりって噂だけど本当なの?」

 

グイグイ来る…勘違いする男子多かっただろうな。

 

「周りはね。俺んちは一般家庭だよ」

 

お陰でスゲー気まずい思いをしたもんだ。…母さんの願いだから卒業まではつきあったけどこれからは俺のやりたい事をやらせて貰う。

 

 

少し暗い気持ちになった所で試験終了のブザーが鳴った。

 

「お、終わったみたいだな」

 

「だね〜」

 

頭痛も引いてきたし、さっさと集合すんべ。

 

「んじゃ、健闘を祈ってるわ」

 

「もう終わってるから頑張りようがないけどね!」

 

そらそうだけども。慣用句的なあれだよ…自信ねぇけど。

 

 

その後は要治療者を治して回るリカバリーガールに感動したり、何故か貰ったグミを齧っていると試験の全終了が言い渡された。

結果は後日郵送で届くとの事なので、さっさと帰宅する。

 

 

それなりにやれたと思うがさて、どんなもんだったかね…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、雄英高校の一室で試験官を務めた教師陣が今年の受験者について話し合っていた。

 

「いやー、今年は豊作ですね!」

 

「あの0ポイントを撃破した子と敵ポイントだけで1位になった子、甲乙つけがたいな」

 

「もう一人、0ポイントに向かっていった奴がいましたよね?」

 

「あぁ、荒坂中学出身の子だね。…いい個性を持ってるな。使い熟してる所は主席の彼といい勝負だろう」

 

「最後に他の受験者を助けたのもポイント高いわね」

 

「さあさあ、今年の合格者(ルーキー)をどう振り分けるか、それを考えよう、うん」

 

さて、彼はどうしたものかな…奇数になってしまうけどやはりA組で相澤くんに任せてみようか?悩み所だねぇ…

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。