加速少年の英雄希望 作:月面旅行BD
職場体験開始の日がやって来た。
今俺たちはそれぞれの事務所に向かうため駅に来ている。
「各自、コスチュームは持ったな?…それを着て行動するって事はプロとして見られるって事を自覚して動けよ」
相澤先生から最後に言われた事がより緊張感を高める。
に、してもだ。
「まさか轟くんと一緒とはね」
そう、あの指名1位の轟くんと同じ所で実習することになったのだ。…体育祭の時にデカい口叩いて結局直接対決もなく敗退したからちょっと気不味いわ〜。
「…端場もエンデヴァーの所にしたんだな」
そりゃまあ目立ってたし。No.2からの指名とか早々無さそうだもの。
「まあね…なんで指名してくれたのか分かんないけど折角だからさ。…轟くんはなんでエンデヴァー事務所に?凍結メインにしていくならエンデヴァーとはそんなに相性良くなくない?」
その場に足場や障害物を出せる凍結と瞬間的な炎じゃ相性微妙だと思うんだけど。やり方活かせるかって言うと俺も微妙だが。
「…クソ親父のやり方を知りたくなった。そんだけだ」
………親父?エンデヴァーが!?
それなら納得だけども…あんま似てないね?
「へぇ…そうなんだ。ま、1週間よろしくね」
まぁ俺には関係ない話だ。家族関係上手く行ってないのかも知れんが実習に影響が出ないことを祈るわ。
「あぁ。よろしく」
口数少なっ。クールな人だよホント。
「…そーいえばさ、なんで緑谷くんの時は炎使ったん?」
電車の中で気になった事を聞いて見ることにした。
俺、試合見てないから何があったのか知らないんだよね。
「…わかんねぇ。ただ、本気には本気で答えるべきだと思った…ってのも少し違うか。…アイツの言葉に少し思う所が出来たから、だな」
へぇ…緑谷くん、このクールガイの意志を変えさせる程の何かをしたのか。…両腕破壊する程粘ったみたいだし。
「緑谷くんがねぇ…体育祭前にも宣戦布告してたみたいだし、何かあったの?」
今の所単なる自傷マンにしか思えないんだが。精神性と頭の回転は立派なもんだけどそれ以外はぶっちゃけあんま評価するとこ無くね?
「…判らない。でも良い奴だ」
本人に分かんないならもうそういうもんなんだな。
「…爆豪に使わなかったのはその何か判らない理由?」
「ああ。…いや、まだ俺に覚悟が出来てなかったってだけかもな」
少し言い淀んだな。ま、舐めプじゃなかったと知れただけ良いや。
あのときは使えなかったってだけならあの結果はしょうが無い。
「覚悟か…まぁ炎とか爆破とかって殺傷力高いしね。安易に振り回さないのは良いことだと思うよ」
慣れてないうちは特に。俺の個性と違って制御ミスった時の周りの被害がデカすぎるし。
爆豪?アイツは模擬戦の時以外はきっちり制御してたし問題無いだろ。あんだけ微調整出来る様になるまでどんだけ練習したんだか…何で空飛んで体勢崩さねぇんだろうな?
「そうだな…いつかは使う時が来るかも知れない…」
うーん、個性周りの話はあんましたくなさそうだな。
オッケー、この話題変えよう!
「ってかさ!………轟くんは何か好きなものとかあるぅ?」
助けて葉隠さん、俺会話すんの苦手だ…
イマジナリー葉隠さんに助けを求めるが当然答えはない。
もはやこれまでか…
「…?蕎麦、温かくないやつ」
急な話題転換に戸惑いながらも答えてくれる轟くん。いい人じゃん…!俺、轟くんが困ってたら絶対助けるから!
「蕎麦!渋いね〜。行きつけの店とかある?」
「実家近くの店は良く行ってたけど…最近行けてないな」
蕎麦の味の違いとか俺の貧乏舌じゃ判らんだろうけど、きっと轟くんにとっては違うんだろう。
「今回の実習場所からは遠いの?近いなら行っちゃえばいいじゃん」
「そうだな…そんなに距離無いし、行ってみるか」
ヨシ!上手いこと話せたな!
イマジナリー葉隠さんも見えないグッドサインを出してくれてる気がするわ。
「…端場も蕎麦好きなのか?」
うん?蕎麦か…
「俺、店の蕎麦食べたこと無いんだよね…カップ麺の奴なら食った事あるんだけど、別モンでしょ?」
そもそもそう言う店は総じて量の割に高いイメージだ。
1人前がせいろ1枚ってマジかよ…と店外のサンプルを見てビビった記憶がある。その癖1000円超えるとか地味にブルジョワな食いもんだよな…
「全く違う。…機会があれば一緒に行くか?」
飯の誘い?轟くんが!?
「勿論!いやー、初めてちゃんとした蕎麦食べられるかも知れないと思うとちょっとワクワクするな!」
少し手痛い出費にはなるが…せっかくのお誘いを断るなんて勿体ない。
「それだけ期待されてると不安だが…」
少し面食らってる様子だけど、打ち解けられて良かった良かった。
「いやー、実習以外に楽しみが出来たわ!ありがとうな轟くん!」
「…まだ早いだろ」
少し呆れた様に笑う轟くんとその後も雑談をしているといつの間にか目的地に着いていた。話してると時間が過ぎるの速いな。
そんなこんなでエンデヴァー事務所へ到着したわけだが。
「よく来たな焦凍ぉぉぉ!!」
エンデヴァーの圧がすげぇよ!んでもって子煩悩かよ!
「…チッ」
轟くんは舌打ちして目線外してるしさぁ…体育祭前の轟くんに戻ったみたいな雰囲気出してるし。機嫌が急降下してんじゃん…
「…一応俺も居るんですけどね?」
「ごめんね!?エンデヴァーさん、昨日からソワソワしっぱなしで焦凍くん待ってて…決して貴方を無視してる訳じゃないんだよ!?」
エンデヴァーのサイドキックらしき人がフォロー?してくる。
…この人いなかったら来て素で回れ右する所だったわ。
「まぁいいんですけどね…轟くんとエンデヴァーって仲悪いんですか?」
まだ一方的なやりとりをしてる親子を眺めながら聞く。
「見ての通り、だね」
ま、そうなんだろうけども。
すげー一方通行なコミュニケーションじゃん…
「…あ、そろそろ落ち着きそうですね」
轟くんとエンデヴァーの会話?が一段落してエンデヴァーがこっちを振り返る。
「…よく来てくれた。歓迎しよう」
テンションの差ぁ…
横でサイドキックの人が頭抱えてるしよぉ!
「すぅぅ……1週間、よろしくお願いします」
落ち着け、1週間耐えたらおさらばだ。空気のように気配を消して生活するんだ…中学時代で慣れてるだろ俺!
…来年は絶対別の所に行こう。
「では事務所を案内しよう。2人ともついて来い」
何事も無かったかの様に事務所へと入っていくエンデヴァー。
もう、なんでもいいや…
「悪い、端場…親父と会うといつもあんな感じで…」
轟くんが少し申し訳なさそうに言ってくれるが
「あぁ、まぁ…想定以上だったけども」
ありゃ相当拗らせてんな…
猫への構い方間違えてる飼い主みてぇだ。
「…本当にごめんね。明日には元通りのエンデヴァーさんになってると思うから…」
サイドキックの人も平謝りである。
アレが平常運転じゃないと知れて良かったよホント。
「いやもう良いですって…轟くんももう気にしないで」
別に大した事じゃ無い。
「…嫌な思いさせただろ」
「なら、昼メシ1回奢ってくれたらチャラってのはどう?」
あわよくば蕎麦が奢りになってくれたら財布に優しいんだが。
「あぁ、判った。代金はこっちで持とう」
ヨシ一件落着だ。Win-Winてのはこーいうことをいうんだな。
「んじゃ、さっさと行こう?エンデヴァーが段々凄い顔になって来てるし」
玄関のガラスドア越しに此方を見てるが眉間のシワが深くなってきてんよエンデヴァー。
「そうだな。さっさと済ませちまおう」
轟くんの後に続いて事務所へと入った。
さて、これから1週間はこんな感じか…
何か気が重いけど切り替えて行こう。
エンデヴァーには俺を指名してくれた理由とか聞こうかなと思ってたけど、次回からは別んとこ行くからもう聞かなくて良いや…
此処に来て良かったのは轟くんと少し仲良くなれた事だな。
後はサイドキックの人。苦労人感が滲み出てるけどあの人に着けてくれないかなぁ…エンデヴァーについてくよりためになりそうだし。
明日からの行動について軽く説明を受けた後、事務所の一室を借り受けて寝る前に考えていたのはそんな事だった。
実習は実地でパトロールだって言ってたし、早く寝よ…