加速少年の英雄希望   作:月面旅行BD

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ヒーローの卵、或いは一般市民

 

 

 

知らない天井だ…

お約束の言葉を思い浮かべながら周囲を見渡すと本当に見覚えのない部屋に置かれたベッドの上だった。

近くにはコード付きのスイッチがある。

…まぁ普通に病室だな、うん。

 

「此処は…」

 

「気がついたのか!?」

 

大声で俺の言葉がかき消された。…飯田くんか。

 

「ンンッ…飯田くん、無事で良かったよ」

 

「その件についてはありがとう!でもそれはコチラの台詞だ!」

 

ロボットみたいな動きのキレはまだ戻ってないが、元気そうで何よりだ。

 

「ん、ありがとう…緑谷くんは大丈夫だった?」

 

最後の記憶だとステインが脳無と俺達に飛びかかって来た所で意識が無くなったんだよね。

 

「全員無事だとも。…改めて、助けてくれてありがとう端場くん」

 

「どういたしまして…殆ど轟くんのおかげだけどね」

 

間に合ってホントに良かった…と思っていると病室の開きっぱなしのドアから轟くんと緑谷くんが入ってくるのが見えた。

 

「そんな事ねえだろ。寧ろ助けられた場面の方が多い」

 

轟くんも無事で何よりだよ。

 

「轟くんの力があってこそだよ。あそこで轟くんが落とされるのが一番マズかったから…」

 

ステイン相手に遠距離から援護と攻撃、足場作成が出来るのは轟くんだけだったし。

 

「緑谷くん、最後はゴメン。助けられなくて…」

 

刃物の扱い方を練習するべきだろうか?

…いや、止めとこう。武器の使用を自分に許すと最終的には銃器に行き着きそうだ。個性の関係上、最も相性が良いのは多分銃なんだよな…

 

「い、いやいやいや、気にしないで!!」

 

首をブンブン振りながら否定する緑谷くん。

 

「最後のアレのお陰で助かった部分が大きいし!」

 

足切り強奪作戦の失敗が?…いったい何が役に立ったんだ?

 

「あの後、ステインが飛び込んで脳無の足から出た血を舐めたんだ。それで動きが固まった脳無を端場君から奪い返した刀で斬って僕達は地面に落下したんだ」

 

お陰で助かったんだけどね。と続ける緑谷くん。

 

「その後は…後で調べれば出てくると思う。誰かが撮影してた動画が出回ってるから…」

 

少し言い淀んで話し終える緑谷くん。

…何か言い難い感じの事があったのか。

 

「…判った。後で見てみるよ」

 

少なくとも飯田くんがいる前で見るもんじゃなさそうだ。

ステインの動向を気にしている様子でもなし、逃げられたって訳じゃなさそうだ…最後になんか面倒な事して捕まったか?

 

 

 

「失礼するよ…ワン」

 

犬頭の警察が病室に入ってきた事で会話は中断された。

個性無断使用の件だろうな…出来れば先に学校に連絡させて欲しかったがそれは望みすぎか。

 

「私は保須警察署署長の面構犬嗣と言うものです、ワン」

 

犬のお巡りさん(リアル)かよ。こういう場面じゃなきゃ笑ってたわ。

 

「君達がヒーロー殺しを確保した勇敢な雄英生だね?ワン」

 

違います。…って言ったらどうなるんだろ?やってみてぇけど俺以外に迷惑がかかるから言えねぇ…

 

「さて勇敢な君達に少々残念なお知らせがある、ワン」

 

真剣な面持ちで語る面構署長。

 

「ヒーロー殺しは現在火傷に骨折が多数と、それなりに重傷で現在治療中だワン」

 

…残念とか言うから死んだかと思ったわ!

 

「超常黎明期…我々警察は個性を武力として振るうことを良しとせず、規格化と集団力を頼みに超常へと立ち向かった。その穴を埋める様に生まれたのがヒーローと言う職業だワン」

 

此方を眺めながら続ける。

 

「今日のヒーロー達が活躍出来ているのは先人達が規則を守り続けた結果だ。故にどんな形であれ規則を破った者には罰則を受けてもらわなければならないワン」

 

まぁ、妥当だわな。

 

「…あの時、緑谷が居なかったらネイティヴと飯田は死んでた。それでも個性の使用が問題だと?」

 

あ、あの時のヒーロー、ネイティヴっていう名前だったんだ。

轟くんが反論する。…言わんとする所は判るけどさ。

 

「…君達はまだ未成年、保護を受けて然るべき少年だ。よって今回は監督不行届としてヒーローマニュアル、エンデヴァー、グラントリノには相応の罰を受けてもらう、ワン」

 

ですよねー…エンデヴァーのファンに刺されるかもな俺。

 

「ふざけるな!人の命を救うのがヒーローの仕事だろ!」

 

激昂する轟くん。…はぁ。

 

「結「轟くん、勝手に動くってのはそういう事だよ?」」

 

何か被った気がするが良いや、続けちまおう!

 

「監督者から勝手に離れて、危険と判ってる地点に無断で行って、挙げ句に戦闘行為だもん。役満だよね普通に考えて」

 

驚いた顔で俺を見るみんなを見渡しながら淡々と続ける。

 

「でもまあ、俺に後悔はないね!結果助けられたし、人死にも出なかった!後は規則違反の罰を受けてめでたしめでたしだ!」

 

ま、テンションに任せた行動は慎むべきだと判ったのが教訓かな。

…今後活かせるタイミングがあるか判らんけど。

 

「その覚悟があったからあの時自分で行くって言ったんでしょ?まだヒーローじゃない一般市民の俺達が、ヒーローに頼らず助けに行くんだから。…後からうだうだ言うのはダサいぜ?大人しく沙汰を受けるべきだ」

 

エンデヴァーさんには申し訳ない事をしたけど…まぁ、初手塩対応気味だったしお相子って事で一つ。

 

「すみません、面構署長。続きをどうぞ」

 

長々と喋って疲れた…

呆然としてる轟くん達を尻目に面構署長へと向き直る。

 

「…端場くんと言ったね?概ね君の言った通りだ。未成年の個性使用、それも人に向かって使用している。罰さない訳にはいかないワン」

 

…ワンチャン停学で済まないかな?と思ったけど退学はかたいか。

あとは実刑受けるレベルで訴えられるかどうかだが…

 

「でも私達も人の為に走り出せる若者達の未来を潰す様な真似をしたい訳では無いワン」

 

ん、風向き変わったか?

 

「そこで提案が一つ。今回の件に君達が関わった事を完全に秘匿する。幸い火傷の具合から見てもエンデヴァーが逮捕した事に出来るワン」

 

少しずつ理解したのか緊張が解けていく3人。

 

「勿論、君達が受けるべき称賛も全て無かった事にしなければならないワン…それでも、未来ある君達の事は守れる。…さて、どうするワン?」

 

そりゃ、勿論…

 

「「「「乗った(ります)!!!!」」」」

 

よっしゃ何かいい人の署長のおかげで首は何とか繋がったままでいられそうだ。

 

「君達の意思はわかった!ワン。それでは関係各所へ連絡を。今回の件のカバーストーリーを全員に周知させろ!ワン」

 

病室を後にしながら無線で指示を出す面構署長。

何とかなってラッキーだったわ…

 

 

「…すまねぇ、端場」

 

「何が?」

 

マジで謝られるような事は無いぞ。

 

「俺には覚悟が足りてなかった…その癖お前を巻き込んじまって…」

 

ネガティブガイかよ…普段のクールっぷりを見せつけろよな。

 

「別に気にしなくて良いよ。俺はそのつもりで轟くんの話に乗ったんだから」

 

最悪は退学かもな、と思ってたが結果オーライだ。

得られた戦果は無いが被害も無い。

落とし所としては最高の結果だろうが。

 

「ま、次からは本気で止めると思うから。もしやるなら気づかれないように頑張ってね」

 

気不味い空気感を何とかしてくれた借りは返したし。

 

次は見つけちゃったら止めざるを得ないからさ。と続けると轟くんは少し肩の力を抜いて頷いた。

 

 

 

 

 

 

これで保須市を舞台にしたヒーロー殺しの事件は幕を閉じた。

 

…流石にそろそろ襲撃やらヴィランから離れた普通のヒーロー科の授業を受けたいもんだ。

 

 

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