加速少年の英雄希望 作:月面旅行BD
俺は今、本当の理不尽を目の前にしている。
「どうした端場少年!避けているだけでは不合格待ったナシだぞ!」
何時もの笑顔を浮かべながら襲い来るオールマイトを何とか躱して隙を探るが…俺に判る様な隙晒してくれるわけねぇよな!?
「俺だけ難し過ぎませんかね!?」
歯を食いしばりながら不満が口に出てしまった。
難易度が、難易度がバグってるだろ…!
こんな事になっている原因は試験開始前まで遡る…
「なぁ、聞いたか?期末試験って入試の時のロボが相手らしいぜ」
上鳴くんが休み時間に声をかけてきた。
ロボ相手と判ったからか大分気楽な様子だ。
「それ何処からの情報なの?」
疑問を投げかけると上鳴くんは自信満々に答えてくれた。
「B組の奴が先輩から聞いたんだって!1年の最初の試験はロボ相手なのが通例らしい!」
これは俺の時代が来たと言っても過言じゃねぇな!と続ける上鳴くん。…電気系の個性なら機械には滅法強いもんね?
「ロボット相手じゃ余り活躍出来ないかも…」
一緒に居た葉隠さんは少し意気消沈している様子。
透過の個性は強いんだけど視界に頼るタイプ以外には余り効果がないしなぁ…
「まぁ、入試の時とほぼ同じだと仮定するならそこまで酷い結果にはならないでしょ」
皆個性の使い方や身体の動かし方に習熟してきてるし。
これは全員合格が見えてきたな。
「そうだよね、学科試験は何とかなったし!」
気分が持ち直したようで何よりだ。
「…いや、まだだ!実技試験で取り返せばまだチャンスはあるはず…!」
「そう!私達にもまだ目はある!」
上鳴くんと芦戸さんは逆に追い立てられてる様な表情だ。
…こりゃ学科がダメだったぽいな。
「…どうなることやら」
林間合宿、全員参加出来ると良いけど…
そんなこんなで実技試験当日。
其々が思う所はあれどようやく試験である。
「全員居るな?…よし。では今回の試験内容を発表する」
相澤先生がクラスメートの前で話し始めると我慢出来なかったのか上鳴くんが声を上げた。
「対ロボ戦闘だろ?もう知ってるよ先生!」
チラリと上鳴くんを見た相澤先生だったが特に何も言わなかった。
その時、相澤先生の肩から声がした。
「残念!今年からは方針が変わったのさ!」
校長先生だった。
相変わらず小さいな…ほぼ猫と変わらないサイズ感じゃん。
「例年通りの試験では皆の成長を正確に測れないとの指摘もあってね…今年は趣向を変えてこのような形にさせてもらうのさ!」
指を鳴らす校長先生。それと同時に相澤先生の背後から他の先生方が現れた。…多くね?
「二人一組で先生と戦ってもらう!勿論先生方にはハンデを設けるし、勝利条件も複数用意したのさ!想定としては街中に現れたヴィランを相手に捕縛、若しくは応援を呼びに行ければ勝利となると思ってくれたまえ!」
…二人一組?奇数なんだけど誰か2回やるのか?
「組み合わせとルールは今から配布するプリントに記載されているから必ず確認する様に!」
配られたプリントには其々の組む相方と対戦相手の先生、実習場所と基本的なルールが記載されていた。
…色々と突っ込みたい所はあるがまずはルールからだな。
ルールは単純、どちらかが先生から逃げ切ってゴールポイントを通過するかハンドカフスを先生に装着させる事で勝利となる。
また、ハンデとして教師陣は体重の半分程の重りを手足に装着される。
これだけならまだ良い。逃げるだけなら俺の個性で余裕だし、ハンドカフス装着すら可能性があるだろう。
問題は次の1文だ。
※今回の試験、端場くんには1人で対処してもらうのさ。…これは公平性に欠くけれど君の個性及び戦闘センスは既に1年生レベルに無いと判断されたためこの様な措置となったのさ。是非とも超えて見せてくれ給え、PulsUltra!
試験内容が個々で違うのはまぁ予想できた事だが。まさか難易度が跳ね上がるとは思わなかったよ…
「私がー!」
しかも相手が…
「走ってきたー!」
オールマイトか…!これは無理筋じゃないかな流石に!
「遅刻ですよオールマイト先生。…全員揃った所で其々指定されているバスに乗れ。一斉に始めるぞ」
…あれ?俺のプリントには指定ないんだけど。
「端場、こっちこっち」
皆が移動する中、いつの間にか後ろに居たリカバリーガールに手招きされる。
「オールマイトは他にも担当があるからね、一旦待機だよ」
モニタールームへと通された。
おぉ~、特等席でオールマイトの勇姿が見られる訳だ。
…いやこれカンニングじゃね?
「これ、不正に当たりませんか?」
「何言ってんだい。アンタは1人で対処しなきゃ行けないんだからちゃんと対策練りな!」
校長先生の指示だそうで、対応力や対策力を見るそうだ。
「終わったら呼びに来るからそれまではじっくり考えな」
そう言い残すとリカバリーガールは部屋を後にした。
…さて、オールマイトは誰担当なんだろうか。
モニターを見ると緑谷くんと…爆豪?うわぁ…飯田くんとかなら良かったのによりにもよってそこ2人が組むのか。
絶対意見合わずにバラバラになるだろ…
…試験開始直後から想像通りの動きだな。仲間割れが勃発して個々に動き始めた。
もう緑谷くんと爆豪に見る所は無いわ。オールマイトの動き方だけでも参考にしないと…ヤバいなぁ、これで本気じゃないってんだから本当に同じ人間か疑いたくなる。
暫くわちゃくちゃしてる2人をジワジワと追い詰めるオールマイト。
んー…林間合宿はあの2人不参加か。このままだと俺も含めて3人仲良く補習地獄だぞ?
と、眺めている内に緑谷くんが爆豪に何か話してるな。
…時間的にも次が最後のチャンスだが、どうするつもりだ?
…成程爆豪の装備を緑谷くんが使用して奇襲、そのまま逃げに転じると。悪くない、ようやく連携し始めた2人を見ながらそう思う。
追いついて来たオールマイトを相手に2人がかりで隙を作ろうとするが…No.1ヒーローはそう甘くない。一瞬で2人を無力化してしまった。
これで終わりか。あいしょうの悪い2人で理不尽な相手に何とかしてみろってのは大分無茶振りじゃないですかね校長先生…と内心で愚痴を吐き始めた時にモニターで更に動きが有った。爆豪が最大火力を使用してオールマイトの足止めをしている。これなら緑谷くんだけ逃げられる可能性も……ハァ!?なんでオールマイトに向かってくんだよ!?
1発殴って爆豪を回収。そのままゴールポイントへ向かうが…オールマイトは動かない。
そんでゴール、と。最後は見逃された感あるけど勝ちは勝ちだな。
んでもって次は1人でアレを攻略しなきゃならない訳か…
椅子に体を預けながら思案する。
あの最高のヒーローに対して俺は何が出来る?
速さだけなら恐らく俺の方が速い。モニター越しとは言え個性を使用すればオールマイトの動きはハッキリと追えた。
力は圧倒的に負けている。あの最初の1発はなんだよ、地面抉れてたぞ…
技術も完敗だろう。当たり前の話だが相手は長年No.1の座を譲らなかった最高のヒーローだ。
速さ以外の全てが雲泥の差と言って良い…手加減はされるだろうけど。
アドバンテージは速さだけ、それも時間制限付きだ。
最大限引き伸ばしても15秒とちょっと、それ以上は持たない。
15秒でオールマイト相手にカフスを着ける…難しいな。
アレ以上の速度を出してこないならギリギリ何とかなりそうだけど…こっちの速度に反応してくる事を考えると15秒じゃ足りない。
じゃあ逃げ切りは?…これも難しい。
ゴールポイントは1つ、それもオールマイトの後ろだ。
直線で全力疾走すれば制限時間内に駆け抜ける事が出来るが、一度は接近しないと行けないとなるとこれも時間が足りない。
これは、本気で難問だな。
「端場、アンタの番だよ。…気張ってきな」
リカバリーガールの声で思考の海から帰ってきた。
ッし!気合い入れていくとするか!
「待たせたな端場少年!」
さっき2人をシバいた後とは思えない程元気なオールマイト。
「いえ、別に…」
周りを確認する。開けてんなぁ…これじゃ隠れるのも無理じゃね?
「準備は良いかな?…始めるぞ!」
「お手柔らかにお願いします!」
そして冒頭へと戻る。
「もう少しッ手心とかッ無いんですかねッ!?」
ピンポイントで個性を使用してオールマイトの打撃を回避し続ける。腕の振り始めを見て加速、コースを確認したら回避して解除。その繰り返しでだましだましやってきてるが…
「HAHAHA!これ以上手を抜くと試験にならんぞ少年!!」
うぉッ!?今掠ったって!
「見切りは良いがそれだけではね!」
一瞬加速、後ろに退避して解除。
…この程度の距離じゃ無いも同然だけど一息着く事は出来る。
一瞬で距離を離した俺を見て少し驚くオールマイトが呟く。
「思ったよりも速いな…」
これくらいかな?とその場で軽くステップを踏んだ。
アレ以上速くなるのか…
速度だけなら勝ってるってのも思い上がりだった訳だ。
「はははっ…ここまでデタラメだと笑えてきますね?」
「諦めるかい?」
挑発する様に此方を睨むオールマイトに答える。
「
言葉の途中で
不意打ちにも反応してくるか。速度はほぼ同じ…アドバンテージが1つ消えたな。
左のストレートが来る、回避するが直ぐに右手で追撃が来る。
無理矢理体を引っこ抜く様にして後ろに倒れると眼前を拳が通過していく。…此処だな。
右手に持ったカフスを通過する右手に引っ掛けるようにして装着させて…無理矢理軌道変えてきた!?
弾き飛ばされたハンドカフスを諦めてそのまま後ろに跳んで再度距離を取る。
「笑えない、んですけどね…」
マジでどうしよう。
…一か八かでカウンター入れて見るか?
爆豪位なら何とかなってもオールマイトは無理じゃんね。
良し、逃げよう。
「冗談で済ませるつもりはないよ?さぁ、第2ラウンドだ!」
やる気で…いや、ちょっと焦ってるのか?
距離を詰めてると同時に先ほどよりも大振りになった右拳が飛んでくる。
上手く行ってくれよ…!
攻撃は俺の胴体に向かって伸びてくる。
タイミングがズレたら大怪我するなこれ…いや、もうやるしかないんだから余計なことを考えるな俺!
オールマイトの腕が伸び切る前に後ろに向かって飛び上がる。
頭の高さをなるべく変えないように注意する…小細工だが途中で拳の軌道をズラされたらそれで終わる。少しでも成功率を上げておきたい。
オールマイトの右腕が伸び切る前に片足を拳に当てる。
……今ッ!
オールマイトの右腕が伸び切る瞬間に合わせて拳を蹴った。
少し脚を痛めた感じがするが目的は達成した。
ものすごいスピードで後頭部から後ろに向かって飛んで行く。
これでダメなら今回は諦めるしかねぇわ。
此方の意図が判ったのか直ぐに追いかけてくるオールマイト。
…でもアンタの力でふっ飛ばされてんだぜ?
自分で投げたボールに追いついてキャッチボールする様なもんだ。
…追いついて来てね?もう訳わかんねぇなあのヒーロー!
「―――――――――!」
何か言いながら突っ込んでくるオールマイト。
残念ながら加速中は何も聞こえないんですわ。
後ろをチラリと見やると想定通り、ゴールポイントまで後数十メートルまで来ている。
ここまで来れば後は走るだけだな…!
着地と同時に足を回す。ヤベェ!かつてないほどの速さで足が回ってる!
言うなれば走ってる車から飛び降りて並走しようとしてるようなもの…コケたら終わるな。リカバリーする前に捕まっちまう。
ひたすら転ばないように足を前に出し続けているとようやくゴールポイントにたどり着いた。
…何とか逃げ切ったぞオールマイト!!
次の問題はゴールポイントを走り抜けても止まれない事だな!
さて、どうやって止まったものか…
予想以上に速度が付きすぎている…そろそろ個性を維持するのも限界なんだけど今解除したら地面で紅葉おろしになっちまうし、ゆっくり速度を殺してるだけの時間も無い。
…しょうが無い。骨の一本や二本は覚悟して無理矢理止まるか。
横への運動エネルギーを少しでも削るために上方向へとジャンプする。思ったより跳んだな。後は着地だが…制限時間がギリギリ過ぎてもう無理だ…
「どわぁ!?」
体感速度が戻ると同時に耳元で風切音が凄え音たてて響いている!
加速中に個性解除したの久々だけど怖えぇ〜!でもそんなん考えてる暇もない。
着地まであと5メートル、このままなら骨折か打ちどころが悪けりゃ死にそうだが…!
「根、性ッ!」
無理矢理態勢を整えて受け身の態勢へと移行、個性の使い過ぎで痛む頭を無視して着地の衝撃に備えると
「間一髪セーフ!」
オールマイトに抱えられていた。
追いつかれそうとは思ったけど本当に追いつかれるとは…
「ありがとうございます、オールマイト先生」
「どういたしまして!いやはやあんな方法で抜かれるとは思わなかった、文句無しの合格だ!」
ニカッと笑顔を見せて俺を降ろすと
「おっと、私は次の予定があるのでこれで失礼するよ!」
講評はまた後日、結果発表を楽しみにしていたまえ!
と続けながら走り去っていった。
スケジュールギッチギチなんだなぁ…そりゃそうか。オールマイトだし。
その後、保健室でリカバリーガールから治療を受けて解散となったが…他のクラスメートは大丈夫だったんだろうか?
まぁベッドで寝てる奴はいなかったし、少なくとも重傷になった奴は居ないって事だろうが…
…そういや俺は1人で受けさせられてたけど、爆豪は緑谷くんと組まされてたな?
この組み合わせに関しても何か考えがあっての事だとは思うけど…その辺は説明されるんだろうか。
なんて止め処無い事を考えながら家路に着いた。