加速少年の英雄希望 作:月面旅行BD
三人称時のタイトルは"…"で終わる様にしますのでお目汚しになるようなら飛ばして下さい。
試験が終わってモニタールームへと続々集まるA組。
其々の結果を話し合いながら悲喜交交としている中、最後の1人が試験を開始する所だった。
「…あれ?なんで端場くんは1人なんですか?」
葉隠からの質問が飛ぶ。それに反応してA組が口々に喋り出した。
「確かに…てっきり誰かの所が3人になってるもんだと思ってた」
「それこそオールマイトとかね…1人でやらせるのって公平じゃなくない?」
「先生、何故彼だけ違う内容なんですか?」
相澤先生は其々の疑問に答えることはなく、淡々と説明のみ行う。
「試験内容を決めるに当たって一番に考えられたのは全員の成長を見る事だ。今回の試験内容では端場と組んだ奴の難易度が著しく低下すると考えられたためこの様な形になっている」
それを聞いて納得したような、してないような雰囲気になるがそんな事は関係ないと更に続けた。
「お前ら、このルールでアイツと組んで自分が活躍する所を想像できるか?…十中八九おんぶに抱っこになるのが目に見えている。だから1人で受けてもらう事にした」
その言葉を聞いて何人かは不満そうな顔をしたものの、大体は納得したようだった。
「…それであれば!試験内容を他のものにすれば公平性は保てたのではありませんか!?」
飯田が更に食いつくが…
「そのために他の20人に割を食えと?不合理だ。…心配しなくても今回の試験で見るのはあくまでも成長度合い、必ずしも勝たなければいけないものではない」
その言葉で安堵、納得する者が増え、モニタールームの雰囲気が緩む。…ただ1人を除いては。
「なんで、早送り野郎が…!」
爆豪が不満そうに呟く。それに対して切島が
「しょうが無いだろ…こればっかりは相性だと思うぜ」
と宥める。さっきの相澤先生の言葉を思い返すとそれも当然の措置だと思えたからだ。
「チッ…」
納得した訳では無いようだがそれでもその場は飲み込んだ爆豪。
それと同時にモニター越しに試験が開始された。
『では、始めようか!』
『お手柔らかにお願いします』
聴こえてきた声に反応して再度騒がしくなるモニタールーム。
「え、オールマイト!?」
「オールマイト相手に1人とか正気かよ!?」
「これはいくらなんでも無茶苦茶では?」
「さっき緑谷くんと爆豪くんでやっと切り抜けられた相手に1人で!?」
そんな混乱を収める様に相澤先生から一言。
「良いから観てろ。…少なくとも前衛組は見逃すな」
直ぐに終わるぞ、と言う言葉に呼応するかの様に画面内で著しく動き回る2人。
『どうした端場少年!逃げてるだけじゃ不合格待ったナシだぜ!』
『…ッ!俺だけ難し過ぎませんかね!』
オールマイトの攻撃を紙一重で躱し続ける端場を見て驚愕の声が上がる。
「え、避けれてる?」
「これはもしかしたらもしかするんじゃね!」
画面から目を離さずに緑谷が口を開く。
「いや…オールマイトはまだ本気じゃ無い…勿論試験だからこれ以上はやらないと思うけどそれでも…」
「…チッ!早送り野郎に手こずるんじゃねぇよ…!」
爆豪の機嫌が更に悪化していく。
そんな事は露知らず、画面内の戦況は更に変化していった。
『もう少し、手心とか、加えてくれても!良くないですかね!?』
『HAHAHA!これ以上手を抜いたら試験にならんぞ少年!』
苦しそうな端場とは対象的に余裕を崩さないオールマイト。
その姿を見て疑問を呈するものがいた。
「…端場、遅くないか?」
轟が呟く様に口にした言葉に賛同の声が上がる。
「確かに…いつもの速さが無い?ううん、一瞬だけ速い?」
画面の中でオールマイトの拳が振るわれる瞬間に端場の姿がブレるのを見て呟いた葉隠の言葉で確信を得たのか緑谷が反応する。
「個性をピンポイントで使用する事で制限時間を引き伸ばしてるのか…!応用という点では基礎的なものなのかもしれないけれどそれをオールマイト相手に実践出来る胆力と精度、どれだけ自分の個性に向き合えばそんな事が出来るんだ?いやそれよりも加速の個性、それがもし思考速度や体感速度にも影響するとしたら…」
ブツブツと話し続ける言葉を聞いて周りも納得したようだった。
「加速ってただ単に速く動くだけかと思ってたけど…」
「考えてみればそうですわね。速く動けても体感速度が変わらないのであれば反射的にしか動けませんもの」
「だから模擬戦の時にアレだけ速く反応したのか…」
納得がいった者、端場の個性の無法振りに改めて驚愕する者で少しざわめくが画面内でさらに動きがあって直ぐに収まる。
『思ったよりも速いな…これくらいかな?』
ステップを踏むオールマイトの姿がブレた。カメラで抑えきれない速度に達したと言う事だ。
『ははは…ここまでデタラメだと笑えてきますね』
『諦めるかい?』
『ヴィラン相手に?冗談にしては』
会話の途中で端場の姿が急に姿がブレる。
オールマイトの姿も同時にブレた。
1秒と経たずに後ろに飛び退く端場を見て驚愕の声が上がるが…
『笑えない、んですけどね…』
『冗談で済ませるつもりはないよ?さぁ、第2ラウンドだ!』
その言葉で再度画面に釘付けになった。
モニターではオールマイトの姿がカメラで捕らえられる限界を超えたのか、一瞬で端場の居た位置に移動、拳を突き出した状態で止まった。
そこに端場の姿は無い。
「え?端場何処いった!?」
「消し飛んだ…?」
「流石にそれは無いだろ!?」
『Holy shit!やってくれるじゃないか端場少年!』
オールマイトの姿がまた掻き消えた。カメラが引きになってようやく事態を把握したA組から歓声が上がる。
「マジかよ!すげー勢いで飛んでってるぞ!?」
「ゴールポイントの方に近づいてるわね…計算ずくかしら?」
「いやでもオールマイトも追いつきそうじゃね!?」
その言葉通り、吹っ飛ぶ端場に追いすがる様に駆けていくオールマイト…の様な影。カメラで捉えきれて居ないせいで黄色と青の線塊が高速移動している様にしか見えない。
そうこうしているうちに地面に着いた端場が高速で移動し始めた。
徐々に縮みつつあった距離が少しだけ離れて追いつく前にゴールポイントが来る。
…ゴールポイントを抜けた瞬間に歓声が上がった。
「マジか!やりやがったよ端場の奴!」
「オールマイトから逃げ切った!?ヤベェよ端場!」
歓声が上がる中、1人歯を食いしばりながら画面を睨む爆豪。
何か言葉にする事も無く、ただ拳を握りしめていた。
興奮冷めやらぬモニタールームだったが
ゴールポイントを越えても中々止まらなかった端場がいきなり飛び上がって情けない声を上げた事で再度注目が画面に移る。
「どわぁッ!?」
上空で上がった声に疑問の声が上がる。
「…加速してる間って喋った事無いよね?」
「仮に喋ったとしても聞き取れないだろうな」
事態に気付いた葉隠と轟から血の気が退く。
アイツ、今個性使えて無い…?
加速中とは思えない程ゆっくりと受け身の態勢を取ったことで確信に変わる。
「「端場(くん)ッ!」」
咄嗟に声を掛けるが届くはずもなく。
地面が近づきつつある中で端場が叫ぶ。
「根、性ッ!」
着地点でズタボロになる姿を幻視して目を逸らすが続いた言葉を聞いて胸を撫で下ろした。
「間一髪セーフ!」
オールマイトが追いついて見事に端場をキャッチ。
地面に降ろした所で映像が途切れた。
「…と、言う訳で端場もクリアだな。結果発表は明日まとめて行う。今日はもう解散だ」
相澤先生の言葉で各々感想を喋りながら撤収するA組。
そんな中で拳から血を流すほど強く握りしめた男が1人、最後まで残った。
「…なんで早送り野郎だけ1人だったんだ」
爆豪が相澤先生に問いかける。
「最初に言った通りだ。端場と組ませるとこの試験じゃ成長度合いが測れん」
例えお前でもだ。と続ける相澤先生にカッとなる爆豪だったが…
「お前には別に見たい所が有った。だから緑谷と組んでもらったんだ」
そう続けた相澤先生の言葉で少し溜飲を下げたようだった。
「後は明日の結果を待て。…ほら行った行った」
片手を振るようにして退室を促された爆豪がモニタールームを出ていくと、溜息をつく相澤先生。
「端場の相手は俺がするべきだったか?いや、流石に一対一じゃ端場に勝ち目が無い…」
難しい所である。
一対一なら大抵の相手を封殺出来てしまう相澤では端場の相手は難しい。なら2人がかりならどうかと言っても端場から目を離せない以上もう1人が完全にフリーハンドになって試験の目的を果たせない。
「オールマイトに頼り過ぎたな…」
緑谷と爆豪の相手を任せたのは2人の不仲をある程度どうにかした上で協力しなければ勝てないと思わせる為に必要と思ったからだ。
端場の相手をお願いしたのは…
「…アイツの個性と相性が良く、限界を引き出せる教師が居ないのが問題か」
悩ましい問題だ…と頭を抱えながら退室する相澤先生。
そうして実技試験は幕を閉じたのであった。