加速少年の英雄希望 作:月面旅行BD
夏季休暇に入って直ぐに林間合宿、何なら終業式から2〜3日しか経ってないからもはや長期休暇突入したって気がしないわ。
今はバスで移動中…B組も一緒の場所だって話だったが別行動みたいだな。
「それにしても災難だったね…」
ショッピングモールにヴィランが現れたとかで皆での買い物も強制的にお開きになったみたいだし。
「まぁね…でもしょうがないよ」
皆の安全が第一だもんね、と続ける葉隠さん。
何買いに行ったの?とか聞ける雰囲気じゃないな…
「被害がなかったのは不幸中の幸いだったよな」
切島くんが話に加わった。
「本当、何しにきたんだろうね?」
葉隠さんの言葉に返せる者は居なかった。
ヴィランの考えなんて読める訳ないわな。
「…それよりもさ!今は林間合宿の事だよ!」
空気を切り替えるように上鳴くんが話し始めた。
「やっぱ定番の肝試しは外せないっしょ!」
一応強化合宿って名目だったと思うんだけどそんな暇あるんかな?
「後は…枕投げとか?」
「夕飯のカレー!」
「どんな所なのかしら?」
「山!川!魚釣り!」
一気に騒がしくなる車内。
やっぱ楽しみな事を話してる時の方が気楽で良い。
周りの空気も明るくなるし。
上鳴くんや芦戸さんみたいなムードメーカーが居るってのはとてもありがたい。
そんなこんなでわいわい騒いでいると相澤先生から休憩を告げられて全員バスから降りた。…パーキングでもなさそうだが本当に此処で休憩なのか?
「ん〜!山だね!」
「そうだね…」
葉隠さんが身体を身体を解すように伸ばしながら言った事に生返事を返しつつ周りを見渡す。
何もない所に見えるんだが。路肩に停められるスペースではあるけれど…
「何か考え事?」
「いや、気の所為なら良いんだけど…」
と言いかけた時に声がした。
「よく来たね雄英生徒諸君!」
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!』
ヒーローコスチュームの二人組がそこにいた。
意味がわからず困惑している俺達に相澤先生から補足が入る。
「今回合宿でお世話になるプッシーキャッツの皆さんだ」
「プッシーキャッツ!4人組のプロヒーローで山岳救助を専門とする活動12年目のベテランチーム…」
と、緑谷くんがいつも通りテンション高めで早口になった所を金髪の方のヒーローが抑えながら
「心は18!!」
黙らせた。年齢関連は言わないのが吉だな。
「あんたらの宿泊所はあの山の麓ね」
プッシーキャッツの黒髪の方が指差す方を見ると米粒程度にも見えない。…嫌な予感しかしないな?
「な、なぁバス戻ろうぜ?」
「速ければ3時間くらい?…お昼ご飯には間にあうよ」
違和感を感じたみんなもバスの方へとジリジリ下がるがそれを阻止する様に山頂から土砂が襲ってくる…マジかよ!?
「全員でお昼までに着かなかったらご飯抜きね!」
襲い来る土砂に巻き込まれる前に個性を発動…出来ない!?
まさかと思って見ると俺を見つめる相澤先生と目が合った。
「全員参加だ」
「そうですよねー!」
なすすべなく皆と一緒に巻き込まれて崖下まで追いやられた。
…いや凄いな!誰一人怪我しないで下まで降ろしたぞこの土砂!
『私有地だから個性の使用は自由だよ!今から3時間、頑張って宿泊所までおいでませ!』
上から拡声器を使って声を掛けられる。
『この、魔獣の森を越えて!!』
…まじゅうの森?魔獣か?
「さて、結局こうしてハイキングになった訳だけども」
少し呆然とする皆に声を掛けると正気に戻ったのか全員真剣な表情に変わる。…切り替えが速くて助かるわ。
「どうする?最速で行くなら俺と飯田くんが交互に抱えてフルダッシュすれば2人は問題なく着くと思うけど」
麓まで俺だけじゃ持たないけどインターバル中に飯田くんが運んでくれれば多分1時間も要らないんじゃね?
多分これが一番速いと思います。と案を挙げると
「いや、全員が着かなければダメだろう!此処は全員で協力して向かおう!」
飯田くんから却下された。まぁそう言ってたし冗談だけども。
「魔獣の森って言ってたし何かの妨害が有りそうじゃない?」
「注意するのに越したことは無いよ…」
と麗日さんと緑谷くんが会話している最中に木々の間から化物が現れた。
「「魔獣だー!!」」
数人が叫ぶのと同時に口田くんが前に出て
「静まりなさい!下がるのです!!」
と口にするも止まる様子の無い魔獣。…これ、生き物じゃないな?
右腕を振り上げる化物に走り頭部と思われる個所に蹴りを入れる。
…脆いな、簡単に砕けた。
破砕部をチラリと見やると土塊の様に見える。
土砂と言い土を操る個性か?
と考えていると後ろから緑谷くん達前衛組が来るのが見えた為一旦下がる。…これなら問題なく破壊可能だな。
殺到したA組の前衛達がズタボロにすると土に還って行く魔獣。個性確定だな。
「魔獣ってのは個性で作った土塊みたいだな」
轟くんが冷静に告げる。
「そんでもって耐久は大した事ないね。俺でも簡単に砕けたから前衛組は余裕、後衛組でも問題なくやれると思うよ」
そう続けると全員から安堵の声が漏れる。
まぁ、勝てる相手と分かればそこまで脅威ではないしね。
「適当に役割決めてローテーションで進まない?」
そう提案すると賛成多数、反対1だった。反対は爆豪である。
「何で早送り野郎の意見を聞かなきゃいけねぇんだよ!」
「別に聞かなくても良いけど…一人だけ着いても意味ないと思うよ?」
そう言ってたし。と続けるとぐぬぬ、と黙り込む爆豪。
「まぁまぁ、此処は全員協力して行こうぜ!な、爆豪!」
と切島くんのフォローもあってかなんとか飲み込んだ様子。
「じゃ、どうする?」
その言葉とともに作戦会議に移るA組。
「八百万は個性の使用どのぐらいまでいける?」
「すみません、今日はそこまで出せるほど蓄えてませんので…」
「前衛出来る個性持ちはある程度散らして中心部分に休憩する者を纏めよう」
「方向を決めるのに上からの視点があると良いんだけど…」
「爆豪とか瀬呂くんとか麗日さんなら行けるんじゃない?」
その後も喧々諤々と話しあって5分程度で纏った。
周囲の警戒、魔獣の撃退は三人一組でローテーション。
戦闘型個性持ちは散らして配備する。
方向の確認は麗日さんと瀬呂くんのコンビで行う。
大火力を出せる轟くんと爆豪は基本的に交代で出てもらう。
司令塔は八百万さん、現場指揮は飯田くんの委員長と副委員長コンビで行う。
そして其々のグループに八百万さんが作り出した無線を装備、と。この人の個性も何でもありだなぁ…
俺は…
「いざという時のお助け要員?」
「えぇ。端場さんの個性なら万が一にも間に合わない事はありませんでしょう?」
中心付近で指示があれば突っ込む弾丸役である。
まぁ、個性的にそういう運用の方が助かるけども。
「ま、こっちは任せろ!」
切島くんがガッツポーズを取りながら漢らしい笑みを浮かべている。頼りになるなぁ…爆豪相手でもズバズバ言えるし。
「ではA組の皆!行動開始だ!!」
飯田くんの言葉と共に進行を開始する。
上手く回れば良いんだけど…
宿泊所に近づくにつれて魔獣の妨害が激しくなって来た。
「緑谷さん!左方向の応援に行ってください!」
八百万さんがひっきりなしに指示を出している。
飯田くんは既に前衛組と同様に前線に出ずっぱりだ。
後少しだと思うんだけどなぁ!
「端場さん!右前方の増援の対処を…」
との言葉と共に個性を発動。
右前方…あぁ、あそこか。
3体の魔獣に対処している尾白くん達の前方から新たに2体来ているのを確認した。
八百万さんに出して貰った鉄パイプを引っ提げて走る。
尾白くん達を追い抜いて近くの魔獣の足にフルスイング。
足が砕けて態勢が崩れた所で頭に1発入れると呆気なく崩れ落ちる魔獣。もう1体も同様に対処して八百万さんの所に戻った。
個性解除。
「…お願いします!」
「終わったよ!」
インターバルで少し熱を持ち始めた頭を振りつつ答える。
慣れてきたのか余り驚かず次の指示を出し始める八百万さん。
…最初の方は驚いて目をパチクリさせてて可愛かったな。
「そろそろ限界が近いからそこだけよろしく!このペースだと後10回が限度だと思って!」
連続使用は無いにしてもこの頻度で連打すると流石にキツイ。
「わかりましたわ!…宿泊所が見えて来ました!後少しです!!」
ようやく宿泊所の全貌が見えて来た。
ゴールが近いと判って全員気合が入ったのか反撃が激しくなる。
「前方を空けて下さい爆豪さん!」
「ブッ飛べや!!」
前方に集まった5体の魔獣を大火力で一掃する爆豪。
「轟さん、氷で道を作れますか!?」
「任せろ」
がら空きになった前方に氷で道と壁を作る轟くん。
…2人とも無法過ぎるな?
「全員傾注!宿泊所まで轟くんが道を作った!緑谷くん達が殿、爆豪くんを先頭に一気に行くぞ!!」
飯田くんの言葉と共に一斉に走り出すA組各位。
大分分厚く壁を作ってくれたのか魔獣達が壁を壊す様子は無い。
…が、その分後ろからゾロゾロと入ってきてるな!?
「八百万さん、後ろの奴ら蹴散らしてくる!」
「お願いします!」
八百万さんに一声掛けてから個性を使用する。
氷の壁を駆けるようにして宿泊所へ向かう皆を避ける。
殿を務める緑谷くん達が抑え込んでる魔獣の頭を順に砕いて土塊に戻してから一旦
「…全員前に向かってくれ!少し時間稼いだら離脱するからそれまでに宿泊所まで行って!」
土塊になった魔獣の後ろから新手が現れる。本当キリがねぇな!
「…判った!お願いするよ!」
少し迷った様子だが直ぐに思い直したのか走り出す緑谷くん達。
これで心置きなく暴れてから逃げれるな。
「ラストスパートだ!」
視界から色が抜ける。音が遠くなって行く最中に魔獣が1体襲いかかってきたが難なく回避して砕く。
2体目は何かする前に近づいて粉砕。
隙間が出来た所に捩じ込むようにして来た3体目も砕いた。
…この鉄パイプ良いな。先端に重量があるから振り回しやすいし当たった時のダメージがデカい。人には絶対使えないのが難点だけど。
その調子で追加で7体位砕いた所で後ろをチラリと見ると全員宿泊所まで辿り着いた様だった。
よし、逃げよう。踵を返して全力疾走、宿泊所の敷地に入った所で
「…ッ、到着!」
少し痛み始めた頭を抑えながら確認するように周りを見渡す。
疲労困憊になりながらも全員の姿があるのを見て安心と共に座り込んだ。
「全員揃ったね…昼には間に合わなかったけど、それでも想定以上に速くて吃驚だよ!」
…今15時だもんな。途中で間に合わないのが確定して方針が完全に安全第一に切り替わったし。
「何が"3時間"ですか…」
瀬呂くんの言葉に返す黒髪の人。
「悪いね、アレ私達ならって意味」
その言葉にガックリと肩を落とす皆。そりゃねぇよな…
「力量差を見せつける為にやったんスか…」
「想定以上に速かったのは確かだよ?」
金髪の方のヒーローが口を開く。
「私の土魔獣がいとも簡単に攻略されちゃってたし。…良いね、君達」
3年後に期待してツバつけとこうかな?と冗談っぽく続けた。
「時間切れとは言え早めに着いた事だし、今日の所はこれでおしまい!お風呂入っといで!」
皆ドロドロだよ?と言われて皆で見合わせると確かに全員ドロドロだった。
「バスの荷物を部屋に運んだら入浴、それが済んだら夕食を取って就寝だ。本格的な訓練は明日から行う…早くしろ」
相澤全員の言葉を受けてガヤガヤと荷物を降ろし始めるA組。
それを尻目に1人の男の子と会話する緑谷くんの姿が目に入った。
「僕は雄英高校1年、緑谷出久です。よろしくね…」
と手を差し伸べる緑谷くんの急所を殴りつける男の子。
飯田くんが男の子に注意するのを見ながらうわぁ…痛そう…と顔を顰めていると葉隠さんから声が掛かる。
「何してるの?…え、緑谷くんどうしたの?」
「急所に拳を食らって悶絶してる。ありゃ痛いよ…」
思わず身を震わせると葉隠さんは理解不能と言った雰囲気で
「何があったの…」
と言うが俺にも判らん。
「さぁ…?何か気に障るような事言ったわけでもなさそうだし…」
気難しい子なのかもね?と続けると納得いったようなそうでもないような、と言った感じで
「そういうものかな?…後1週間あるし、仲良くなれたらいいんだけどね」
と続けた。別に無理して仲良くする必要は無いと思うけど。
「そうだね…」
言葉を濁して答えて宿泊所へと足を向ける。
あの子の事も少し気になるけどまずは合宿が第一だ。
「ま、なるようになるよ」
「適当だなぁ…」
少し呆れた声で続く葉隠さん。だってどうでも良いもの…
こうして合宿所に到着した俺達だったが…入浴中に峯田が覗き騒動を起こしたり、飯時にあの子供の事情を少し聞いてしまったりと少し騒動があった。
何ていうかもう、初日から濃い1日だったな…