加速少年の英雄希望   作:月面旅行BD

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林間合宿、或いは個性強化特訓

 

 

うーん、いい天気だ。周りが緑に囲まれている状況。最高の朝だな…まだ日が昇りきってない早朝って事を除けば。

 

「良し、全員揃ってるな」

 

相澤先生の言葉通りA組の面々が眠たそうにしながらも集まっている。

 

「先生、こんな早くからやるの?」

 

「まだ眠い…」

 

「キツイよねー…」

 

口々に愚痴?を言うクラスメート達。まぁそりゃそうだ。

 

「ハイ静かに…宜しい。今日から個性を伸ばす特訓の開始だ」

 

個性を伸ばす?そんなん一気に出来ることじゃなくね?

そんな考えを他所に足元に線を引きながら先生が話し続ける。

 

「爆豪、個性把握テストの時の記録は700mだったな?」

 

懐からもはや懐かしく感じるボール…個性把握テストの時に使った奴だ…を出しながら爆豪に放り投げる。

 

「此処からあっちに向かって思い切り投げろ。勿論個性を使って良い」

 

建屋とは逆方向を指差しながらそう告げると爆豪がニヤリと笑って先生の引いた線まで歩く。

 

「なぁなぁ、どんくらい行くと思う?」

 

「大分経験積んだし1kmくらい行くんじゃね?」

 

周りのクラスメート達が其々予想する中、爆豪がスタートラインに着く。

 

「端場くんはどう思う?」

 

「ん…多分プラマイ5mくらいじゃない?」

 

葉隠さんの質問に答えつつ爆豪を見やると位置を調整して本気で投げる準備をしている。…真面目だよなアイツも。

 

「えぇ~…色々経験してきたし、流石にもっと飛ぶんじゃない?」

 

葉隠さんの言葉は確かにその通りなんだけどさ…

 

「実戦経験はね。でもそれって個性の出力に影響しないんじゃない?」

 

使い方に慣れはしたがそれはあくまでも応用に過ぎないだろう。

 

「でも端場くんは使用時間延ばせてない?模擬戦の時より体育祭の時の方が長く使ってたじゃん」

 

「個性使用時間は1秒も延びてないよ。使い方を工夫して戦闘時間を延ばしてるだけ」

 

あくまでもピンポイントでの個性使用やクールダウンを上手く取る事で誤魔化して来ただけだ。

 

そうこうしている内に爆豪の準備が整ったのか、大きく振りかぶって投げた。

 

「くたばれッ!!」

 

…まぁ、最初の時よりはマシになったか?"しねッ"よりはまだマシだなうん。

 

「言葉を選ぶ様になって…成長してるなぁ」

 

「ハードル低くない…?」

 

そんな事を言ってる間にも大きくアーチを描いて吹っ飛んでいくボール。肉眼での把握は無理だなこりゃ。

 

「…着弾。記録は707m。まぁこんなもんだろ」

 

淡々と告げる相澤先生に驚くA組。

 

「お前らは今までに実戦経験や授業によって個性の使い方は徐々に慣れてきている。だがそれでは個性の出力、基礎的な力は伸びない。…今回の林間合宿では其々の個性を伸ばす為の特訓を行う」

 

死ぬ程キツイが耐えてみせろよ?と笑う相澤先生。

 

使用時間の延長か…発現してから毎日コツコツ続けても地味にしか伸びなかったけどその辺上手いことやるやり方があるなら有り難いんだが…

 

 

数時間後。

そんな甘い話はなかった。ゴリゴリの脳筋特訓じゃねーか!

 

『…、いったん休憩〜』

 

目の前で手を振るのを見て加速を解く。頭の熱が引かないわ。

 

「面白い個性だね君」

 

クールタイム中に話しかけられるが今あんま余裕無いっす…

 

「それはどうも…」

 

今日だけで体育祭分はゆうに越えてるんだよなぁ…

頭の痛みが引かなくなって来やがった。

 

「発動型の個性は何人も見て来たけど速度の概念型は珍しいよ」

 

まぁ、俺と似た個性持ちってあった事ないし、レアなんだろーなーとは思ってたけどそんなにかな?

 

「大抵はパワーアップとかだもの。身体能力の延長線が多いのが特徴ね」

 

耳が良くなる、目が良くなる…想像しやすいのはこの辺か。

 

「君の場合は足が速くなるってわけじゃない。純粋に動作が速くなってる」

 

まるで自分だけ早送りしてるみたいに。と続けるマンダレイ。

 

「個性の先鋭化の話ですか?」

 

何かの学術論文だか陰謀論だかで提唱された話だ。

時代を経るごとに個性の多様化と進化が進んでいる。その内に人は地球を滅ぼし兼ねない力を個人に宿す事になるだろう…みたいな。

 

「そこまで極端な話じゃないけどね。君の個性は難しいって話」

 

考えられる強化方法って地力の強化と時間の延長だもんね。

 

「…要は根性あるのみ、と?」

 

「そー言うことになるね?じゃ、そろそろ始めようか」

 

ま、監督してくれる内に自分の限界値を知っておくのも後々役立つだろ…と加速開始。

 

既に視界が狭い。ピントが合ってる所以外が薄暗くなって来た。

 

数秒後、目の前に居るマンダレイが見えなくなった。

無音の世界で視界もない。ただ加速している感覚だけが残った。

 

数分後、自分がどう言う姿勢で居るのか判らなくなった。

 

 

数時間後…あれ?おれってどんなかたちしてたっけ…?

 

 

 

 

 

側頭部への衝撃を受けて身体の感覚が戻って来る。

徐々に視界が戻る。耳鳴りが酷い。

 

「……!?…………!!」

 

目の前で何か言ってるけど何言ってんのか分かんねー。

 

「大丈夫、大丈夫です…多分…」

 

自分の声は聞き取れるな。鼓膜は問題なさそうだ。

手足が動く様になって来た。運動機能にも障害はなし。

腕時計を見ると加速開始から15秒位経っていた。

 

「…いきなり痙攣しだしたんだけど!?」

 

耳鳴りも収まって来たな。

 

「えぇ、もう大丈夫です。ご心配お掛けしました」

 

軽く頭を下げる…身体が重いな。こりゃ限界まで酷使するのもよした方が良さそうだ。この状態になると足手まといになっちまう。

 

「すみません、ちょっと休憩させてもらっても良いですか?流石にこれ以上やると何か後遺症が残りそうで…」

 

多分戻ってこれなくなる。体感時間では数時間位だと思ったが現実には10秒そこそこしか経ってなかった。

 

ようやく加速(個性)の仕組みが一つ判った気がする。

恐らくは余計な情報を削る程加速の倍率が跳ね上がる。

普段は無意識に色覚と聴覚を削って加速の倍率を上げてる形とすれば筋が通らなくもない話だ。

 

そして加速を続けると脳が警告として痛みや熱を発する。

それを無視して使用を続けると段々リミッターが外れて見境なく情報を削って際限なく加速し始めるんだろう。

今回は外部要因で停止したが、あのまま加速し続けたら?

最悪は脳の機能が止まりかねない。

…その場合はちゃんと個性(加速)は停止するんだろうか?それなら心肺蘇生でギリギリ生き残れそうではあるが。

 

そんな事を訥々と話すとマンダレイは一旦退席したかと思ったら相澤先生を連れて戻って来た。

 

「…端場。お前はメニュー変更だ」

 

今日はもう休んで良い。と合宿所まで付き添われながら言われた。

まだ午後になってないんだけど…

 

「今から休みだと暇過ぎてキツイです」

 

「普段通り動けるようになってから言え。…すまなかったな」

 

いきなりの謝罪に目が白黒する。何でだ?

 

「監督不行届だった。お前の個性を考えれば俺が付くべきだったのを怠った…」

 

「いえ、今回の事は俺にも判ってなかった事が知れて良かったですし。結果何も起きてませんし」

 

もしかしたらもうちょい削って更に速くなれるかも…と考えてると頭に衝撃。拳骨を落とされたようだ。

 

「変な事を考えるなよ?今回でハッキリしたがお前も問題児だ。今後は目を離さんから覚悟しろ」

 

爆豪以上に手の掛かる奴だと思われてるのか?それは心外だと言い返す前に宿泊所に到着した。

 

「さて、お前を置いて戻ろうかとも思ったんだが…1人にすると何をしでかすか判らんからな。監視付きだ」

 

自然に椅子を引いて座る相澤先生。…先生と一対一?すげー気不味いんですけど…

 

「俺の事は気にせず楽にしろ。…個性は使うなよ?使用が認められた瞬間お前は退学処分だ」

 

冗談ぽい口調だけどアンタは本気でやりかねないから冗談になってない…

 

「…わかりました。ではお言葉に甘えて」

 

だらりと力を抜く。安全な場所で横になった事で何か緊張が解れたのか甘い香りと共に睡魔が襲ってきた。

 

 

あぁ、折角なら相澤先生にあの…捕縛布?の使い方聞いておきたかったんだけどな…そんな事を考えてる内に意識は闇へと消えていく。日中に経験した際限ない加速よりも穏やかな、安心出来る感覚に包まれた俺は抵抗なく意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ありがとうございますミッドナイト先生。」

 

そばに現れたミッドナイトに礼を言う相澤。今回の合宿、初日と2日目の護衛で参加してくれていたからこその迅速な対応だった。

 

「別に構わないわ…この子、そんなに難しいの?」

 

眠りこけた端場の頭を軽く撫でながら言うミッドナイト。

 

「端から見れば優秀なのは間違いない…個性が半分制御出来ていないのが問題なんです」

 

溜息を着きながらそう告げる。

 

「普段使いには問題ない、寧ろ強個性と言えるでしょうが…今回の事でハッキリしました。コイツは個性を伸ばすのではなく制御する方法を身に着けるべきだ」

 

緑谷とは違う。緑谷は着々と制御する様になって来ているし、漸く個性が身体に馴染んできている様に思える。

 

端場は既にある程度の制御が出来ているがリミッターを踏み越えた瞬間に制御不能になっている。

今後は制御可能な範囲を広げる形での強化になるだろう。

 

「何にせよ、ちゃんと見てあげなさいよ?今回は偶々ラグドールが異変に気づいてくれたから大きな問題にならなかったけど」

 

人の夢と人生を壊してたかもしれないんだから。と話を結んで立ち去るミッドナイト。

 

その後ろ姿に再度頭を下げる相澤。

先輩からの忠告を胸に留めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…気づいたら夕飯の時間だったんだけどどんだけ寝てたんだ俺?

疲れが抜けて爽快な気分だが半日無駄に過ごした感じで何か損した気分だ…

 

戻って来た皆と作ったカレーは美味かったけど、全員修行してきてヘロヘロな中ピンピンしてる自分が何ていうかちょっと恥ずかしい。明日からは俺もちゃんとやり切ろう。

 

決意を新たにして俺の合宿生活2日目は幕を閉じた。

 

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