加速少年の英雄希望   作:月面旅行BD

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襲撃の夜、或いは蒼炎の男

 

 

「どうした?それじゃ殴るどころの話じゃないぞ?」

 

炎を避けて個性を解除するとツギハギ男から挑発する様に話しかけられる。

んなこたぁ判ってんだよ…!

 

「バカスカ撃ちやがって火炎放射器かテメェは!」

 

返答は炎。加速して回避。

…これ、ただの火じゃなさそうだな。

焦げた地面を見ると僅かに抉れているのがわかる。

…溶けてる訳でもない。

詳細は不明だが少なくとも質量を伴ってると見て良いだろう。

 

「炎の個性持ってる奴は無法な奴ばっかりかよ…」

 

エンデヴァー然り、轟くん然り。

個性の特異点ってもんが本当にあるんじゃないかって思っちまうよ。

 

「誰と比べてんのか知らないが。早いとこ降参しろよ」

 

丸焦げにする訳にもいかねぇ、と面倒臭そうに言うツギハギ男。

 

「降参?お前(ヴィラン)に?…笑えない冗談だ」

 

軽口を叩くが突破口が見えてこない。

…取り敢えず近づいて見るか?

 

 

個性発動(加速開始)

 

此方に向けている右手の射線上から離れて一気に走り寄る。

炎が噴き出すが既にそこに俺は居ない。

右手側から殴りかかろうとした瞬間。

ツギハギ男の胴体から炎が噴き出したのを見た。

正確には腹辺りに寄せた左手からだったが…

 

自分事焼くつもりかコイツ!?

 

急ブレーキ、反射的に飛び退くと爆炎でツギハギ男が見えなくなる。

 

射程範囲外に退避して個性解除(加速終了)

 

 

「ッ正気かお前…!?」

 

炎の個性持ちは確かに炎に耐性を持つことが多い。

エンデヴァーも自分の炎で焼かれるような事はないが…それは指向性を持たせた上で自分を巻き込まないようにしているからだ。

あのツギハギ男の使い方じゃ自分もダメージを負うだろう。

 

「…危ない、危ない。情報通りだな」

 

炎が散って姿を現したツギハギ男は所々に火傷を負っているもののまるで大したことはないと言わんばかりだ。

 

「イカれてんのか?」

 

個性の制御を誤った訳じゃない。

 

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体育祭の時に爆豪がやった事でもあるが、威力が桁違いだ。

爆豪はまだ自分へのダメージを最小限になるように調整してたがコイツは違う。

 

「自分の炎で死ぬ気かよ!?」

 

そんな事は些細な問題と言わんばかりにぶっ放してきやがった。

 

「…?この程度で死ぬ訳ないだろ?」

 

あっけらかんと言う姿にステインとはまた違う狂気を見た。

人をどれだけ焼けば死に至るか、それを熟知しているのだコイツは…!

 

「少しはエンデヴァーを見習えよ…」

 

あの人はちょっと性格に難があるけど、炎っていう人を傷つけやすい個性で人助けをしている凄い人だ。

炎系の個性持ちとして最高峰のヒーローの名を口にすると

 

「エンデヴァー…エンデヴァーね…」

 

声を抑える様に笑い出すツギハギ男。

 

「そういやお前、保須市の時にエンデヴァーの事務所に居たんだっけか?」

 

…そんな事まで知ってんのか。いや、ステイン逮捕時の動画でバッチリ映り込んでたか?

 

「それがどうした?」

 

何方にせよ会話で時間稼げるなら儲けものだ。

個性のクールダウンのためにも。

 

「何でお前が指名されたんだ?」

 

心底不思議そうに聞いてくる。

そんなん俺が知るわけねぇだろ。

 

「…さぁ?聞いてねぇから知らねぇよ。偶々目にとまったんじゃねぇの?」

 

相手の腕の方向に注意しろ。

今のところ炎は手のひらを向けた方向にしか出してない。

 

「…その程度か」

 

少しガッカリした…のか?

声のトーンが変わった。

 

「何でそんな事を気にする?」

 

「ただの気まぐれ」

 

素っ気ない言葉と共に左手が此方に向いた。

炎が俺に向かって延びてくる。

…範囲がおかしいだろうが!?

 

 

個性発動(加速開始)

 

扇状に広げた炎の壁を避けるように走る。

俺を見失った瞬間、今度は右手を自分の胴体付近に向けているのが見えた。

バカが!そのまま自爆しやがれ!

突っ込むのを取り止めてツギハギ男の背後、少し距離を置いて身体を停止させる。

 

…!?此方に向かって撃ってきやがった!?

 

どうなってる?と思うより先に回避。

最初にいた所は既に炎の海だ。左か右か…右手側だな。

即決して右手側へと再度走る。

 

完全に回避した所で一度個性を解除する。

 

 

「…どういった理屈だ?」

 

何でアイツは俺が攻撃しないと判った?

加速中の俺の姿を視認するのは至難の業だ。

それこそハイスピードカメラでもコマ飛びするレベルのはず…

 

「別に見えてねぇよ」

 

律儀に答えてくれるツギハギ男。

 

「お前、分かり易すぎ。こんなんならコンプレスで十分だったろ…」

 

溜息と共に愚痴る。

コンプレスってのが何なのか知らねぇけど…

 

「要はただの人読みか」

 

知覚系の個性との二重個性持ちではないってのは良い情報だ。

…そんな物がなくても強いってのが凄く悪い情報だが。

 

このレベルのヴィランが徒党を組んで来てんのかよ…

オールマイトが来てないのが絶望的に感じる。

相澤先生とブラド先生、プッシーキャッツの4人…6人のプロヒーローが守る合宿所を襲撃するくらいだからそれなりの奴らだとは思ってたけど、コレは想像以上にヤバいな。

 

「その人読みでお前は負ける。…少し焼けてても構わねぇか」

 

ゴキリ、と首を鳴らすと雰囲気が変わった。

 

今まででも十分ヤバいのに更に上があるのか!?

 

「…死んでなけりゃ良いってんだからな!」

 

その言葉と共に両手から今まで以上の炎が襲ってくる。

今まで以上の速さ、規模のソレは青い炎の津波の様だった。

見世物としてなら綺麗だが今は明確に俺を狙って来ている。

 

「…上等だ!!」

 

 

加速開始(個性発動)

 

何時もの様に音が無くなって色が抜ける。

それでも今回のコレは避けるのが難しい…いや、無理だな。

縦にも横にも広い。回り込めるだけの場所もないし時間もない。

 

突っ切るか?一瞬だけなら覚悟すれば耐えられると思うが…

コスチュームがあれば即決だったが今は無い。

弱気になる心に喝を入れる様に。

引き伸ばされた時間の中で頭を回す。

 

そもそも今の速度で足りるのか?

突っ切るまでの猶予は?

色々足りない事はあるがこのままじゃただ焼かれちまうぞ。

 

…なんでも良い、一泡吹かせてやりてぇ。

じゃあどうする?

 

最速でブチ抜いてあのスカした顔ぶん殴る!!

考えがまとまった。真っすぐ行ってぶっ飛ばす。

 

ごちゃごちゃ考えるのを止めた。

昨日の訓練のせいか、簡単に外れる様になっているリミッターを意識して取っ払う。

 

視界が狭くなり始めたのを確認した瞬間に炎の津波に突っ込んだ。

 

周りが見えなくなっていくのと引き換えに炎の動きが鈍くなって行く。

 

炎の津波をぶち破る。少し抵抗はあったものの直ぐに振り切って突破した。

 

ツギハギ男が見えた。

 

視界の中心に捉えて一気に近寄る。

 

そのまま思いっ切り右拳を顔面に叩きつけた。

 

加速終了(個性停止)

 

 

「だらぁ!かましてやったぜ!」

 

ぶん殴られて吹っ飛ぶツギハギ男。

限界ギリギリまで加速した影響で頭がガンガンするが笑顔で誤魔化す。

 

「…やってくれるじゃないか」

 

倒れた状態から上半身を起こすツギハギ男…

…頭半分位無くなってね!?と驚くと同時に全身が溶け出す。

 

「また逃げんのかよ?」

 

強がって見せる。本心ではもう帰ってほしいけどそんな姿を見せる奴はヒーローじゃない。

 

「この俺は、な」

 

どうでも良さそうに言ったツギハギ男が完全に溶けて泥の塊になった。…もう、来ないよな?

 

 

「意味分からん奴だったな…」

 

炎も相当ヤバいが泥になる個性が皆目見当もつかない。

共通点はダメージを与えられたら溶け出す様に消える事だが…

 

「身代わり的な感じか…?」

 

ある程度のダメージで発動、本体と位置を入れ替える…あり得なくはないがテレポート系は希少だ。態々ヴィランをやらなくてもいくらでも稼げるだろ…いや、USJの時の黒モヤ野郎も転移型の個性持ちだったか。

 

「駄目だ、分からん」

 

頭を振って余計な考えを追い出す。

個性のクールダウン中に考える事じゃなかったな。

少し頭の痛みが引いてきた所で緑谷くんの居た方へと走る。

 

 

 

 

 

ツギハギ男とやり合ってる最中に聴こえてきてた破砕音が止んでる。もう倒したか、逃げ切ったか…やられちまったか。

 

最後の考えを振り払う様に走った。

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