T S 乙 女 め ん ど く さ い お じ さ ん(31)   作:霜降り 

4 / 7
如月さんは無自覚

 

「もう、いい時間だね」

「ですね」

 

 コラボカフェ前で、プライベートの普段と全く違う如月さんと出会い、それから一緒に動いた今日。

 ロリィタ専門店から出たあとはゲーセンに行ったりしていたのだが、気がつけばもう太陽は沈んでいた。

 ここまで何かに熱中したのは久方ぶりだった。

 

「ふふ、平塚くんクレーンゲーム上手いんだね。ちょっと意外」

「昔取った杵柄ってやつです」

 

 高校の時に身に着けたものだ。

 昔は同級生の友達とバカみたいにはしゃいでいたものだ。懐かしい。

 今はもうそんなふうに騒ぐことなんてなくなってしまったが。

 大人になったということなのだろうが、少し寂しさもある。

 そういう意味では如月さんとそんな時間を過ごせて良かったかもしれない。

 

「ありがとね。ぬいぐるみ取ってくれて」

「如月さんのお金ですから」

 

 如月さんがあまりに欲しそうにしてたものだからちょっと手伝っただけだ。

 俺がお金を払ったわけでもないし、礼を言われるようなことじゃない。

 片手にぬいぐるみの入った袋を持ってそう答える。

 結構可愛いアザラシのぬいぐるみだった。

 如月さんはぬいぐるみが好きらしい、昨日の俺ならとても意外に思ったことだろうが、今の俺はむしろ納得と言った感じだった。

 

「夜ご飯はどうする?」

「如月さんは何か食べたいものあります?」

「んー……」

 

 時間的にも夜ご飯には丁度いい時間。

 夜ご飯を一緒に食べることになるのは話し合わなくても決定事項だった。

 

「平塚くんはさ、嫌いなものある?」

「割と何でもいけますよ」

「じゃあ、オススメのお店を教えて上げる」

 

 如月さんは少し得意気に笑ってそう言った。

 彼女のオススメ、如月さんはなんとなく通な雰囲気あるし気になるところだ。

 

「ご教授お願いします」

「もうっ、あんま変な言い方しないで」

 

 俺の冗談に如月さんが笑う。

 俺の言葉で彼女が笑ってくれたのが少し嬉しかった。

 

 

 

 

 

「……ピザ、ですか?」

「うん」

 

 如月さんに連れられてやってきたのは、ピザ屋だった。

 とはいえ、如月さんはオススメのお店と言って有名チェーン店を紹介するような人ではない。

 案内されたお店は仄かな光を放つ隠れ家のようなおしゃれなお店だった。

 

「ここのピザは普通のと違って四角いピザなんだ」

「四角、ですか?そんなのもあるんですね」

「うん、ローマでは定番らしいよ?」

「まじっすか」

 

 メニュー看板には確かに如月さんの言う通り丸いピザではなく四角のピザが乗っていた。

 如月さん曰くローマでは定番らしい。

 素直にこんな物があるのかと感心してしまった。

 

「平塚くんはここで平気?」

「はい、ここにしましょう」

 

 別にどこだって断るつもりはなかったが、しっかり興味のあるお店に連れてきてくれた如月さんに感謝しつつ二人でお店に入店する。

 何名かと聞かれて、二人と答えれるのは少し久々だった。

 店員に案内されて席に着く。

 

「いい雰囲気ですね」

「でしょ?こういう雰囲気好きなんだ」

 

 店内は、テーブルなど全体的に木製のもので固められ、観葉植物に目に優しい仄かな明かりなど優しくもおしゃれな雰囲気だ。

 若い人が好むと言うよりかは、落ち着いた人が好むような印象でこういったところは年齢通りなのだなと思った。

 

「何にする?」

「そうですね……」

 

 メニューを開くと色とりどりのピザが出てくる。

 中には見たことがない具のピザまであった。

 しかし、俺はどうもあまり冒険するような人間ではなく、普通にトマトが乗ってる形以外見慣れたものにした。

 如月さんは野菜系の、ヘルシーそうなやつを選んでいた。

 やはり女性として、そこらへんが気になるのかもしれない。

 

「平塚くんは、休日何して……」

 

 店員に注文し料理を待つまでの時間、如月さんが話しかけてきた、と思ったら彼女は止まる。

 

「ごめん、なんでもない」

「如月さん?休日のことですか?」

「あ、いや……嫌だったかな?プライベートの話嫌だよね?ハラスメントだったよねこれ確かごめんね変なこと聞いて良くないよね」

「いや、いいですけど」

 

 あー、そういえばニュースか何かで休日の過ごし方を聞くのはハラスメントだとか見たような……

 どうやらその事を気にしてる如月さん。

 俺としては全然構わないのだが

 

「そういうのって、業務中に聞かれるのがあれなのであって、こういう場なら平気だと思いますよ」

「そ、そう……?」

「あとは、まあしつこくなければ大丈夫かと」

「じゃあ大丈夫じゃなくない?」

「あれをしつこい聞き方だと思ってるんですか?」

「あう、ごめんなさい」

 

 思わず出てしまった言葉に如月さんがしゅんとして頭を下げる。

 いや、別にそこまで頭を下げなくてもいい。

 

「それで、休日の過ごし方でしたっけ」

「あ、うん……教えてくれる?」

「ええ、はい。如月さんなら。でも俺如月さんと違って特にこれと言って何かしてるわけじゃないですよ?」

 

 俺の休日なんて如月さんと比べればしょっぱいと言うか何もないと言うか。

 わざわざ話すことでもないのだが。

 

「ゲームか読書か、ジムですかね」

「え、ジム行ってるの?」

 

 如月さんがジムに反応する。

 少し意外そうな目でこちらを見ていた。

 

「まあ、はい。週一レベルなんで大した事ないですけど。体力つけようかなって」

「へぇ……凄いね」

 

 如月さんは感心したかのように頷く。

 そしてこっそりとひそひそ話をするように聞いてきた。

 

「もしかして、割れてたりするの?」

「いや、薄っすら程度ですよ」

「それでも凄いよ」

 

 割れてると言っても本当にうっすら線が見えるくらい。

 この程度ならスポーツを嗜んでいればそこそこいるだろう。

 それなのに如月さんはやけにこちらを凄いと褒めてくる。

 

「そんな凄いですかね」

「僕も一回ジムやってみようと思ったけど、全然続かなかったから」

「そうなんですか?」

 

 どうやら、如月さんもジムに挑戦したことがあるらしい。

 それで駄目だったから通えてる俺を凄いと思ってるようだ。

 

「なんか場違いな気がしてね……」

「それは……」

「アラサーで大して鍛えてもない貧弱な男があんな力強い場所にいたら駄目な気がするんだよね僕みたいな雑魚があんな場所にいたら駄目な気がするんだよね」

「そんなことないと思いますけど」

 

 ふふふふふふ、と自嘲気味にそう言った如月さん。

 奇しくも俺がコラボカフェに行けなかった理由と同じだった。

 なんとも悲しい話だが、まあわからんでもない。

 なんであろうと初めてというのは緊張するものだ。

 

 流石に、女性相手に一緒にジムに行きますかとは言えない。

 それにしても当然ではあるのだが、やはり男だった頃から如月さんの素はこれだったらしい。

 

「如月さんは休日何してるんですか?」

 

 暗い笑みを浮かべる如月さんを止めるためにも俺は話を戻す。

 

「最近は可愛いお洋服を調べたりとか、お出かけしたりとか、かな?」

 

 答えは半ば予想できていたものだった。

 まあ、そうだよなと納得しつつ俺は少し気になったことを聞いた。

 

「昔は何をしてたんですか?」

「え?平日の反省会」

「……休日中?」

「うん、あのときこうしてればよかったみたいことずぅっとぼーとしながら考えてた」

「……そ、そうですか」

 

 にこやかな顔でなんてことないふうに言うのがむしろ怖かった。

 なんというか、もちろんそう簡単に言っていいことではないが彼女は間違いなく性転換病という病に助けられた側の人間だろう。

 

「あ、勘違いしないでね。今もちゃんとしてるから」

「してないです。しないでください。如月さんは凄いんですから」

 

 もはや流石の域な如月さんであった。

 もちろん、自己反省会なんて人間誰しもすることだ。

 俺だって幾度となくやってきた。

 とはいえ如月さんは流石に異常な域である。

 正直、そんな意味もなく自分を追い詰める行為やめてほしいのだが如月さんのそれは三十年分の重みがある。

 直せ、と言われて直るものならここまで拗らせないだろう。

 となると、少しずつでも自信をつけてもらえるよう、やはり少しでも俺は如月さんを褒めるべきなのかもしれない。

 

「如月さん、普段よくネガティブなところ見せないですね……」

「だって、普段の僕みたいなやつが上司なの嫌でしょ」

 

 うーむ、と俺は言葉を詰まらせる。

 それは、まあ否定できない。

 

「上司の立場で謝ってばっかじゃみんなに不安抱かせちゃうし」

 

 今の如月さんのように謝ってばかりの上司では確かに安心感を抱かせることはできないだろう。

 と言っても如月さんの手腕ならその仕事の腕前でなんやかんや黙らせてしまいそうな気もするが……

 

「みんないい子たちだからさ、僕如きのせいで力を発揮できないなんてことになったら嫌なんだ」

「…………」

 

 少し目を細めて如月さんはそう言う。

 

「だからせめて頼れるようにって……まあできてないけどさ。ごめんね」

 

 申し訳なさそうな顔を浮かべる如月さん。

 なんというか、本当にこの人は……

 

「平塚くんも……ごめんね、こんな弱音聞かせちゃって」

「……はぁ」

 

 謝ってくる如月さんに俺の口から思わずため息が出てしまった。

 あ、やべっ、と思う頃には如月さんの顔には暗い笑顔が浮かんでいた。

 

「そうだよね嫌だよね上司にこんな弱音聞かせるの嫌だよねごめんね迷惑かけていつもいつもいつもせっかく友達って言ってくれたのにごめんなさい」

「如月さん、聞いてください」

 

 如月さんの名前を呼んで彼女を止める。

 俺が改めて呼んだためか、彼女はしっかりとこちらを見た。

 

「俺は、如月さんが上司で良かったと思ってますよ」

「あはは、他にいい人いくらでもいるよ」

「俺は、如月さんが良いと思ってます」

「…………」

 

 俺の言葉に如月さんは少し気恥ずかしそうに身を縮こませた。

 しかし、彼女に自信を少しでも抱かせるためにも、彼女に俺の気持ちを伝えるためにも、この程度で止まっては駄目だと俺はそこから言葉を続けた。

 

「前、俺のミスを如月さんが庇ってくれたことあったじゃないですか」

「……あったね」

 

 昔、俺が新人を卒業できたかなくらいの時期のことだ。

 俺は結構デカ目のポカをやらかしたことがある。

 その仕事の予定を思いっきり崩すような、かなり酷いミスだ、しかも他社が関わるようなもの。

 それに気がついたときは、背筋が凍ったものだ。

 間違いなく怒られる、俺はそう思った。

 しかし如月さんは、この程度気にしなくていいと言ってすぐさまフォローして相手会社にも如月さんが矢面に立って俺を庇ってくれた。

 そして、俺が礼を告げれば『上司としての仕事をなしただけだ』と、当たり前のように言った。

 その時からだ、俺が如月さんを強く尊敬するようになったのは。

 

「あれ、本当に助かったんですよ」

「……上司として当たり前でしょ」

「それができる人って案外少ないと思いますよ」

 

 当たり前のことを当たり前にできるって結構凄いことだと俺は思う。

 上司の仕事なんて、特にそうだろう。

 別会社に勤めた友人は上司が仕事もせずパワハラをしてくるなんて愚痴をよく言っていた。

 如月さんはそんな奴とは比べ物にならないくらい良い上司であり、俺はそのことに感謝していた。

 

「俺は普段から如月さんに助けられてるんです。だから、少しくらい()()()()()()()()()

 

 だからこそ、こちらだって如月さんのために動きたいのである。

 彼女を見つめて、そんな俺の気持ちを伝える。

 

「俺の前で弱音だとか、素を出すことに抵抗を抱かないでほしいです」

「…………んん」

 

 そんな俺の言葉に如月さんは本当に恥ずかしそうに小さく返事をした。

 

「じゃ、じゃあさ……」

 

 そして、如月さんは少し緊張した面持ちで言った。

 

「連絡先、交換しない?」

「連絡先、ですか?」

 

 彼女の言葉に少し首を傾げる。

 なにせ、俺は如月さんの連絡先を普通に持っているからだ。

 そんな俺の疑問に如月さんは説明する。

 

「プライベート用の連絡先があるんだ。そっちと……ど、どう?」

 

 如月さんはバッグからスマホを取り出す。

 そのスマホには、普段の如月さんのスマホと違いステッカーなどが沢山貼られた可愛らしいものだ。

 つまり、プライベートではそっちのスマホを使ってたわけか。

 上目遣いで不安げに聞いてくる如月さん。

 答えは決まっていた。

 

「いいですよ。しましょうか」

「ほ、ほんと?」

 

 信じられないと言いたげな如月さんに少し苦笑いを浮かべつつ俺もスマホを取り出す。

 そして彼女のプライベート用のアカウントと連絡先を交換した。

 

「ふふっ」

 

 如月さんはスマホを見て嬉しそうに笑う。

 そんな喜ぶことかなと思っていると彼女は言った。

 

「こっちのアカウントね、親にも話してないから公式以外だと平塚くんが初めてなの」

「そうなんですか」

 

 なるほど、そりゃ上機嫌になるわけだ。

 納得する俺、少しだけ初めてというのが嬉しかった。

 

「初めての友達だね」

 

 その時の如月さんの笑顔はとても純粋で、魅力的だった。

 

 

 

 

 

 ピザを食べてる合間は、俺がお願いして如月さんに彼女の"好き"について話してもらった。

 ロリィタ服以外の好きな服だとか、作品だとかキャラだとか。

 学のある如月さんが好きなものを楽しそうに語ってくれる話は聞いている側としてもとても面白く、中々楽しい時間だった。

 俺も、彼女のように面白く好きを語れるようになりたいものだ。

 

「今日はありがとね、平塚くん」

「いえ、こちらこそ」

 

 と、流石に夜ご飯を食べたらお別れの時間だ。

 こちらにお礼を言う如月さんに俺もお礼を返す。

 

「ここまで楽しめたのは平塚くんのおかげだよ」

「そうですか?」

「うん、普段だとナンパとかね……」

 

 そう言うと如月さんは小声で『全く僕のどこがいいんだか』と言った。

 確かにこういう場所だとそういう男は出没しそうだ。

 

 …………うーん

 

 如月さんとあのピザ屋で話し込んでしまったのもあった空はもうかなり暗い。

 その空を見て俺は言った。

 

「あの、送りましょうか?」

「えっ」

 

 如月さんが少し驚いたようにこちらを見る。

 なにせ、もう夜更けも夜更けだ。

 ここらはまだ街灯の光があるが少し離れればかなり暗くなる。

 それに正直ここらへんは治安のいい日本といえどあまり治安がいいとはいえない場所。

 そして今の如月さんの『僕のどこがいいんだが』という発言。

 なんというか、一人で彼女を家に帰すのに不安が湧いてくるのは十分すぎた。

 

「いや、いいよ。僕なんか狙う人いないし、そんな手間かけなくても。平塚くんの家僕の家から反対方向だし」

 

 そして彼女の予想通りの返答に俺は内心でため息を吐いた。

 謙虚も過ぎれば失礼というが、これはもはや彼女の身が危ういのではないだろうか。

 

「如月さん、自覚してください」

「へ?な、なにを?」

「如月さん、あなたは女性ですよ」

 

 せめて、女性として俺の見送りを断っていいから自覚を持ってほしい。

 ちゃんと異性への警戒を持ってほしいのだ。

 

「そりゃそうだけどさ……だって、僕だよ?」

 

 しかし、如月さんは自分を襲う人などいないとそう言う。

 だが、そこは俺的にはあまり関係ないと思う。

 そういう輩というのは女性だからで襲うのだ、そこに顔だとかはあまり関係ない。

 

「如月さん、そういう輩って誰でもいいんですよ」

「……まあ、そうかもしれないけど。警戒しすぎだって」

 

 その事を指摘すれば如月さんは俺の言葉から逃げるように否定する。

 それで俺も覚悟を決めた。

 

 彼女には、もっと直接的に言わないと駄目だ。

 

「如月さん」

「う、うん」

「如月さんは十分可愛いです」

「にゃっ!?」

 

 可愛いに反応した如月さんが飛び上がる。

 俺も若干気恥ずかしさがあるが、これも如月さんのため。

 心を鬼にして続けた。

 

「如月さんは男から見て十分魅力的です」

「っ、ぼ、僕元々男だよ?」

「それ相手からしたら知り得ない情報ですよ」

「うっ……」

 

 如月さんが言葉を詰まらせる。

 確かに、如月さんは半年前まで男だった。

 しかし、そのことは不審者は知り得ない情報なのだ。

 だから、言い訳にはならない。

 

「さ、三十代の女なんて誰も興味ないでしょ!」

「だったらナンパなんてされないでしょう」

「あうっ……」

 

 如月さんは自身の年齢を理由にするが、如月さんの外見はそのメイクと服装もあってかなり若い。

 下手すれば高校生にすら見えるような外見なのだ。

 というか、三十代はそういう目から逃げられる範囲ではないだろう。

 そも、ナンパされてるのが答えである。

 彼女は、男から見て十分すぎるくらい魅力的なのだ。

 

「如月さんは少し異性に警戒を持ったほうが……」

 

 その事を如月さんは理解しておくべきだ。

 じゃないといつか酷い目にあうかもしれない。

 それこそ如月さんが、可愛いというものに対してトラウマを抱いてしまうようなことが起きるかもしれない。

 ならば俺はそれを見逃すことなんてできなかった。

 だから俺は語気強めに如月さんに言おうとして、その途中で如月さんが爆弾を放り投げた。

 

「……ひ、平塚くんも、そう、思ってるの……?」

「…………」

 

 ……俺はこれになんと答えるのが正解なのでしょうか?

 

 問題なのは如月さんの性別と俺との関係である。

 如月さんは元男だ。

 故に当然ながら、男からそういう好意をぶつけられるというものには女性以上の嫌悪感があるだろう。

 それに変に口にしてしまえば友達という関係が壊れかねない。

 だから、そう簡単に口にすることはできない。

 しかし、である。

 今までの如月さん的にそれを否定するのはするので彼女が傷つきそうな気がするのだ。

 如月さんを見る。

 彼女はこちらを不安げに見上げていた。

 

 …………

 

 まあ、本音で行くか

 

「如月さんのことは……まあ……魅力的だとは、思っています」

 

 ちょっと恥ずかしさを感じながらしっかりと告げる。

 俺の言葉に如月さんはこちらを開いた目で見て

 少しの静寂のあと、如月さんから音がした。

 

 やかんが沸騰した時のような音が

 彼女の顔がどんどんと赤く、沸騰していき、湯気が上がる。

 如月さんが腕で目元を抑え、こちらから目を逸らす。

 

「…………」

「〜〜〜〜っ」

 

 そしてまたも静寂。

 そんな彼女に固まる俺に、如月さんは一歩近づくと小さく俺の服を摘んだ。

 

「……家の近くまで、お願い」

「……はい」

 

 どうやら、正解ではあったらしい。

 

 

 

 

 

「ここまででいいよ」

 

 数階建てのマンションの多い住宅地で、如月さんはそう言って俺の手から彼女の荷物を取った。

 そして横にいた如月さんは少し前に出るとこちらへと振り向いた。

 

「本当にありがとね、平塚くん」

「いえ、当然のことですので」

 

 俺の言葉に如月さんは俺の顔を見た。

 少し拗ねたような表情の彼女にどうしたのだろうか少し不思議な顔をしてしまう。

 

「平塚くんってさぁ……」

「はい?」

「ごめん、なんでもない。なんか、今日一日でだいぶ平塚くんの印象変わったかも」

 

 誤魔化すように如月さんが笑う。

 印象に関してはどう考えてもこちらのセリフだと思うが。

 何か悪いこと指摘しようとした……にしては、如月さんは少し上機嫌気味で俺は首を傾げた。

 

「改めて、ありがとね。平塚くんのおかげでいつもより楽しかったよ」

「こちらこそ、コラボカフェとかありがとうございます」

 

 コラボカフェを楽しめたのは間違いなく彼女のおかげだし、クレーンゲームだってそう、今日を楽しめたのは如月さんのおかげだ。

 そんな俺の言葉に如月さんは笑う。

 

「次会うのは会社かな」

「ですね」

 

 俺にバレたとはいえ如月さんは会社だと今の姿ではないだろう。

 と、なると如月さんの今の格好はもう見納めになってしまうかもな。

 そう思った俺に、如月さんは言った。

 

「また、遊ぼうね」

「……ええ、はい。遊びましょう」

 

 その言葉に喜びを感じながら答える。

 

「じゃ、またね」

「はい、また」

 

 また、別れの言葉がそれになるのが嬉しかった。

 その後は、その場で如月さんを軽く見送って俺は自分の家に帰るために来た道をまた歩くのだった。

 

 

 




評価、お気に入りよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。