T S 乙 女 め ん ど く さ い お じ さ ん(31)   作:霜降り 

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如月さんは乙女

 

「ふぅ……」

 

 如月さんとの休日を終え、家に帰ってきた俺は一つ息をついた。

 如月さんとの休日は中々楽しい休日だったがそれはそれとしてあんな長時間遊んだのは久々で少し疲れが溜まっていた。

 バッグを置いて、手を洗い、汗の染み込んだTシャツを脱いで部屋着に着替えたらベットにダイブだ。

 

 それにしても、如月さんの素はあまりにも意外だったな。

 ベットの柔らかさを堪能しながら改めて考える。

 なにせ、普段の如月さんは厳格で頼りがいのある人なのだ。

 

 それがあんな……

 

 ……もう、いいか

 

 本人がいない今無理する必要はないだろう。

 

「はぁ〜〜〜」

 

 俺は一つ大きな息を吐く。

 

 

「如月さん、ちょっと可愛いがすぎるな……」

 

 

 流石に本人の前ではあまり言えなかった本音を口にする。

 

 ちょっと、あの人、可愛いが過ぎる。

 如月さんなのに、あの厳格な如月さんなのに。

 いや、むしろ普段の如月さんがあれだからこそより可愛く見える。

 

 普段の如月さんは例えるなら山だ。

 俺達の後ろにどっしりと構えて、いつ俺らが倒れても支えられるようにしてくれる安心感と安定感の塊のような人。

 そんな人だから低身長で童顔であれど美人だな程度の印象で可愛いとかそういった印象はなかった。

 

 しかし彼女の素は違った。

 常に少し不安そうで身を縮こませている彼女は例えるなら小動物である。

 繊細で、力を込めてはいけない、守らなければならないようなそんな庇護欲を掻き立てる存在に見えた。

 好きなことを話す際はとてもいい笑顔で楽しそうに語るというのもその印象を加速させる。

 彼女は三十一なはずなのに、その童顔に低身長もあって年下と話すような気分になった。

 そんなのだからもう印象は可愛いで埋め尽くされていた。

 

 特に俺が褒めた時の反応。

 顔を赤くしながら耐えるような表情を浮かべる如月さんはもうなんというかかなり愛おしかった。

 普段の如月さんを褒めても軽く受け流されるからそのギャップもあって尚更だ。

 

「俺会社で如月さんといつもみたいに話せるかな……」

 

 あの如月さんをみたあとだと普段の如月さんがどこか小動物が頑張って威嚇してるような、そんなイメージになってしまう。

 ……まあ、普段から無理してるみたいだし、できる限り負担を減らせるように頑張ろう。

 

「はあ……」

 

 正直に言えば、である。

 

 今の如月さんは結構好みだ。

 これは顔とかそういう話ではない。

 もちろん如月さんは美人だと思うが、それ以上に俺が惹かれたのは彼女が自身の"好き"を楽しんでいるところだ。

 昔から、そういう人達が好きだった。

 熱中してる人を横から見るのが好きだった。

 俺にはできないことを楽しんでる人が好きだった。

 

 如月さんはまさにそれだった。

 たった一日で人を好きになるのは惚れっぽいと言われたらその通りだが、如月さんとは一日の付き合いではない。

 もちろん、それは演技をした如月さんではあるが、そんな彼女に対して俺は十分過ぎるほど好印象を抱いていたわけで。

 そんな人の素が自分好みの人だとわかったらそりゃまあ……好きにもなるだろう。

 

 とはいえ、なあ

 

 如月さんは元男。

 流石に男から矢印を向けられるのは嫌に決まってる。

 女性からすればワンチャン狙いですら不愉快に感じるものだ。

 それが元男と成れば尚更だろう。

 だから、この恋心は隠さねばならない。

 それでも、せめて叶わない恋ならば友達ではいたいものである。

 それに如月さん、俺と友達じゃなくなったらかなり傷つきそうだし……

 

 と、その時だ。

 スマホが少し震えた。

 

「ん?」

 

 ベットから体を持ち上げて、スマホを確認する。

 

 如月さんからの通知だ。もちろん、彼女のプライベート用のアカウントのほう。

 なんだろうとメッセージアプリを開いて、俺は目を見開いた。

 

 あの今日買ったロリィタ服を身に纏った如月さんがいたのだから。

 

 髪型をあのツインテールからおさげに変えて、ロリィタ服に身を包み少し恥ずかしそうに自撮りをしている彼女はとても、可愛らしい。

 

 こんな夜にわざわざ疲れてたろうに

 

『俺は如月さんがその服着てるとこ見たいですよ』

 

 あの約束をしたからか。

 ……ちゃんと覚えていたんだな。流石如月さんだ

 全く、この人は、別に明日でもよかったと思うのだけど。

 その誠実さはなんというか如月さんらしかった。

 

 いや、しかし、これは……

 

「似合ってるじゃないですか」

 

 少し笑って小さく呟く。

 やはり、俺の見立ては合っていたようだ。

 スマホを持ったままベットに倒れ込むと、俺は彼女に感想を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーこれならおさげの方が……」

 

 僕は鏡に映る自身の姿を見てそう呟く。

 高く止めていたゴムを一旦外して、今着ている甘ロリの可愛い洋服に合わせたリボンを取り出す。

 

「わっ、いいじゃん……」

 

 そしてそのリボンで髪をおさげにして鏡を見てうんうんと頷く。

 その鏡に映るのは甘ロリを着た僕、結構可愛いかも。

 黒髪には似合わないと思ってたけど、平塚くんの言う通り案外いける……

 ふふっ、と僕は小さく笑う。

 この服を買えたのは彼のおかげだ。

 着てるところをみたいって言ってたし、早く見せてあげないと。

 僕はスマホを取り出してカメラを立ち上げる。

 

 そして、パシャッと鏡越しに自分の写真を撮った。

 けど……

 

「可愛くない……」

 

 写真の中の棒立ちの僕はあまり可愛くない。

 せっかく可愛いお洋服なのに、動きもなくてどこか無機質、変に影もかかっててこれじゃ全然可愛くない。

 これは……嫌だな

 こんな可愛いお洋服を僕の自撮り技術の不足で輝かせられないなんて嫌だ。

 もっと、可愛く撮りたい。

 せっかく平塚くんに見せるんだから。

 ちゃんと可愛く撮らないと。

 その方が、平塚くんも褒めてくれそうだし……

 

 それから僕はスマホでいい感じの自撮りの撮り方を調べに調べ尽くした。

 こう撮ると小顔っぽくなるとか色々……あまり詳しく調べたことなかったけど結構奥が深くてちょっと楽しい。

 そして色々と試して……

 

「ん……これにしよ」

 

 ようやく、納得できる一枚を撮ることができた。

 中々上手く撮れた一枚に少し上機嫌になりながらシワを付けないように、そしてすぐに眠れるように服をネグリジェに着替え、平塚くんにその写真を送ろうとして、僕は気づく。

 

「は、恥ずかしくないこれ……?」

 

 自分の自撮りを人に送るのって結構恥ずかしい!

 人に自分の写真を送るなんて証明写真でくらいしかやったことないよ。

 普通にちょっと恥ずかしいんだけど……

 改めて冷静になってみたら調子乗って結構恥ずかしいポーズしてるし!

 なんか無理して若作りしてるような気がする……

 ていうか三十一の奴が二十台の子に自撮り送るのってだいぶあれじゃない!?こう、あれじゃない!?

 

「う〜〜〜」

 

 あまりに今更な気づきに僕は頭を抱えて呻く。

 

「よくない、よくないよぉこれ」

 

 僕三十一だよ何自撮り楽しんでるんだよ年齢考えろよもうきつい年齢だよ若い子のものまねしても失った青春は帰ってこないんだよ可愛い洋服着ていい年齢じゃないんだよぉ……

 テロじゃん、三十一のロリィタ服の自撮り送りつけるのなんてテロみたいなもんじゃん!

 

「でも、見たいって言ってたしなぁ……」

 

 平塚くんは確かに僕がこの洋服を着た姿を見たいって言った。

 僕に似合うと背中を押してくれた。

 冗談でも楽しみにしてるって言ってくれた。

 それなのに、この写真を送らないのは、違う気がする。

 

「む、向こうが言ったことだし……」

 

 そうだ。僕の姿を見たいと言ったのは平塚くんの方だ。

 例えそれが痛い自撮りでも見たいって言ったのは向こうだから、ま、まあいいよね?

 そ、それに?……可愛いって言ってくれるかもしれないし?

 

 じゃないよ。

 なにそんなこと期待してるんだよ僕。

 忘れるな、僕は三十超えてるんだぞ若い子に可愛いと言わせようとするのはママ活みたいなものだろう良くないだろう迷惑だろう。

 

 確かに平塚くんは今日僕のこと可愛いって言ってくれたけどそれはきっとこっちに気を使ってそう言ってくれただけで普通三十一歳がそんなこと言われるわけないんだからさ。

 やっぱ送るのやめようかな良くないもんこんなの自撮り送りつけるの見せるのは良くない。

 

『俺は如月さんがその服着てるとこ見たいですよ』

 

「んんん〜〜〜〜〜!!」

 

 脳内に現れた平塚くんの顔に思わず枕に顔を埋める。

 見たい、見たいって、そんな元男三十一歳がロリィタ服着てるとこ見たい!?

 う、うう〜〜……

 

 ま、まあ、本人が言ってるんだし?

 おく、送っちゃおうかナ〜

 

 スマホを開いてメッセージアプリを立ち上げる。

 そこには沢山の公式のアカウントと……平塚くんのアカウント。

 このアカウントで初めての友達。

 

 僕の、初めての友達。

 

『てっきりもう友達だと思ってました』

 

 平塚くんは確かに僕にそう言ってくれた。

 僕を友達だと認めてくれた。

 あの時のことを思い出すと少し顔がニヤける。

 だって、初めての友達だ。そりゃもちろん幼少期にいなかったわけじゃないけど、こんな自分の素を出していい友達は初めてだ。

 ……そうだったな。

 平塚くんは、僕の素を肯定してくれた。

 

 なら、送ってもいいよね?

 

 カメラロールからたくさん撮った自撮りの中の一つを選び、送ろうとする。

 手が震える、ここまで緊張したのは初めてだった。

 やっぱやめようかななんて思いが湧いてくる。

 

『楽しみにしてますよ』

 

 ……えいっ

 

 送っちゃった送っちゃった送っちゃった送っちゃった送っちゃった送っちゃった送っちゃった送っちゃった送っちゃった送っちゃった送っちゃった。

 僕の自撮り送っちゃった。

 三十一歳の元男がロリィタ服着てるとこ、送っちゃった!?

 

 自分がやったことを改めて認識して湧いてくる後悔の感情。

 嫌だよなぁ、普通に考えて嫌だよなぁ。

 嫌われちゃうかな絶交かな、絶交になってもせめて会社では仲良くしてほしいなそれは我儘かな。

 はあ、なんで僕いつもこうなんだろ。

 変に勢い任せちゃうところがあるせいでずっとあんなパワハラみたいな口調続けちゃってるし直すとこ直せないし。

 駄目だ。僕って本当に駄目な人間だ。

 枕に顔を押し付けて、息を止める。その時だ。

 

 ピロリン

 

 ビクッと僕の体が震える。

 通知?通知来た?もしかしてもう平塚くんから返事来たの!?

 は、早いよ。心の準備ができてないよ。

 大丈夫かな、死ねとか言われないよね流石にそこまではないよねでも似合ってないとかはありえちゃうよな。

 不安を抱きながら僕はスマホを見る。

 そこには……

 

『やっぱり、似合ってますね』

 

 そう、平塚くんからメッセージが届いてた。

 

「う、うううう〜〜〜〜」

 

 スマホを投げて枕に顔を埋める。

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。

 

 言われたこともそうだけど、今自分がすっごく喜んじゃってることが一番恥ずかしい!

 褒められてた、似合ってるって言ってくれた。

 嬉しい、嬉しいけどさぁ〜〜!

 そこは可愛い……じゃなくて!

 

 ていうか

 ていうかだよ。

 

「本当に平塚くんはなんなの……」

 

 あの子なんなの!

 おかしいでしょあの子

 僕のこと肯定するし僕のこと凄く褒めるし僕のこと友達って言ってくれるし僕のこと守ってくれるし僕のこと可愛いって言ってくれるし

 

 なんなんだよあの子……

 

 なんであんなイケメンなのさぁ……

 

 会社の部下としては失礼だけどあまり目立たない子だなと思ってた。

 けど、周りは見れてるし細かなとこに気が利くいい子だなって思ってた。

 

 想像以上だよ!

 

 なんで僕に対してあんな大正解の選択肢選び続けるんだよ。

 なに?僕はギャルゲーの攻略キャラだったりするの?平塚くんは攻略本でも持ってるの?三十一歳で元男であんな服着てるやつがヒロインのギャルゲーってどこ需要だよ売れるわけないだろ隠しキャラにもいないよそんな奴。

 

「う〜〜〜」

 

 平塚くんとの一日を思い出すと顔がどんどんと赤くなる

 平塚くん、シンプルに人が出来すぎてる。

 僕のこと肯定してくれるとことかさ、褒めてくれるとこもそうだけどさ。

 ともかくナチュラルに動きがイケメンなんだよ。

 

 途中で気づいたけど、彼ずっと車道側立ってるんだよ。

 まあ、たまたまかなって思って途中でわざと僕が車道側に立つように動いてみたら平塚くん自然な動きで車道側に立って来たからね。

 クレーンゲームのぬいぐるみも何も言ってないのに彼自身が持ってくれたからね。

 それに最後は僕を家までわざわざ送ってくれた。

 彼の家、僕の家と正反対にあるというのに一切気にした素振りを見せずにだ。

 こう、動き全てがシンプルイケメンなのだ。

 気遣いの天才、こちらが何かを言わなくても察して動いてくれる。

 

 それの何があれって、僕が"女の子"として扱われてるのが凄くよく分かるところ。

 平塚くんは僕をしっかりと女の子として見てくれてるのだ。

 僕は元男で三十一歳なのに!

 元男で、三十一歳なのに!

 

 彼は女の子として見てくれてるのだ。

 そんなの初めての経験だよ。当然僕の知り合いなんて僕の過去を知ってるわけであまりそういう扱いをされることはない。

 そも三十一ってそういう年齢じゃないし。

 でも彼は、彼は女の子として扱ってくれた。

 

 それが……まあ、ちょっと……嬉しかったりする。

 こう、僕が失った青春を得れるってのもあるけど。

 素直にそういう扱いをされることに憧れのようなものを抱いていた。

 王子様がそういうことをしてくれることを、本当に乙女みたいに。

 

『今の如月さんは女性ですから』

 

 そんな僕の前に彼は現れた。

 あのナチュラルイケメンめぇ……

 よく見たら顔も結構整ってるんだよね、身長もしっかりあるし、なんというか普段はあまり人と関わらないタイプだからバレてはなさそうだけど。

 しかもジム行ってて腹筋薄っすら割れてるんでしょ?男前すぎない?

 平塚くんの裸……どんなのなんだろう

 やっぱり引き締まってるのかな、外側からだとあんまわからないけど細マッチョだったりするのかな?

 ちょっと……気になる。

 

 って、そんなの駄目に決まってるだろ!

 年下の男の子の裸気になるとかセクハラどころかただの変態じゃないかぁ……

 

 でもそれが気になってしまうくらい平塚くんは僕と違って"男"なのだ。

 自転車から庇われたときとか、凄くなんていうのかな……男を感じた。

 平塚くんの手がデカくて、僕の手がちっちゃくて、彼に包まれて少し安心した気持ちを抱いたのをよく覚えてる。

 そして、それに対する羞恥の感情も。

 

 今日一日、平塚くんと過ごして。

 なんかもうずっと恥ずかしがりっぱなしだった。

 最初は素を見られた恥ずかしさだったけど。

 途中から平塚くんに振り回された故の恥ずかしさだった。

 ナチュラルにイケメンムーブを仕掛けられるというあまりにも初めての体験にともかく心を振り回さる時間だった。

 今日一日、本当に何だったのだろうか。

 

 てか、普通に考えて男と女が一対一で楽しんだらそれデートじゃない?

 あれ、僕今日平塚くんとデートしたのか……?

 

「…………」

 

 顔が熱くなるのを感じた。

 よくないっよくないっよくないっ!その考えはよくないっ!

 まだ初手だから!出会いの段階だから!この段階でデートは恋愛脳すぎるから!そういうのはもっと段階を踏んでからだから!

 平塚くんにも失礼だそれは、平塚くんは僕と友達なんだから。

 デートってのはこう、何回も一対一であってたらの話だ。初手の話じゃない。

 

 ……あれ?僕平塚くんと遊ぼうって約束しちゃったな

 当然、僕の事情的にそれは平塚くんと一対一になるわけで……

 じゃあ、それはもうデートじゃん。

 ……だったらもうちょっとロマンチックなとこ……ストップ

 もうなんか全てのところから恋愛に繋げるのをやめろ!

 

 お前ちょっと平塚くんに振り回されすぎだ。

 三十一なのに!平塚くんより七つも年上なのに!

 年下の子に純情を振り回されすぎだ!

 良くないです、とてもよろしくないです。

 忘れるな、僕の年齢を。もう三十一なのだ。

 若い子に相手される年齢じゃないのだ。

 平塚くんみたいな子は僕以外ともっと仲良くするべしなのだ。

 彼は僕だからじゃない、多分女性相手なら全員ああいうことをする勘違い製造マシーンなのだ。多分。

 

 なんであんな子が僕をあんなに褒めてくれるのか本当に分からない。

 あんなかっこいい子、もっといい子がいるだろう。

 僕みたいなやつよりもっとお似合いの子がいるはずだ。

 それなのに、なんで平塚くんは僕にあんな構うのさ。

 僕は夢小説の夢主か?夢主だとしたらありえないって叩かれるんじゃないか?

 もー……本当に訳わかんない。

 何もかんも分からない。

 平塚くんのことも、やけに高鳴る胸の鼓動も……わかんないったらわかんない。

 

「はぁ〜〜……」

 

 ため息を吐く。

 

 忘れてはならない。

 僕は三十一、男ならもうおじさん扱いされることも増える年齢。

 若い子に矢印を向けるなんてセクハラになる年齢なのだ。

 ……平塚くんにそんなことするのは許されない。

 平塚くんは似合うとか可愛いとか言ってくれたけど、それは僕を慮ってのこと。

 僕と平塚くんは友達で、そういう関係じゃない。

 だから、こんな感情捨てないといけない。

 

『如月さんのことは……まあ……魅力的だとは、思っています』

 

 そう思い込もうとした瞬間思い浮かぶあの光景。

 僕の顔が一気に赤くなる。

 魅力的、魅力的ってぇ……

 あのときの平塚くんは他の時と違って少し恥ずかしそうにしていた。

 それがなんというか、"ガチ"な感じがして尚更恥ずかしくなってくる。

 あれはどういう意味なの平塚くん。

 

 ワンチャンあるのかな……?

 ひ、平塚くんと付き合えたりするのかな……?

 

 って、駄目駄目駄目駄目。

 忘れるなよ僕は僕だぞ。

 誰かが僕のこと好きになるわけないだろ!

 

 僕はなんとか冷静になる。

 今日は平塚くんというとても良い友人ができた。

 それでいいだろう。

 そう思って放り投げたスマホを片付けるために手に掴んだ。

 そして、僕が平塚くんからのメッセージを一つ見逃してることに気がついた。

 『似合ってる』そう言われただけで大喜びしてたせいで、連続して送ってきた彼のメッセージに気づけなかったんだ。

 

『可愛いですよ』

 

「ふぇっ」

 

 固まった体が熱を帯びていく。

 スマホがポトンと布団の上に落ちた。

 可愛い、可愛い、可愛い。

 そっか、可愛いんだ。

 誰が?……僕が?

 平塚くんが、僕を可愛いって言ってくれた。

 わざわざ、似合ってるって言ったあとに。

 わざわざ、わざわざ、可愛いって。

 平塚くんが僕に……

 

「ふへ」

 

 嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい平塚くんが褒めてくれたやったやったやったやった嬉しい嬉しい嬉しいえへへ可愛いって言ってくれためっちゃ嬉しいありがとう平塚くん僕も平塚くんのことかっこいいって思ってるよ僕平塚くんのことす────じゃなーい!

 

 今僕何を言おうとした!?

 本当に何を言いかけた!?

 なーに、ちょっと褒められたくらいで大歓喜してるんだよ!

 

 僕は初恋してる初心な中学生の少女か?

 違うだろ?アラサーのおっさんだろ?見た目だけ女なアラサーのおっさんだろ!

 えへへじゃないだろ、そんな笑い方二度とするなよ!

 もう寝よう寝てしまえば忘れられるよ。

 僕は自分の心に感じる平塚くんから逃げるように寝る準備を済ませていく。

 さ、さ寝よう寝よう。もういい時間だ。明日は予定もないから今日一日の疲れを目一杯癒やして月曜から頑張らないと。

 

 

 あ、でもその前に平塚くんから褒めてもらったメッセージもう一回見よ。

 

『やっぱり、似合ってますね』

『可愛いです』

 

「えへへ……」

 

 平塚くんに褒められた……胸があったかくなる。

 ひ、平塚くんが喜んでくれるならもっと可愛いお洋服……クラロリとか和ロリとかも買ってみて、そしたら平塚くんが褒めてくれるかも……

 

 じゃなーい!!!!

 なーに、追加で褒めてもらおうとしてるんだい!

 なーに、褒められたことを思い出して悦に浸ってるんだい!

 

 僕は!三十一歳!だろうが!

 ドンドンドン!と枕をぶん殴って意識を取り戻す

 思考が乙女なんだよ!三十超えてるくせに!

 

 駄目だ、僕もう平塚くんに堕とされてるのかも。

 流石にもう誤魔化せない。

 なんかもう、僕今日一日でだいぶ平塚くんに心を支配された気がする。

 だって、だって僕は今褒められたから喜んでしまったわけじゃないんだ。

 

 『平塚くんに褒められた』ことに喜んでしまったのだ。

 

 それは……さあ、駄目じゃん。

 三十超えておいてそんな乙女みたいな思考は駄目じゃん。

 平塚くんに引かれちゃうじゃん……

 

 それは、嫌だし

 

 平塚くんとは近くにいたいから

 

 …………

 

 なんかこれこそそういう感じみたいな……

 

「違う、から」

 

 三十一歳が二十四歳の子に惚れるわけがないから

 

 これは好きじゃない。

 

「違う、もん」

 

 そう、推し、推しってやつなのだ。

 

 平塚くんは僕の推しなんだ!

 

 そうだそうに決まってる。

 

 平塚くんに褒められた嬉しいのも、平塚くんのこと考えたら心が熱くなるのも、推しなんだから当然の話!

 

 僕はそう自分に言い聞かせて心の平穏を保つことにした。

 

 ……うう

 

「平塚くんのバカーーー!!!!」

 

 ポスポス

 叩いた枕からそんな音がした。

 





 というわけでTS乙女おじさんがナチュラルイケメンバカに振り回される話でした。

 息抜きとして書いた小説ですが、ネタはありますし今後も時たま上げようと思います。
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