うどん販売からの金の流れを一から確認した俺は、三河で産業を興していくときもいかにすればこちらが利益を得れるかの社会実験を行えるかがよくわかった。
やるべきことは農民から買い取った物を中間加工することか。
領主ということで税などで材料は安く調達することができる。
なんなら領民と独占契約を結んでしまえば良い。
じゃがいもなら片栗粉や酒への加工をすることでこちらが利益を出せるだろう。
農民に原材料を作ってもらい、領主が管理する工場で製品を生産、それを商人に卸して販売してもらう。
官営工場とも言われるやり方であるが、民間の実業家が育つ土壌が無い日ノ本だとこのやり方で産業を育てていくしか無いだろう。
うどん販売関係で加藤家に認めてもらえた俺は武芸や勉学にも励む。
加藤さんから
「人質とは言え松平家の嫡男である竹千代殿を一端の武士にしなければ家の面目が無い」
と、気合が入っている。
まぁ鞍馬のシゴキに比べればぬるいので余裕でこなし、流石竹千代様と褒められる。
書物の方も書庫を観させてもらえるので、色々な書物を読んでは写本して書き写させてもらった。
いやぁ織田家の家臣だよな加藤さん。
なんで国主の家の実家より本があるんだよ……。
比べると悲しくなるくらい松平家は貧乏だな……。
そうしていると松平の嫡男は文武に長けた神童であるという噂が広まったらしく、珍しい物好きの織田信長がその噂を耳にしない訳が無く……。
「そなたが松平の倅か! ふむ、愛嬌ある顔をしておるな」
独特なファッション……湯帷子という普通風呂に入る時に着る浴衣の袖を取っ払って上着とし、腕や腰には縄を巻く。
髪はカラフルな紐で結って、ひょうたんを幾つも腰にぶら下げ、虎柄と豹柄が半々になった半袴……短パンという独特過ぎる服装をしていた。
目がチカチカする。
そりゃこんな格好をしていたらうつけって言われますわ。
この頃の信長の名前は吉法師という幼名で呼ばれていた。
「お初にお目にかかります吉法師様」
「うむ、余が吉法師だ。竹千代だったか名は」
「はい、松平広忠の息子の竹千代でございます」
「なぁなぁ! お主が領内に広まったうどんを作ったのだと聞いたが本当なのか?」
「私がやったことは中華の書物を読み、日ノ本の民の口に合うように調整したのみでして……」
「それでも凄いことだぞ! でもなぜ織田領内で行ったのだ? 三河でやってもよかろうに」
「三河での松平の力は吉法師様が考えるより弱いのです。あと任せられる家臣が居ないというのもありますが……」
「……苦労してるのぉ」
「でも尾張は栄えていて凄いです! 加藤殿に頼めば殆どの品を集めることができるので!」
「そうだろ! そうだろ! 尾張は豊かなのだ……所で加藤の利になるようにしたのはなぜだ? 売り方まで教えたと聞くが」
「私は人質ですし、父はいまだに今川に従属している状況です。そんな私が働きもしなかったら加藤殿も不快に思うでしょう。少しは役立つ事をしないと気がすまなかったというのもありますが」
「お主はマメじゃな! 面白い! せっかくだから何か作ってはくれぬか?」
「ふむ……吉法師様、牛の乳がお好きと噂で聞いたのですが、本当ですか?」
「ああ! 牛の乳は好きだぞ! よく腹を下すがな!」
「でしたらそんな牛の乳とうどんを使った一品を作ってみましょうか」
俺は今から作る物の材料を加藤さんの家臣に言うと、彼は1時間で全て集めてきてくれた。
その間は吉法師様から尾張の事を色々聞いたり、三河情勢を話したり……。
吉法師様から
「三河武士は強いと聞くがそれほどまでに面倒臭い連中なのだな」
「それはとても……私の祖父は家臣の癇癪で殺されてますし……」
「おおもう……」
そんなこんなで材料が集まり、吉法師様の前で料理を作っていく。
まず切られたうどんを細かくちぎり、そこに牛乳と小麦粉を追加してよくこねる。
そしたら熱した油の中に投入してカリッカリに揚げていく。
きつね色になったら油から掬って、皿にのせ、きな粉を振りまけばうどんドーナッツの完成である。
「ふむ、外はサクサクしていて、中はしっとり。ほのかに牛の乳の甘みが口に広がる……実に美味だな」
「気に入りましたか?」
「おう! 凄く気に入った! 竹千代が人質でなければ家臣にしたいくらいだ!」
「それはそれは……もし良ければ仲間の皆さんにも振る舞ってあげてください。結構な量を作りましたし」
「よいのか?」
「ええ、主君が家臣に振る舞うというのは小さな物でも家臣からは嬉しいものですから」
「そうかそうか! 竹千代、今度は俺がお前を連れ出してやるから期待していろよ」
「はい!」
こうして吉法師様と仲良くなるのだった。
「どわっと……」
「はは! なんだ竹千代! 馬の扱いは神童のお前でも苦手か?」
「なんですかこの暴れ馬は! 死ぬ死ぬ! 死んでしまいます!」
吉法師様と仲良くなってから、俺は熱田の町の中を自由に動き回れるようになった。
加藤家の人達も吉法師様が連れ出すのであれば文句は言えない。
今日は暴れ馬に乗りながら狩りに連れ出されていた。
「どうどうどう」
「ほう、よく乗りこなせるなその馬を」
「吉法師様でも乗りこなせない馬を回さないでください! まだ私6歳なのですよ!」
「わはは! 歳なんか関係あるか!」
ちなみに今日の狩りには吉法師様の子分の方々も沢山いて、将来の前田利家、佐々成政、池田恒興等、後に信長の家臣として名を馳せる面々も揃っていた。
今日やる狩りは猟犬を使った狩りで、獲物を犬に誘導してもらい、それを弓矢で射止めるというものだ。
俺はまだ十分に弓を射れる筋力が付いてないので料理要員である。
「まぁ見ておれ」
吉法師様の仲間が獲物を見つけると、追い立て始める。
途中から犬に追いかける役が変わり、吉法師様の前に鹿が出てくる。
そこを馬に乗った吉法師様が首元にズドンと矢を放つ。
見事鹿に矢が命中し、吉法師様の仲間が集まり鹿の亡骸を運んでくる。
「私が解体しますので火をつけたり手伝ってください」
木に鹿を吊るして、血抜きをし、腹から臓物を取り除いていく。
それから肉を取っていき、皮を綺麗に剥ぐ。
「おお、見事なものだな」
吉法師様に褒められるが、前世で精肉店で働いた経験が生きた。
それにダブついていた解体者という特性を取ったのも良かったかもしれない。
肉を取り除くと、サイコロ状に切り分けて竹串に刺すのとステーキにしていき、鉄板で焼いていく。
猟に行くと聞いていたので、加藤さんに鉄板を調達してもらい、今日運び込んでいたのである。
鉄板に油を引いて、じゅわっと焼けていく肉に吉法師様の仲間達もヨダレが垂れる人続出。
それに竹で作った飯盒で米を焚き、肉が焼けたら塩を振って召し上がれ。
「んん! 美味い! 実に美味い!」
「飯とよく合う!」
「肉を毎日食べられたら幸せなのに……」
仲間達も口々にそう言いながら美味い美味いと食べていく。
吉法師様もそれを見て満足そうにしていた。
作った俺も肉に齧り付く。
うん、食中毒や寄生虫が怖かったから中までじっくり焼いたけど美味しい。
調味料も塩だけでも味がしっかりしているし。
「竹千代、また美味い飯を作ってくれ! 俺が獲物は仕留める」
「はい! 頑張って作ります!」