美濃の斎藤家と織田家が和睦したことで、織田家は東に目が向い、三河をほぼ手中に収めた今川家と激突を繰り返していた。
信長様の腹違いのお兄さんである織田信広さんが防衛を担っていた。
しかし、1度目は何とか撃退したものの、2度目は城が陥落し、織田信広さん自身も捕まってしまうという大失態をやらかしていた。
天文18年……1549年のことである。
今川はこの信広さんを交渉材料に、俺の身柄を要求してきたのである。
信長の親父さんはこれを了承し、人質交換が実行されることに……。
「信長様、お世話になりました」
「うむ……世の中ままならんものであるな」
「今後は敵同士ということになりますが……もし私が今川から独立するようなことでもあれば東はお任せください」
「わかっている。ただ竹千代、お前が余を滅ぼすのであれば容赦はせんぞ」
「心得ております」
信長様との別れを済まし、俺は今川の手の元に連れられて、尾張を出るのであった。
この時三河では俺の親父が家臣の手により暗殺されており、混乱状態が続いていると鞍馬から報告があり、三河統治における正統性の担保に俺を使いたいというのが今川の考えなのだろう。
なので松平の本拠地岡崎城に入ることを許されず、そのまま駿河の国の駿府に連れてこられた。
元々駿府は駿河国の国府と呼ばれる行政機関が置かれていた場所であり、今川家が守護大名として駿府を拠点とすると京に負けない町づくりを何代もかけて行い、東国の都と呼ばれるくらいに成長。
京の衰退に伴って逃げ出してくる貴族を今川家が保護し文化都市として発展していたのである。
「尾張の熱田も凄かったが、駿河の駿府も負けてないな……」
熱田が商業の町とすれば、駿府は文化の町。
立派な屋敷が立ち並び、その中の1つを今川義元様から与えられた。
今川義元様は恰幅の良い、貴族風の服装を着た御仁であったが、武士らしく、鍛錬をしているためか、引き締まった肉体をしていた。
言ってしまうとラグビー選手の様な体型である。
まぁそれをゆったりとしている服を着ているため少々ふくよかな体型に見えなくもないが……。
挨拶をした時に鑑定を行ってみると
【今川義元】
統率 90
武力 88
知略 94
政務 90
魅力 86
器用 92
特性
・文化人・今川仮名目録・東海一の弓取り・今川流剣術
化け物みたいなステータスをしていた。
そりゃ強いわ。
ちなみに信長様は年齢制限で能力にロックがかかっていたが、全ステータスが70を超えていた。
やっぱり歴史に名を残す人はステータスが凄いことになっているんだろうな。
「ふう……とりあえず一息つけるか」
12部屋ある広い屋敷に庭には4頭馬を飼育できる馬小屋、蒸し風呂の小屋、食料を保管しておく土蔵、水を汲むための井戸、家臣達が暮らす平屋が6部屋建てられていた。
人質ではあるが松平家の当主が亡くなっているため、国人としても扱わないといけないので、他の人質とは一線を画す待遇を与えられた。
また今川義元様より彼の師である太原雪斎に教鞭を執ってもらう事、三河より家臣を少人数連れてくる事を許された。
まぁ屋敷の広さ的に20から30人は生活できそうであるが……。
勿論生活費も無茶な金額でなければ今川が出してくれるという大盤振る舞い。
ここまで待遇が良いと申し訳なくなってくる。
とりあえず鞍馬に今後俺に忠義を尽くしてくれそうな若い者を数名連れてきてもらい、あとはカードから召喚して辻褄を合わせると説明し、お願いをした。
勿論今川家からも監視の人材を送り込んで来るが、屋敷内は基本自由に人材を配置することが許されたし、屋敷の外で狩りをしたりする時も事前に今川家に報告し、目付役を数人付ければ許される。
ただ一度三河から人材を連れて来るにも、父親の墓参りに行かなければ家臣に示しがつかないと今川義元様に懇願したところ、墓参りが許されるのであった。
駿府に来て数日後、再び三河に戻り、父親の墓参りをした。
父の死因は刺殺。
蒸し風呂に入っている際に暗闇の中襲われたらしく、実行犯は自殺。
ただそれが今川の手の者でも織田の手の者でもなく、松平の家臣というのが問題になっていた。
と言うか今父親である松平広忠が亡くなるのはどの勢力も望んでおらず、理由で大きそうなのは家臣の癇癪によるものではないかと思われていた。
癇癪で主君を殺すなと言いたいが、三河武士ならやりかねない。
俺のところに来る人材はなるべく三河武士にならないように思想教育しなければ……。
ちなみに岡崎城で寝泊まりすることになったが、本丸への立ち入りは松平家当主なのに禁止され、二の丸にて宿泊することになり、今川から派遣されている岡崎城代の方が俺より偉いということを三河武士達にアピールするための催しだった。
まぁ三河武士達は怒っていたが、今川に歯向かうこともできず……。
不満が俺に向かないといいけど……。
「竹千代様、駿河に向かう面々を集めてきました」
「ご苦労鞍馬」
俺に頭を下げている面々を鑑定していく。
【石川数正】
【酒井忠次】
【鳥居元忠】
【平岩親吉】
の4名で、石川数正と酒井忠次の2人は俺よりも年長、鳥居元忠と平岩親吉は俺と同年代である。
全員歴史上有名人であり、石川数正を除く3人は史実幕府を開いた際に16人の功労者を徳川十六神将と呼んだが、その中に名を連ねている。
石川数正は徳川家の家老になり、内政面、外交面で活躍したが、豊臣秀吉にヘッドハンティングされて出奔した人物なのだが、原因は三河武士に嫌気をさしたからと言われているので、ストレス管理と三河武士以外の人物を登用し、三河色を薄めていけば裏切る事は無いだろう。
それぞれの性格は石川数正が真面目、酒井忠次は兄貴分、鳥居元忠はのほほんとしており、平岩親吉は正直者といった感じである。
「皆、これより駿河にて長期に渡り生活を共にすることになるが、家族への別れは済ませてきたか?」
石川数正は
「はい、竹千代様に忠義を尽くします」
酒井忠次は
「竹千代様、どうか俺を手足の様にお使いください」
鳥居元忠は
「竹千代様へご迷惑をかけないようにするつもりです」
平岩親吉は
「今川の者に舐められない様に文武を学び竹千代様の盾になる所存で」
と、皆俺に忠義を誓ってくれた。
鞍馬が選んだだけの人選ではある。
それに追加で2名ほど召喚を行った。
「主殿! 義経は軍才で主殿のお力となりましょうぞ!」
源義経……流石に源姓は不味いので平泉に落ち延びた伝承があるので平泉義経と名乗ってもらうことにした。
まぁ以後も義経と俺は呼ぶし、本人も義経って言っているが……。
「白狼天狗の白狼木葉と言います! 鞍馬様の様な大天狗ではありませんが沢山働いて主殿の役にたてれば幸いです!」
もう一人は白狼天狗の木葉。
白狼なので白髪を天狗形態だとしているが、人間に化けている時はちゃんと黒髪になっていた。
とりあえずこの6人にご意見番として鞍馬を連れて行く家臣の代表に据えて、俺は再び駿河に戻るのであった。