駿府での生活が始まり、俺は家臣に命じて屋敷の敷地内に畑を作らせた。
「なぜ畑を?」
石川数正が質問してくるが
「武士というのは無数の領民の生活によって成り立っている。領民は自身の畑で採れた作物を収穫し、販売して生計を立てている。武士である俺達は領民の苦労を知らなければならないと考えているが」
「立派なお考えですが……武士である以上、畑仕事を嫌う者も居るでしょう」
「それはそうだが、そういう頭の硬い奴は戦では役立つかもしれないが、平時には役立たん。内務、武略両方に精通してもらわないと困るのだよ。お前達には」
「我々が……ですか」
酒井忠次が疑問を投げかける。
「今川義元様の事だ、俺が武功を挙げていけば三河統治を任せられるだろう。三河は厄介な土地だ。土地は痩せていて民の離散も相次ぎ、国人衆が多くいる。無数に居る国人衆の整理を必ず俺にやらせようとするだろう。そうなれば三河における松平は同族殺しをしつつ、三河統一を目指すしかなくなる」
「そ、その様な事になれば三河は……大きく荒れるのでは」
「荒れるだろう。それを今川義元様は望んでおられる。荒れれば荒れるほど今川への依存度が強くなる」
「ではどうすれば……」
「今川の顔色を伺いつつ、力を蓄えていくしか無いだろう。今川義元様が尾張を飲み込めば、三河衆が使い潰されることも無くなる。まぁ当分は勉学に励み、武芸を磨き、政務を学ぶしか無いだろう。お主達なら出来ると鞍馬に思われたから俺の側仕えになった訳だし」
「は!」
石川数正達4人は平服する。
まぁそれらしい理由は言ったが、畑を作るのは多月の居る三河よりも俺が育てた方が都合が良いもの……一応今川から活動資金はもらっているが、ある程度自前で金策をした方が良いと思ってな。
織田では加藤家を通じてやったが、ある程度資金がある駿府では加藤家にやってもらっていた事を俺自身が行う。
大将自らが金策を行うことを卑しいと言われるかもしれないが、言わせておけ。
今の時代金を持っている方が戦争で強くなれるからな。
さてさて、俺は今川の軍師である太原雪斎様に教えを学ぶ事になっていたが、生憎雪斎様は織田方面との抗争に駆り出されており、不在なので弟子の方が見てくださることになった。
ただ俺に付けられた弟子の方はあまり質がよろしくない。
鑑定で能力を見ても高いとは言えず、能力の高い弟子の方は今川義元様の嫡男である龍王丸様の教育に注力されているらしく、俺は二の次。
これなら俺が保有しているカードから召喚して、その人物に教育を教わった方が良いと考え、俺はとある人物を召喚した。
学問の神様……菅原道真公である。
屋敷にて召喚し、事情を説明すると
「ふむ、分かりました。今の私は今川領内に逃げてきた公家の一人ということになっていますのでよしなに」
「は、はい!」
「ふむ、よろしい。では家臣の皆さんも交えて勉強といきましょうか」
ちなみに菅原道真公のステータスはこんな感じ。
【菅原道真】
統率 68
武力 12
知略 99
政務 100
魅力 62
器用 98
特性
・学問成就・政治家・教育者・教養人・作事・能弁・宰相
うん、内政系がめちゃくちゃ強い。
特性も相手に教える系と政務関係の特性が山盛り。
あと最近わかったが、召喚された人物が過去の人であっても、戦国時代の教養を知っている状態で召喚される。
ただ得意分野以外のことには疎いので、義経なんかは戦のことに関しては戦国時代までの戦い方をほぼ網羅できているが、政務に関してはほぼ知らない状態であった。
なので道真公も貴族の教養とか各地の法令に関しては詳しいかもしれないが、何処まで知っているのか……。
「ここが違いますよ忠次さん」
「は、はい」
「義経はここが間違っています」
「あれ?」
「元忠はここが違います」
「本当だ」
道真公はまず俺たちがどれくらい知識があるのか国語、算術、歴史、漢文、法令についてテストを行い、どれくらいの知識があるか把握してから個別授業を開始していた。
俺は国語、算術に関してはほぼ満点、歴史は細かいところの間違いがあり、漢文はほぼ間違い、法令についても武家の法令は叩き込まれていたが、貴族の法令に関しては覚えていないので答えようが無い。
全体で言うところ500点満点で380点は取れたが、誇れる点数ではないな。
ただ俺の次に良かったのが召喚組の義経と木葉でそれぞれ250点と230点、家臣の4人に至っては5教科で150点取れれば良い方という悲惨な結果になってしまった。
なので石川数正達4人はほぼ基礎から、義経と木葉は苦手分野の改善、俺は漢文を習うようになった。
学問の神様と言われるだけあり、頭に教えられた事がスルスルと入ってくるし、毎時間新しいことを覚えられる。
お陰で漢文を読めるようになった俺は雪斎様の弟子で、俺の教育を任せられている人に頼んで漢文の書物を借りてきてもらい、沢山読んでいった。
ある所にはあるもので中華で軍略について書かれた武経七書と呼ばれる書物の複製品のうち孫子、呉子、三略、司馬法の4つの漢書が雪斎様が写本した物があり、それを読んで軍略の勉強を進めたが、書かれていることの殆どが鞍馬から教わった兵術に関することであった。
「と言うか鞍馬って天狗だよな……なんで軍略とか詳しいんだ?」
「主殿ー」
いきなりダイブしてきた義経に押し倒される。
「いてて……義経か」
「はい! 主殿! 何を考えていたんですか!」
「いや、鞍馬ってなんで軍略とかに詳しいんだろうって思って」
「そりゃこの義経の師匠ですから!」
「んん? そうなのか?」
「はい、実は義経の父上が平氏に負けた際に、義経は鞍馬山の寺に預けられたのです! その時に天狗の鞍馬殿が義経に兵学と剣術を教えてくださって!」
義経の話を聞いて思い出したが、そう言えば鞍馬天狗って神の側面を持っていて、神としての別名が毘沙門天だったっけ。
毘沙門天って軍神だし、そりゃ兵法に詳しいはずだ。
なんでこんな当たり前のこと忘れていたんだろうか。
「所で義経は俺を主殿って呼ぶが、生前からこんな感じだったのか?」
「ええ! 義経はいつもこんな感じでした! まぁそれだから権謀術数の政治の世界に巻き込まれて平泉に落ち延びることになったのですがね……なのでせっかく呼ばれたので政治についても身を守れる程度には覚えていこうと思っております!」
「そうか……頼りにしているからな」
「任せてください!」
俺が頭を撫でてやると無いはずの尻尾が見える。
こういう人物をワンコ系って言うのかな。