年が明けて1553年(天文22年)。
今川義元様と雪斎様が作っていた今川仮名目録の追加21条の選定が完了し、発布となった。
で、今回の追加で、俺にとって都合の悪いことと良いことがそれぞれが書かれていた。
まず悪いことから……商人の新規参入の禁止である。
元々商売をしていた者については引き続き税を支払う限り商売を続けて良いが、新規に商売を始めるのは例え倍の税を支払おうと商売をすることはできない……という項目が追加されてしまったのである。
俺としては新製品を開発して重商主義に三河の領内経営をしていこうと考えていたのに出鼻を挫かれた事に等しい。
幸い、昨年のうちに参入させた焼酎座、うどんや蕎麦屋に関しては今川仮名目録の更新前で引き続きの商売が可能であるが、他にやろうとしていた新規事業は停止しなければいけなくなってしまった。
まぁ抜け道を作ろうと思えば作れるので工夫次第ではある。
既存商人の暖簾分けは許されているので俺が潰れそうな商人と交渉して看板や店舗を購入し、官営店舗として経営しながら暖簾分けして徐々に民間経営にシフトしていくという裏技をすることはできる。
まぁ予算がかかるのでこんな回りくどい事はしたくないのだが、新規参入ができない以上こうするしか無い。
まだ悪いことはある。
家臣の雇用についての項目で、今川領外から家臣を雇用することを禁じるというのが決められた。
なので今川領内に縁のある者しか雇えないのである。
だから例え秀吉とかが何かの手違いで松平家に仕えたいと仕官してきても雇うことができないのである。
これガチャ産の人物達、松平家に元々仕えているって事実が改竄されるから良いが、そうでなかったら今回の仮名目録で雇用できなくなるところだった……危ない危ない。
まぁ学び舎にて若手家臣達の育成は進んでいるので、彼らが一人前になれば松平の人材不足は解決するし、今川から派遣されてきた人達も頑張っているので松平は回る。
遠江の国人衆は知らん。
多分凄い苦労することになるだろう。
まぁ多分今川としての目的は俺みたいに人材が足りないとなって、今川の息のかかった家臣を送り込み、国人衆の動向を探るという目的もある条文だろう。
よく考えられているなぁ……。
で、良かった部分は室町幕府から過去に与えられていた守護不入の権利を今川領内では一切停止するというものであった。
なので寺が持っていた特権を強制的に剥奪するというもので、俺がやりたかったが反発が大きそうでやれなかったことを今川の名でやってくれた。
特権を持っていた三河の坊さん達が俺から今川義元様に言って撤回をしてくれと泣きついてきたが、拒絶。
なんなら今川の名前でやれるので今が攻め時と三河領内でも守護不入の権利を言うものは犯罪であり、処罰の対象とした。
更に酒の酒造権だけでなく雑穀や木綿に関しても利権を持っていた寺は容赦なく利権を没収。
寺なのだから金儲けに走るのではなく、鎮魂に励めと命令した。
勿論坊さん達も怒るが、俺のバックには今川が居て、その気になれば万の兵が動員できるぞと脅し、武力衝突は回避した。
まぁこれからも寺の権力を削ることはやっていくし、領内が豊かになれば一揆に加担もしなくなるだろう。
今川仮名目録のせいで商業特区作って楽市開く計画がパァになったので予算が少々浮いたため、産業を新しく興していこうと思う。
「埴安、国産陶磁器の開発を頼むね」
「はいはーい! お任せあれ!」
知多半島では良質な粘土が産出する地域であり、瀬戸焼や常滑焼等の陶器が盛んに作られており、そこに埴安の持つ磁器の技術が合わされば一大産業に発展する可能性を秘めていた。
戦国時代の日ノ本では磁器が作れなかったため、大陸から輸入された磁器が有難がられていたのでね。
まぁ国産……今焼と呼ばれ、大陸産より価格は落ちるだろうが、国内で唯一作れるとなれば相当なブランド効果になるだろうし、今作られている陶器も焼酎造りに必要なランビキ(蒸留装置)の需要も高まっているので、開発者の埴安に増産を指示しておいた。
ランビキ作って資金源にしつつ、陶磁器の開発をしてもらおう。
「さてと、官営企業第一弾と行きますか」
俺は資金難で傾いていた小さな商家を買い取ると、醤油を作ることができる多月に鍛えられた管狐達をトップに添えて、流民達を雇い、巨大な味噌と醤油工場に作り替えてしまった。
日本料理に欠かすことのできない調味料醤油。
史実では関東方面でたまり醤油が細々と作られ、江戸時代を境に爆発的な広まりを見せ、日本料理に必要不可欠な存在となっていた。
うどんや蕎麦のつけ汁として醤油を使うことで味に深みが出るため、うどんと蕎麦の需要が拡大した今の段階で醤油の増産を開始したのである。
更に多月式新農法が広まりを見せ、大豆の供給量が上がるため、加工食品である味噌と醤油を作れば保存が効くという理由もある。
試作品は尾張や駿河のうどん屋や蕎麦屋で使われているが、評判は上々。
確実に需要はあると俺は判断していた。
最初のうちは赤字になるだろうが、官営で育てて、そのうち民間に払い下げ、税を採れるようになれば万々歳である。
領地改革はまだまだ続く。
最近だと輸入量を増やした砂鉄で鉄を量産し、その鉄でスコップの量産を行なっていた。
鉄製品の農具というのはこの時代高いのである。
鉄の供給量が少ないので、鉄の消費量をいかに少なくするか皆考える。
なので鍬なんかも木製のが普通に使われているが、作業効率は恐ろしく悪い。
鉄製の農具を行き渡らせるだけでも農作物の収穫量は大幅に上がるだろう。
鍛冶の神である金屋子やイッポンダタラが鍛冶師の育成を始め、ようやく鉄の生産量が上がってきた。
勿論私鋳銭も作ってもらってはいるが、彼女達の本業は鍛冶である。
「元信、もっと人員を送ってくれや、全然鍛冶師の人数が足りねぇぞ」
「流民で使えそうなの選別して送るからもう少し待ってくれ」
「今年から農法が広まって収穫量上がるんだろ? そうなれば秋には農具を買う農民が増えるから、それまでに農具を量産しておきてぇんだ。少しでも鍛冶に関わった事のある奴はどんどんこっちに回せ」
「分かった分かった」
鍛冶師はなかなか他所からスカウトしてくるってことができないから、育てるのが基本。
金屋子も鍛冶師を育てているが、それでも人手が不足していた。
「来年から三河でも河川の工事をやるんだろ? 鉄製品増やすから人員増強頼むぜ」