「流石今川元康……東海一の弓取りだな」
「やめてくださいよ信長様……」
反乱鎮圧後、俺は織田と正式に同盟を結ぶため、俺は信長様の居城である清須城に訪れていた。
「今川との同盟で余はようやく尾張統一に外敵を無くして進めることができる」
現状信長様の周りは尾張の半分の勢力を持つ岩倉織田家と敵対しているが、東の今川と北の斎藤両方と同盟を結んでいることになり、尾張を一気に統一する腹づもりであった。
「元康は以後武田と敵対関係になるのだろ? 武田は強いと聞くが大丈夫なのか?」
「一応北条との同盟が継続させることに成功したので、私も織田家と同様に一方に注力することができますし、内乱をしたのが遠江の国人衆だったので私の基盤である三河や今川家の基盤である駿河からは離反者が出なかった為、少しすれば桶狭間で失った人材の回復は出来るでしょう」
「桶狭間の件、余は謝らないぞ」
「まぁ今川から吹っかけた戦争だったので蒸し返すつもりはありませんよ。手紙でも書いていた様に双方の砦と関所を破却することと、この同盟の障害になっていた山口親子は既に誅殺していますので……首いります?」
「いらんいらん。今川からは鳴海城を譲る代わりに織田家は知多半島の今川領有を認め、余の妹の市を元康に嫁がせる……これで良いな」
「はい……一応聞きますが、お市殿の年齢は?」
「数えで10だ。まだ幼いが美少女じゃぞ」
「いえ、顔の心配はしていませんよ。織田家の皆さん美男美女で有名ですし……ただ織田家の者がついこの前まで敵対していた今川家に来て女中達からいびられないかが心配ですが」
「なに、市は余に似ておるから大丈夫であろう」
「大丈夫なんですか?」
「うむ!」
口頭で言った事を文面に書き記し、互いに印とサインを書いて書類を回す。
双方同意と見てここに織今同盟が成立した。
「さてと、せっかく来たのだ。久しぶりに尾張の飯を食べていけ」
信長様が合図すると食台が運ばれてきて、そこには肉が入ったうどんが盛り付けられていた。
「余が仕留めた鴨を使った鴨うどんだ。手紙で肉がなかなか食べれないことを愚痴っていたろ」
「確かに書きましたが……いや、ありがたい心遣い。感謝します」
「うむ、うどんはつるつるしていて素早く食べることができるから重宝しておる。元康が広めてくれたお陰だ」
「三河でもうどんを広めていますが、信長様が今川領内に来たら美味しい蕎麦をご馳走しますよ。蕎麦を使った新しい麺料理でして、今川領内で流行っているのですよ」
「ほう、あの雑穀の蕎麦をか……確かに食べてみたいな」
「ざるに乗せ、井戸水で冷やした麺を付け汁にわさびを入れて食べると夏にはぴったりでして……温かい蕎麦もいいですが、温かいのだと私はうどんの方が好きですがね」
「ふむ……冷たい麺とな。それは食べてみたいな」
「貿易が拡大すれば自然と料理人も行き来するようになると思うので食べられるようになると思いますがね」
「うむ、楽しみにしておるぞ」
織田との同盟が終わった俺は駿河の今川館に戻ることになった。
お市殿との結婚は信長様に言って遠江の浜松に本拠地となる城を築城しているので、その城の完成をもってすると言う約束をした。
流石についこの前側室になった直虎にも悪いからね。
とりあえず直近でやることは……遠江の戦後復興作業だろうか。
早期に鎮圧したので遠江の領民の人的被害は少なかったが、遠江の国人衆達が臨時徴税で兵糧を村々から徴発していたことが発覚し、このままでは冬を越せない村も出てくると領民達が訴えてきたのである。
俺は直ぐに兵糧を各村々に放出し、被害を受けた村は1年間の兵役や土木普請の免除を約束した。
なので浜松城建設の人夫が各地から流れてくる流民を集めて行うことになり、工期がやや遅れてしまった。
これは仕方がないと割り切って、国力の回復に尽力する1年にしようと思うのであった。
遠江の領民は動員できないが、三河の人員は動員できると、織田との貿易で使う港の整備を進めることにした。
現代でもあるような三河湾の三河港の建造着工である。
将来を見越すと外洋航海能力のある水軍の保有が絶対。
なんなら南蛮船をどうにか入手して建造能力を身に着け、自国で建造できるようにしないとより良い日本になるとは到底思うことはできない。
そこで今川水軍強化の為に、俺はとある妖怪を召喚した。
その妖怪は召喚と同時に海上に現れ、全長46メートル、全幅16メートルという巨大船であった。
船は駿河湾に浮かんでおり、徐々に浜に近づいて港に自然と流れ着いてきた。
そんな不思議な光景に誰も違和感を持たないのだから凄い光景である。
俺は鞍馬を連れて巨大船に乗り込むと、その船は安宅船と西洋のガレオン船の間の子の様な構造をしていた。
中を進んでいくと、船長室と掛札が掛かっている部屋から物音がするので入ってみると、動きやすい水夫の格好をした女性が椅子に座って足組をしていた。
「やぁ、よく来たねぇ。召喚主殿……いや徳川家康……うーん今川元康と今は言うのか。もう歴史が大きくズレているのだねぇ」
ダウナー系お姉さん風な女性は口元を扇子で覆いながら話を続ける。
「私は妖怪安宅丸……船に宿りし付喪神だ。よろしくねぇ」
「ああ、よろしく頼む……安宅丸。ただそれだとこの船の名前になってしまうから名前を与えよう。徳川安丸。徳川に仕えた逸話を元から持つ妖怪ならその方が良いだろう」
「おやおや、私に徳川の名前を与えるとは……良いねぇ。喜んで拝命させてもらうよ」
妖怪安宅丸。
元々は江戸時代に産まれた妖怪であり、戦国時代北条家が巨大な軍艦を伊豆で作り、それを豊臣秀吉の小田原攻めの際に接収。
そのまま関東に転封となった家康がその船を管理することになり、徳川所属の軍艦として余生を過ごした後に解体され、その解体された木材にすら妖力が残り、木材を購入した商人の奥方に取り憑いて木材の管理の指導をしたなんて逸話が残っている。
実際のモデルは三代目将軍徳川家光時代に作られた西洋のガレオン船の建造実験に造られた巨大軍艦であるのだが、史料が消失してどんな軍艦であったか謎が多く、それゆえに話が盛られて幻の巨大軍艦の妖怪が誕生した……というわけである。
「ちなみにこの船はやっぱりガレオン船と和船の間の子の船という感じか?」
「そうだねぇ。その認識であっているよ。ちゃんと外洋航行能力もあり、日本近海だと西洋船よりも素早く移動することができるんだよ。ここの駿河の港から堺まで5日で航海可能だよ」
「それは速いのか?」
「この時代の船だと10日は掛かるんじゃないかねぇ。しかも私は大型船。多くの荷物を運ぶ事が出来るんだ」
「どれくらい運べるんだ?」
「2500石は運べるよ。私より大きな船は江戸時代の日ノ本には無いと断言できるからねぇ」
「2500石か……貿易するのにうってつけだな。安丸、人を乗せるのに抵抗はあるか?」
「無い無い、人を乗せての軍艦だからね。まぁ大砲が積まれて無いから戦闘能力は無いけど、大砲を載せてくれるまでは貿易船として働かせてもらうよ」
「ちなみに設計図とかはあるか?」
「ちょっと待っておくれ」
安丸が船長室に転がっている紙束の1つを取り出すと渡してくれた。
開くとそこには細かい設計図が描かれていた。
「同型の船を造りたいから私を召喚したのだろ? 是非とも姉妹を作ってくれ。そして戦国最強の水軍……いや海軍を作ろうではないか!」
「まぁ今は建造できるドックが無いからもう少し小型の船から作ることになると思うがな。三河港ができ次第、そこを停泊地としてもらうから。それまでは既存の今川水軍の将に管理してもらうと思うから仲良くしてくれよ」
「あぁ、任せてくれ」
こうして今川水軍に巨大軍艦安宅丸と付喪神の徳川安丸が加わるのであった。