年が明けて1561年……永禄4年。
三が日は殆ど家臣達との正月の挨拶や宴会で時間を費やし、家族との正月は4日目からとなった。
「今日は奥でゆっくりするぞ〜」
「お、元康様、今日はゆっくりするのか?」
「お、直虎。朝早くから何処行くんだ?」
「三が日奥は食っちゃ寝しているばっかりだったから少し運動をな。流石にお腹が膨らんできたから激しい運動はできねぇけどさ」
「確かにこっちも宴会ばっかりで殆ど動けてなかったから、運動するか……羽付きでもするか?」
「いいね……元康様できるの?」
「多少はな」
羽板や羽にムジコを付けた物が広まったのは室町時代を通じてで、羽付きは現代の感覚で遊ぶことができた。
ただ意味合いとしては厄除けの神事という側面が強く、女子の正月遊びとして広まるのは江戸時代になってからである。
今川家では蹴鞠が盛んに行われているため、男性は蹴鞠、女性は羽付きと別れて遊ぶのが基本。
直虎はだから俺に羽付きができるのかと聞いたのである。
「いくぞー」
「よし来い」
羽付きはバドミントンと違い、相手のミスを誘発するのではなく、基本互いにラリーを長く続ける方が良いとされる。
羽付きの厄払いは蚊を寄せ付けないという意味もあり、疫病が蔓延する時に蚊を媒体としているとこの時代の人達も経験則で気がついていたのである。
その為、羽を蚊に見立てて、他所に払いのけるという神事が羽付きの元祖となり、あと元々羽付きの代わりに行われていた毬杖という遊びがあるが、元々それが女性がやる遊びであったのが、時代の変化と共に庶民誰でも遊ぶようになり、男女差がなくなった事で代わりに羽付きが台頭してきた……という見方もある。
まぁ毬杖は硬い玉を投げ合う遊びだった為に石合戦の様に危険性からと、都会では遊ぶ広さが無いことから徐々に消えていき、現代だと神事として皇族のやる儀式や一部地域で行われる祭りの儀として残っているのみである。
まぁそんなうんちくは良いとして、俺と直虎の羽付きはなかなか続いていた。
俺自身は運動神経がガチャによる成長チートで上がっていることや、直虎は幼い頃から武芸を叩き込まれた影響でこちらも運動神経が良い。
両者が相手が打ち返しやすいように返すので長くラリーが続いていたのである。
「1つ打てれば2つに返り、3つ打てれば4つに返る。5つ、6つと続ければ〜7つ8つと返されて〜、9つ返せば10となる」
慣れてくれば羽子歌という歌を交えて羽付きをしていく。
本当は決まった歌があるらしいが、10を数える為の歌なので、俺が即興で作ってしまった。
何度か繰り返し歌っていけば直虎も口ずさむ様になり、庭で二人で歌いながら羽付きを続けていると、千代や市、瑠璃達やお付きの侍女達も集まってきて、皆も羽付きをし始め、いつの間にか羽付き大会みたいになっていた。
200回くらいラリーを続けると直虎も俺も汗だくになり、縁側に座って休憩をする。
「ほい、麦茶」
「お、ありがとう元康様」
ぬるま湯の麦茶の入った器を直虎に渡すと、直虎ばゴキュゴキュと飲み干していく。
「かぁ……運動の後の麦茶って凄く美味いよな」
「わかるわ。体が水を欲しているから美味くなるんじゃないか? 汗で体の外に出るし」
「なるほどな! 流石元康様」
そんな会話をしながら羽付きの様子をみながら直虎と話す。
「虎松もすくすくと大きくなって……健康そうで何よりだな」
「あぁ、なんだかんだもう(数え年で)6歳だもんな……7歳まで神のうちって言うけど、この調子なら虎松は7歳を超えてくれそうだ」
「他の子供達も早世は今のところ無いもんな」
「そうだな。千代の竜王丸様を始め、うちの長女、千代の次女、市の長女も皆健康だもんな。元気過ぎて乳をめっちゃ飲むから侍女や乳母達曰く俺達の赤ん坊、他の赤ん坊より1回り大きいらしいぞ」
「それだけすくすく育っているってことだろ。良いことじゃないかな」
「まーな」
千代と市は慣れているっぽくて羽付きのラリーが続いていたが、瑠璃はなかなかラリーが続いていなくて、苦労している感じだ。
まぁ楽しそうではあるが。
「うーん、虎松達が大きくなる頃には戦が無い世の中にしたいと思ったけどまだ時間が掛かりそうだな」
「なんだ元康様、日ノ本を治める気でもあるのか?」
「うーん、今のところ信長様が居るからな〜」
「市の兄ちゃんか、そんなに凄いのか?」
「この乱世を早急に終わらせられる能力と天運を持っているのは彼ぐらいじゃないか? 俺も乱世を終わらせることはできるだろうけど時間がかかる気がする」
「ふーん、俺は元康様こそ日ノ本を治めるに相応しい人物だと思うけどな。だって今川の人質って立場から実力で皆に認められる武将になって、国を豊かにし、今川から千代貰って家督を継承して……今じゃ(今川)義元様でもできなかった4カ国の太守だぜ……今が今川の最盛期を作った人物って歴史に名を刻んだ名君だと思うんだけどな」
「まぁ俺はもう拡張の余地は無いけど、織田は美濃を取り込めばこれから一気に拡張していくと思うから、そうなったら信長様に協力して天下統一をして……多分領地替えで東北か関東に領地貰って今川家を織田家の天下に協力した盟友的な立場を貰えればいいけどね。あと日ノ本を広げられれば完璧かな」
「日ノ本を広げる?」
「日ノ本って世界から見たら小さな島国だからね。ちょっと待ってろよ」
俺は自分の部屋からガチャで排出された最新の地球儀を持ってくる。
「ここが日ノ本、ここが明、南蛮人達は欧州って地域から船でやってきているんだ」
「へえ……確かにこの地球儀だと日ノ本は小さいな」
「で、日ノ本の周りって人があまり住んでない地域が沢山あってな、蝦夷より北の地域は米は育てられないけど、他の作物や小麦は育つし、生きていこうと思えば生きていける。南はこの地図にある大きな島あるだろ?」
「ん? この明と同じくらいの大きさの島か?」
「そう、豪州(オーストラリア)って言う地域なんだが、日ノ本と季節が逆になっているんだ」
「季節が逆?」
「日ノ本が夏の時、この地域は冬で雪が降ってるってこと」
「そんな不思議な地域があるんだな……この島がどうしたんだ?」
「日ノ本の十数倍デカくて、農地に適した土地も多く、それでいて鉄の鉱石が山の様に積み上がっていたりするほどの資源が大量にある島なんだ。日ノ本でちまちま領土を奪い合いしているくらいだったらこの島を丸々乗っ取る権利貰ったほうが俺的には嬉しかったり」
「でも遠いんじゃないか?」
「うーん、船で3ヶ月から4ヶ月は掛かるな」
「凄い遠いな」
「まぁそこに行くまでに島が多くあるから、そこに中継地を作っていってって感じになるが……」
「開発に何年かかることやら」
「とりあえず俺の代で信長様と協力して日ノ本統一まで持っていくから、俺の息子や孫の代で豪州までの道のりを整備して、豪州の本格的な開発が始まる頃には俺の寿命は尽きていると思うから、それよりの先の世代がやって欲しいがな」
「ならその次世代を増やすために俺はもっと子供を産まねぇとな!」
「直虎何人子供産めるかな。10人は産んでくれよ」
「ああ! 勿論産むぞ!」
正月早々そんな会話をしているのだった。