「元康様、幕府から上洛命令がまた来ていますが……」
「またかぁ……これで何度目だ?」
「7回目になります」
幕府との交渉を担当している朝比奈が足利義輝将軍が今川を上洛させようとあの手この手で揺さぶりをかけていた。
上洛させて三好の影響力を削ぎたいのが1つ、また今川義元時代から献金はすれど一定の距離をとっていることへの不満が1つ、そして武田に信濃を返却するようにと馬鹿げた話が出ていたのである。
幕府としては東国に幕命の効かない勢力が2つも存在するのが凄まじく不愉快であり、東海3国の守護職を与えているのであるから、その領分から漏れ出ている信濃半国は武田に返却し、事の顛末を将軍の前で釈明せよだとか、家督を今川氏真に譲れなんて命令も届いており、氏真含めて困っていた。
上杉謙信公や信長様にも今川との関係を改めるように手紙が送られており、両名呆れてしまっていた。
「そもそも足利義輝将軍が武田に今川氏真擁立の大義を与えたの判明しているんだがな」
そう、武田信玄の遠江侵攻の大義を調べたところ、幕府が武田に密書で今川氏真様の擁立を求める書状を送っていた事が今川家との関係を少しでも改善して食料の輸入レートを下げたい武田家が密書をリークし、今川家中に明らかになったのである。
そのため今川家中では幕府の信用は暴落し、幕府への不信感が募っていた。
幕府が嫌がらせをしているため、朝廷献金にも影響が出ていて、本来幕府に献金してそこから朝廷に献金してもらうというのが普通の流れになっているのであるが、これだけ嫌がらせをしている幕府に朝廷献金を頼んでもピンハネするのが目に見えている為、幕府に対して強く意見することができる三好長慶殿を経由して朝廷に献金を行なっていた。
とりあえず公家の保護をしているため、朝廷を立てなければ保護している公家達の立場が悪くなってしまうので、これは必要経費。
朝廷からは官職の位を上げることを打診されていたが、これも幕府が話をややこしくしていて流れに流れてしまっていたのである。
力がないのに周りの勢力を引っ掻き回し続ける幕府を見て、フラストレーションが凄まじい勢いで溜まっていくが、物理的な距離があるのでまだ怒りをぶつけなくて済んでいるが、これがもし今川が畿内の勢力であったら確かに新しい将軍にすげ替える運動が起こっても不思議ではなかった。
というか歴代将軍は時の権力者を怒らせて何度もすげ替えを食らっていたが……。
本当よく室町幕府の命脈が今の今まで持っているなと逆に感心してしまうほどである。
まぁ将軍という威厳は地方に行くほど強くなるため、畿内で揉めていても地方から有力者が新しい将軍を担ぎ上げて出てきては周辺勢力にボコボコにされるの繰り返し。
そんなんだから戦国時代が終わらないのである。
「使い道は一応あるにはあるが、現状今川家にとっては害にしかなってないんだよなぁ……朝比奈、悪いがまたはぐらかしてくれ。幕府にとっては今川を三好にぶつけて双方弱体化させることが狙いだろうし」
「まぁそうでしょうね……義元公が存命の時に幕府との関係を断絶させた理由が今になってようやく分かりました」
「苦労かけるな朝比奈……全く義元様が生きておられたら幕府はもう無かったかもしれないな」
「そうですね……今川家は将軍になれる血筋なので、今川幕府が開かれていたかもしれませんね」
「まぁそうなったら同盟を結んでいた武田や北条も黙って無かっただろうがな……タラレバを語っても仕方がないか。三好を通じて朝廷工作を続けてくれ」
「はい、了解しました」
俺は朝比奈に指示を出して畿内の情勢を伺うのであった。
「将軍ってそんなに面倒くさい存在なのね!」
俺は寝室にて瑠璃と性行為を終えたあとに少々将軍についての愚痴を言っていた。
「瑠璃のいた蝦夷や東北では幕府と朝廷ってどっちが偉くなっているんだ? 東北の血筋は鎌倉から遡れる名門ばかりの感じがするが……」
「うーん……」
日ノ本の端に行けば行くほど歴史が長いのが、日ノ本の大名の特徴で、薩摩の島津もそうであるが、東北は特に魔境化が進んでいた。
というのも東北は伊達政宗の曾祖父さんである伊達稙宗が20人以上の子供を作り、周辺勢力に婚姻外交を積極的に進めたことで東北地方の大名の殆どが血縁関係となる状態になっていた。
後々伊達稙宗と息子が揉めて奥州全体を巻き込む天文の乱が発生し、伊達家は弱体化することになるのであるが、奥州の大名達は婚姻外交によって伊達が一大勢力を築いた成功例を直接見ていた為、婚姻外交を他の家でも積極的に行い、家系図がクモの巣になるという競走馬とかでしか見ない血の袋小路が発生。
どこもかしこも親戚関係になっているので大名間での争いもプロレスとなり、中規模の勢力が乱立し、大大名がでてこない状態となっていたのである。
史実ではその中で南部家が勢力を広げることになるが、家督争いで分裂。
その頃になってようやく伊達のマー君こと伊達政宗が親戚関係なしに全方位ぶん殴る狂犬ムーブをして伊達最大勢力を築いて時間切れとなり、豊臣秀吉に臣従し、奥州仕置で大体の勢力が淘汰されてようやく奥州は平和になるのである。
瑠璃の父親である蠣崎季広も子沢山で周辺勢力と血縁関係を結んで蝦夷での基盤を作り上げた1人であり、戦国時代でも東北はちょっと普通でない勢力となっていたのである。
「うーん、私は徳山館からあまり出た事が無かったから奥州についての情報も断片的だったけど、権威に関しては朝廷より幕府の方が強かった気がするな。奥州探題とか奥州だと凄い権力になったし」
「なるほどな」
史実秀吉が奥州仕置をした理由も自分たちより出生の身分が低い者に従えるかっていうのが原因なくらい、奥州の大名は血統的にはエリート。
奥州の血筋をサラブレットに例えると、秀吉の血筋はロバくらい開きがあり、信長様でも駄馬と言われるくらい血筋的には優れていたのである。
まぁ三河武士とは別ベクトルで面倒臭い地域が奥州ということだ。
「瑠璃的には浜松に来れて良かったか?」
「うん、だって皆優しいし、食事美味しくて、おしゃれもできて、冬に凍えて死にかけることもないもん。正直送り出してくれた父上には感謝しきれないくらい感謝しているよ」
「そうかそうか……じゃあ瑠璃には沢山子供を作ってもらって今川家での立場を固めてもらわないとな!」
「いやん! まだ乳が出るから孕めないよ!」
イチャイチャする俺と瑠璃であった。