武田を滅亡させて待っているのは甲斐の統治である。
まずは食料を支援して領民の懐柔策を取り、多月を含めた神々を派遣して甲斐をどの様に開発すれば良いかの話し合いが行われた。
焼失した躑躅ヶ崎館跡地に甲府館という甲斐の統治拠点となる役所を設置し、夏が終わる頃前になんとか話し合いの場を設けることができたのである。
体育館くらいの広さの広間にて、各村や領地の責任者が集められ、その人達が見学しながらまずは多月達の分析が始まった。
「えー、農業担当の多月です。まず甲斐で水田を作ると、血吸虫と呼ばれる寄生虫が繁殖してしまい、農作業をしている人達に寄生し、血を吸い続けて大きくなり、やがて内臓を侵食し、腹に水が溜まって動けなくなり、死に至るという風土病が根付いているんやね。今のまま米を作り続ければ、農民は長生きすることが出来ないし、子供も衰弱して死んでしまうから、断腸の思いやけど、稲作を放棄するしかないと思うな」
「こ、米をおら達に作るなと! 代官様はおら達に餓えて死ねと!」
「冗談じゃねぇ!」
「そうなったら一揆だべ」
「落ち着け!」
俺が傍聴席で聞いている人達に向けて激を飛ばすと、場は静まり、多月の話を続けさせる。
「稲作は無理だけど、それじゃあ住民が食べる物に困るのも重々承知しているので、他の食べ物を作ってもらうんやな。まず小麦、蕎麦、トウモロコシなんかもええな。トウモロコシは家畜の餌目的ではなくスイートコーン……甘みの強い食用のトウモロコシを作ることを勧め、小麦や蕎麦は東海3国でうどんや切りそばの需要が高まっているから売れると思うんよね。それに、郷土料理としてあるほうとう……あれは良い料理だと思う」
「ほうとうに合う食材を栽培することで腹持ちを良くし、ほうとうを他の地域に広めることができれば、その食材を他の地域にも売れるようになる」
「あとは果実の栽培に力を入れるとええ。甲州は果実栽培に適した気候と土壌をしている。ぶどう、柿、栗、桃、りんご、梨、ざくろ、銀杏……くるみもやな。これらの果実の栽培を拡大することにより他所の地域から米を買う為の銭を調達する」
多月が話し終えると傍聴席からそんな事は出来るわけないと否定的な意見が飛び出すが、俺が
「まず栽培された作物を領主である今川家が買い取ろう。その代価として今川家から米と銭を支給する。そして水田がダメということは既存の水路も汚染されていると思うから、水路をコンクリートで固めてしまおう。その工事普請にも給金を出す。さすれば当面の食い扶持くらいは稼げるだろう」
「また稲作を放棄する農家や果実の栽培に切り替える農家は5年の間税を取らないことを約束しよう……これでもできないか?」
しかしこれには地侍達の税を得ていた側が反発する。
武田は滅亡したが、土豪や地侍階級の人々は結構残っていた。
「それでは我々が税を得ることができないではないか!」
俺はそこに
「今川家から銭で食い扶持を支給することにする。ただその場合甲斐国から離れ浜松城に住んでもらうことになるがな」
「な! それでは先祖代々の土地から移れということか!?」
「そうだ。甲斐を再生するためには既存のやり方では不可能と判断している。武田の様に、他国を犠牲にするやり方ではなく、甲斐で自立していくには断固たる処置が必要と考えた。なに、能力があると分かれば代官として甲斐に戻ることも容認するが、一度今川のやり方を学ばれろ」
「そんな馬鹿な話はあるか! 私はここで失礼する」
1人の地侍が退席すると、他にも気の早い奴が何名か退席していく。
俺は家臣に目線を向けると、家臣は頷いて動き始める。
この場で応じないようである、もしくは交渉してもっと良い条件を引き出そうとしている者は甲斐統治において邪魔でしかないので、一族もろとも処分させてもらう。
今頃家臣達が動いて、退席した者を殺処分している頃であろう。
直ぐに兵を動かして、処分した者の領地に兵を向けて攻め滅ぼす。
この計画を立てたのは本多正信であったが、俺もGOサインを出していた。
村からの代表者、もしくは俺の雰囲気を察知して退席しなかった者、あとは頭が切れるか、損得勘定で土地を失ってもそこで得られていた利益は補償すると俺が言っているから、土地の管理をしない分得だと判断した者が残った。
「次に玉頼む」
「はいはい、私は養蚕と畜産業に関してで、甲斐は馬産地として有名だし、野生の馬が多数生息しているから、それを管理して、今川で飼育している馬と配合することで、強く、大きな馬を増やしていければ良いと思う。馬の飼育に長けた人物も多くいた印象だし、馬が売れればある程度の利益も出ると思うからね。養鶏場も作って鶏肉や卵を食べられるようにもして、あとは養蚕」
「桑の木が多く原生しているし、そこを整備して、植林を進めれば、蚕の飼育できる環境を整えられると思います。蚕の繭を売ることができればある程度まとまった金を定期的に稼げるので、農民の皆さんには技術教えるので頑張ってもらうことで」
他に、土地の状態や鉱物などを確認できる山師としての側面を持つ埴安から甲斐の鉱物資源についての説明が行われた。
甲斐といえば金鉱山が有名であり、武田の支配力と支援が減ったことで採掘量は減っていたが、既存鉱山でも支援を行えばあと10年はある程度の金採掘量が確保できるだろう。
天棚が開発中の地下水の組み上げポンプや鉱石を積んだトロッコを地上に引っ張る蒸気機関が完成すれば更に効率は上がるだろうし、何よりこっちには無煙火薬がある。
火薬を使った発破採掘で採掘量は劇的に上がるだろう。
金鉱山の他にも銅鉱山や亜鉛鉱山、水晶を多く採掘できる石英鉱山なんかもあった。
あとは砂鉄を大量に採掘できる場所もあり、ここはたたら場を設ければすぐにでも鉄の量産が行えそうである。
あと硫黄も大量に採掘できそうである。
大市からは商業政策として街道の整備は勿論、甲斐から富士川を下って駿河に出る水路の整備、宿を多く整備して、山道でも休める場所を多くすることで商人達の旅の安全に繫がると力説。
また天棚やその仲間が作っている紡績機を使った工場を後々甲府に建てることで、生糸生産に力を入れるべきだと言われた。
方針は決まっていたので、今回の傍聴会でそれぞれの村にやるべきことを伝えた。
最初は無理と言っていた村人達も、これだけ改善点があることを突きつけられると、反論もできなくなる。
結局、今川の資本で大規模な開発をすると決めて、今回の話し合いは終わりになるのであった。