1564年……永禄7年。
年が明けて、金属薬莢やそれに付随した鉄砲の開発を行っていた金屋子が研究に進捗があったと報告があり、俺は彼女の鍛冶屋兼工房へと向かった。
「金屋子、新しい仕組みができたって聞いたが、どんな感じだ?」
「お、元康様じゃないか。ちょうど良かった。試射するところだったんだが見ていかないか」
「おう、見させてもらうぞ」
彼女の弟子が銃を構える。
しかし、構えた先の的は200メートルほど離れており、普通の火縄銃では狙うことが困難な距離である。
パン
破裂音と共に飛び出した弾丸は的として置かれた出来損ないの陶器に直撃して破壊され、粉々に砕け散った。
「挟間筒(銃身が延長された火縄銃。主に城や船等の銃身を壁で支えられる場所で放つ銃。射程距離が普通の火縄銃の2倍近くある)並みの射程距離なのに命中精度も良く、距離減衰による威力の低下も見えにくい……まさか」
「多分元康様が考えている通り……ライフル銃及びそれに使用する弾丸の開発に成功した」
「おお」
金屋子が作り出したのは幕末で使用されたライフルマスケット銃及びミニエー弾である。
この弾丸が活用できる銃をミニエー銃と呼ぶが、ミニエー銃は銃身に螺旋状に溝が彫られており、これをライフリング加工と言われ、ミニエー弾は弾丸の形状がどんぐり型……現代で使われる弾丸の形状に酷似しており、更に弾丸にも溝が彫られていて火薬の爆発によりガスがこの溝に圧力をかけることにより銃身のライフリングに密着し、回転を生み出し飛んでいく。
力が向く方向が一方に集中するのと、どんぐり状の弾丸が空気抵抗を最低限に抑えて飛んでいく為、飛距離、命中精度が飛躍的に上昇するのがミニエー銃である。
正式名称だと前装式ライフル歩兵銃とも呼ばれ、既存のマスケット銃……火縄銃にライフリングを施すことでミニエー銃に加工することも可能である。
ただし、銃身に溝を彫ったり、弾丸を作りやすい球体ではなく、型を作って鋳造しなければならないため技術力とコストがかかる手法でもある。
「既存の銃をこのミニエー銃……いや、歩兵銃に切り替えるのにどれぐらいの費用と時間がかかる?」
「今川家が保有している約2万丁のマスケット銃の改造には弟子総動員でおおよそ1年ちょっとかかるね。その間新規の銃の生産量は減ることになるだろうけど」
「それは仕方がないだろう。1年で足りるのか?」
「今川には旋盤があるからね。今までちまちま旋盤を大量に複製したおかげで加工技術も大幅に上がっているからな。ミニエー弾の鋳造も問題なくできるはずだ。ただ弾薬工場は作ってほしいけどね」
「わかった弾薬工場は作るけど……紙製薬莢とかは作らないのか?」
「現段階であるじゃん……早合が。あれ以上のは早々できないよ」
早合……火薬と弾丸を一纏めにして、装填時には紙を噛みちぎって火薬を銃に装填してから、弾丸を装填するという日本製の紙製薬莢である。
そもそもヨーロッパで紙製薬莢が使われ始めた時期が16世紀後半で、日本の早合が普及した時期も同じ時期である。
そこから紙製薬莢は紙に油を塗って防水性を高めたりしたが、そんなのは日本でもやっていたので、江戸時代が始まるまでは鉄砲に関して世界最先端を戦国時代の日本は突き進んでいたのである。
紙製薬莢から進化するとなると金属薬莢と雷管の発明を待たなければならない。
この両方と後装式の銃ができて初めて連装式の銃となる。
現状作れる技術で量産できる物だとこれが限界である。
「埴安火薬(無煙火薬)でも威力が上がっているから、このミニエー銃は有効射程距離は500メートル、殺傷距離は1キロにもなるだろうね」
「凄まじい威力だな……戦の根本が変わるな」
「今度は銃剣が装備できるようにしていくから期待しておいてほしい」
「ああ、頼むな」
「お腹が大きくなってきました……」
「あれだけやったら妊娠するわな」
近衛様から押し付けられ……ゲフンゲフン、嫁いできた光達、貴族の侍女達4人も含めてお腹が膨らんできていた。
予定日は今年の夏頃だろう。
一方で授乳が終わった千代や直虎、市、瑠璃の4人も再び子作りに励んで、妊娠していた。
彼女達は今年の年越し前くらいの出産になるだろう。
「元康様の子種強すぎます! 私達凄い人数子供を産むことになりそうですね!」
「瑠璃も孕んでいるんだから運動もほどほどにしろよ」
瑠璃は最近城の三の丸にある畑で作物を作るのにハマっていた。
というか瑠璃だけでなく千代や市、光や俺が孕ませて妾扱いになっている光の侍女達(この子達も下級の貴族)も畑で木綿や作物の栽培をしていた。
彼女達は自分達で作った木綿で糸を作って織物に加工する一連の流れを楽しんでいるらしく、子供達やこれから産まれてくる子供達の着る服や最近流行りの靴下、自分が使う手ぬぐい等を作って出来を競い合っていた。
正直城の中の畑なので木綿ではなく芋なんかの非常食を全面で育てていきたかったが、嫁達の楽しみを奪うわけにもいかず、一角が木綿畑になってしまっていた。
家臣達もそれはどうなのかという疑問の声が上がっていたが、数年かけて作り上げたコンクリート造りの城壁……総構えが完成しているし、港と接続しているため、この城が囲まれても港経由で食料運搬できるし、10万人が1年以上の活動できる食料を備蓄しているので、三の丸の畑は趣味以上の役割を失いつつあった。
まぁ俺も三の丸の畑で香辛料作っているし今更か……。
「瑠璃、千代は今どこに居るんだ?」
「千代ですか? 多分子供達と一緒に居ますよ」
瑠璃に案内されて千代の部屋に行くと、竜王丸達に物語を読み聞かせていた。
「桃太郎は鬼を討伐した功績で朝廷から左近衛大将の地位を授かり、貴族の娘さんを娶って幸せに暮らしたとさ。ただそれは桃太郎の戦いの苦難の物語の序章でしかありませんでした。第二章、百鬼夜行討伐戦争編に続く……」
おい、俺の知っている桃太郎じゃねぇぞ……。
「あ、父上だ!」
「お、竜王丸。千代に物語を聞かせてもらっていたのか?」
「はい! 竜王丸も物語に出てくる英雄の皆さんのように強い男になりたいです!」
「そうかそうか。それなら爺達の話をよく聞いて体を鍛えないとな!」
「はい! 頑張ります!」
竜王丸は次男の弟を連れて直虎と馬術の鍛錬をしていますと部屋から出ていってしまった。
「ふふ、元気に育って良かったわ」
「そうだな。今のところどの子も早世することなく元気に育ってくれて何よりだ」
俺は千代の横で3人揃って眠っている三つ子達に布団をかけてやりながら千代に話しかける。
「千代調子はどうだ?」
「絶好調です! やっぱりお腹に赤ん坊が居る時の方が調子がよく感じるのですよね! もう少ししたら性行為を避けた方が良い時期になりますので、胸や口を使った行為になりますが……ああ、最近だと光やその侍女達の膨らんだお腹を使った腹ズリと呼ばれるのに元康様ハマっていましたよね」
「悪かったって、千代に時間割くから許してくれ」
「全く、新しい嫁が気になるのも分かりますけど、もっと私達にも構ってくださいよ」
「じゃあ機嫌を直してもらうために何か作ろうか。何が食べたい?」
「クッキーが食べたいです! 木苺を使ったジャムをたっぷり入れたクッキーが!」
「はいはい、今日中に作っておくよ……ところで千代が読んでいた桃太郎って?」
「はい! 市中で流行っている桃太郎新書という物語で嫁の皆で貸しあって読んでいるんですよ! 全10巻あって、桃太郎の一生を書いているんです」
「そんな物が流行っているんだな……」
人が集まる場所だと出版産業も盛んになる。
駿河で貴族達を保護していた義元様の時代から書物が大量にやり取りされていたため、出版業が盛んになる土壌は元々あったが、信濃から大量の木材が生産されるにつれて紙の製造量も増加。
紙の値段が下がったことで出版業界が盛んになっていたのである。
あと俺が漢書を仕入れてくるので、それを和訳した物を教材として販売しているのも出版業界に資金が投入されて盛んに繋がっていた。
あと千代の症状は若干妊娠依存症になりかけているかもしれない……ちょっと気をつけないといけないかもな。