ドナドナ~
はい、竹千代です。
今川義元から従属している松平家に人質を差し出すように命令が下り、俺が差し出されることになりました。
で、道中に立ち寄った親族の家で、1泊していた際に親族が織田に内通していたために、俺の身柄を織田家に売り渡され、現在尾張の熱田にある加藤順盛という織田家臣の家に軟禁されることになりました。
ちなみに親父は俺を織田に取られても今川への従属姿勢は崩さなかったらしく、織田は交渉材料の1つとして俺を飼う事を決めたのだった。
「竹千代殿、屋敷の中では基本自由にしていただいて結構。熱田の町を見るのも付き人を付ければ許しますので」
加藤さんは俺を束縛することはせずに、基本自由にやっても良いと言ってくれた。
まぁまだ数え年で6歳。
何ができるって話だからな。
加藤さんの家は熱田という商業地の纏め役の1人なので結構なお屋敷。
中も広ければ、書庫すらある。
食事も貧しい三河の料理に比べると段違いに旨い。
あ、いや、三河料理を貶している訳ではなく、松平家が貧乏だから食材を全然揃えられないのでね……。
自由度で言えば家臣に監視させられていた三河での生活よりもやらせてくれることは多い。
料理なんかも付き人を付ければ許されるので、色々な料理を作って加藤さんに食べてもらい、売れるかどうか聞いてみる。
売れれば加藤さんの懐に殆ど入るけど、活動資金くらいにはなるだろう。
まず俺が作ったのはたまり味噌。
味噌を作る時に出る上部に溜まる液体を集め、濾した物を壺に詰める。
醤油の元祖であり、これを使って料理を作っていく。
この時代現代で見られるうどんは一般的ではない。
一部地域では切られたうどんが食べられる事があるが、どちらかと言うと、すいとんとかより細いひやむぎみたいな物が食べられていて、うどんらしいうどんは作られてないのである。
料理が上手に作れる料理人という特性も取ったことだし、うどんを作っていこうと思う。
まず石臼で小麦を挽いて粉にする。
流石尾張、戦国の世としては質の良い小麦が加藤さんに言えば直ぐに手に入る。
粉にしたら塩少々と水を適量用意して、麺を作っていく。
まずは水と塩を混ぜて食塩水を作り、次に小麦を篩(ふるい)にかけてダマを取り除く。
桶の中に小麦を移し、半分食塩水を入れてよくかき混ぜる。
残り半分の食塩水を追加投入して更に混ぜるとそぼろ状になるので、纏めてボール状にしてから十数分寝かせる。
そしたら生地を布で包み、踏んでコシを付けていく。
踏んで折りたたんで、踏んでを繰り返すこと6回。
再び生地を今度は1時間程度寝かせて、寝かせ終えたらまた踏んで、5分ほど休ませる。
こうしてようやく生地の完成であり、ここから棒で生地を伸ばして四角形に近くし、それを三つ折りにし、包丁で切っていく。
幅は3ミリ程度だと現代日本のうどんとなる。
これで麺の完成だ。
次に付け汁を作っていく。
使うのは乾燥わかめ。
本当は昆布を使いたいが、寒い地方で採れる物なのでわかめで代用していく。
また乾燥わかめじゃないと旨味が抽出できないのも注意が必要である。
海の近い熱田だとわかめが普通に取れて、乾燥わかめが市場で売られているらしく、加藤さんに言ったら買ってきてくれた。
ちなみにだし汁のもう一つである鰹節は高級品の為、少々お高い。
まぁ庶民も食べれるようにするなら乾燥わかめのダシ一択。
乾燥わかめを湯がいてだし汁を作ったら、たまり味噌を混ぜれはめんつゆの完成である。
加藤さんとその家臣の方に試食してもらうと
「うむ! コシのある麺に味の濃い汁が合わさり幾らでも食える」
「美味いし、素早く食べられる。麺を作っておけば湯がくだけで直ぐに食べられるのも民に受けそうであるな」
チュルチュルと男達が麺を啜る光景を見ながら、俺もうどんを食べる。
醤油を使ったわけでは無いので、つけ汁の味が少々違うが、美味しく食べられる。
屋台とかで提供するならぶっかけうどんの方が向いているか……。
「して竹千代殿、この料理は竹千代殿の創作ですかな?」
「いえいえ、三河の時に書物を読んでいて中華で出てきた麺料理を再現した物で……尾張ならば材料を揃えられると」
「なるほど……この料理は広めても」
「どうぞどうぞ。人質でも働かないのは悪いと思いましてね。これで加藤殿の懐の足しに少しでもなればと……こちらが作り方を纏めた書になります」
俺はうどんのレシピを渡す。
これで加藤さんが俺を使えるか金蔓と思ってくれたらいいのだが……。
夜、丑三つ時。
俺の部屋の戸がすうっと開く。
気配を感じて俺が起きると、そこには鞍馬が立っていた。
「竹千代様、ご無事で」
「あぁ鞍馬、大丈夫だ」
「三河に今なら戻れますがいかが致しますか」
「いや、今は織田家と縁を作る。前にも言っていた通りな」
「それが史実の動きと」
「ああ、そうだ」
俺と鞍馬はそれぞれの近況を報告し、俺はここから離れないから月に一度報告を頼むとお願いした。
「御意」
「農地の管理はしっかり頼むぞ。あれが生命線だからな」
「は!」
鞍馬と別れた後に俺は再び眠りにつくのだった。
せっかく作ったうどんを多くの民に食べられるように、俺は荷車型の屋台を作ってはどうかと提案した。
荷車に調理道具一式を詰め込み、手軽に開業することができる。
うどん屋開業に必要な屋台を貸し出したり売る事でこちらは利益を得るという方法だ。
うどんに必要な調理道具は包丁、麺棒、桶、茹でるための鍋。
なんなら切ったうどんを用意しておけば桶と鍋だけで済む。
あとは湯を沸かす為の移動用火鉢。
これは俺は七輪を知っているので、七輪を作ってもらうことで解決する。
この時代一般的に移動用火鉢という木の箱の中に陶器製の火鉢を入れて移動するのが一般的なのだが、壊れやすく、長時間使用すると木箱が焼き付くという欠点を抱えていた。
ならば粘土で全て解決できる七輪の方が勝手が良い。
陶器の様に質にこだわらなくて良いのも利点だ。
多少不格好でも使えれば問題ない。
条件として鍋を置く部分が平らになっていることと、空気を送り込む場所が1カ所あることが決められていれば良い。
俺でも粘土で形を作り、焼いてもらったら実際に使える七輪ができたので量産にも向いている。
俺がうどんの売り方まで教えて、加藤さんが町人を使い、実際にうどんを売り始めたところ、瞬く間に人気になった。
で、加藤さんはうどんの作り方を教える代わりに屋台のレンタルを客に行い、どんどんうどん屋台が広まっていく。
貸し出し金だけでもなかなかの金額になり、加藤さんは喜んでいた。
「でしたら金が溜まった者には屋台を売ってしまいしょう」
「どうしてだ? 貸し出しだと長く金を貰えるが」
「結局のところ屋台はその場で作って売るだけなので店で作る味には負けてしまうのです。それにうどんと一緒に付属品……おにぎりなんかを売り始めれば、うどん屋台の需要は落ちてくることになり、腕の良い人だけが生き残ることになるでしょう。そうなれば屋台を貸すよりも燃料として必要な炭や小麦等の原材料を売った方が長期的な利益になるとは思いませんか?」
「竹千代殿はその歳で商売についてもわかるのか……なるほど、言われてみれば確かにだな」
「できれば質の良い小麦粉を確保出来る様にしておいて、うどん屋に提供できる様にすれば安泰でしょう」
「うむ、早速試してみよう」
この時代、麦は雑穀として纏っていたので、小麦の需要は限られていた。
米問屋はあるが小麦屋なんてのは聞かないように……。
小麦に関しての座も無いので小麦を買い取り、粉に挽き、小麦粉としてうどん屋に販売すれば多大な利益を出すことができるのである。
町の顔役である加藤さんの資金力なら小麦を集めるのも、粉に挽くのも問題ない。
うどん屋が増えるに従って、増えた小麦需要をがっちり確保したことで加藤さんの家に、結構な金額が転がり込むことになるのだった。
お陰で俺の扱いも良くなった。