朝廷と三好の共謀で起こった永禄の変……この事後処理を巡って三好と朝廷は仲違いを直ぐに起こすことになる。
まず三好としては足利幕府は存続させた方が都合が良いと考えており、平島公方と呼ばれる足利家の分家から傀儡の将軍を擁立しようと動いていたのである。
平島公方……阿波公方とも呼ばれるが、第十一代足利将軍の次男が起こした家の末裔であり、堺や四国を転々としながら足利本家から権力を取り戻そうと動き、足利義輝とは同族でありながら敵対していたもう一つの将軍家であった。
イメージとしては江戸時代の御三家や御三卿等の家に近い。
三好も元々四国を支持基盤としていたのでこの平島公方を保護しており、三好長慶は足利義輝に悪いからと保護だけで将軍に擁立する活動は足利義輝と抗争になっていた時期を除くと保護だけにとどまり、平島公方に付く家臣もとても政権が運用できる人物は居なかったので、半ば放置されていたのであるが、三好長慶亡き後の三好政権は平島公方を無理矢理中央に引っ張ってきたのである。
一方で朝廷はというと、本案件が下級貴族達の暴走で起こされた一件だった為に上層部は寝耳に水状態であり、三好政権が共犯者に朝廷の名前を出していたことで、今まで距離を置いていた中央政界にこちらも無理矢理引っ張り出されてしまったのである。
無論天皇は後醍醐天皇の様な親政を行う心積もりは全く無く、今まで貧乏だったことや中国地方の大内氏滅亡の際に朝廷は大きな賭け……山口遷都構想というとんでもない事業に動いて、大寧寺の変で政権運営できそうな人材を根こそぎ失ったダメージを回復できておらず、連日どうするべきか話し合いが行われていた。
ただ上層部で一致していたのは足利家に将軍をやらせるべきではないという共通認識を持っていた。
ここで朝廷の主導権を握ったのは今川から莫大な資金の調達に成功した関白の近衛様であり、彼は朝廷を護ってくれるのであれば今川こそ将軍に相応しいのでは無いかと言い出し、今川家は足利将軍家から別れた為源氏なので将軍になる家格は十分にあるとし、莫大な献金で朝廷建て直しに一役買ってくれたという恩もある。
何より前政権を転覆させた三好も現状は信用できないとし、三好が担ぎ出している足利家の将軍候補への将軍認可を長引かせ、その間に今川家に上洛してもらうことはできないか……という案が出てきてしまった。
実際に上洛できるのかという疑問はあるが、今川と織田が同盟関係で当主同士は過去の遺恨を流して蜜月であること、上杉謙信公も今川元康を高く評価していること、急成長している毛利よりも上洛の可能性は高いこと等を理由に今川元康の将軍容認というのが朝廷の中で結論が出た。
天皇からも良きに計らえと事実上の決定が下り、近衛様は自らの足で今川家へと向かうのであった。
近衛様が俺に会おうとしているという情報は直ぐに入り、信長様も近衛様と合流して浜松に向かっていると聞いて尋常ではない何かが中央で動いていることを察知した。
勿論将軍暗殺の変の情報は既に入っていたので、ここで一旦足利幕府の将軍の座が空席になったし、なし崩しで信長様に上洛してもらって将軍に就いてもらい、No.2として東国統治を任せてもらえれば幸いだなー……なんて考えていたのだが、近衛様と信長様が到着し、家臣達を集めるように言われると、とんでもない爆弾発言をされることになる。
「朝廷では昨今の足利幕府への不信感が溜まり、三好への挙兵に一部同調した貴族が居たのを認める。しかし、三好は再び足利家から将軍に襲名させようとする動きが活性化しているのを鑑み、朝廷間で会合が行われた結果、今川元康殿に新しい幕府を開くこと及び征夷大将軍への任命が決定された。直ちに上洛を行い、三好氏を畿内から排除し、朝廷への参議されたし!」
!?!?!?
「ちょ!? え? はぁ!? なんでそうなるんですか!?」
いきなり将軍になれとかトチ狂っているとしか言いようがない。
俺は凄まじく混乱していたが、信長様が俺や家臣達が見ている前で土下座……臣下の儀をして
「この織田信長は今川元康公の将軍就任を祝うと同時に、万難を排して元康公の上洛を手伝うことをお伝えいたします」
「の、信長殿!?」
他の家臣達も一斉に頭を下げる。
なに……この……なに!?
え! 俺が将軍になる流れができているの!?
「近衛様、信長殿わかりました。この今川元康、足利将軍に代わり、新しい幕府を作ることを約束いたします」
もうこう言うしかないでしょうが!
「上杉謙信殿、北条氏康殿にも連絡を。上洛に応じるのであれば新たな幕府において相応の役職と地位を用意すると」
俺は右筆(文章を書く秘書の様な人物)に命令をし、下書きを作ってくるように命令をする。
そしてこの後は近衛様と信長様の3人で話がしたいと言って茶室に向かうのであった。
「なんだ元康、茶室なのに茶を入れんのか?」
茶室に入った途端、いつもの信長様に戻ったが、俺は全身汗だくである。
手ぬぐいで汗を拭きながら
「勘弁してくださいよ信長様……なんで私が将軍なんですか……私は信長様にやってもらおうと画策していたのに……」
「おいおい、30万貫も献金しておいてそりゃ無理だろう……なあ近衛殿」
信長様の問いかけに近衛様も頷き
「正直足利義輝暗殺に朝廷が関与していなかったら誰が将軍になってもよかったのですが、朝廷の一部が関与し、表舞台に朝廷も引きずり出されてしまったのでね……昔の朝廷であれば親政をできる人材もいたのでしょうが、天皇も貴族も今は全国の差配ができるとは思っていないのでね。だったら今川の家格をもってして天下を治めてもらおうと思った次第よ……それと茶くらいは出してほしいな」
俺は渋々茶釜で湯を沸かし、茶葉を取り出して茶を作って器に注いだ。
「「結構なお点前で」」
「本当に将軍にならないと駄目ですかね」
「嫌なのですか? 天下を差配するのが」
「できるができないかで言えばできますよ。でもこれからの事を考えると胃が痛くなりそうだ……足利幕府のやり方だと統治するには不十分なので色々法整備をしなければならないですし、国替えを行わないといけなかったり、言う事の聞かない大名は武力で黙らせないといけなかったりで……」
「ふむ、まぁ朝廷にもある程度のお金を出してくださるのであればその分協力はしますから」
「うむ、余も元康の義理の兄として協力は惜しまん。というか余が頑張れば織田家も新しい幕府での地位が約束されるからな。元康であれば余が思い描くような強い日ノ本にしてくれるであろうし、織田家は尾張を残してくれるのであれば、他は飛び地でも良いからな」
「物分りが良くて助かりますよ……本当に……はぁ……とにかく上洛しないといけませんね。今川が直ぐに動かせるのは1万5000です。信長様は?」
「もう様付けは辞めろ。元康の方が地位が高いんだから。おっと余も元康様って言わなければならんな」
「勘弁してくださいよ……信長殿は元康殿か義弟って呼んでください」
「じゃあ元康殿でこれからは呼ぶぞ……織田家からは6万の軍を直ぐに動かせる」
「水軍も全力で動かすとして……六角、浅井を轢き潰しての上洛になりますか」
「そうだな。まぁ負けることはあるまい」
俺は織田軍には六角戦が終わったら浅井を攻め滅ぼしてもらい、その間に今川軍は三好と戦って上洛するプランを考えた。
「三好の中でも裏切りそうな奴に声かけるか……松永久秀とか裏切らないかな……」