オカルト・アポカリプス~人類なき後の地球における心霊現象の発生について~   作:紫 和春

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第20話 高速道路を爆走しました

 九王たちが東名高速道をただひたすらに東に向かって走っていた。

 

「なぁ、少し休憩しようぜ……」

 

 小堀が音を上げる。すでに神奈川県に突入して30時間が経過しようとしていた。生体部品である脳が存在する小堀に取ってみれば、徹夜で運転しているような状態だろう。

 

「そのくらいで音を上げないでくださいよ」

「お前こっちは生身の脳みそ使ってんだぞ。休ませないと俺が死ぬ。それともお前が運転変わってくれるのか?」

「分かりました。休みましょう」

 

 九王は仕方なく言う。本当に仕方ないのかは知らないが。

 時刻は16時を回ったところだ。日は傾いているものの、通常の人間が寝るにはふさわしくない時間帯だろう。

 

「じゃ、俺は寝るから。睡眠時間は……多めに取って14時間にしよう」

「その間は何しても起きないんでしたね」

「あぁ。ただ、鳩尾の下にあるボタンとうなじにあるボタンを同時に10秒間押すと強制起床になるから、覚えておいて損はないぜ」

 

 そういって小堀は眼球カメラを操作してオフにする。

 

「じゃ、おやすみー」

 

 1秒も経たずに小堀は睡眠状態に移行する。

 

「……寝ちゃいましたね」

 

 九王は車から降りて、ウッマに話しかける。

 

「こうなると、僕たちは何も出来ないね」

「じゃあ環境測定でもしますか」

「そうだね。仕方ないよ」

 

 九王はウッマの背中に乗せてある計測装置を降ろし、自分と同期させる。そして環境測定を開始した。

 

「そろそろ5月も下旬に入りますね」

「うん。この時期だとそろそろ梅雨になってもいいね」

「えぇ。ですが、核の冬だとそのようにはなりません。どこかで異常気象が発生し、通年通りの気象とは異なることが発生します。やがてそれは何百年、何千年という時を経て、新しい気象へと変化していくものです」

「やっぱり天気って分からないものだね」

「本当です。それが分かるようになるのには、同じ地球をコンピュータ上で構築できるほどの高性能で超巨大なCPUが必要になるでしょう」

 

 そんなことを言いながら、約1時間の環境測定が終了した。日はすでに水平線の向こうに落ちており、辺りは暗くなっている。

 

「私たちも休憩に入りましょうか」

「そうだね。バッテリーいる?」

「えぇ、いただきます」

「今回は大型のバッテリー持ってきてよかったね」

 

 九王は荷台に積んであった大容量バッテリーを降ろし、それをへその緒にある給電プラグに差し込む。そしてそのままウッマの横で寝転んだ。給電モードでは必ず横にならなければならない。

 そしてそのまま一度スリープモードになろうとした時だった。

 耳にある広域マイクが、ある音を拾ったのだ。異質すぎるその音をコンマ1秒で理解した九王は、給電コードを引き抜いて膝立ちになる。

 

「ウッマ、今の音聞きましたか?」

「うん。何か変だ」

「もしかして心霊ですかね?」

 

 九王は少しワクワクする。

 しかしウッマは警戒を続けている。

 

「そうだとしたら、明らかにおかしい点がある。僕のストレージに同じような音が収録されているんだ」

「……それはおかしいですね」

 

 九王はカメラの種類を切り替える。音の鳴った方向に赤外線カメラを向けると、高速道路の先にいくつもの熱源があるのが見えた。

 

『トラック後方に熱源が複数あります。道路に生えている植物に上手く隠れているようですね』

 

 九王は無線を使い、無言でウッマに連絡を取る。

 

『こっちは高周波マイクで音を拾ったよ。どうやら柴犬に近い唸り声のようだね』

 

 九王は荷台から降りる。そして眼球カメラを別々に動かし、片方を熱源に、片方を小堀のほうに向けた。

 運転席のドアを開け、小堀の言っていた鳩尾とうなじのボタンを探す。そのボタンは緊急用なのか、指先程度の細長いボタンであった。間違って押しても大丈夫なように、ワザと小さく作られているのだろう。

 九王は二つのボタンを同時に押して、10秒待つ。すると小堀が強制的に起床する。

 

「んえっ……。なんだ……?」

 

 寝ぼけているのか、小堀は変な声を出す。

 

「小堀さん、しっかり起きてください。野犬と思われる集団に目をつけられています」

 

 そこまで言われると、小堀は完全に覚醒する。

 

「数と方向は?」

「後ろに10程度です」

「このまま逃げれば大丈夫だな?」

「おそらくは」

「分かった。助手席に乗れ。エンジンをかけたら全力で逃げる」

 

 小堀は体を起こし、エンジンをかける体勢になる。

 一方で九王は、後方を視界に入れつつ助手席に乗り込んだ。

 

「3カウントで行くぞ……。3、2、1……」

 

 小堀がキーを回してエンジンをかける。エンジンが火を噴いた瞬間、相手が動いた。

 

「熱源が動きました!」

 

 九王は助手席から身を乗り出して叫ぶ。

 

「しっかり捕まってろ!」

 

 そういって小堀は、エンスト寸前の足さばきを見せる。

 タイヤをアスファルトに切りつけながら、全力でアクセルを踏み抜く。

 しかし瞬発力は相手の方が上だ。徐々にだがトラックに近づいてくる。

 

「相手は野犬の集団です!」

 

 九王には相手の姿がはっきり見えた。

 

「いっちょここらで公道最速理論でも打ち立てるかぁ!?」

 

 小堀は何故かテンションがあがっていた。

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