幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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事後処理フェイズ
という名の、珍しく?若干不憫なエミル


第百話

 時間にすればあっという間なのかもしれない。子供達を連れて戻ってきた俺達は、孤児院のシスターと子供達が戻ってきた子達と喜び合っているのを眺めていた。その中には、一緒に混じっていてしかるべきだったラミューもいる。

 

「いいのか、向こうに行かなくて?」

「いいんです。私は、ほら、化物ですから」

「子供達はそう思ってなかったみたいだけどな」

 

 そう言うと、困った子達ですとラミューが苦笑する。眼の前で殺人をして、人食いまでしたのに、子供達は彼女を慕ったままだった。まあそれだけラミューが子供達を大切にしていたという証拠だろうし、人間社会に紛れ込んでいたという証でもある。

 だからこそ。俺は彼女をどうした方がいいのかと悩んでいた。

 

「討伐するのでは?」

「しないしない」

 

 いや、人食いなので無罪放免は出来ないとは思うが、じゃあ討伐しますねってぶっ殺すのもまた違うと思う。傀儡人形の依頼には反する形になるかもしれないが、まあその辺りは向こうが苦労すればいい。恐らくわざと放っておいたのだから。

 

「甘いな、エミル」

「うるせえよ。というかお前は今からどうする気だ。どう考えても勧誘はできないだろ」

 

 ふん、と鼻を鳴らすイゼルブにそう述べると、奴はもう一度鼻を鳴らし、そしてラミューへと向き直った。

 そうした後、我の仲間にならないか、と言い放つ。いや無理だろ、そういう流れじゃなかっただろ。

 

「えっと、流石に無理です」

「そうか。……いや、ここから離れろという意味ではなかったぞ。我が何かをする際、少し協力をしてくれるというだけでも良いのだが」

「子供を傷付けるようなことをするのならば、協力できません」

 

 まあ魔王級の何かするって普通に考えて街の襲撃とかそういうことだしな。そのことを分かっているのか、ラミューもそう言ってイゼルブの勧誘を断っていた。

 一方のイゼルブは、ラミューのその言葉を聞いて何かを考え込むような仕草を取った。成程、と頷くと、ではこういうのはどうだ、と指を立てる。

 

「我が望むのは、そこのエミルをぶち殺すことだ。だがまだ仲間が足らん、そこで、その仲間を手に入れる協力をする、というのは?」

 

 ついでにこいつをぶっ殺す協力をしてくれるのならば万々歳。そんなような言葉を続けて、イゼルブはラミューに交渉を行った。こいつに指差された俺の方は当然ながらふざけんなとツッコミを入れるわけで。

 が、そんな提案を聞いたラミューは悩み始めた。何でだ。

 

「あ、いえ。エミルさんを倒す手助けの方はともかく、仲間集めの協力くらいなら別にしてもいいのかも、と」

 

 守ってもらった恩もありますし、とラミューは苦笑する。いいのか、そんなことをすると、多分このままお目溢しされるであろう魔王級への対応が討伐に傾くかもしれないんだぞ。

 

「イゼルブさん、そこまで悪い方なのですか?」

「一応街を一つ滅茶苦茶にしてるからなぁ」

「あれはシーサーペントが勝手にやったことだ。我のせいにするな」

「いや、ちゃんと加勢してただろ」

「部下の加勢をして何が悪い」

 

 悪びれる気配が欠片もなくそう述べる。まあそりゃそうか、と思いながら、モンスター思考ってこんなもんだよなと隣を見る。なんですか、とスロウが文句を言いたげにこちらを見ていた。

 ともあれ。現状イゼルブはお尋ね者だ。それに協力するということは、同じくお尋ね者になる可能性が大いにあるわけで。孤児院で働けなくなることを考えると、あまりその提案を飲むのはよろしくないと思う。

 

「貴様、何故そこまで我の邪魔をする」

「だからお前がお尋ね者だからだよ」

「む。……ならばそれを取り消させればいいのだな?」

 

 何かいきなりとんでもないことを言いだした。まあ確かに現状討伐対象になっているから問題なのであって、討伐対象にならない魔王級――この場合ヤマタノオロチみたいな存在になるのならば一応は問題ない、ことになるのか?

 とはいっても、流石にあれだけ暴れておいてお咎め無しは無理だろ。そんなことを思っていたが、イゼルブは割と本気でお尋ね者を取り消させるつもりらしい。

 

「そもそも。我が敵視するのはハーレムとイチャイチャする連中であって、それ以外を無闇矢鱈に傷付ける趣味はない」

「大分範囲広くないか? 特に後者」

「安心しろ。現状はエミル、貴様だけだ。貴様をぶち殺すという目的を達するまで、ある程度は抑えてやる」

「何で俺に」

「イチャイチャハーレム野郎なぞ万死に値するからに決まっているだろう!」

 

 ズビシィ、と俺を指差してそう宣言するイゼルブ。そう言いながら、まあそういうわけなのでお尋ね者を解除しろ、と俺に言ってのけた。いや今の会話で解除出来るわけ無いだろ。

 そもそも、そういうのは俺じゃなくてギルドの上層部、もっと言えば属性頂点とかの役目だ。俺が言ったところで意味はない。

 それを告げると、イゼルブは面倒だな、と息を吐く。そうしながら、ならば仕方ないと俺に指を突き付けた。何だよ。

 

「決まっている。我を属性頂点のところまで案内してもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった。いや、そういう流れでいいのか分からないが、とにかく今目の前には属性頂点がいる。月の大聖女と傀儡人形、そして妖精姫。教国、王国、帝国の代表者である。

 そんな属性頂点を前にしても、イゼルブは態度を変えなかった。我はお尋ね者になる理由などない、と言い切った。

 

「面白いわね」

 

 そりゃお前にとってはそうだろうな、と俺は心中でぼやく。当然面白いわけあるか、という妖精姫のツッコミが入っていたが、当の傀儡人形は涼しい顔だ。

 

「まあ確かに、こうしてここに来て対話を試みるというだけの理性を持っているのは確認したわ。そして、言い分もある程度理解した」

「ちょっと月の大聖女!?」

「事実でしょう? 傀儡人形みたいに面白さを優先してはいないわ」

「あら、私も別に優先事項が面白さというわけではなくてよ」

 

 そう言ってクスクスと笑う傀儡人形。いや絶対お前面白さ優先しただろ、と思わずツッコミを入れかけ、飲み込んだ。そんな俺を見て微笑んだ傀儡人形は、何より、と言葉を紡ぐ。

 

「エミル君を倒すまでは暴れないのでしょう? ならば、何の問題もないわ」

「問題大有りっスよ!」

「まあ、それは確かに一理あるわね」

「ないっス!」

 

 妖精姫がツッコミで倒れそうになっている。が、そんな彼女を見た月の大聖女は、じゃあ聞くけれど、と妖精姫に問い掛けた。

 あなたはエミルくんが倒されると思っているの? と。

 

「そりゃ……思ってないっスけどぉ。けど、万が一ってこともあるじゃないっスか!」

「あら、妖精姫はそんな事が起きると思っているのね」

「……ぐぅ」

 

 傀儡人形にそう言われ、妖精姫が黙る。それは、どういうことなのだろう。

 というか俺は属性頂点に評価されている、でいいのだろうか。あるいはイゼルブが弱いと判断されているのだろうか。わざわざお尋ね者にしたくらいだし、後者は考えにくいとなると、やっぱり前者か? だとしても、そこまで評価される理由が分からない。

 

「エミルくん。貴方は自分で思っている以上にわたくし達に好かれているのよ」

「そう言われてもな」

「あら、私達の言葉が信用出来ない?」

「少なくともお前のはまったく」

 

 嫌われてるわね、と傀儡人形が笑いながら、まあそういうわけだから、と月の大聖女と妖精姫を見た。月の大聖女はこくりと頷き、妖精姫はそれでも納得いかないという表情を浮かべている。

 

「心配性ね」

「当たり前っスよ。そもそも、そこのイゼルブっていう魔王級、仲間集めするんスよね? 大問題じゃないっスか」

 

 その仲間が問題の可能性だってあるし、何よりそれで戦力強化されたら危険になる。そう続けた妖精姫は、お尋ね者を取り消すのに反対だ、と言い放った。

 

「そうね。妖精姫がそこまで言うのならば。――こういうのはどうかしら?」

 

 そう言って傀儡人形は一枚の書類を取り出した。それは依頼書、勇者級エミルへの指名依頼で、場合によっては他の勇者級に助けを求めても可、という注釈の付いたものだ。

 そしてその依頼内容は。

 

「魔王級イゼルブ、ないしはその仲間の撃退……?」

「そう。妖精姫は彼を野放しには出来ないという判断なのでしょう? なら、エミル君への専属依頼として残せばいい」

「んなっ」

「つまり、勇者に魔王の討伐を依頼する、というわけね。成程」

「いや納得してどうするんスか!」

 

 がぁ、と妖精姫がツッコミを入れているが、元々賛成寄りであった月の大聖女もまあこれなら文句はない、とか言い始めた以上、状況は圧倒的に不利である。

 いやまあ、確かにそれならば状況は何も変わっていない。元々イゼルブ討伐の依頼は貰っていたし、こいつの話を信じるのならば俺を倒すまでは余計な被害を出さないとも言っているので問題がない。俺達だけでやれとも書いておらず、他の勇者級の手助けを求めてもいいとなっているので戦力が限定されることもない。

 

「それで我が仲間集めを黙認されるのならば構わん」

「仲間集めは大分問題っスよ。そもそもどういう仲間を集める気っスか? 変に被害を増やすような連中ならば」

「決まっている」

 

 そんな折、流れを見守っていたイゼルブが口を開いた。それでいい、と認めたのだ。なんだかもう完全にツッコミ役になっている妖精姫が至極当然の質問を投げ掛けたが、イゼルブは胸を張って堂々と言い切った。

 美女美少女を仲間にする、と。

 

「……あちき、もう疲れたっス……」

「あははははっ。何よそれ、一番気にするところがそれなわけ?」

「面白い魔王級ね」

 

 妖精姫はともかく、月の大聖女と傀儡人形にはウケたらしい。そうしながら、でも確かに、と表情を真剣なものに変えた月の大聖女はイゼルブへと視線を向けた。

 

「見逃せない被害を出すようなものは討伐対象となるわ」

「だろうな。まあ、そういう輩はシーサーペントで懲りたし、我としても合わん。安心すると良いぞ」

 

 ドヤ顔をするイゼルブ。そんな奴を見た月の大聖女は、それでどうする、と妖精姫を見た。大分燃え尽きている彼女は、地面につくくらい盛大な溜息を吐いた後、ゆっくりと俺達へと向き直る。

 

「エミルさん、スロウさん、アリアさん、シトリーさん。……あなた達は、それでもいいんスか?」

「わたしはエミル次第です」

「まあ、そうですね。あたしもこいつの意見に従おうかしら」

「エミルくんがいいなら、だよぉ……」

 

 そう言って三体の視線が俺を見る。いやまあ普通に考えれば駄目なんだけど、ここで俺が受け入れても断っても俺を取り巻く状況はほとんど変わらないわけで。

 あ、いや、待った。

 

「一応聞くけど、ここで俺が断ったらこの場でイゼルブ討伐するのか?」

「わたくしは手出ししないわよ」

「私も見ているだけね」

「あちきも見守る方向なんで……まあ、その辺りはエミルさん次第っス……」

 

 妖精姫は一度魔王級から助けてくれたことはあったが、あれはあくまでイレギュラーの特別措置だったからで、本来属性頂点はこういう場には関わらない、というわけだ。特に現状こいつは世界の均衡を崩しているわけでもないしな。俺の平和を崩してはいるが。

 はぁ、と溜息を吐いた。まあ結局大して変わらないのだから、もうどうでもいい。そう結論付け、疲れた表情をした妖精姫に、そのまま伝えた。

 

「分かったっス。エミルさんがいいなら、それで」

「これで我を縛る枷は無くなったわけだな?」

「無くなってはいないだろ。俺達用のお前の討伐依頼は残ってるしな」

「元々貴様と決着を付けるつもりだから無いようなものだ。さて」

 

 これで堂々と勧誘出来る。そんなことを言いながら、イゼルブはラミューに向き直った。流石にイゼルブほど堂々とは出来ず隅で小さくなっていた彼女に向かい、自分の仲間になれ、と宣言をしている。

 

「え、っと……その」

「心配するな。我が貴様を守ってやる。約束したからな」

 

 そう言ってドヤ顔で宣言するイゼルブだが、ラミューは何とも言えない表情である。まあそうだろう、向こうからしたら場合によってはこの場で討伐されかねないやつだ。

 

「ごめんなさい。私は、孤児院のシスターですので」

 

 そんなわけで、ラミューはペコリとイゼルブに頭を下げていた。そうか、と少しだけ残念そうに呟いたイゼルブは、だが、と笑みを浮かべる。

 

「我は諦めんぞ。そうだな、ここに来る前の時も言ったが、とりあえず少し手伝いをしてくれる程度で構わん。どうだ?」

「……あの、何故、そんなに私を仲間にしようと?」

「貴様が美しいからだ」

 

 周囲の空気が凍った。あのな、こういう時はもうちょっと気の利いたことを言うんだよ。そう思いはしたが、何だか隣のスロウがエミルも方向は違うけど似たようなもんですよという視線を向けてくるので口にはせず黙った。

 あはは、とラミューが笑い出した。そんなあまりにもな答えを聞いて、呆れを通り越して笑えてきたのだろうか。そんなことを思っていると、ラミューは属性頂点三体に向かって頭を下げた。そうしながら、彼女は申し訳ありませんが、と言葉を紡ぐ。

 

「私は、彼の、イゼルブさんの仲間として活動させていただきます。……ただ、孤児院での生活も捨てられないので、お目溢しをいただけませんでしょうか?」

 

 そんな、ある意味我儘な提案を聞いた傀儡人形は、しょうがないわね、と微笑んだ。その代わり、と仲間が増えたと珍しく純粋に喜んでいるイゼルブへと目を向ける。

 

「きちんと手綱を握っていて頂戴」

「はい、それはもう」

「……ん?」

 

 そんな二体の会話が聞こえたのか、怪訝な表情を浮かべたイゼルブであったが、まあいいと気にしないことにしたらしい。

 まあとりあえず、これで本当に一件落着、でいいのか。イゼルブにストッパーも出来たみたいだし。

 

 

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