幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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ちなみにイゼルブはOPのサビあたりで戦う敵ポジのイメージ


第百一話

 一連の騒動も一応終わり、俺達は帰路につく。イゼルブは新しい仲間を探しに行くとか言っていたが、ラミューはそのまま孤児院に戻るらしい。帰り際、行動をちゃんと報告するように言い含めていたので、この調子だと孤児院に行くとイゼルブにも出会えるという謎の現象が起きる可能性もありそうだ。

 そんな中、傀儡人形が俺を呼び止めた。

 

「何だよ」

「今回は苦労を掛けたわね」

「……何のつもりだ?」

「あら、酷いわね。今回色々と迷惑を掛けたお詫びをしてあげようというのに」

 

 いらん、と俺は即答した。こいつからのお詫びの品なんか碌なものじゃない。そう続けたのにも拘らず、傀儡人形ははいこれ、と小箱を取り出し俺に押し付けてきた。

 

「だからいらんつってんだろ」

「あらそう? これは剛腕の鍛冶師の特注品よ?」

「何だって?」

 

 この前の村でのギルドの話を覚えているか、と傀儡人形は笑う。あの後依頼の話になったので有耶無耶になったが、こちらはきちんと覚えていたので用意させてもらった。そんなことを言いながら小箱を開けた。

 そこに入っていたのは一対のペアリング。大きさ的に、多分、俺とスロウのものだ。

 

「あ、それそのために用意してたんスか」

 

 ひょこ、と妖精姫がペアリングを覗き込んでそんなことを述べる。ああそうか、帝国住みだから剛腕の鍛冶師と傀儡人形が会っているのを知っているわけか。そんなことを思っていると、月の大聖女もそれを見てふうんと笑みを浮かべる。

 

「あはっ、エミルくん、ついに覚悟を決めたのね?」

「いや、これは傀儡人形が無理矢理」

「そうなんスか?」

 

 妖精姫の問い掛けに、そうだ、と即答出来なかった。確かにあの時そんな話をしていたし、アクセサリーを送って告白するみたいなところに行き着いてはいた。

 いたが、そんな急に渡されても。

 

「だからさっきから言っているでしょう? 今回のお詫びに特注してもらったって」

「その割には用意周到な――まさか」

 

 傀儡人形を見る。相変わらず何を考えているか読めない表情のまま笑みを浮かべているこいつを見て、今回の一連の流れが全て繋がった気がした。

 

「誤解よ。私はそこまで万能じゃないもの」

「何も言ってないんだけどな」

「あらそう? でも実際、あの魔王級イゼルブがあそこまで理性的なのは意外だったわね」

「あれを理性的って」

「理性的でしょう? 言葉が通じずただ暴れるような魔王級ではなく、どちらかといえば対話でどうにか出来るタイプの魔王級だったわ」

「まあ、それはそうっスね」

 

 思わずツッコミを入れた俺だったが、妖精姫ですら納得するらしいのであれでもまあ魔王級では理性的なのだろう。貴方の周りが異常なのよ、と月の大聖女に言われ、スロウ達やラティを思い返し成程と頷いた。

 それはそれとして。それ以外の流れは半ば予想通りだったんじゃないのか、と傀儡人形を見る。ラミューがイゼルブのストッパーになることも含めて、だ。

 

「言ったでしょう? 私はそこまで万能じゃないわ」

「どうだか」

 

 そう吐き捨るように言うと、何が面白いのか傀儡人形はクスクスと笑う。月の大聖女は肩を竦め、妖精姫は苦笑していた。

 

「それで、これは受け取ってくれるかしら?」

「いらん」

「あらそう。剛腕の鍛冶師が嘆くわよ?」

「そう言われても、お前が持ってきた時点で怪しすぎる」

「大丈夫よ。これはきちんとしたペアリングで、ちょっとした能力がついているだけだもの」

 

 その時点で駄目だろ。何がちょっとした能力だ。どうせ碌でもないやつに決まっている。そんなことを視線で訴えると、傀儡人形は大丈夫よ、と口角を上げた。

 

「指輪を持っている相手にテレポート出来る、というだけ」

 

 これでいつでもどこでも一緒にいられるわよ。そう言って傀儡人形は笑った。成程、と月の大聖女も面白そうに笑みを浮かべているし、妖精姫もそれは、と目を見開いている。

 まずい。他の頂点もそれなら問題ないな、という方向に舵を切ったみたいだし、何より俺もそれなら問題ないかと思い始めている。

 が、いかんせんそんな貰い物をプレゼントに告白するのはちょっと、こう、俺としてもかっこわるい。

 

「今更?」

 

 傀儡人形の表情が真面目になった。何だよ、俺何か変なこと言ったか? そう思い残り二体の方を見ても、両者何とも言えない表情になっている。

 

「まあ、いいわ。それならせめてプレゼントだけでもあげてごらんなさい。少しは、進展するかもしれなくてよ」

 

 ほら、と小箱を渡される。そうしながら、何せ、と傀儡人形は言葉を続けた。

 

「それで、いつでも守りに行けるでしょう?」

 

 

 

 

 

 

「エミル、遅かったですね。何かあったんですか?」

「あ、いや、別に、全然」

 

 結局小箱は押し付けられた。かといってじゃあはいこれ、と渡せるわけもなく。俺はそのまま帰路につく。今回は何だか酷い目にあった、とぼやきながら村に戻る。

 

「まあそうね。結局向こうの戦力が強化されたみたいなものだし」

「でも、ラミューさんなら、まあ、酷いことはしないと思うんだよぉ……」

 

 それはそうだ、と皆頷く。いや人食いではあるので他の無罪放免している魔王級とはちょっと違うが、少なくとも無闇矢鱈に人を襲うタイプではないのは確かだ。彼女ならばイゼルブをきちんと管理してくれるだろう。

 まあ問題は、今回で調子に乗ったイゼルブが更に魔王級の仲間を増やすことだが。

 

「そーですね。あの調子だとあと二体くらいは増やしそうではありますけど」

「もう、スロウ。怖いこと言わないでよ」

「でも、何となく分かる気がするよぉ……」

 

 そうだな、一体はまあ多分確実として、もう一体くらいはそこに追加が来そうだ。そうなるとイゼルブ含めて魔王級が四体。そんなパーティーに俺達は勝たないといけないのか。

 

「こっちも魔王級三体と勇者級ですよ。クーヤ達も入れれば更に増えますし」

「まあ、単純な戦力なら負けてはいない、かしらね」

「無茶言うな。お前らはともかく、俺はまだ勇者級駆け出しだぞ」

「エミルくんなら、大丈夫だと思うよぉ……」

 

 そう言われてもそこまで自信がなぁ。などと思いながら頬を掻いていると、スロウがそれはそれとしてと俺を見る。

 ところで話を戻すんですけど。そう言って、さっきの話題を蒸し返してきた。

 

「向こうで月の大聖女さんとか傀儡人形さんとか妖精姫さんとかと何話してたんです?」

「いや、だから別に大したことじゃない」

「大したことじゃないなら別に聞いてもいーんじゃないですか?」

 

 まあ確かにそれもそうか。思わずそう頷いてしまったが、しかしいかんせん話すことは出来ないわけで。スロウにこれ渡して告白すればいいだろう、とか言われてたとか絶対に言えるわけがない。

 だから、俺は今回の騒動は傀儡人形が最初から仕組んでいたんじゃないか、みたいなことを話していたと述べた。別に間違っちゃいない。多分あいつはこのペアリングを渡すのが今回の理由だったはずだ。

 そもそも、今回の依頼を受けてから一応解決まで一日経っているかどうかである。あの時既に用意していたか、即座に用意したかのどちらかだ。どっちみち最初から仕組んでいないと出来ない芸当だ。

 ついでに言えば、今回俺が貧乏くじを引いたお詫び、とかそんな感じで理由も付けられる。まあつまり最初から最後まであれの手の平の上だった、と考えるのが妥当なところだろう。

 

「思い出したら腹立ってきた」

「まあ子供達の誤解は解けてますし、ラミューちゃんとも仲良くなったんで良しとしましょう」

「仲良くなった相手とそのうち戦う羽目になるのはいいのかよ」

「私はエミルの敵なら遠慮なくぶっ飛ばしますよ?」

 

 ぐ、と拳を握るスロウ。いやまあ、それは、頼もしい、か? 視線を横に向けると、アリアとシトリーもその辺りは同じようで、まあ戦うならそれはそれで、という感じらしい。そういう割り切りは流石モンスターと言うべきか。

 とはいえ、俺としてもスロウを傷付けるなら容赦はしない。イゼルブにはその分の借りもあるしな。今度戦う時は絶対にぶっ飛ばす。

 そこまで考えて、あ。と声を上げてしまった。傀儡人形の言っていた言葉を思い出してしまったのだ。これがあれば、いつでも守りに行けるだろう。そう言っていたのを思い返し、思わずポケットの小箱を握りしめてしまった。

 

「どーしたんですか?」

「いや、あれだ。イゼルブにスロウを狙われたことを思い出したから、あいつ今度ぶっ飛ばすって」

「ふーん」

 

 若干信じてないが、スロウはそれで話を一段落させた。公爵やセフィに事の顛末を伝え、公爵家の城から《テレポート》で村に戻る。

 そうして見慣れた場所まで来ると、さて帰るかと伸びをした。

 

「ねえ、スロウ」

「なんですか?」

「いいの? あいつ絶対隠し事してるわよ?」

 

 アリアが声を潜めることなくそんなことをスロウに問い掛ける。シトリーもそれを聞いてやっぱりと頷いていた。そうしながら、二体はスロウの言葉を待つ。

 

「別にいーですよ。エミルが言いたくないなら、わたしは聞きません」

「本当にいいの?」

「わたしはエミルが大好きですからね」

 

 そう言ってスロウが笑う。それを聞いた二体がジト、とこちらを見てきたが、そう言われても何をすればいいのやら。いや素直にアクセサリーを渡せばいいだけだ。今回のお詫びとかいう名目で告白用アクセサリーを貰ったからスロウにあげる、好きだスロウ。そう言えばいいだけだ。

 言えるか馬鹿野郎。

 

「あ、でもそういえばもう一つ気になることもあったんでした」

 

 そんな心中で悶えていた俺に向かい、スロウがそんなことを言ってくる。なんだ、と聞き返すと、まあそれほど大したことでもないんですけど、と言葉を続ける。

 

「ギルドのお姉さんしかいない時に、わざわざ何か話しに行ったんですよね?」

「へ?」

「そこで途中で傀儡人形さんがやってきて依頼をしたっていう流れなのは聞いたんですけど。お姉さんと何を話してたんですか?」

 

 お前のことが好きなんだけどどうやって告白していいのか分からなくて相談していました。とか絶対に言えない。さっきのもそうだがこっちも言えない。

 なので、結局何でもない、大した話じゃないとしか言えないわけで。

 

「……そーですか」

「いや、本当に大した話じゃないんだぞ」

「分かりました。あ、でも、わたしはエミルのこと大好きですからね?」

「うん、それはさっきも聞いたけど、ん?」

 

 待て。何だか凄い誤解されていないか? 秘密の話をお姉さんとしていたみたいに、いや実際スロウには言えない話ではあるんだけど、そうじゃなくて。

 

「だからエミルがお姉さんのこと好きでも」

「違う違う違う! それは絶対に誤解だ!」

「え? でも二人で言えない話をしてたんですよね?」

「そうだけど! でも別にそういう話は、いや、ある意味そういう話だったけど、とにかく違う! 俺はお姉さんが好きとかそういう話じゃない!」

 

 俺のそんな言い訳じみた言葉に、アリアとシトリーのジト目が強くなる。二体がこいつ何言ってんだ、みたいな表情になっていく。

 駄目だ。これ以上はどうしようもない。言えないことしかないのに、その言えないことでしょうもない誤解が積み上がっていく。

 スロウはそうなんですか、と言うものの、さっきから俺の言えないという言葉に若干ショックを受けている感はある。このまま秘密を貫いた場合、多分だけど、俺はこいつに告白するとかそれどころじゃなくなる気がする。かと言って全部を打ち明けるのは無理だ、恥ずかしさで俺が死ぬ。

 じゃあどうすればいいか。そんなこと俺が聞きたい。

 

「――あ」

 

 そんな折、傀儡人形が言っていた言葉を思い出した。それならせめて――

 

「スロウ」

「はい?」

「これ」

 

 小箱を取り出す。それを開けると、スロウの前に差し出した。

 当然ながら急なそれにスロウは目をパチクリとさせている。これがどうしたのだ、と小箱と俺の顔を行ったり来たりしていた。

 

「えっと、そのだな。さっき言ってた頂点たちとの話ってが実はこれで、今回のお詫びの品とかそのへんらしくて、えっと、剛腕の鍛冶師が作ったものだから、大丈夫って話で」

「……指輪?」

「このペアリング、付けている相手のところにテレポートみたいなことができるって能力を持っているらしくて。……これがあれば、お前を今度こそすぐに守りにいけるかな、って」

 

 そう言いながら、小さい方の指輪を取り出す。スロウの手を取って、ところでどの手につければいいのか分からなくて、どの指に合うのかもたもたしながら。

 ようやく、左手の薬指にはめ込んだ。

 

「わ、わわ」

「これで、一応俺とお前で繋がりがあるらしいんだが……どうした?」

「こ、これってあれですか? 婚約指輪?」

 

 言われて気が付いた。俺の方も左手の薬指に合うように作られている。間違いなく狙っている。いや違う、と思わず叫び、しかし元々の趣旨からすれば間違ってはいないことを思い出し。

 いやだからこんな流れで言えるか。と一人悶えた。そもそも貰い物の指輪で告白とか、もっとこうあるだろ。

 

「そ、そーですよね、エミルですし」

「俺だからってのが何か気になるが」

 

 珍しくスロウが顔を真っ赤にしている。左手を見ながら、わぁ、とか言っている。

 そうしながら、これが本当だったらよかったのに、とポツリと呟いた。

 

「わっ! え、エミル!?」

「悪いスロウ。俺は捻くれ者で、臆病者だから」

 

 もうちょっとだけ、待っててくれ。思わずスロウを抱きしめたまま、そう述べた。そんな俺の言葉を聞いたスロウは、しょうがないと言わんばかりに息を吐く。そうしたまま、ぎゅっと俺に抱きついてきた。

 

「いーですよ。何度でも言いますけど、わたしはエミルのこと大好きですからね。ちゃんと待っててあげます」

「ああ。ありがとう、スロウ」

 

 そうして抱きしめ合った俺達は、その近い距離で見つめ合い、お互いを顔を、唇を見ながら、どちらともなくゆっくりと近付いて。

 そして。

 

「おほん、おっほん」

「うわぁ……うわぁ……」

『あ』

 

 アリアとシトリーに思い切り見られていることに気が付き、慌てて離れた。危ない、今俺は何をしようとした。誰かのいる前で、というか、村のド真ん中で。

 スロウと、キスをするところだった。

 

「そーですよね。もうちょっとムードある場所がいいですよね」

「違うだろ! いや、違わないのか、いやでも」

「そこ悩むくらいならさっさと告白しなさいよ……」

「うんうんうん……」

 

 




6章はここまで
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